不妊鍼灸に効果はある?研究で分かっていることと限界
不妊鍼灸のエビデンスについて、海外の系統的レビューの内容と、その限界・研究不足な点を正直に整理します。過度な期待を避け、判断材料としてお使いください。
東洋医学は、何千年もの臨床観察の蓄積から生まれた、独自の体系を持つ医学です。西洋医学とは異なる物差しで体を見つめてきたからこそ、その効果を西洋医学の方法(系統的レビューやメタアナリシス)で測ろうとすると、単純には測りきれない部分もあります。本記事では、まずこの2つの体系の関係を整理したうえで、体外受精と併用した鍼灸について、国際的に発表されている研究状況を正直にお伝えします。「効果があると証明された」と言い切れる段階ではないという結論を、あらかじめお伝えしておきます。
このページが対象とする人
不妊鍼灸を検討する前に、科学的な裏付けの現状を知りたい方
「効果ない」という声も見かけ、真偽を確かめたい方
「エビデンスがある」と謳う鍼灸院の主張を、どう受け止めればよいか判断したい方
(上記は検索傾向からの推測であり、断定するものではありません)
なお、本記事は特定の症状や疾患の診断・治療を目的としたものではありません。ご自身の状態に関する判断は、必ず医療機関にご相談ください。
用語の説明
系統的レビュー(システマティックレビュー):特定のテーマについて発表された複数の研究を、一定の基準で網羅的に集めて評価する研究手法
メタアナリシス:複数の研究データを統計的に統合し、全体としての傾向を導き出す手法
臨床妊娠率:超音波検査等で妊娠が確認された割合
生児出生率:実際に赤ちゃんが生まれた割合。臨床妊娠率とは異なる指標です
東洋医学的な考え方・理論
東洋医学における「気血(きけつ)」や「腎精(じんせい)」といった考え方は、数千年にわたって受け継がれてきた、体を診るための伝統的な理論体系です。西洋医学が仮説を立てて統計的に検証していく枠組みであるのに対し、東洋医学は長年の臨床観察の蓄積から生まれた、異なるパラダイム(体系)です。日本では984年に丹波康頼(鍼博士)が編纂した『医心方』(現存する日本最古の医学書)に鍼灸の章が含まれており、江戸時代には鍼科が幕府の公式な医療分野として位置づけられ、杉山和一のように将軍家に仕えた鍼医の記録も残っています。「不妊」という概念も現代になって生まれたものではなく、江戸時代の鍼灸伝書『療治之大概集』の「婦人門」には、「子宮が長い間冷えてしまって不妊となっているものは、中極・三陰交・子宮(穴)が良い」といった記載が残されており、当時すでに不妊という状態に対する体系立った経穴治療が確立されていたことが分かります(症状別の治療方針をまとめた文献であり、個々の患者の診療記録ではありません)。現代医学が主流になった日本では、こうした歴史はあまり知られていませんが、確かな実践の蓄積があります。現代でも、韓国では伝統医学を専門的に扱う「韓医師」が、医療法上、医師・歯科医師と並ぶ国家資格として法的に位置づけられており、独自の診断・処方・治療の権限を持っています。米国でも、メイヨークリニックやハーバード大学医学部と連携するブリガム・アンド・ウィメンズ病院に鍼灸を含む統合医療プログラムが設けられ、NIH傘下のNCCIHが関連研究に資金提供しています(主に痛み・吐き気・不安等の症状管理を目的とした位置づけです)。東洋医学は、世界的にも単なる民間療法ではない、独自の専門分野として確立されているのです。

ここで一つ、整理しておきたいことがあります。東洋医学の理論そのものは、こうした長い歴史と世界的な広がりを持つ一方、本記事で紹介する系統的レビューやメタアナリシスは、近代になって確立された、統計的に効果を検証する西洋医学的な手法です。両者は生まれた背景も、検証の方法もまったく異なるものであり、東洋医学の理論が「科学的に証明された」という意味ではありません。この違いを理解した上で、以下の研究状況をご覧いただければと思います。
医療機関で一般的に行われる検査・治療
不妊に関する医学的な検査・治療は医療機関で行われるものであり、詳細は受診先の医師の説明によります(最新の診療方針は医療機関ごとに異なります)。エビデンスに基づいた医療(EBM)という考え方が浸透している領域であり、治療方針の判断は医師が行うものです。
鍼灸で行うこと
不妊鍼灸は、東洋医学の考え方に基づき、体調を整えることを目的として行われる施術です。妊娠という結果を保証するものではなく、「体調を整えることを目的とした施術である」という前提を理解した上で、以下の研究状況を確認していただければと思います。
研究で分かっていること
体外受精と併用した鍼灸の効果については、これまで複数の系統的レビュー・メタアナリシスが国際的に発表されています。
体外受精を受けている女性を対象とした複数のメタアナリシスでは、鍼灸を併用したグループの方が、偽鍼(見せかけの鍼)や無治療の対照グループと比べて「臨床妊娠率」が高かったとする報告があります(BMC Complementary Medicine and Therapies誌、2019年発表のシステマティックレビュー等)。
一方で、同じ研究群において「生児出生率」については、鍼灸群と対照群の間に統計的な差が見られなかったとする報告が複数あります。指標によって結果が分かれる状況です。
16件の系統的レビューを対象にした包括的評価(オーバービュー)では、AMSTAR-2という評価基準を用いた結果、多くのレビューの方法論的な質が「著しく低い」と判定されています(2021年発表の研究)。
日本の鍼灸業界における受け止め方
