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【利益相反管理実務(25)】ヘルスケア系企業と利益相反─最近の国内事案に見る論点と傾向

近年の国内事案を見ると、ヘルスケア分野の利益相反は、従来型の特定企業からの接待や現金提供の問題にとどまらず、より複雑な様相を示すようになっています。
オンライン診療を支える外部事業者、大学発ベンチャーと教員・医師の関係、機能性表示食品の研究レビュー、再生医療をめぐる自由診療と制度の運用など、表面的には問題ないように見えても、特定企業との関係が判断の独立性や制度への信頼を左右する場面が増えています。
本稿では、最近の国内事案と制度動向を手がかりに、ヘルスケア系企業が関わる利益相反の論点と傾向を整理します。


1.医療機器・製薬─公立病院・大学病院で何が起きているか

(1)どのような事案があるか

この領域でまず押さえるべきなのは、企業から医師・病院側への利益提供が、なお古典的な形でも問題化していることです。
2021年には、三重大学医学部附属病院の商談に関連し、ディーラーを介して医師の関連団体へ資金を提供したとして日本光電の社員3名が贈賄容疑で逮捕されました。
2024年にはゼオンメディカルが、市販後調査費や原稿執筆料等の名目による不適切な金銭提供(贈賄罪の可能性を含む)について厳重警告を受けています。
2025年にはHOYA Technosurgicalが、元従業員による東京労災病院の医師への金銭提供に関する再発防止策を公表しました。
さらに、2026年3月には日本エム・ディ・エムが、東京大学医学部附属病院への奨学寄附金や他病院での架空経費を用いた現金提供に関する調査報告書を公表しました。
(資料1, 2, 3, 4)

(2)そこからどんな傾向が見えるのか

ここで見える論点は二つあり、
① 現金や便宜供与の問題がまだあること
② 問題となる利益が、寄附金、製造販売後調査費、委託費、原稿料など「適法に見える名目」をとるケースが増えていること
です。

国立大学法人病院や公立病院では、医師が刑法上の収賄罪の主体となり得る地位にあるため、民間病院以上に企業からの利益の提供について 厳しく見られます。
最近の傾向は、単なる接待攻勢というより、研究支援や業務委託に見える支払いが、実質として取引誘引ではないかを問われるケースが増えている点にあります。

2.IT・遠隔診療─自由診療市場とオンライン診療の制度対応

(1)どの関係が利益相反の論点になるのか

この領域で利益相反の論点になる企業との関係は、主に①から③のとおりです。
 ① オンライン診療システムや受診施設を運営するプラットフォーム企業との関係
 ② 広告、受診の呼び込み、予約管理を担うIT企業との関係
 ③ 医療機関に代わって、患者対応や情報管理の一部を担う外部事業者との関係

厚生労働省は2026年1月の資料で、オンライン診療を医療法上明確に位置づけ、オンライン診療受診施設の届出、広告・公表事項、管理者の責務などを整理しました。
さらに2026年3月には、オンライン診療システム事業者が講ずべきセキュリティ対策に関する通知もしています。 (資料5, 6)

(2)近年の自由診療市場で何が問われているのか

ここで重要なのは、これらの企業が単に技術を提供している者ではなく、患者の流れや受診先の選択に影響し得る位置にいることです。
プラットフォーム企業への委託費やシステム利用料、広告・集客費用の設計によっては、医療上の必要性よりも受診の呼び込みや囲い込みのインセンティブが働くおそれがあります。
厚生労働省は2025年の資料で、GLP-1ダイエットを含む自由診療について、患者が安全性や有効性を十分に理解した上で受診することの重要性を改めて強調しました。(資料6)

したがって、最近の傾向として重要なのは、利益相反が接待や現金の直接の授受ではなく、委託費、システム利用料、広告や予約の仕組み、受診施設の運営の形で現れやすくなっていることです。

3.医療AI・大学発ベンチャー─教員・医師の複層的な立場とCOI開示

(1)どの関係が利益相反の論点になるのか

医療AI分野では、大学教員や病院の医師が、研究者であると同時に、大学発ベンチャーの創業者、役員、株主として関与する場面が増えています。
ここで利益相反の論点になるのは、役職、株式・ストックオプション、共同研究や実証、論文・学会発表における開示など、多層化する企業との関係です。
日本医学会のCOI管理ガイドライン2025も、公開・未公開を問わない株式や出資金等を申告対象に含めています。 (資料7)

関連する連載回

教員・医師がベンチャーに関与する際の「開示」は、読む側が内容を評価するための前提情報となります。
ICMJE(国際基準)が求める「データアクセスの保証」や「説明責任」の詳細は第20回で解説しています。

