【利益相反管理実務(21)】大学名を勝手に使われたらどうするか─広告と“共同開発”“監修”表示への初動対応
今回は、これまでの連載の中では切り口が異なります。
本連載ではこれまで、利益相反を、意思決定の公正性、説明責任、制度設計、モニタリングといった観点から整理してきました。
これに対し今回は、大学名や研究成果が広告に使われたときに、大学が自らの信用をどう守るかという問題を取り上げます。
このテーマは、利益相反管理やガバナンスの実務と切り離された話ではありません。
大学の名前や研究成果が、どのような文脈で外部に用いられるのか、それを見つけたときに誰が何を確認し、どう動くのかという点では、まさに組織としての初動対応とリスク管理の問題です。
本稿では、健康食品、サプリ、化粧品等の広告に大学名、ロゴ、研究成果等が使われた場合を念頭に、広報部門と法務部門が何を確認し、どの順番で対応すべきかを整理します。
1.大学名の無断使用は、なぜ問題になるのか
(1) 大学名は、商品の信頼性をあげてしまう
大学名が広告に出ると、消費者は、その商品に大学が一定の品質保証や有効性の裏付けを与えているように受け取りがちです。
とくに健康食品やサプリでは、「共同開発」「研究で確認」「監修」といった言葉が使われることで、商品の安全性や効果まで裏付けられているかのような印象を与えやすくなります。
(2) 健康食品では、名称使用が健康表示の問題にもつながる
景品表示法は、商品・サービスの内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示を禁じており、合理的根拠資料の提出を求める不実証広告規制もあります。
そのため、大学名を使って商品の信頼性や有効性を過度に高める表示は、優良誤認表示の論点につながる可能性があります。 (資料1, 7)
また、食品として販売される物については、健康増進法65条1項が、健康保持増進効果等に関し、著しく事実に相違し、又は著しく人を誤認させる表示を禁止しています。
消費者庁の関連資料も、健康食品の表示は特定の文言だけではなく、写真、図表、肩書、周辺説明を含む表示全体から個別具体的に判断されることを示しています。
大学名や研究成果を使って、健康効果が強く裏付けられているかのように見せる表示は、不適切な名称使用というだけでなく、健康増進法上の虚偽誇大表示の論点につながります。
(資料2, 3, 8)
(3) 大学の信用や研究成果の流用として捉える必要がある
さらに、大学名やロゴが、あたかも大学が商品に関与し、承認しているかのように使われる場合には、登録商標があるときは、指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を専有する商標権(商標法25条)との関係が問題になります。 (資料4)
加えて、大学名やロゴが一般的に広く認識された表示である場合には、不正競争防止法上、周知な表示と同一又は類似の表示を用いて大学との関係について混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当する可能性があります。
研究者の写真、論文の図表、プレスリリース画像などが無断転載されていれば、著作権法上の複製(著作権法21条)や公衆送信(著作権法23条1項)の論点も出てきます。
本稿で扱う問題は「名前を勝手に使われた」というだけではなく、大学の信用や研究成果が販売促進に流用されることへの対応と捉える必要があります。
関連する連載回
第9回で解説したDongping “Daniel” Tao事案 のように、大学の設備や研究費を私的な活動に用いることは典型的な「資源流用」とみなされます。
広告における名称の無断使用も、大学が持つ無形のブランド資源を私的な営利活動に対して勝手に「流用」されている状態です。
2.見つけたとき、まず何を確認するか
(1) まず、表示全体を証拠として残す
初動で最も重要なのは、抗議や警告の通知よりも、証拠保全と事実確認です。
広告や販売のWebページは、連絡が入ると差し替えや削除が行われることがあります。
そのため、URL、ページ全体の保存、該当表示の拡大画像、動画広告であれば録画、確認した日時の記録を、初動で確実に残す必要があります。
記録を残すときは、特定の文言のみを保存するのではなく、写真、図表、きゃちフレーズなどを含む表示全体の保存が必要です。
消費者庁も、健康食品等のインターネット表示について継続的に監視し、改善指導の公表を行っています。 (資料3, 6)
(2) 次に、学内で事実関係と許諾の有無を確認する
そのうえで、学内では、直ちに少なくとも下記の三点を確認します。
① その企業との間に、共同研究、受託研究、監修、コメント提供、名称使用許諾などの事実があるか
② 何らかの関係があるとしても、その広告表示が契約や実際の関与の範囲を超えていないか
