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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第十七話 見えない地図、見つけた色


エラが消えた。

隣にいて当たり前だった存在がいない。
それだけで、私の足元は消えたみたいだった。



エラとヨル 第十七話
【見えない地図、見つけた色】



この山の景色と同じだ。
山もある。
空もある。

でも……すべてが白く塗られていて、見えなくなる。

私は、まだ体に残る重さを感じながら荷物を確認していた。

その姿を見ながら、オトが言う。

「エラさんを探すつもりですか?」

私は黙って頷く。

「ヨルさん。私も一緒に探します」

オトの眼差しは真剣だ。
だが、私は首を振った。

「エラは強いんです。それをこんな簡単に連れて行けるのは、相当慣れた奴らです」

「オトさんまで、危ない目にあわせるわけにはいきません」

握った手が震える。
私が行ったところで、何ができるかはわからない。

でも、エラを一人にはできない。
その気持ちだけが、私を動かしていた。

短剣を抜いて、刃先を見つめた。
映った私の顔は、怯えてはいなかった。

――ほとんど使ったことがない。

エラから旅の途中で何度か戦い方を教わったはずなのに、ひどく重く感じる。

危ない時は、いつもエラがなんとかしてくれた。
エラがいれば、不安なんて感じなかった。

「追うといっても、どうやって追うの?」

オトの言葉が響く。

私は唇を噛み締めた。
鈍い痛みが、自分の甘さを強く感じさせる。

「方法なら……あります」

朝焼けの中に浮かぶ黒色のミニアを見つめながら、私は答えた。

「魔法?」

オトが私の目を覗き込むように尋ねる。

「使ったことは、あります」

「でも……」

自信はなかった。
リンブガルドで迷った時、初めて動かすことができただけだ。

――大丈夫。あの時だって、エラを見つけた。

私は黒色を見つめて唱えた。

「闇夜……エラはどこ?」

ふわりと浮かぶ黒は動かない。
前回は、私の気持ちに応えるように細く伸びた。

でも今は、ただ浮かんでいるだけだ。
虚空を見つめたまま、肩を落とす。

オトが、ふっと息を吸った。

「白き帳の、その向こう♬」
「混ざらぬ色の、影ひとつ♬」
「散れる気配を、すくい上げ♪」
「この場かぎりの、かたちを見せて」

歌ではない。
詠唱だ。

オトの周囲が柔らかく光り出し、何もなかった空間に、ぼんやりと透明な何かが浮かんだ。

「私の魔法です」

「色はわからないけど、ミニアがある場所はわかります」

「でも、見えるのは輪郭だけです。何のミニアかまでは、私にもわかりません」

私は浮かび上がった透明なミニアを見つめた。

――あれって!?

無数にあるミニアたち。
その中で、私に見える黒色だけがおかしい。

他は別々に漂っているのに、黒色のミニアだけは、必ず透明なミニアにくっついている。

「オトさん……ミニアって、混ざったり、重なったりするものなんですか?」

疑問が自然と口からこぼれた。
オトは一瞬だけ考える。

「ないです。この魔法は何度も使ってるけど、ミニア同士がここまで近づくなんて」

「見たことはないですね……」

「じゃあ、これって……」

息を呑んだ。
私の見える黒色のミニアと、もう一つの透明なミニアが重なっている。

少し離れたところでも、同じものが見えた。

確信はない。
けれど、立ち止まっているよりは信じられた。

「見つけた……」

私は、なぜか笑っていた。

見えない色が、なぜか見たことのある色に見えた。

――エラの色だ。

確証はなかった。
それでも、目印はわかった。

「オトさん、一緒に来てもらっていいですか?」

私は頭を下げた。

黒色は見えても、他の色は見えない。
オトの魔法と私の目があれば、エラを追える。

「もちろん♬」

オトの声が弾む。

「ただし……」

「お姉さんと呼んでね♬」

オトが笑う。
やはり、この人はエラに似ている。

私は重なり合うミニアを見つめ、一歩を踏み出した。

地図はない。
ただ、迷わない印はここにある。


🔙第十六話   第十八話🔜



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note創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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