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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第十八話 地図にない正しい道


私たちは間違っていない。

私たちに与えられた任務は、『使徒様』の保護。

神と人が交わった存在を探し出し、安全な場所に届けること。

でも、なぜだろう。

夢の中を歩くような、紫色の髪をした彼女の姿を見ると、少し心が痛む。




エラとヨル 第十八話
【地図にない正しい道】


「ヨル〜待って〜」

エラは、必死にシーズの背を追っている。

彼女の目には、彼が“ヨル”という相棒の姿に見えているのだろう。

「エラは、ちゃんとついてきてる?」

私が確認すると、シーズは少しだけ振り返って頷いた。

「えっ?」

エラが反応する。

「ううん。なんでもない」

不思議そうな顔で私を見つめるエラの目は、少し虚気だ。

彼女の中では、私はオトという吟遊詩人になっているらしい。

私は短く息を吐き、シーズを見る。
その手には、淡い青い光が滲んでいる。

「竜石の調子は?」

「ディアは心配性ですね。ちゃんと使えてます」

シーズが握る小さな石は、静かに青く輝いていた。

「使徒様になにかあったら、取り返しがつかないんだ。慎重にもなる」

少しだけ、声が強くなる。

私は手にした地図へ目を落とした。
使徒様が描いた地図。

遥か上空からしか見えないはずの景色が、そこには精密に描かれている。
そして、竜石に反応するエラの存在が、彼女が“使徒様”であることを示していた。

雪の積もる道を、一歩ずつ踏みしめて登っていく。

我々の拠点までは、まだ遠い。

それでも、長年の夢だった“竜なる人”が見つかった喜びが、私を奮い立たせていた。

「主教様も喜ばれるだろうな」

そう言ってシーズを見る。

「さぁ、どうだろう」

——掴みようのない男だ。

私は彼が苦手だった。

私のような守護者でもない。
ただ、青が見えて、竜石を制御できるというだけで選ばれた存在。

どうしても、同志として信用できない。

シーズは表情を変えないまま言う。

「でも、“使徒様”の連れを消さなくよかったんですか?」

その一言が、私の心を乱した。

「我々の目的は、人攫いや殺しじゃない」

「それに派手に動けば、リンブガルドみたいになりかねない」

——こういうところだ。

邪魔だから消す。
痕跡は残さない。

一見、正しいことを言っているようで、そこに気持ちがない。

まるで荷物でも扱うみたいに人を見る、その感覚が私を苛立たせる。

「まあ、この雪山で目印もなく追いつけるわけないんですけどね」

シーズはさらりと言った。

——わかっているなら、なぜ聞く?

こいつの言葉は、ひとつひとつが引っかかる。

木に結ばれた目印を見つける。
白い布に、金のドラゴン。

我々だけがわかる目印だ。

シーズがそれを見つめ、次の道を探した。

「ヨル。それなに?」

エラが聞いてくる。

——答える必要はない。
——どうせ覚えていない。

私たちは何も答えない。

「少し魔法が解けかかってます。時間をください」

シーズが私に耳打ちした。

私は振り返って、エラに言う。

「少し休みましょう」

エラは笑って頷いた。

その笑顔は、昨夜見たものとは違っていた。
無理に笑っているように見えた。

——ズキ。

なぜか、心が痛む。

私たちは間違ったことはしていない。
彼女が幸せに暮らすために、保護しているだけだ。

それなのに、彼女の顔を見るたび、胸の奥に小さな痛みが残る。

開けた場所で、腰を下ろして休むことにした。

エラは鞄から地図を取り出そうとしたが、シーズがそれを止めた。

また、エラが笑う。

——ズキ。

もう、その顔で笑わないでほしい。

二人の姿から、私は目を背けた。

そのとき、淡い青色の光が一瞬だけ周囲を照らした。

振り返ると、ぼんやりとした表情のエラが立っていた。

シーズが小さく頷く。

それを見て、私は腰を上げた。

地図にないはずの“正しい道”を、私たちはまた歩き始めた。


🔙第十七話   第十九話🔜



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note創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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