【利益相反管理実務(22)】寄付は誰から、どんな条件で受けるのか─寄付者の選択、寄付条件の可否、寄付者との交渉をどう考えるか
大学にとって、寄付は、教育・研究・診療を支える重要な資金源です。
もっとも、寄付であれば誰から、どのような条件でも受け入れてよいというわけではありません。
実務で問われるのは、金額の多寡よりも、誰から受けるのか、どのような条件で受けるのか、そしてその条件を誰がどの基準で吟味するのかという点です。
東京大学、京都大学、大阪大学が公開している規程でも、寄付の受入れは、教育研究に支障がないか、寄付者に利益や便宜を与える内容になっていないかを確認する手続として位置づけられています。(資料1, 2, 3)
1.寄付は「善意」だけでは評価できない
寄付は善意の支援として理解されやすい一方で、大学においては研究、教育、診療、調達、広報、人事など接点を持つことがあります。
そのため、寄付を管理する際、「ありがたい支援だから受ける」という発想では足りず、大学の判断の独立性を守れるかという観点から見る必要があります。
Harvard大学は、寄付の受入れや条件の合意、顕彰、資金管理に当たり学問の自由を含む基本的な考慮要素を掲げており、Yale大学も、寄付受入れの判断では学問の自由、利益相反、過度な負担やリスク、法令遵守を考慮要素として挙げています。(資料4, 5)
ここで重要なのは、寄付者と寄付条件を切り離さず一体として見ることです。
たとえば、一般的な使途指定に見える条件でも、寄付者が大学の調達先、共同研究先、規制対象の企業、あるいは大学病院の診療と密接な関係を持つ相手であれば、対価性や便宜供与の禁止と関わる可能性があります。
逆に、寄付者自体に大きな問題がなくても、条件の中身が大学の判断に踏み込むものであれば、大学の意思決定の自律性(入学、採用、昇進、研究の実施、カリキュラム開発など)に干渉しうるものとして、受入れ慎重であるべきです。
(資料1, 4, 5)
2.どの寄付者を慎重に見るべきか
寄付者の審査というと、反社会的勢力や違法な資金を想定しがちですが、実務上はそれだけでは不十分です。
慎重に確認すべきなのは、大学との契約・調達先となる企業、特定分野の研究や診療に強い利害を持つ企業、名称使用や広報効果を強く期待する寄付者です。
Stanford大学は、企業等からの単発の資金提供であっても、それが寄附(gift)として扱われるためには、研究成果や知的財産への対価的な関与がないことが重要であると整理しています。
対価的な関与がある場合は、寄附ではなく受託研究(Sponsored Project)等としして整理する必要があります。
関連する連載回
第6回「4.契約類型と実態の整合 (1)寄附 → 対価性」
また、企業や専門的な財団などからの「シンプルで単発の、使い切りのギフト(simple, one-time expendable gifts)」を書面で確定させるため、「Conditions of Gift Letter(ギフト条件レター)」のテンプレートを使用することを推奨しています。(資料6)
これは、寄付者の属性だけでなく、寄付者が大学に何を期待しているかが確認対象であることを示しています。
したがって、寄付者の審査は、反社チェックにとどまらず、大学との既存の関係性、将来の利害関係、寄付者の期待、大学の意思決定に影響する可能性なども確認の対象です。
こうした確認は、現場の部局だけで抱え込まず、一定の類型について全学的な確認や法務・財務・研究推進部門を含む審査に上げることが望ましいでいす。
一定の類型の例は、下記のとおりです。
・寄付か対価性のある研究契約等に該当するのは現場では判断が難しいケース
・知的財産や成果物が関わるケース
・資金の移し替えや使途の変更を伴うケース
・公的機関・政府が関係する団体からの寄付など、特別な会計処理や公表義務を伴うケース
・大学の名称使用や管理等経費の免除(フェローシップなど)に関わるケース
(資料1, 2, 3, 6)
3.どの条件が認められ、どの条件が難しいのか
日本の国立大学では、この点について、比較的明確に規程化されています。
東京大学は、学術研究の指定、研究結果の簡単な報告、収支決算概要の提出、目的完了後の使用残額の返還は受け入れ得る条件として示す一方、知的財産権の譲渡・使用の供与、寄付者による会計検査、寄付申込後の取消し、取得財産の無償譲渡などは受け入れられないとしています。(資料1)
京都大学と大阪大学の規程も同様で、知的財産権の譲渡や無償使用、会計検査、取消権、教育研究上支障がある条件を受入れ不可としています。(資料2, 3)
ここで重要なのは、条件の評価は、使途の指定の有無で決まるものではないという点です。
一般的な使途の指定でも、大学の裁量が残るか、寄付者に実質的な決定権を渡していないかによって意味は変わります。
たとえば、「学生支援に用いてほしい」「特定領域の研究環境整備に使ってほしい」といった条件は、大学側に執行の裁量が残る限り、比較的受け入れやすいと考えられます。
他方で、特定の個人に利益を与える条件、採用や研究テーマの選定に寄付者が関与する条件、特定企業の製品の採用を期待させる条件、成果の公表や知的財産の扱いに介入する条件は、受入れが難しくなります。
(資料1, 2, 3, 6)
UC Berkeleyは、寄付の受入れ方針をレピュテーションリスク(第12回, 第13回)、法的リスク、経済的リスクから大学を守るためのものと位置づけています。(資料7)
