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スキマから見える業務のかたち#2|役割の構造をどう読み解くのか

組織の「境界」に立つと、いろいろなズレが静かに浮かびあがってきます。

部署と部署のあいだで、少しずつ言葉が噛み合わなくなる瞬間。 誰もサボっているわけでも、悪意があるわけでもないのに、なぜか止まってしまう業務の流れ。

私たち業務設計者が見つめているのは、そこで戸惑う「人」ではなく、その背後にある「構造」です。

ただひとつ、境界を観察するうえで大切な前提があります。 それは、境界を見る側である業務設計者自身には「境界がない」ということです。 どこかの機能に深く属するのではなく、どの役割にも少しだけ足を踏み入れながら、その奥にあるものを拾い上げていく。

この「境界を持たないまなざし」こそが、業務設計者という立ち位置の本質なのです。


■ 役割とは「担当」ではなく、「前提の集合」である

組織における役割とは、単なる作業の割り当てではありません。 その背後には、それぞれが組織の中で守り抜こうとしている「正しさ(前提)」が存在しています。

営業部門は、顧客との「約束」を守りたい。 カスタマーサポートは、顧客の「体験」を損ねたくない。 開発部門は、システムの「再現性」と安全を保ちたい。 管理部門は、組織全体の「統制」を緩めたくない。

どれも組織にとって不可欠で、正しい前提です。 しかし、それぞれの正しさが強すぎるゆえに、境界線上で静かな摩擦が生まれます。

業務設計者は、その摩擦の正体を知るために、どの役割の領分にも少しだけ入り込みます。 境界線の外から眺めるのではなく、境界線の上をゆっくりと歩きながら、彼らが何を背負っているのかに触れにいくのです。

■ 摩擦は「触れられない前提」から生まれる

境界で起きる問題のほとんどは、この「前提」の食い違いから生まれます。

やっかいなことに、互いの前提は往々にして「言わなくてもわかるはずの常識」として扱われ、言葉に乗ることがありません。 営業の常識と、開発の常識が、無言のままぶつかり合っている状態です。

片方の視点だけを聞いていては、このズレの正体は決して見えてきません。 境界のスキマに入り込む者だけが、二つの異なる視界を同時に手に入れることができます。 だからこそ業務設計者は、あえて「どこにも属さない存在」として、あらゆる現場の空気を吸いにいくのです。

■ 構造を読み解くとは、前提に言葉を与えること

それぞれの前提を見つけたら、次に行うのは「翻訳」です。 見えない前提に、言葉を与えていく作業です。

この部署は、どこまでを見ていて、どこから先を見ていないのか。 どんな役割にも、必ず「見ない(見えない)領域」が存在します。 業務と業務の境界でポロポロとこぼれ落ちていくタスクの多くは、この「お互いが見ていない領域」で発生しています。

その抜け落ちた部分を拾い上げるために、業務設計者は境界を跨いで動きながら、暗黙の前提を言語化していきます。 役割の外側にあるものを拾うには、その外側に立てる人がどうしても必要になる。 ここでようやく、組織の中に業務設計者というスキマの職能が存在する必然が生まれます。

■ 人ではなく「構造」に責任点を置く

業務がうまく回らないとき、私たちはつい「あの人の確認漏れだ」「あの部署の動きが遅いからだ」と、人に責任を求めてしまいます。

しかし、境界で起きるほとんどの問題は、人ではなく「構造」の歪みです。 担当者が変わっても同じところでミスが起き、同じところで業務が滞るのなら、それは個人の能力の問題ではなく、構造が破綻しているサインです。

業務設計者が個人を責めず、構造に責任点を置くことができるのは、どの役割の苦労にも少しずつ触れているからです。 特定の部署に固定されず、境界の上を自由に歩ける存在だからこそ、誰かを悪者にする前に、構造のバグを真っ先に見つけることができるのです。

■ 境界を持たない者だけが、境界を繋ぐ準備ができる

それぞれの前提が言葉として浮かび上がると、ようやく「つなぐための条件」が見えてきます。

けれど、それを正しく結びつけるには、どちらの重力にも引っ張られない、静かで偏りのない視点が必要です。 一方の役割の言い分だけを過剰に汲み取れば、もう片方の前提が歪み、新たな摩擦を生んでしまいます。

境界のど真ん中に立ちながら、どちらの側にも完全に属さない状態で、見えなくなった前提同士をどう結び合わせるか。 その中間点の設計を行うための静かな準備こそが、業務設計者の大切な役割なのです。

さらに深く「スキマ」の思考に触れたい方へ

役割や構造といった、目に見えないものをどう捉え、どう編み直していくか。私たちの足元にある「前提」に触れる回廊をご用意しています。

▶ シリーズの次のお話 スキマから見える業務のかたち#3|境界をしくみで縫い付けるということ

前提を言葉にし、境界の摩擦を紐解いた後に待っているのは、それをどう具体的な「しくみ」として結び合わせるかという実践です。接着剤ではなく「縫い付ける」というアプローチについてお話しします。

▶ 前提を言葉にする「翻訳」の技術 #業務設計者論 |翻訳者はしくみの言葉を編む

異なる言語(前提)を持つ部署同士の間に入り、摩擦をなくすための「翻訳」という職能について深掘りしています。

▶ 「言わなくてもわかる」の限界を知る AIに「いい感じで」が通じないもどかしさの正体 — それは「阿吽の呼吸」を見直す合図かもしれない

私たちの業務にいかに「見えない前提」が潜んでいるか。AIという鏡を通して、阿吽の呼吸という名のブラックボックスを紐解いています。

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