胚移植前後の鍼灸|時期・頻度・研究結果を解説
胚移植前後の鍼灸(着床鍼)について、研究で分かっていることと限界を解説します。
「着床率が上がる」といった断定表現は避け、判断材料をお届けします。
結論
「着床鍼」として胚移植前後に鍼灸を受けると着床率が上がる、と紹介されることがありますが、これを検証した系統的レビューの中には、生児出生率において明確な優位性が確認されなかったと結論づけているものがあります。ただしこれらの研究の多くは移植前後のみの単発的な施術を対象にしたものであり、継続的な通院による体質改善効果までは検証していません。
本記事では、この研究状況と、当院での対応をお伝えします。
このページが対象とする人
体外受精の胚移植を控えており、鍼灸を移植前後のいつ受ければよいか知りたい方
「着床率が上がる」という謳い文句を見かけ、本当なのか確かめたい方
移植前後に鍼灸を受けることのリスクがないか心配な方
なお、本記事は特定の症状や疾患の診断・治療を目的としたものではありません。ご自身の状態に関する判断は、必ず医療機関にご相談ください。
用語の説明
胚移植:体外受精・顕微授精で得られた受精卵(胚)を、子宮に戻す医療行為
着床:子宮に戻された胚が、子宮内膜に定着すること
着床鍼:胚移植の前後に行う鍼灸施術を指す、業界内でよく使われる呼び方。医学的に確立した定義があるわけではありません
医療機関で一般的に行われる検査・治療
胚移植のスケジュール・方法は、医療機関の医師が個々の状態に応じて決定するものです(要確認)。鍼灸は、この医療行為そのものに関与するものではなく、あくまで体調管理の一環として並行して選択されるものです。
東洋医学的な視点:緊張と「気」の乱れ
東洋医学では、強い緊張やストレスが続くと、体を巡る「気」の流れが乱れ、首や肩、股関節周辺などにこわばりとして現れると考えられています。移植を控えた時期は、多くの方が心身ともに強い緊張を感じるものです。当院で首肩や股関節周辺のケアを大切にしているのは、こうした気の乱れを鍼灸によって緩め、少しでも落ち着いた状態で移植に向き合えるようにサポートしたいという考え方によるものです。
(上記は東洋医学における伝統的な理論・考え方であり、現代医学的に検証された生理学的機序ではありません。)
鍼灸で行うこと
胚移植前後の鍼灸は、体調を整えることを目的として行われます。
特に、移植を控えた緊張・ストレスへのケアとして選択されることが多い施術です。
研究で分かっていること
体外受精と併用した鍼灸の効果については、国際的に複数の系統的レビュー・メタアナリシスが発表されています。
体外受精を受けている女性を対象とした複数のメタアナリシスでは、鍼灸を併用したグループの方が「臨床妊娠率」が高かったとする報告があります(BMC Complementary Medicine and Therapies誌、2019年発表のシステマティックレビュー等)。
一方で、同じ研究群において「生児出生率」については、鍼灸群と対照群の間に統計的な差が見られなかったとする報告が複数あります。指標によって結果が分かれる状況です。
「移植前後のみ」の施術を対象にした研究の限界
ここが特に重要な点です。これまでの系統的レビューの多くは、**胚移植前後のみに1〜2回鍼灸を行う「単発的な施術」**を対象にしたものです。生児出生率において明確な優位性が確認されなかったと報告する研究が複数あります。
しかし、これらの研究の多くは、定期的に鍼灸院に通院し、継続的に体質を整えていくタイプの施術については十分に検証しておらず、多くの論文が「今後さらなる研究が必要」と結論づけています(要確認:個々の論文の記述は原文でのご確認をおすすめします)。
つまり、「移植のタイミングだけ鍼灸を受けること」と「日頃から定期的に鍼灸に通うこと」は、研究上、別のものとして扱われるべきであるにもかかわらず、両者が混同して語られやすいという問題があります。
この点は「不妊鍼灸に効果はある?研究で分かっていることと限界」でも詳しく解説しています。
まだ分かっていないこと
研究間で結果にばらつきがあり、指標(妊娠率か出生率か)によって結論が異なります
「移植前後の特定のタイミングで受けることが望ましい」という考え方について、それを裏付ける質の高い比較研究は限られています
これらを踏まえ、本記事では「胚移植前後に鍼灸を受ければ着床率・妊娠率が上がる」といった断定的な表現は使用しません。
当院での対応
移植前後の鍼灸について、当院が注意していることをご紹介します。
院長のコメント 「移植に向けて、患者様1人1人が強い緊張を感じていることが多く、首や肩に強い緊張が見られる方が大変多い印象です。当院ではこれを自律神経の興奮と捉え、体の緊張を緩めていく施術を行っています。また、股関節付近の緊張が強い方も多いため、その部分のケアもあわせて行っています。移植前にも来院いただき、移植後は2〜3日以内に来院いただくことが多いです。移植当日は特に強い緊張がある方が多いため、その緊張を緩め、血流を促していくことを行っています。」
これらはいずれも「体調・緊張を整えることを目的とした施術」であり、着床率や妊娠率を直接高めることを保証するものではありません。
匿名症例・院内データ
当院では2019年〜2025年の7年間に、374名・延べ425症例の妊娠に至った記録を院内で集計しています(体外受精65.6%・自然妊娠27.1%・人工授精7.3%、詳細は「東京で不妊鍼灸を探している方へ|後悔しない鍼灸院の選び方」の記事でご紹介しています)。
(このデータを読む上での重要な前提:本データは「妊娠に至った症例」のみを集計したものであり、妊娠に至らなかった方の人数は含まれていません。そのため、妊娠率や施術効果を示すものではありません。)
通院の目安
