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お題をこなす優秀な上司が、なぜ新しい企画を通せないのか ─ 理想の指示を捨て、部下の仮説に弟子入りする技術

与えられたお題をこなすのは得意。けれど、いざ「新しい企画を通そう」とすると、なぜか手戻りを繰り返し、現場を疲弊させてしまう。

この現象の奥にあるのは、管理職個人の能力不足でも、戦う覚擁の欠如でもありません。

私たちは、異なるゲームのルールの狭間で、知らず知らずのうちに足を取られているだけなのかもしれません。

業務設計者の視点から、その「しくみのスキマ」を一緒に覗き込んでみませんか。

今回は、真面目で優秀なリーダーほど陥りやすい「正解の罠」を紐解き、自らが先頭に立たずに組織を動かす、逆転の生存戦略について考えます。

1. 予定調和という枠組みの心地よさ

私たちは、あらかじめ用意された「お題」を形にすることがとても得意です。

上層部から「来期の生産性を5%向上させよ」といった明確なテーマが降りてくれば、すぐにスケジュールを引き、役割を分担し、きれいにエクセルのマス目を埋めていくことができます。プロセスが明確で、ゴールが決まっている仕事において、その処理能力は最大の武器になります。

しかし、そんなあなたに「自ら新しい企画を立ち上げ、他部署を巻き込んで予算を勝ち取ってほしい」という、正解のないテーマが下されたとき、なぜか急に歯車が重くなります。

部下たちを集めてミーティングを重ね、美しい構成の企画書を練り上げるところまではスムーズに進む。けれど、最後の関門である予算会議や他部署との調整に入った瞬間、冷ややかな反対意見や、「前例はあるのか」という指摘に押し返され、結局は「やっぱり今回は難しそうだ」と現場に持ち帰ることになる。

「うちの上司は、きれいな絵は描くけれど、結局最後は壁を突破してくれない」 気がつけば、現場のメンバーは静かに心を閉ざし、次の提案を持ってこなくなります。

お題をこなす能力は誰よりも高いはずの私たちが、なぜ、新しい企画の壁を前にして立ち尽くしてしまうのでしょうか。

2. 「正しい論理」が通じない空間

決して、あなたの熱意や調整力が足りないわけではありません。原因は、私たちが無意識に「戦うゲームのルール」を混同してしまっていることにあります。

管理職になるような優秀な人ほど、「論理的に正しい0か1かの正解」を出す訓練を積んでいます。しかし、予算を勝ち取ったり、他部署の利害を調整したりするフェーズは、論理的な正しさだけでは動かない、きわめて人間的なエゴや防衛本能が渦巻くゲームです。

新しい企画を提案されたとき、他部署の住人たちが真っ先に考えるのは「全社の利益」ではありません。「これによって自分たちのリソース(人員や予算)が削られないか」「失敗したときに誰が責任を取るのか」という、自組織(サイロ)を守るための生存本能です。

ここに「正しい論理」だけを持ち込んで説得しようとしても、相手のサイロの壁は動きません。それどころか、正論で正しさを証明しようとすればするほど、相手はさらに強固に鍵をかけ、安全圏から「前例がない」「時期尚早だ」という矢を放ち返してきます。

きれいな計画書で自分を守るのをやめ、理想を語るだけの評論家を卒業しなければ、仕組みはいつまでも動き出しません。

理想は語れても、それを現実の仕組みに落とし込めない。もし、その泥臭い調整や、他人のエゴをハッキングするような動き方が、あなたの得意分野でないとしたら。

やるべきことは、あなた自身が突然、すべてを牽引するスーパーマンに変わることではありません。

3. 主導権を手放し、部下の仮説に弟子入りする

「自分が主導して、この企画を通さなければならない」という呪縛を、一度手放してみる。 そして、発想を切り替えて、「新しいことは動ける部下にやらせて、自分はその仮説に徹底的に乗っかる」という、逆転のOSをインストールするのです。

現場の最前線にいるメンバーは、どこが本当のボトルネックで、どうすればこの泥沼を動かせるかという、生々しい解(仮説)を肌感覚としてすでに持っています。あなたがやるべきは、彼らの上に立って理想の手順を指示することではありません。

彼らが持ってきた粗削りな仮説を信じ、それを組織の予算や承認ルートへ接続するための防波堤や、お神輿に自らがなることです。

自分にプライドがあるうちは、部下の意見をどこかでコントロールしようとしてしまいます。しかし、システムを動かす真のハイパフォーマーは、自分の視野の外にあるナレッジを取り入れるために、驚くほど素直に他人に「弟子入り」をします。

部下から進言されたことに従い、自分という存在を動かして、上の重力を受け止める。 「やり方は任せる。その代わり、上で予算をこじ開けてくるのは私の仕事だ」と、役割を分担するのです。

上司としてのプライドを脇に置き、チームを自律的に動かすための触媒として振る舞うこと。相手の保身やメンツといったエゴを的確に捉え、その利害関係の隙間に部下のワガママを強引にねじ込んでいく。

その冷徹で強烈な割り切りこそが、言われたことしかやれなかった組織を、自分たちの意志で呼吸を始める本物のチームへと変えていくのだと思います。

きれいな理想を語る評論家を卒業し、部下の熱を現実の仕組みに変える実務家へ。 明日、部下にこう声をかけることから、新しい関係性の設計を始めてみませんか。

「君が本当にやりたい方法を、教えてくれないか」

🍵 もっと深く「スキマ」を覗きたい方へ

今回の、理想を形にできず現場が止まってしまう構造について、さらに思考のOSをアップデートしたい方へ。 あなたの現在の違和感に合わせて、以下の「哲学・理論・構造」の記事を覗いてみてください。

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