(2)なぜ医療AI分野で重要なのか

大学発ベンチャーとの連携で何が問題になるのかについては、第7回で詳しく扱いました。
教員の創業者・株主・役員としての立場、大学の知的財産や持株、研究室設備の利用、学生や学位審査との関係など、複数の立場と経済的関係が重なる点が、この場面の特徴です。
第25回では詳細には立ち入りませんが、近年、医療AI分野でこの論点がより身近になっています。
研究、臨床、事業化が近い距離で進むため、複層的な立場をどのように開示し、説明可能な状態に置くかについて、検討が必要です。 

関連する連載回

▶︎ 第7回 大学発ベンチャーとの連携では何が問題になるのか

4.食品・サプリ─紅麹問題後に問われた根拠と利害関係

(1)どの関係が利益相反の論点になるのか

この領域で利益相反の論点になるのは、機能性の根拠を作る側・評価する側と、その表示によって利益を得る食品企業や関連企業との関係で、主に四つあります。
 ① 届出者である食品企業との関係
 ② 機能性の根拠として用いられる臨床試験や研究レビュー(SR)に関与する研究者との関係
 ③ 原料の供給、製造、販売に関わる企業同士の連携関係
 ④ 広告や表示を通じて売上に結び付く事業上の関係
です。
2024年の小林製薬の紅麹関連製品の事案を受け、消費者庁は「機能性表示食品を巡る検討会」を設置し、2024年5月に報告書を公表しました。
機能性表示食品制度は、企業が科学的根拠を整えて届出を行う仕組みであり、根拠として研究レビューを用いることもできるため、根拠を作る側と利益を得る側の距離が近くなりやすい特徴があります。
(資料8)

(2)紅麹問題後に何が問われているのか

この領域で重要なのは、露骨な接待の有無ではなく、機能性表示の裏付けとなる根拠が、どのような関係のもとで作られ、評価されているかです。
消費者庁の検討会は、制度全体の信頼性を正面から問題にしました。(資料8)
さらに2026年2月、日本学術会議は機能性食品制度に関する提言を公表し、制度改正によって届出者の責任・義務強化や誤認を誘う表示の抑制が進んだ一方で、広告や宣伝も含めた制度全体の信頼確保にはなお課題があることを示しました。(資料9)

最近は、食品・サプリの分野でも、安全性だけでなく、機能性の根拠を誰が作り、誰が評価し、どのように消費者に示しているのかまで含めて、制度の信頼性が問われるようになってきています。

5.再生医療─自由診療の拡大と利益相反管理の難しさ

再生医療に代表される自由診療の領域は、第2節で見たオンライン診療とは別の意味で、利益相反の論点が濃く現れる分野です。
この領域で問題になるのは、再生医療を提供する医療機関と、その提供を支える外部事業者や委員会との関係、そして医療機関自身が持つ事業上の利益との関係です。

(1)どの関係が利益相反の論点になるのか

具体的には、主に四つの場面があります。
 ① 細胞加工や提供計画の作成を支援する事業者との関係
 ② 認定再生医療等委員会との関係
 ③ 広告や受診希望者の集客を担う事業者との関係
 ④ 再生医療の提供を拡大したい医療機関自身の経営上の利益
です。
厚生労働省の説明資料でも、再生医療は、提供医療機関、認定再生医療等委員会、細胞加工施設などが関わる制度として整理されています。
(資料10, 11)

この分野では、利益相反管理が制度上正面から求められています厚生労働省の通知は、再生医療等研究について、利益相反申告、利益相反管理基準、利益相反管理計画の作成、少なくとも年1回の確認などを求めています。(資料12)

(2)委員会審査の独立性と committee surfing

とりわけ重要なのが、認定再生医療等委員会との関係です。
委員会は、再生医療の提供計画を審査する立場にあるため、申請する医療機関や、その案件に関わる事業者と距離が近すぎれば、審査の独立性や中立性に疑問が生じます。

この点に関連して、日本の再生医療制度については、医療機関が自らに都合のよい認定再生医療等委員会を探す、いわゆる “committee surfing” が問題として指摘されてきました。
Scientific American / Nature の記事では、日本の再生医療制度を批判的に紹介する中で、この語が実際に用いられています。(資料13)

また、別の論文でも、日本の制度における継続的な問題として言及されています。
申請する医療機関や関係事業者と委員会との距離が近く(三位一体の関係, three-way relationships)、委員会が細胞加工会社と住所や連絡時を共有している、委員会自身が「提供計画の作成支援(ドキュメント作成の代行等)」を請け負う事例も報告されています。
調査対象となった計画の約65%において、提供計画の名称が他施設と同一であり、中身も施設名以外はほぼ同じ使い回しの書類とのことです。

審査が形式的なものになれば、安全性や妥当性を確認する仕組みそのものへの信頼が損なわれることに注意が必要です。
再生医療をめぐる利益相反は、委員個人の経済的関係だけでなく、どの委員会が、どのような関係の案件を、どの程度独立して審査できているのかという制度全体の問題として見る必要があります。
(資料14)