日本国内の鍼灸師の学術団体である公益社団法人全日本鍼灸学会の学会誌(全日本鍼灸学会雑誌75巻2号、2025年)に掲載された教育講演では、興味深い記述があります。同学会の学術大会では、2015年開催の第64回学術大会まで、不妊症に対する鍼灸治療をテーマにした教育講演やシンポジウムが一度も設けられていなかったとされ、その理由は「不妊鍼灸にエビデンスがなかったこと」であったと説明されています。近年、海外から系統的レビューやメタアナリシスが多数発表されるようになったことで、学術大会でも取り上げられる機会が増えたと紹介されています(三瓶真一「不妊鍼灸の特別演題入りとこれから」)。
これは、日本の鍼灸師の学術コミュニティ自身が「エビデンスは長らく不足していた」と率直に振り返っている記述であり、近年の研究の広がりを示す一方で、エビデンスの蓄積がまだ発展途上であることも同時に示していると言えます。
まだ分かっていないこと
研究状況を詳しく見ていくと、以下の点は現時点でも明らかになっていません。
研究間の結果のばらつきが大きいこと:臨床妊娠率で差が出た研究がある一方、生児出生率では差が確認されていない研究が多く、指標によって結論が異なります
方法論の質にばらつきがあること:対象人数が少ない研究や、方法論的な質が低いと評価された研究が多く含まれています
「施術のタイミング」と「継続的な通院」を分けて考える必要性
ここは特に重要な限界です。これまでの系統的レビューの多くは、**体外受精の胚移植前後のみに1〜2回鍼灸を行う「単発的な施術」**を対象にしたものです。これらの研究では、生児出生率において明確な優位性が確認されなかったと報告するものが複数あります。
しかし、これらの研究の多くは、定期的に鍼灸院に通院し、継続的に体質を整えていくタイプの施術については十分に検証しておらず、多くの論文が「今後さらなる研究が必要」と結論づけています(要確認:個々の論文の記述は原文でのご確認をおすすめします)。つまり、「移植のタイミングだけ鍼灸を受けること」と「日頃から定期的に鍼灸に通うこと」は、研究上、別のものとして扱われるべきであるにもかかわらず、両者が混同して語られやすいという問題があります。
院長のコメント(未検証の個人的な考え) 「『着床鍼』として移植前後に鍼灸を受けると妊娠率が上がる、と思われている方も多いと思いますが、実はこのテーマを扱ったシステマティックレビューの中には、移植前後のみの施術では有意な優位性が見られなかったと結論づけているものがあります。ただしその論文でも、定期的に鍼灸を受けることによる体質改善効果については言及されておらず、今後の研究課題とされています。私自身は、日頃から鍼灸で体調を整えることが妊娠のしやすさと何らかの関わりがあるのではないかと考えていますが、これはあくまで私個人の臨床上の考えであり、科学的に証明されたものではありません。」
これらを踏まえ、本記事では「鍼灸によって妊娠率や出生率、卵子の質、着床率が改善する」といった断定的な表現は使用しません。
当院での対応
当院では、上記のような研究状況を踏まえた上で、まずカウンセリングを通じてその方の体調を確認し、体調を整えることを目的とした施術を行っています。妊娠という結果を保証するものではなく、あくまで体調面からのサポートという位置づけで施術にあたっています。
匿名症例・院内データ
当院では2019年〜2025年の7年間に、374名・延べ425症例の妊娠に至った記録を院内で集計しています(体外受精65.6%・自然妊娠27.1%・人工授精7.3%、詳細は「東京で不妊鍼灸を探している方へ|後悔しない鍼灸院の選び方」の記事でご紹介しています)。
(このデータを読む上での重要な前提:本データは「妊娠に至った症例」のみを集計したものであり、妊娠に至らなかった方の人数は含まれていません。そのため、妊娠率や施術効果を示すものではありません。)
通院の目安
通院頻度・期間は個人差が大きく、一律の目安を示すことは適切ではありません。治療段階に応じた当院での一般的な進め方は「渋谷の不妊鍼灸|体外受精・人工授精・自然妊娠の段階別サポート」でご紹介しています。実際のプランは初診時のカウンセリングをもとに個別にご提案いたします。
費用
はり・きゅうの施術は、原則として健康保険の対象外であり、全額自己負担となります。ただし、神経痛やリウマチなどと同一範疇と認められる慢性的な疼痛について、医師の同意書がある場合に限り、療養費として健康保険の給付対象となるケースがあります(全国健康保険協会「はり・きゅう、あん摩・マッサージのかかり方」)。
当院の費用は以下の通りです(税込)。
項目 費用 初診料 5,500円 鍼灸・手技療法・整体(1回) 8,000円
初回合計 13,500円 2回目以降 8,000円
はり師・きゅう師による施術費は、治療を目的としたものであれば医療費控除の対象となり得ます(国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」)。
リスクと注意点
鍼灸施術には、一般的に以下のようなリスクが伴う可能性があります。
痛み:刺鍼部位に一時的な痛みを感じることがあります
内出血:刺鍼部位に内出血(あざ)が生じることがあります
倦怠感:施術後に一時的なだるさを感じる方がいます
医療機関への受診を優先すべきケース
以下のような場合は、鍼灸での経過観察を優先するのではなく、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
強い腹痛、大量の出血など、急を要すると考えられる症状がある場合
すでに医療機関で治療スケジュールが組まれており、医師の判断を優先すべき場合
婦人科系の基本的な検査を一度も受けたことがない場合
鍼灸は医療機関での検査・診断・治療の代わりになるものではありません。
よくある質問
Q1. 不妊鍼灸に医学的なエビデンスはありますか?
