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ろろろのめ第21回                「購買力」と「熱量」が動かす現代フェス市場──なぜロックファンは買い渋り、アイドルファンは秒で買うのか


「購買力」と「熱量」が動かす現代フェス市場──なぜロックファンは買い渋り、アイドルファンは秒で買うのか

かつてのサマソニは、RadioheadもBlurもMetallicaも観られた「洋楽ロックの祭典」だった。その舞台で海外の大物たちが素晴らしいパフォーマンスを繰り広げ、伝説を築いた日々を覚えている者も少なくないだろう。しかし今、特定のアイドルの出演決定でプラチナチケットが瞬時に完売し、遠くバンコクのサマソニではSnow Manの出演発表を機にVIPチケットが売り切れる現象が起きている一方で、日本を代表するロックフェスであるLOUD PARKは、全席種が発売から時間が経っても売れ残っているのが現状だ。

サマソニ2019


サマソニ2016


サマソニ2013


この違いは一体何なのか?それは単なる「人気」の問題ではない。各年代の預貯金状況が示す経済的な背景と、音楽の受容スタイル、そしてファンダムの変質が、フェスそのものの成り立ちを根本から変えているのだ。


✊第1章:爆買いを支える若年層の「推し活」経済と“即応力”


2025年6月20日にサマソニ2025幕張会場への出演が発表されたSixTONES
2025年6月20日現在のサマソニ2025幕張会場のラインナップ


2025年6月18日にサマソニバンコクへの出演が発表されたSnow Man
2025年6月18日現在のサマソニバンコクのラインナップ

SixTONESのサマソニ出演発表は、まさに「事件」だった。発表直後、彼らが出演する日のプラチナチケットは瞬時に完売。ファンからは「秒でチケット取った」「この夏、暴れるぞ!」といった熱狂の声が上がる。抽選ではなく先着だったことすら、「激アツすぎる」「抽選じゃなくて先着なの凄すぎる」と好意的に受け止められた。これは、単にライブを観に行くという行動を超え、「推しの夢が叶う瞬間を共にしたい」「自分が動けば現場が成立する」という当事者意識が、ファンの行動原理の根底にあるからだ。

さらに印象的なのは、Snow Manがバンコクのサマソニに出演することが発表された際の現象だ。「人生初タイがSnow Manとだ」「誕生日に海外でライブとか最高だ」といった声と共に、35,000円のVIPチケットが即座に購入され、航空券も確保するファンが爆増した。室内開催という情報も相まって、「最高じゃん?!」と海外遠征のハードルすら軽々と飛び越える。彼らにとってフェスは、単なる音楽イベントではなく、「遠征型アイドル体験」の新たな舞台であり、「推し」に貢献し、その夢を応援するためなら時間も費用も惜しまない。これは、まさに「ライブ=貢献」であり、「初動」がすべてという世界観がファンダム内に構築されていることを示している。

「アイドルのファンってフェスで地蔵になりやすい欠点あるけど行動が早い点は本当に偉い。洋楽のファンとは真逆」という指摘は、この購買行動の大きな違いを的確に表している。情報伝達も迅速だ。公式からの発表があれば、ファンコミュニティ(SNS、ファンクラブ内の掲示板など)を通じて瞬時に情報が拡散され、一斉に購入へと向かう。集団行動としての結束が強く、連帯感が購買を強く促す側面があるのだ。そして「今、この瞬間しか見られない」「売り切れたら二度と手に入らない」という「限定性」「希少性」への意識が非常に高く、それが購入を後押しする。海外公演であれば、その傾向は一層強まるだろう。

これらの圧倒的な熱量と購買行動の背景には、若年層の「推し活」経済が深く関係している。総務省統計局の家計調査によると、20代の平均貯蓄額は約287万円(中央値は低い)、30代の平均貯蓄額は約599万円(中央値約130万円)と、額面だけを見れば中年層に劣る。しかし、可処分所得が限られる中でも、「推し」のためなら生活費を削ってでも高額チケットや遠征費を捻出するという、優先順位の明確な経済行動が見て取れる。フェスという「体験」が、彼らにとっては金銭を投じる価値のある最優先事項なのだ。

https://doda.jp/guide/heikin/age/



🤘第2章:LOUD PARKが売れない理由と中年層の“熟考型消費”


