「裁量労働制ではなくてはならない理由はどこにあるのか」黒田祥子教授
今年(2026年)3月13日に労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会が開催され、裁量労働制について議論されました。
柔軟な働き方は裁量労働制でなくても可能
今年(2026年)3月13日に労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会が開催されました。議題は働き方改革の「総点検」について(報告事項)でしたが、議事録の後ろの方を読むと、裁量労働制の対象拡大について議論されています。
この議論の中で、とくに重要な発言をされている2名の方、労働者側代表委員の冨髙裕子・日本労働組合総連合会(連合)副事務局長と公益代表の黒田祥子・早稲田大学教育・総合科学学術院教授の意見を紹介いたします。
まず冨髙委員は「先ほど(使用者側代表)鈴木委員が多様な働き方、柔軟性を持たせることは重要であるとおっしゃっていたと思います。私も、労働者にとっても多様な選択肢が増えることはとても重要だと思っておりますが、重要なのはそれが誰の視点に立ったものなのかという点だと思っております」と発言されています。
黒田委員は「働きやすい環境を整えることの重要性についての御発言もありましたけれども、働きやすい環境や柔軟性のある働き方は、従業員に裁量を与えれば、裁量労働制を導入しなくても可能」と発言しています。
また「スーパーフレックスやテレワークなどを導入することや、現場レベルで上司から部下に権限委譲をすることで、かなりの程度の裁量は担保できるのではないかと思います」とも発言されています。
さらに黒田委員は「裁量労働に関しては議論が平行線のままという印象を持っております。ですので、今後は、どうしても裁量労働制ではなくてはならない理由はどこにあるのかをいったん整理したうえで、議論を進めたほうが良いのではないかと感じております」と意見を述べられています。
冨髙(労働者側)委員発言
・冨髙委員
先ほど、(使用者側代表)鳥澤委員が変形労働時間制について触れられていましたので、その点についての受け止めを申し上げたいと思います。
変形労働時間制は例外的なルールであることを踏まえて、対象者の範囲や対象期間の特定などを労使協定に記載して届出が必要とされています。これは例外であることを踏まえて様々な要件が課されているわけですから、当然のことながら柔軟化することは極めて慎重に考えるべきであることをまず申し上げておきたいと思います。
それから、全体的なお話でございますけれども、先ほど(使用者側代表)鈴木委員が多様な働き方、柔軟性を持たせることは重要であるとおっしゃっていたと思います。私も、労働者にとっても多様な選択肢が増えることはとても重要だと思っておりますが、重要なのはそれが誰の視点に立ったものなのかという点だと思っております。
これまでに幾度となく申し上げておりますけれども、労働基準法は、労使間の圧倒的な力関係の差がある中で労働者を守るためにできた強行法規であって、そして、最低基準であると捉えているところです。したがいまして、当然のことながら、労働者の視点に立った見直しを図るべきだと思っております。
とりわけ裁量労働制につきましては、先ほどほかの委員からもございましたけれども、みなし時間の実労働時間の間に外れ値を除いても1時間弱の差がある中で、ましてや2024年改正の検証が行われていない中で、拡充の方向性で議論をするのは全くもってナンセンスだと考えているところでございます。
使側(使用者側)委員は、裁量労働も含めて労働者のニーズを強調していますが、連合には拡充に対する懸念の声がかなり寄せられておりますので、そういったことを踏まえても、裁量労働制の拡充や緩和を行うべきではないと考えているところでございます。
それから、先ほど使側委員からは、裁量労働でないとメッセージが伝えにくいというお話がありましたけれども、私は全くその意味が分かりません。メッセージが伝えにくいからといった漠然とした理由で裁量労働制を拡大するべきではないと考えておりますし、それは単なるマネジメントの問題ではないかと考えるところもございます。
改めて申し上げますけれども、労基法がなぜ制定されたのかという視点で、どういう見直しが必要なのかということを考えていただきたいと思います。(第207回 労働政策審議会 労働条件分科会 議事録抜粋)
黒田(公益代表)委員発言
・黒田委員
裁量労働に関しては議論が平行線のままという印象を持っております。ですので、今後は、どうしても裁量労働制ではなくてはならない理由はどこにあるのかをいったん整理したうえで、議論を進めたほうが良いのではないかと感じております。
何人かの委員からは、裁量労働制の導入理由として、裁量労働をしている従業員の満足度が高いことが述べられてきましたが、これまでの調査研究からは、裁量労働制だから満足度が高いのではなくて、裁量が与えられているから満足度が高いということが見えてきています。
また、働きやすい環境を整えることの重要性についての御発言もありましたけれども、働きやすい環境や柔軟性のある働き方は、従業員に裁量を与えれば、裁量労働制を導入しなくても可能だということも(裁量労働制実態調査結果)分析から明らかになっています。
例えば、スーパーフレックスやテレワークなどを導入することや、現場レベルで上司から部下に権限委譲をすることで、かなりの程度の裁量は担保できるのではないかと思います。
今後のこの場での議論は、こうした工夫をもってしても、やはり裁量労働制を導入しなければならないという理由があるのか、ないのか、あるとしたらそれは具体的にどのような点なのかを整理していくことが必要なのではないかと考えます(第207回 労働政策審議会 労働条件分科会 議事録抜粋)
なお、第3回 日本成長戦略会議・労働市場改革分科会が2026年4月22日に開催されましたが、議事録によると日本労働組合総連合会(連合)事務局長の神保政史委員(構成員)は「柔軟な働き方は現行制度でも十分可能であり、成果に応じた賃金の出来高払いもできることから、裁量労働制を拡大する理由にはならないと思います」と発言されています。
高市政権になって、このような意見が顧みられず無視されています。残念に思います。
追記:4月の議事録が公開されました!
公労使同数(公益代表<学者等>委員と労働側委員と使用<経営>側委員が同数)の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会で裁量労働制の見直し(対象拡大)について労使意見が対立したときは労働法学者や労働経済学者の公益代表の意見が重要になります。
報道は労使の意見ばかり報じますが、公益代表の意見を報じていません。ですから1カ月以上遅れて公開される労政審・労働条件分科会の議事録(労働市場改革分科会の議事録はもっと早く公開)では公益代表の意見に注目すべきです。
今回議事録が公開された4月の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会では「年収が高いのだから多少労働時間が長くてもいいのではないか、そんな感じの誤解が生じてしまう」と公益代表委員が意見を述べています。
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