体外受精と併用した鍼灸に関する海外の系統的レビューでは、臨床妊娠率の向上を示唆する報告がある一方、生児出生率では明確な差が確認されていない研究が多く、研究間で結果にばらつきがあります。現時点では「効果があると断定できる段階ではない」というのが実際の研究状況です。
Q2. 「着床鍼(移植前後の鍼灸)」で妊娠率は上がりますか?
移植前後のみに施術を行う研究の中には、有意な優位性が確認されなかったと結論づけているものがあります。ただしこれらの研究は、定期的な通院による体質改善効果までは検証しておらず、その点は今後の研究課題とされています。
Q3. 「不妊鍼灸に効果がない」という意見も見かけますが本当ですか?
「効果がない」と単純に言い切ることも、「効果がある」と断定することも、現在の研究状況を正確に反映しているとは言えません。指標(妊娠率か出生率か)によって結果が分かれており、研究の質にも課題があるというのが正確な状況です。
Q4. 不妊鍼灸のエビデンスは、日本国内でも研究されていますか?
国内の鍼灸師の学術団体でも近年、不妊鍼灸をテーマにした学術発表が増えていますが、これまで引用した大規模な系統的レビュー・メタアナリシスの多くは海外で実施されたものです。日本国内での大規模な系統的レビューは、現時点では確認できていません。
Q5. エビデンスが不確かなら、鍼灸を受ける意味はありますか?
これは個々の価値観による部分が大きい問いです。妊娠率向上そのものへの効果は証明されていませんが、体調を整えることを目的として選択する方もいます。エビデンスの現状を理解した上で、ご自身にとって意味があるかどうかを判断していただくことが大切です。
まとめ
不妊鍼灸のエビデンスは、この10年ほどで海外を中心に増えてきていますが、研究間で結果にばらつきがあり、方法論の質にも課題が残っています。特に、多くの研究が「移植前後の単発的な施術」を対象にしたものであり、「定期的な通院による体質改善」の効果については十分に検証されていないという限界も存在します。「エビデンスがある」という言葉だけを鵜呑みにせず、何を対象にした、どのような研究なのかまで踏み込んで理解することが、後悔しない選択につながります。東洋医学の理論と西洋医学のエビデンスは、異なる視点であることを理解した上で、ご自身にとって納得できる形で活用していただければと思います。
参考文献
全国健康保険協会「はり・きゅう、あん摩・マッサージのかかり方」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3080/r140/
国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
『療治之大概集』(江戸時代の鍼灸伝書、鍼灸医学典籍大系所収。婦人門の記載内容は要確認・一次資料での確認を推奨)
The effects of acupuncture on pregnancy outcomes of in vitro fertilization: a systematic review and meta-analysis. BMC Complementary Medicine and Therapies. (2019) https://bmccomplementmedtherapies.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12906-019-2523-7
An Overview of Systematic Reviews of Acupuncture for Infertile Women Undergoing in vitro Fertilization and Embryo Transfer. (2021) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8096176/
Effects of acupuncture on pregnancy outcomes in women undergoing in vitro fertilization: an updated systematic review and meta-analysis. Archives of Gynecology and Obstetrics. (2023) https://link.springer.com/article/10.1007/s00404-023-07142-1
三瓶真一「不妊鍼灸の特別演題入りとこれから」全日本鍼灸学会雑誌 75巻2号 (2025) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/75/2/75_199/_article/-char/ja/
※上記の海外研究は、対象や研究デザインが日本国内の臨床状況と異なる場合があります。個別の症状・治療方針については、必ず医療機関にご相談ください。
執筆者/監修者/更新日
執筆:福本晋平
監修:福本晋平(ふくもと治療院 院長・はり師/きゅう師)
更新日:2026年8月12日
