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「つまらない奴」の書く人生

「書く」行為が紙と鉛筆でしか許されないのなら私は書いてなかった、と思う。

子どもの頃から「字が汚い、読めない、雑だ」と言われ、数字の「8」なんかどちらかのマルは潰れていた。同年代の男子と似たような汚さだったと思うけれど、その頃女子の間で流行っていたのは丸文字だった。

「お」の点をカーブ部分に突き刺した字。
「へ」の坂道に〃を突き刺した字。
間違えてぐりぐりと訂正した黒塗りは目をつけて毛虫にして。
そんな飾り文字ブームにおいて、私の乙女心と数字の8は同じようにぺちゃんこだった。

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「字を書くこと」は私にとってコンプレックスのひとつだった。

それでも頭の中に思い浮かぶあれこれは外に出たがってわーわー騒いでいる。

はじめのうちはそれらは口から飛び出していたけど、今度は「うるさい、静かにしなさい、今すぐ黙らないとガムテープで口を塞いじゃうぞ」と言われて行き場を失った。



「ねぇ聞いて?」の行き先は、二つに絞られた。

1、黙ること。話したかったことは全部胃の中に詰め込んで消化するのを待つ。

2、聞いてもらえるくらい面白おかしく話すこと。


思春期の私は2に全BET。教卓の上でおどけてみたり、短いスカートをはいてみたり、家族の話をおもしろおかしく聞かせてみたりした。

その甲斐あって聞いてもらうことはかろうじて出来たものの、スンとしたやけに大人びた女子たちは冷ややかだった。

「本田って自分の話ばっかりだよね。」
「自分と家族の話しか出来ない奴ってつまんなくない?」

思い出してもJCの容赦ない突っ込みが痛すぎて震える。

イケてる女子はジャニーズの話をするもので、渋谷すばるをシブヤと読んじゃう私はイケていないしつまらない。「自分の話」はつまらない。私のつまらない話で相手の時間を奪うことになるのが怖い。彫刻刀で脳内に直に掘るみたいに、この言葉は私にインプットされた。

コンプレックスが「字を書くこと」「話すこと」の2つに増える。面白い奴になれず、お喋りな私は消えた。残されたのは「黙る」という選択肢だけ。


「口から先に生まれてきたんじゃないの?」なんて言われていた私は、無口な人に変わった。人とは会わない。会っても喋れない。喋ろうとすると頭の中がからっぽになる。話したいことは口からも出ないし、手で書く文字は汚くて大嫌い。



高1でケータイを手に入れた。

カチ、とボタンを打つと言葉が繋がる。カチカチカチ。頭の中で考えたことが、その速度と同じスピードで文字に変換されていく。パソコンでタイピングすればもっと早く言葉が出力されていった。

喉の奥には門番が居て、口からは絶対に出てこない言葉が、画面を前にするとスッと指先を通っていく。授業中にケータイを机の下に隠して、画面を一切見ずに指先の感覚だけで文字が打てた。

mixi、魔法のiらんど、スタービーチ、にちゃんねる、ハムスター速報、Facebook、彼氏とブログをつくって公開交換日記(※黒歴史)

流れていく文字を追って負けじと打った。「俺のカーチャン」の話、家族の話だろ? めちゃくちゃ面白いじゃん。


「書けない」私の言葉は、文明によって「書ける」に変わった。


本当はずっと話したかったこと。見たテレビ、笑ったこと、泣いたこと、ムカついたこと、うちのカーチャンのこと、箸が転がっただけ、彼氏へのだいすきだよ、も全部。
喋れなくても「書く打つ」ことで伝えることができた。


「ねぇ聞いて?」
の選択肢は3つに変わった。

1、黙る
2、面白おかしく話す
3、書く打つ


私はずっと、話したかった。

「自分と家族の話しか出来ない奴ってつまんなくない?」
この言葉が喉の奥で門番をし続けているけれど、それでもやっぱり話したいのは自分の目で見たこと聞いたこと思ったこと、自分のこと、家族のこと。

あれから30年経っても、いまだに私は自分と家族のことばかり書いている。出力先と場所を変えているだけで、やっぱり流行りのアイドルも音楽も語れやしない。

JCの言う通りつまらない奴だ。
黙ることも面白おかしく話すこともできず、人前では無口なくせにネット上ではお喋りなつまらない奴だ。


でも、自分と家族の話がおもしれー奴が山ほどいることを知っている。

私の書く人生は、「自分と家族の話しか出来ない奴ってつまんなくない?」と言われたあの日を回収するために続いていく。




▽こちらの記事が #書く人生がはじまった瞬間  心が動いたで賞 を受賞しました



▽みくまゆたんさんの著書



じっくり拝読させていただいています。ハイライトしながら読んでいるのでまだ途中なのですが、冒頭からグサグサと「書く人」に響く文章が溢れています。

「私ってなんで書いてるんだっけ…?」と立ち止まった時に開いて何度も読み返したいです。

・肩書きが欲しいのか
・好きなことを書きたいのか
・商品や誰かの魅力を見つけて、紹介するのが好きなのか
・報酬が欲しいのか
・名前が知られて、指名で仕事が舞い込むようになりたいのか
この問いが必要なのは、目的に応じて「攻め方」が大きく異なるからです。

—『書く人生のはじめかた 文章力より大切な“書き続ける”ための心構え』より引用




▽なぜ私は書くのか 2年前の答え


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