つまり、寄付条件の審査では、違法かどうかだけでなく、大学の意思決定の独立性が疑われないか、外形的に不適切に見えないかまで含めて判断する必要があります。(資料4, 5, 7)
4.大学は寄付者とどう交渉すべきか
実務では、条件に問題があるときの対応を「受ける」「断る」の二択にしないことが重要です。
大学が行うべきなのは、寄付者の趣旨を確認しつつ、大学として受け入れ可能な条件に修正する交渉です。
たとえば、特定の研究領域への支援という希望は受け止めつつ、具体的な執行、受給者の選定、成果の公表、知的財産、大学名の使用は大学の判断によることを明確にする必要があります。(資料1, 4, 6)
この点で、日本と米国では、論点に少し違いがあります。
日本の国立大学では、寄付の条件が大学の規程や国立大学法人会計基準と結び付いており、条件の付け方によっては寄附金債務(負債)としての処理が問題になります。(資料9)
これに対し、米国の研究大学では、学問の自由、利益相反、レピュテーションリスクに加え、その資金が本当に事前寄附(philanthropic gift)といえるのかという分類が強く意識されています。(資料4, 5, 6, 7, 8)
したがって、日本の大学の実務では、寄付者の選択、条件の可否、会計処理、交渉の文言を一体的に考える視点が重要です。
寄付の管理で問われるのは、大学の独立性を守りながら外部の支援を受けるための調整力です。
寄付者を選び、条件を見極め、必要な交渉を行うことは、寄付を断るためではなく、大学として受け入れ可能な支援の形を整えるための実務が重要です。(資料1, 2, 3, 4)
5.まとめ
寄付の受入れにおいて大学に求められるのは、寄付者が誰か、どのような条件が付されているか、その条件が大学の意思決定や説明責任にどのような影響を及ぼすかを、受入れ前に見極めることです。
実務上重要なのは、寄付者の選択、条件の可否判断、必要な条件修正の交渉を切り離さず、一体として扱うことです。
寄付の管理とは、資金を受け入れるための事務ではなく、大学の独立性、公正性、信頼を損なわない形で外部からの支援を受けるための組織ガバナンスの実務です。
寄附が原資となる寄附講座を設置・運営する際、設置時のみならず運営中も独立性を維持し続けるためのリスク管理については、第26回を参照してください。
参考資料(本文中の資料番号に対応)
東京大学. 寄附金. 東京大学. https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/society/funding/d01_10.html
京都大学. 京都大学寄附金取扱規程. 京都大学. https://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_honbun/w002RG00000927.html
大阪大学. 国立大学法人大阪大学奨学寄附金等取扱規程. 大阪大学. https://www.osaka-u.ac.jp/kitei/reiki_honbun/u035RG00000476.html
Harvard University. Gift Policy Guide. Harvard University. https://alumni.harvard.edu/sites/default/files/page/files/Gift_Policy_Guide_Overview.pdf
Yale University. Gift Acceptance and Review Policy. Yale University. https://salovey.yale.edu/sites/default/files/files/Report%20of%20the%20GPRC%20%28FINAL%29.pdf
Stanford University. Gift vs. Sponsored Projects and Distinctions from Other Forms of Funding. Stanford University. https://doresearch.stanford.edu/policies/research-policy-handbook/definitions-and-types-agreements/gift-vs-sponsored-projects-and-distinctions-other-forms-funding
University of California, Berkeley. Gift Acceptance. University of California, Berkeley. https://oercs.berkeley.edu/policies/campus-policy-library/gift-acceptance
University of Michigan. Gift Acceptance. University of Michigan. https://spg.umich.edu/policy/602.02
文部科学省. 「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」に関する実務指針本文(令和6年6月13日最終改訂). 文部科学省. https://www.mext.go.jp/content/20240620-mxt_hojinka-100001048_2.pdf
2026年04月08日投稿
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