(3)有害事象報告と広告表示の問題

他方で、国立がん研究センターなどが2023年に公表した研究では、再生医療法に基づく自由診療で、有害事象の報告が適切に行われていない可能性が示唆されました。
具体的には、薬機法の下で承認された再生医療等製品では3〜4件の治療につき1件の割合で有害事象が報告されているのに対し、再生医療法に基づく自由診療では10万件の投与に対して報告がわずか1桁台にとどまっており、両制度間で報告数に極端な乖離があることが指摘されています。
(資料15)
ここで見えてくるのは、提供件数の拡大や事業継続の利益が、安全性評価や情報開示を弱めていないかという問題です。

さらに2024年には、日本再生医療学会が、再生医療等の自由診療における広告について注意喚起を公表しました。
再生医療等安全性確保法(安確法)に基づく手続きはあくまで厚生労働省への「届出」であり、行政庁による許可や認可といった「承認」ではないことを明確に示しました。
(資料16)

ここでも問題となるのは、医療機関や関係事業者が、患者の期待や不安を背景に、制度上の位置付けを有利に見せるインセンティブを持ちやすいことです。
最近の傾向としては、再生医療分野でも、接待や現金供与のような古典的な利益相反より、委員会審査、事後報告、広告、事業化支援の過程に入り込んだ見えにくい利害関係が重要になっています。

6.まとめ

近年のヘルスケア分野では、利益相反は、従来型の接待や現金提供だけでなく、委託費、システム利用料、株式、研究レビュー、広告、審査手続など、通常の制度や契約の形をとって現れやすくなっています。
重要なのは、個別の行為の適否だけを見るのではなく、どの主体とどの主体の関係が、どの判断に影響し得るのかを見極めることです。

医療機器・製薬、オンライン診療、医療AI、食品・サプリ、再生医療では、問題の現れ方はそれぞれ異なりますが、共通して問われているのは、判断の独立性と制度への信頼をどう守るかです。

ヘルスケア系企業との関係を実務でマネジメントするには、金銭の授受だけでなく、立場の重なり、契約の内容、機能性の根拠や研究データの作成過程、審査や情報提供の仕組みまで含めて、説明できる状態にしておくことが必要です。

参考資料(本文中の資料番号に対応)

  1. 日本光電工業株式会社. 調査委員会の調査報告書等に関するお知らせ. 2021.
    https://www.nihonkohden.co.jp/ir/news/21041502/main/0/link/21041502.pdf

  2. ゼオンメディカル株式会社. 医療機器業公正取引協議会による当社に対する措置公表について. 2024.
    https://www.zeon.co.jp/news/assets/pdf/240418-2.pdf

  3. HOYA Technosurgical株式会社. 再発防止策の策定に関するお知らせ. 2025.
    https://www.hoyatechnosurgical.co.jp/wp/wp-content/uploads/2025/10/再発防止策.pdf

  4. 株式会社日本エム・ディ・エム. 調査報告書【公表版】. 2026.
    https://www.jmdm.co.jp/wp/wp-content/uploads/26.03.27-調査報告書【公表版】-.pdf

  5. 厚生労働省. オンライン診療について. 2026.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001642125.pdf

  6. 厚生労働省. 糖尿病治療薬等の適応外使用に関連した注意喚起の取組等. 2025.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001559953.pdf

  7. 日本医学会. 日本医学会 COI管理ガイドライン2025. 2025.
    https://jams.med.or.jp/guideline/coi_guidelines_2025.pdf

  8. 消費者庁. 機能性表示食品を巡る検討会報告書. 2024.
    https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001/assets/consumer_safety_cms206_240527_01.pdf

  9. 日本学術会議. 提言 我が国の機能性食品制度に関わる課題とその対応. 2026.
    https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf2/kohyo-26-t397.pdf

  10. 厚生労働省. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律について. 2025.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001502148.pdf

  11. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律
    https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000085

  12. 厚生労働省. 再生医療等研究の利益相反管理について. 2019.
    https://www.mhlw.go.jp/content/000491185.pdf

  13. Cyranoski, D. Stem Cells 2 Go. Scientific American / Nature. 2019.
    https://www.scientificamerican.com/article/stem-cells-2-go/

  14. Ikka, T. et al. Difficulties in ensuring review quality performed by committees under the Act on the Safety of Regenerative Medicine in Japan. 2023.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36827977/

  15. 国立研究開発法人国立がん研究センター. 再生医療法に基づく再生医療で生じる有害事象の報告状況を調査―報告件数の少なさは何を意味するのか?. 2023.
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/researchtopics/2023/1120/index.html

  16. 一般社団法人日本再生医療学会. 再生医療等の自由診療における広告に関する注意喚起について. 2024.
    https://www.jsrm.jp/news/news-15165/

2026年4月22日投稿
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