③ 大学名、ロゴ、研究成果、研究者写真等の利用許諾があったか
です。
大学名とあわせて書かれた表示が一般消費者に対して商品の品質や健康効果について過大な印象を与えていないか、また、その印象を裏付ける合理的根拠が本当にあるのかを、しっかり確認します。
また、商標法や不正競争防止法との関係では、その名称やロゴの使い方が、大学の関与、承認、出所を示す態様になっていないか、見極める必要があります。 (資料1, 2, 4, 5)
(3) 最後に、完全な無断使用か、表示の逸脱かを見極める
「完全な無断使用」と「一部事実はあるが表示が逸脱しているケース」を分けて考えることが重要です。
完全な無断使用であれば、大学は当該商品や広告に関与していないことを確認したうえで、大学名、ロゴ、研究成果、研究者写真等の使用停止、削除、必要に応じた対外説明を行うことが中心になります。
これに対し、一部事実はあるが表示が逸脱しているケースでは、共同研究やコメント提供などの事実関係と契約上の許容範囲を確認し、「共同開発」「監修」「研究で確認」といった表現が、実際の関与の範囲を超えて一般消費者に過大な印象を与えていないかを確認し、事実に即した表示に修正を求めることが中心になります。
景品表示法との関係では、表示全体が商品の品質や効果について実際より著しく優良であると示していないかが問題になり、健康増進法との関係では、食品として販売される物について、健康保持増進効果等に関し、著しく事実に相違し、又は著しく人を誤認させる表示に当たらないかを確認します。
(資料1, 2, 3, 5, 6)
3.広報部門と法務部門はどう動くべきか
(1) 広報部門は、対外的な説明を一本化する
広報部門の役割は、問い合わせ窓口を一本化し、事実に限定した対外的な説明を準備することです。
表現は短く、余計な拡散を招かないものにします。
たとえば、「本学は当該商品の製造、販売、効果の検証に関与しておらず、推奨・許可したものではありません」「現在、関係先に掲載停止等を求めています」などです。
ここで大切なのは、断定できる事実だけを述べることと、学内の確認が終わっていない段階で評価的な表現を広げないことです。
(2) 法務部門は、法的論点を整理する
法務部門は、問題を法分野ごとに分けて整理します。表示による誤認が中心であれば、景品表示法上の優良誤認表示、健康食品であれば健康増進法上の虚偽誇大表示、医薬品的効能をうかがわせる場合には薬機法上の広告規制との関係を検討します。
名称やロゴの利用が問題であれば、登録商標の使用か、大学との関係について混同を生じさせる表示かという観点から、商標法や不正競争防止法を手掛かりにします。
画像や図表の利用が問題であれば、著作権法上の複製や公衆送信の論点を確認します。
(3) 広告の停止とドメイン対応を使い分ける
販売ページがモール、SNS、検索連動広告、動画配信サービス等に載っている場合には、相手企業に直接通知するだけでなく、プラットフォームへの権利侵害申立てや削除要請を併用するのが現実的です。
Googleの商標ポリシーは、Google Ads上の広告における商標使用を制限する仕組みであり、広告自体の停止に向いています。
(資料4, 5, 6, 7, 8)
これに対し、JP-DRPやUDRPは、大学名を含む .jp や .com 等のドメイン名そのものを争う手続であり、大学との関係を装うサイトがドメイン単位で作られている場合には、ページ削除より踏み込んだ対応です。
広告の露出をまず止めたいのか、サイトの基盤自体に対処したいのかを切り分けて、とるべき手段を選びます。
(4) 放置せず、必要に応じて行政対応も視野に入れる
また、健康食品やサプリのように消費者保護法規との接点が強い場面では、大学側が「無関係である」と説明するだけでは足りないことがあります。
大学や研究者が、自分の名前や成果が特定の商品の広告に「誤認を招く形で引用されている」ことを知りながら放置し、それが消費者の誘引を助長しているとみなされれば、大学や研究者も広告の一部を表示をする者である、と判断されるリスクが生じます。
健康増進法65条1項には「何人も…表示をするとき」とあるためです。
表示内容が、健康保持増進効果等について著しく事実に相違し、又は著しく人を誤認させるものに当たり得る場合(健康増進法65条1項)には、消費者庁の制度や指針を踏まえて、行政への情報提供を検討する余地があります。
大学は行政庁ではありませんが、少なくとも、自組織の名称や研究成果がどう使われているかを整理し、必要な情報を外部に伝えられる状態にしておく必要があります。
(資料2, 3, 6)
4.平時から備えておくべきこと
(1) 名称使用と広告利用の条件を平時から明確にする
この種の事案は、発生してからの対応だけでは限界があります。
