【みおとあおい】第八十四章:消費税―無限の課税ベース―
第八十四章:消費税―無限の課税ベース―
【彼女は全てを知っていた。】
【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】
ここから先は、もはや単なる議論ではない。
国会という公の場で、制度を運用する側が【自由主義経済においては、価格はきれいに転嫁されない】と自ら認めた【事件】の記録である。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継ぎ、そしてついに【決着】へと導いた瞬間を見てほしい。

――どのルートでも、税収は運営へ――
夜の部屋に、国会答弁の音声だけが流れていた。
机の上には、開かれたノート。
課税売上。
仕入税額控除。
インボイス。
益税。
適正化。
その横には、黒、赤、白の三色で塗り分けられたブロックが描かれている。
画面の中では、片山さつき氏が、免税事業者と消費税について語っていた。
みおは、動画を止めた。
みお:
「あおい」
あおい:
「何?」
みお:
「インボイス制度って、免税事業者に登録するかどうかを選ばせる制度だったよね?」
あおい:
「表向きはね」
みお:
「登録したら、課税事業者になる」
あおい:
「そうだ」
みお:
「登録しなければ、免税事業者のまま」
あおい:
「そうだね」
みおは、ノートに二本の線を引いた。
免税事業者
├─ 課税事業者になる
└─ 免税事業者のまま残るみお:
「二つのルートがある」
あおい:
「あるね」
みお:
「どっちかを自由に選べる」
あおい:
「法律上はね」
みおは、嫌な予感がした。
制度が「自由に選べる」と説明するとき。
その選択肢の先には、たいてい同じ出口が待っている。
三つの付加価値
まず、取引を単純化する。
製造者A、卸売業者B、小売業者Cがいる。
Aは課税事業者。
Bは免税事業者。
Cは課税事業者である。
税率は10%とする。
A → B 440万円
B → C 550万円
C → 消費者 660万円税抜価格に直すと、こうなる。
A → B 400万円+消費税40万円
B → C 500万円+消費税50万円
C → 消費者 600万円+消費税60万円それぞれが新しく生み出した付加価値は、
⬛ Aの付加価値 400万円
🟥 Bの付加価値 100万円
⬜ Cの付加価値 100万円合計600万円である。
本来、付加価値税であるならば、この600万円に対応する税額は60万円になる。
ただし、Bは免税事業者だ。
インボイス制度以前、あるいは免税事業者からの仕入れを全額控除できる状態では、税額はこうなる。
Aの納付額 40万円
Bの納付額 0万円
Cの納付額 10万円
────────────────
合計 50万円Bが生み出した赤い付加価値100万円は、免税されている。
実効課税ベースは、
⬛ 400万円
+
⬜ 100万円
=
500万円である。
ここでいう実効課税ベースとは、法律上の「課税標準」という用語そのものではない。
納付税額を税率10%で逆算した、構造上の課税ベースである。
セイバールート(登録ルート)
免税事業者が課税事業者になる
Bがインボイス登録を行い、課税事業者になる。
すると、Bは売上に含まれる消費税50万円から、Aへの支払額に含まれる消費税40万円を控除する。
Bの納付額
50万円-40万円
=10万円全体では、
Aの納付額 40万円
Bの納付額 10万円
Cの納付額 10万円
────────────────
合計 60万円となる。
みお:
「運営視点では、免税されていた赤いブロックに課税フラグが立つ」
導入前
⬛ 400万円 課税
🟥 100万円 免税
⬜ 100万円 課税
実効課税ベース 500万円セイバールート
⬛ 400万円 課税
🟥 100万円 課税
⬜ 100万円 課税
実効課税ベース 600万円みお:
「課税ベースが、500万円から600万円に増える」
あおい:
「そうだね」
みお:
「税収も、50万円から60万円に増える」
あおい:
「そうだ」
みお:
「増税じゃない!」
あおい:
「運営は、『適正化』と言っている」
みおは固まった。
みお:
「納付額がゼロから10万円に増えたのよ?」
あおい:
「適正化だ」
みお:
「課税ベースも増えたのよ?」
あおい:
「公平化だ」
みお:
「税収も増えたのよ?」
あおい:
「適正な課税だ」
みお:
「増税っていう単語、使用禁止なの!?」
あおい:
「禁止ではないよ」
「使うと、何が起きたか分かってしまうだけだ」
みお:
「財務省の中に真理省があるじゃない!」
あおい:
「組織図には載っていない」
みお:
「え?」
あおい:
「説明の中にある」
負担増は、適正化。
新規課税は、公平化。
免税事業者は、これまで不当に利益を得ていた者へと書き換えられる。
言葉を変えれば、課税される側は被害者ではなくなる。
今まで不適正だった状態が、正常に戻されただけになる。
あおい:
「これが、現代の真理省だ」
みお:
「真理省?」
あおい:
「現実の負担を消す必要はない。負担を説明する言葉だけを書き換えればいい」
「増税を『適正化』へ」
「課税を『公平化』へ」
「負担を受ける者を、『今まで不当に得をしていた者』へ」
みお:
「国民が見る現実そのものを書き換える……」
あおい:
「認知操作として機能する制度説明」
「つまり、現代版『1984年』だ」
みお:
「これが、現代版ニュースピークなのね」
みおは、ノートに並んだ言葉を見つめた。
増税。
適正化。
公平化。
益税の是正。
同じ現実が、別の名前に置き換えられていた。
みお:
「思考の自由を、直接奪う必要はない」
あおい:
「うん」
みお:
「ただ、概念と言葉を奪えばいい」
「『増税』という言葉を、制度説明から消す」
「代わりに、『適正化』と『公平化』だけを残す」
あおい:
「増税という言葉がなければ、増税を問いにすることも難しくなる」
みお:
「現実の負担は、消えていないのに?」
あおい:
「言葉だけが消える」
「そして、負担だけが残る」
みおは、画面の中の文字を見た。
適正な課税。
公平な負担。
円滑な移行。
そこには、納付額がゼロから十万円へ増えた人の姿はなかった。
みお:
「現実を隠す必要さえないのね」
「現実を呼ぶ言葉を、なくせばいい」
あおい:
「それが、現代版ニュースピークだ」
みお:
「……税制の話よね?」
あおい:
「税制の話だよ」
みお:
「これ、フィクションじゃないの?」
あおい:
「現実だよ」
みお:
「現実の方が、設定を盛りすぎじゃない!!」
UBWルート(非登録ルート)
免税事業者が免税事業者のまま残る
次に、Bが課税事業者にならなかった場合を考える。
Bは免税事業者のまま、Cとの取引を続ける。
経過措置がすべて終了し、免税事業者からの仕入れを一切控除できなくなった、インボイス完全体の世界である。
Cの売上に含まれる消費税は60万円。
しかし、Bからの仕入れに含まれる50万円を控除できない。
したがって、Cの納付額は、
60万円-0万円
=60万円になる。
全体では、
Aの納付額 40万円
Bの納付額 0万円
Cの納付額 60万円
────────────────
合計 100万円税収は、50万円から100万円へ増える。
実効課税ベースは、
500万円 → 1,000万円へ拡大する。
みお:
「待って」
あおい:
「何?」
みお:
「運営が問題にしていたのは、Bの赤いブロック100万円よね?」
あおい:
「そうだね」
みお:
「ところが、Cの課税ベースは100万円から600万円に増えている」
あおい:
「そうだ」
みお:
「増えたのは500万円」
あおい:
「うん」
みお:
「赤いブロックがワープして、5倍になってるじゃない!」
あおい:
「正確には、赤いブロックだけが増えたわけじゃない」
みお:
「え?」
あおい:
「赤いブロックが、黒いブロックを連れてきた」
BからCへの税抜売上500万円の中には、二つの付加価値が入っている。
⬛ Aが生み出した付加価値 400万円
🟥 Bが生み出した付加価値 100万円
────────────────────
BからCへの売上 500万円Cの仕入税額控除を切断すると、Bの赤い100万円だけが残るのではない。
A段階ですでに課税された黒い400万円まで、Cの課税ベースへ再出現する。
是正対象とされた付加価値
🟥 100万円実際に増殖した課税ベース
⬛ 400万円
+
🟥 100万円
=
500万円みお:
「赤い100万円を捕まえるために、課税済みの黒い400万円まで複製したの!?」
あおい:
「運営が投影魔法で複製した」
みお:
「運営が!?」
あおい:
「仕入税額控除を切断すると、前段階売上が買い手側へ投影される」
みおは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
胸に手を当てる。
あおいは、嫌な予感がした。
だが、遅かった。
Unlimited Base Works

――無限の課税ベース――
体は課税売上で出来ている
血潮は税額で
心は適正化
幾たびの商流を越えて課税
ただ一度の控除もなく、
ただ一度の重複も認めず
運営はここに一人、
帳簿の丘で前段階売上を投影する
ならば、付加価値との一致は不要ず
この制度は、無限の課税ベースで出来ていた
Unlimited Base Works!