当院では、体外受精段階の方には、移植前後のタイミングで来院いただくことを基本としています。週1回のペースで通院されている場合は、その1回を移植のタイミングに合わせて調整する形を取っています。移植前・移植後2〜3日以内の来院が一般的な目安です。詳細は「渋谷の不妊鍼灸|体外受精・人工授精・自然妊娠の段階別サポート」をご参照ください。実際の通院プランは、初診時のカウンセリングをもとに個別にご提案いたします。
費用
はり・きゅうの施術は、原則として健康保険の対象外であり、全額自己負担となります。当院の費用は以下の通りです(税込)。
項目 費用 初診料 5,500円 鍼灸・手技療法・整体(1回) 8,000円
初回合計 13,500円 2回目以降 8,000円
回数券・パッケージ料金は設けておらず、毎回都度払いとなります。
費用の詳細は「不妊鍼灸の料金はいくら?費用・回数・医療費控除を解説」をご参照ください。
リスクと注意点
鍼灸施術には、一般的に以下のようなリスクが伴う可能性があります。
痛み:刺鍼部位に一時的な痛みを感じることがあります
内出血:刺鍼部位に内出血(あざ)が生じることがあります
倦怠感:施術後に一時的なだるさを感じる方がいます
移植後は、妊娠の可能性がある身体の状態でもあるため、鍼灸院と主治医の双方に現在の状態を共有し、相談しながら進めることが重要です。
医療機関への受診を優先すべきケース
以下のような場合は、鍼灸を先に検討するのではなく、速やかに医療機関に相談・受診することが推奨されます。
移植後、強い腹痛や大量の出血等、急を要すると考えられる症状がある場合
すでに医療機関で移植スケジュールが組まれており、医師の判断を優先すべき場合
鍼灸は医療機関での検査・診断・治療の代わりになるものではありません。移植のスケジュールや方法についての判断は、必ず医療機関の医師にご相談ください。
よくある質問
Q1. 胚移植前後に鍼灸を受けると、着床率は上がりますか?
これを検証した系統的レビューの中には、生児出生率において明確な優位性が確認されなかったと結論づけているものがあります。「着床率が上がる」と断定できる段階ではないというのが実際の研究状況です。
Q2. 移植前後、具体的にいつ鍼灸を受ければよいですか?
当院では、移植前と、移植後2〜3日以内の来院を基本としています。移植当日は特に緊張が強い方が多いため、その緊張を緩めることを意識した施術を行っています。ただし、特定のタイミングで受けることが結果を保証するものではありません。
Q3. 移植前後の鍼灸で、具体的にどんな施術をしますか?
首・肩の緊張、股関節周辺の緊張のケアを中心に、自律神経の興奮を緩めることを目的とした施術を行っています。着床率を直接高める施術ではなく、体調・緊張を整えることを目的としています。
Q4. 「移植前後のみ鍼灸を受けても意味がない」ということですか?
そうとは言い切れません。移植前後のみの施術を検証した研究では生児出生率に有意差が確認されなかったとするものがありますが、継続的な通院による体質改善効果までは検証されていないため、「意味がない」と断定することもできません。
Q5. 移植後、いつまで鍼灸を受けても安全ですか?
移植後は妊娠の可能性がある身体の状態のため、優しくソフトな刺激が求められます。当院では、10週、15週、20週、とマイナートラブル予防の為に20週以降は身体の状態をみながら頻度等相談しながら行っています。
まとめ
「着床鍼」として胚移植前後に鍼灸を受けることで着床率が上がる、という主張を見かけることがありますが、研究では生児出生率に明確な優位性が確認されていないという報告もあります。一方で、多くの研究は移植前後のみの単発的な施術を対象にしたものであり、継続的な通院の効果までは検証されていません。当院では、移植前後の強い緊張へのケアを目的として施術を行っていますが、これは着床率・妊娠率を保証するものではありません。
参考文献
The effects of acupuncture on pregnancy outcomes of in vitro fertilization: a systematic review and meta-analysis. BMC Complementary Medicine and Therapies. (2019) https://bmccomplementmedtherapies.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12906-019-2523-7
Effects of acupuncture on pregnancy outcomes in women undergoing in vitro fertilization: an updated systematic review and meta-analysis. Archives of Gynecology and Obstetrics. (2023) https://link.springer.com/article/10.1007/s00404-023-07142-1
Acupuncture for women undergoing in vitro fertilization: An updated systematic review and meta-analysis with trial sequential analysis. (2025) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0020748925001063
全国健康保険協会「はり・きゅう、あん摩・マッサージのかかり方」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3080/r140/
※上記の海外研究は、対象や研究デザインが日本国内の臨床状況と異なる場合があります。個別の症状・治療方針については、必ず医療機関にご相談ください。
執筆者/監修者/更新日
執筆:福本晋平
監修:福本晋平(ふくもと治療院 院長・はり師/きゅう師)
更新日:2026年8月12日