平時から、大学名、略称、ロゴ、研究所名、センター名などの使用ルールを整え、共同研究契約、受託研究契約、広報上の協力内容を確認する文書などに、名称使用、公表、広告利用に関する条件を入れておくことが重要です。
共同研究契約のような大きな契約がなくても、コメントの提供、写真の掲載、研究成果の紹介などの広報面での協力だけが先に進むことはあります。
そのため、大学名、ロゴ、研究者名、コメント等を、どこまで、どの媒体で、どの趣旨で使ってよいのかを、書面で明確にしておく必要があります。
(資料1, 4, 6, 7)
(2) 学内の連携手順をあらかじめ決めておく
さらに、広報、法務、産学連携、知財、研究推進が、どのように連携して対応するのかをあらかじめ決めておかなければ、初動は必ず遅れます。
見つけた人が個別に対応するのではなく、証拠保全、学内での確認、外部への連絡、対外的な説明の流れをあらかじめ決めておくことが、実務上効果的です。
(3) 備えがレピュテーションリスクの管理になる
こうした備えは、後に問題が起きたとき、大学がどの範囲で名称使用を許諾していたのか、どの表示が許容範囲を超えていたのかを説明できる状態を作っておく意味もあります。
大学名の無断使用の問題は、大学のブランドの管理だけではなく、組織のレピュテーションリスクの管理の問題です。
研究成果が社会でどう使われるか、消費者にどのような印象を与えるか、そして大学が自らの信用をどう守るかに関わります。
5.まとめ
大学名や研究成果が広告に使われる問題は、名称の無断使用の問題だけではありません。
商品への信頼感を不当に高め、健康食品であれば景品表示法や健康増進法の問題にもつながり得るほか、大学の信用や研究成果が販売促進に利用される問題として捉える必要があります。
実務上は、まず表示全体を証拠として残し、学内で事実関係と許諾の有無を確認したうえで、完全な無断使用なのか、一部事実はあるが表示が逸脱しているのかを見極めることが重要です。
平時から名称使用ルール、契約条項、学内の連携手順を整えておくことが、大学の信用を守る最も現実的な備えになります。
寄附講座や共同研究講座のように、広告や名称使用のリスクが長期にわたる連携において大学の独立性をどう守るかについては、第26回で実務上のポイントを整理しています。
参考資料(本文中の資料番号に対応)
消費者庁. 優良誤認とは. 消費者庁. 年 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/misleading_representation/
消費者庁. 「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(一部改定)の公表について. 消費者庁. 2022. https://www.caa.go.jp/notice/entry/031386/
消費者庁. 健康増進法(誇大表示の禁止). 消費者庁. 年 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/
特許庁. 商標権の効力. 特許庁. 年 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shotoha.html
消費者庁. 不実証広告規制. 消費者庁. 年 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/misleading_representation/not_demonstrated_ad/
消費者庁. 食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針ほか関連資料. 消費者庁. https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/
厚生労働省. 医薬品等の広告規制について. 厚生労働省. 年 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/index.html
Google. 商標に関するポリシー. Google 広告ポリシー ヘルプ. 年 https://support.google.com/adspolicy/answer/6118?hl=ja
日本ネットワークインフォメーションセンター. ドメイン名紛争処理方針(DRP). JPNIC. https://www.nic.ad.jp/ja/drp/
World Intellectual Property Organization. Domain Name Disputes. WIPO. https://www.wipo.int/en/web/amc/domain-name-disputes/index
2026年4月7日投稿
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