帳簿の丘に生えるもの
静寂が落ちた。
帳簿の丘には、黒いブロックが無数に突き立っていた。
一本、二本という数ではない。
丘を埋め尽くすほどの黒い塊が、地面の奥から押し上げられたように並んでいる。
まるで、何かが生えてきたようにも見えた。
みお:
「課税ベースが生えてきてるじゃない!」
あおい:
「控除を切ったからね。課税ベースが増えてしまうんだよ」
みお:
「畑みたいに言わないで!!」
あおいは、帳簿の丘を見渡した。
免税事業者からの仕入れ。
控除されなかった前段階売上。
その一つひとつが、買い手側の課税ベースへ残されている。
あおい:
「前段階売上を植えると、課税ベースが育つ」
みお:
「税収農業じゃない!!」
仕入税額控除が働いている限り、前段階売上は、後段階の課税ベースから除かれる。
前の事業者が生み出した売上を控除することで、後ろの事業者が新しく生み出した付加価値だけを課税対象として残す。
それが、付加価値税を累積売上税にしないための防御術式だった。
だが、控除を切れば、その前段階売上は消えない。
買い手の帳簿へ残り、後段階の売上と一緒に課税される。
しかも、再び現れるのは、免税事業者が新しく生み出した赤いブロックだけではない。
その売価の内側に含まれていた、すでに前段階で課税された黒いブロックまで、もう一度地上へ姿を現す。
赤いブロックを捕まえるために、黒いブロックまで投影される。
帳簿の丘に、課税ベースが生える。
育てるのは、控除の切断。
負担するのは、民間。
そして――
収穫するのは、運営。
みお:
「税収農業じゃない!!」
あおい:
「税制の話だよ」
みお:
「知ってるわよ!!」
あおい:
「固有結界ではない」
みお:
「え?」
あおい:
「制度の正常動作だ」
みお:
「そっちの方が怖いじゃない!!」
課税ベースは、見えない
民間に大量の課税ベースが生えていても、多くの人には、それが課税ベースとして見えない。
事業者には、増えた納付額として見える。
経理担当者には、控除できない仕入れとして見える。
取引先には、値下げ交渉として見える。
従業員には、賃金抑制として見える。
消費者には、値上げとして見える。
取引を失った小規模事業者には、売上の消失として見える。
同じ現象が、それぞれ別の画面に表示される。
一人ひとりが見ているのは、自分の目の前に現れた負担だけである。
増えた納税額。
新しい帳簿作業。
会計ソフトの更新費用。
取引先との価格交渉。
値上げ。
値下げ。
取引停止。
それらが、同じ仕様変更から生じた現象だとは気づきにくい。
だから、全体像が見えない。
課税ベースが増殖しているのではなく、単に自社の利益が減ったように見える。
制度が民間全体へ押し出したコストではなく、個々の事業者の経営問題に見える。
しかし、運営の画面では違う。
民間に生えた課税ベースは、税額へ変換される。
事業者、取引先、従業員、消費者へ分散した負担が、税収という一つの数字へ集約される。
民間には、負担として見える。
運営には、税収として見える。
負担者は分散する。
事務作業も分散する。
交渉の摩擦も分散する。
責任までもが、民間の判断として分散される。
だが、収穫先だけは変わらない。
インボイスは、まだ本気を出していない
そして現在、インボイス制度はまだ完全体ではない。
免税事業者からの仕入れについて、控除をすべて失う状態には、まだ到達していない。
経過措置によって、控除の一部は残されている。
つまり、今、帳簿の丘に姿を現している課税ベースは、完全体の一部にすぎない。
まだ、ほんの芽である。
みお:
「つまり、インボイスはまだ本気を出していない?」
あおい:
「そうだね」
「経過措置中だからね」
みお:
「今でも、課税ベースが生えてるのに?」
あおい:
「第一の封印しか解けていない」
みお:
「第一の封印?」
あおい:
「今は、まだ一部だけが控除不能になっている」
「インボイスは、まだ完全な力を出していない」
みおは、帳簿の丘を見た。
地面から突き出した黒いブロック。
その向こうには、まだ地中に埋まっている無数の影が見えるような気がした。
みお:
「つまり、インボイスは……」
あおい:
「まだ完全体になっていない」
みお:
「やる気スイッチみたいに言わないで!」
あおい:
「完全体になれば、作付面積が広がる」
みお:
「税収農業を拡大するな!!」
あおいは、もう一度、帳簿の丘へ目を向けた。
今はまだ、一部しか地上へ出ていない。
だが、制度は時間とともに進む。
控除できる割合が縮小すれば、その分だけ前段階売上が買い手側へ残る。
残った前段階売上は、新しい課税ベースになる。
課税ベースは、負担として民間へ現れる。
そして、税収として運営へ集約される。
帳簿の丘では、今日も課税ベースが育っている。
まだ、インボイスは本気を出していない。
二つのルート
セイバールートでは、Bが課税事業者になる。
赤い付加価値100万円へ新たに課税される。
実効課税ベース
500万円 → 600万円UBWルートでは、Bが免税事業者のまま残る。
Cの仕入税額控除が切断され、赤い100万円と黒い400万円が、Cの側へ再出現する。
実効課税ベース
500万円 → 1,000万円みお:
「どっちのルートも……」
「大聖杯は割れる……」
あおい:
「そして、税収は運営が受け取る」
みお:
「Bが登録すれば、Bの生活原資が削られる」
あおい:
「そうだね」
みお:
「Bが登録しなければ、Cの事業原資が削られる」
あおい:
「そうだ」
みお:
「プレイヤー側に勝利条件がないじゃない!」
あおい:
「運営側にある」
誰が負担するかは変わる。
しかし、税収がどこへ行くかは変わらない。
負担者は変数、受取人は定数
みお:
「増税分は?」
あおい:
「国民が負担する」
みお:
「増えた事務コストは?」
あおい:
「国民が負担する」
みお:
「システム整備コストは?」
あおい:
「国民が負担する」
みお:
「増税分を誰が負担するか決めるための交渉コストは?」
あおい:
「国民が負担する」
みお:
「税収の受取人は?」
あおい:
「運営だ」
みおは、しばらく言葉を失った。
増税分の負担は、事業者へ。
事務負担は、経理担当者へ。
システム整備費は、企業と顧客へ。
価格交渉の摩擦は、取引先へ。
値上げが起きれば、消費者へ。
賃金が抑えられれば、従業員へ。
取引が切られれば、小規模事業者へ。
負担も、費用も、摩擦も、民間へ分散される。
だが、税収だけは一方向へ集約される。
みお:
「税収の受取人だけ、初めから最後まで、運営でブレてないじゃない!」
あおい:
「運営の、運営による、運営のためのルール改変だからね」
みお:
「逆リンカーンじゃない!」
「国民はどこへ行ったの?」
あおい:
「税収の向こうに消えたっぽい」
みお:
「国民のためじゃないじゃない!」
「国民に負担と事務作業を配って、運営だけが税収を受け取る」
「それで、国民のための制度だと言えるの?」
あおい:
「少なくとも、国民が制度を決め、国民の利益のために運営するという民主主義の説明とは、逆向きだね」
みお:
「民主主義の否定じゃない!」
あおい:
「国民が主権者なら、運営は国民のために働く」
みお:
「でも、この仕様では?」
あおい:
「国民が、運営の税収のために働く」
みお:
「主権者と運営が逆転してるじゃない!!」
国民の、国民による、国民のための政治。
ではなく、
国民の負担による、運営のための税収。
誰も削られないルート
インボイス制度以前には、もう一つのルートが存在していた。
Bは、免税事業者のまま。
Cは、Bからの仕入れに相当する税額を控除できる。
B 免税事業者のまま
+
C 仕入税額控除が可能Bの生活基盤を守りながら、Cの課税ベースも増殖しない。
誰も直接削られないルートである。
インボイス制度は、選択肢を増やしたのではない。
この旧ルートを閉鎖した。
そして、
Bが登録する
→ Bが負担する
Bが登録しない
→ Cが負担するという、二つのルートを新設した。
みお:
「このゲーム、トゥルーエンドがないじゃない」
あおい:
「以前はあった」
みお:
「え?」
あおい:
「運営がトゥルーエンドを削除して、二つの犠牲ルートを実装した」
みお:
「選択肢を増やしたんじゃない……」
「誰を削るか、選ばせるようにしたのね」
あおい:
「そういう仕様変更だ」
みお:
「どちらを選んでも、誰かが負担する」
あおい:
「でも、税収の受取人は変わらない」
みお:
「運営だけが、トゥルーエンドに入ってるじゃない!!」

街の音
動画が終わった。
みおは椅子から立ち上がり、窓の外を見た。
街には、まだ明かりが残っていた。
小さな飲食店。
古い看板を掲げた修理店。
一人で営業している美容室。
配送車から荷物を降ろす人。
閉店前のスーパーで、値引きシールを貼る店員。
誰かが作った。
誰かが運んだ。
誰かが仕入れた。
誰かが並べた。
誰かが売った。
一つひとつは小さな付加価値だった。
けれど、その小さな価値の積み重ねによって、街の生活は動いている。
その価値は、すべて利益ではない。
そこから家賃を払い、光熱費を払い、社会保険料を払い、壊れた機械を直し、家族の食費を払い、明日も店を開く。
小さな事業者の付加価値とは、その人が生き、事業を続けるための基盤でもある。
運営が仕様を変更すると、その負担は市場へ放たれる。
誰が払うかは、民間が決める。
取引を続けるのか。
登録するのか。
価格を上げるのか。
賃金を抑えるのか。
誰かとの取引を諦めるのか。
負担者は、何度でも変わる。
だが、受取人は変わらない。
スーパーのレジから、電子音が鳴った。
ピッ。
その音は今日も、変わらず税収を刻んでいた。

「運営がチートする。」
SSR【怪異017|公式チート】

レアリティ: SSR
属性: 制度/闇/運営
種族: 制度実装型怪異
危険度: ★★★★★★★★★★★★★★★
固有能力:
《ルール改変》
《控除チェーン切断》
《課税ベース膨張》
《通報先内在化》
フレーバーテキスト
制度を守るはずの公式が、
自らルールを書き換えたとき、
怪異は最終形へ至る。
税率は上がらない。
だが、引けるものが減る。
その結果、課税ベースは膨張し、
事業者負担は静かに増殖する。
しかも公式は、
それを**「適正化」**と呼ぶ。
効果説明
このカードが場に出たとき、
相手フィールドの**「控除」**を一部無効化する。
無効化された控除は、
そのまま課税ベースへ加算される。
さらに、このカードが存在する限り、
相手はこの効果を**「増税」**として認識しにくくなる。
真名
公式がルールを書き換え、
自分だけ勝てる仕様を実装した怪異。
弱点
構造の可視化
課税ベースの数式化
「何が控除できなくなったのか」という問い
通報先は、運営
誰が、この制度を不公正だと判定するのか。
誰が、控除切断による累積課税を修正するのか。
誰が、「増税ではない」という説明を覆すのか。
ルールを作ったのは、運営。
税収を受け取るのも、運営。
制度を説明するのも、運営。
苦情の受付先も、運営。
そして、最終的な裁定者も運営である。
みお:
「通報窓口は?」
あおい:
「運営です。」
みお:
「裁定するのは?」
あおい:
「運営だ。」
みお:
「税収を受け取るのは?」
あおい:
「運営。」
みおは、しばらく黙り込んだ。
そして、恐る恐る尋ねた。
みお:
「最終回答は?」
あおいは、画面に表示された文字を読んだ。
仕様です。
それが、運営がチートする世界の、最終裁定だった。

みお:
「あおい。
私たち、これからどうすればいいの?」
あおい:
「知ることだ。」
みお:
「知らなければ?」
あおいは、少しだけ街へ目を向けた。
あおい:
「今まで通りだ。」
知らないうちに、法案が国会を通過する。
気づかないまま、制度が作られる。
暮らしが削られる。
事業が削られる。
それでも、何が起きているのか分からない。
分からないから、問いを立てられない。
問いを立てられないから、反対することも、変えることもできない。
そして、削られていることに気づいても――
それを説明する言葉を持てない。
あおいは、短く言った。
「知らなければ、奪われたことさえ分からない。」
みおは、黙って街を見た。
どこかの店で、レジの音が鳴った。
ピッ。
今日もまた、誰かの売上に課税の当たり判定が置かれる。
誰かの控除が切られる。
誰かの利益が削られる。
けれど、その仕組みを知らなければ、ただの買い物の音にしか聞こえない。
もう一度、音が鳴った。
ピッ。
その音は――
今日も誰かを削る音だった。
【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ
参考動画:
【彼女は全てを知っていた。】
【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】
ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。
その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。
2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。
2012年、彼女はすべてを知っていた
「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。
片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。
たとえば、街の蕎麦屋である。
今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?
これは、単なる問いではない。
消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。
全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。
片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。
さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。
つまり、彼女は知っていた。
消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。
しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。
消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。
14年後、問いが戻ってきた
それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。
答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。
完全転嫁という幻想
多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。
「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。
それは、制度を成立させるために置かれた予定である。
赤字でも消費税が発生する理由
消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。
消費税
=
売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額
標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。
消費税
≒
(課税売上 − 課税仕入)× 10/110
ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、
課税売上 − 課税仕入 > 0
であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、
課税売上 − 課税仕入 > 0
となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。
だから、赤字事業者にも消費税が発生する。
赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。
付加価値の先取り
課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。
単純化すれば、
付加価値
≒
課税売上 − 課税仕入
さらに、その付加価値は概ね、
付加価値
≒
利益 + 人件費
と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。
消費税≒ 付加価値 × 10/110
さらに単純化すれば、
消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110
となる。
ここで、何が起きているのか。
事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。
本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。
国が消費税を先に取る。
残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。
しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。
利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。
安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。
消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。
その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。
レシートに書かれた「内消費税」
安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。
その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。
レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。
それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。
そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。
ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。
しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、
「その価格で、一つの取引が成立した」
という事実である。
2012年の言葉と、2026年の言葉
2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。
同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。
市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。
あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。
その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。
2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。
価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。
そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。
だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。
人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。
それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。
これは事件の記録である
14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。
彼女が座る椅子だった。
制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。
制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。
14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。
これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。
誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。
その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。
失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。
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