2025年6月20日現在のLOUD PARK2025のラインナップ


https://eplus.jp/sf/word/0000020128

一方、LOUD PARKのチケットは、発売から時間が経っても全席種が残っている。「さすがに買うのは全部決まってからかなー。」というファンの声は、LOUD PARKのチケット購入に慎重な姿勢を示している。これは、LOUD PARKが例年、発表が段階的であり、ヘッドライナー級のアクトがなかなか出揃わないという、ラインナップの不確定性に起因する部分が大きいのだ。多くのファンが「全貌が見えないうちは購入をためらう」という状態である。

LOUD PARKは、2006年にスタートして以来、日本のヘヴィメタルシーンを牽引してきたフェスティバルだ。しかし、2017年の開催をもって一度幕を閉じ、2018年には開催が見送られたという経緯がある。これは、単に一時的な休止ではなく、当時のメタルシーンの集客力やビジネス構造に何らかの課題があったことを示唆している。6年ぶりに開催された2023年のLOUD PARKの様子からも、その傾向は見て取れる。開場時間に合わせて入場しても長い行列に並び、「ショートカットして入場できるGOLDチケットをケチらず買っておけばよかったとちょっと後悔しました」というレポートがあるように、当日の「体験の質」が購入時の判断に影響を与える。また、H.E.R.Oのライブ中に「GOLDチケットにアップグレードしてステージに戻りました」という行動は、金銭的な余裕はあっても、その余裕を「より良い体験への投資」として使うか否かを慎重に判断する中年層の消費行動を如実に示している。

LOUD PARKのファンにとって、ライブ参加は「音楽体験」「パフォーマンスの鑑賞」「バンドへのリスペクト」が主な目的となる。アイドルファンが「推しへの貢献」を購買の直接的な目的とするのに対し、ロック/メタルファンはラインナップが全て揃い、自分の好みに合致するかどうかをじっくり吟味する傾向がある。「行きたい気持ち」よりも「本当に満足できるか」という理性的な判断が優先されやすいのだ。

WACKENやHELLFESTのような、発表即完売という熱狂的なチケット争奪戦が日本で根づかないのはここにある。ロック/メタル界隈では、いまだに「本物なら後から売れる」「煽りに乗るのはダサい」といった“逆張り文化”が支配的だ。また、「また次の機会があるだろう」「どうせ全公演ソールドアウトにはならないだろう」といった経験則からくる安心感や、緊急性の薄さも、購買を急がない要因となっている。

「メタルファンとロックファンって金払い悪いの?文句ばかり言って金払い悪いのはなぜ」という疑問が投げかけられるが、これは単に「金払い悪い」と切り捨てるには複雑な背景がある。30代後半から60代までの預貯金データを見ると、30代後半(二人以上世帯で平均752万円、中央値337万円)、40代(平均916万円、中央値500万円)、50代(平均1386万円、中央値745万円)、60代(平均2427万円、中央値1200万円)と、若年層と比較して預貯金は豊富にある。それにもかかわらず購買に慎重なのは、まさに「様子見→確定情報を見てから動く」という、熟考型の消費行動によるものだ。これは、若いアイドル/K-POPファンが「推しが出ると聞いた瞬間に動く」のとは対照的で、もはや文化の違いであり、スピード感そのものが世代を分ける武器になっていると言えるだろう。



🎧第3章:サマソニの変質──「ポップミュージックの祭典」への進化


SixTONESやSnow Man、そしてK-POP勢の台頭は、サマソニの顔を大きく変えた。これに対し、「往年のサマソニ感は薄れてきてるな…」「海外の大物たちが素晴らしいパフォーマンスで伝説作りまくってた、私の好きだったサマソニはもう完全に死んだんだな。」といった声が洋楽ファンから聞かれるのは、「サマソニ像」の変化への戸惑いに他ならない。

しかし、2022年から2024年までのサマソニのラインナップを詳細に見ると、その変質は単なる「アイドル化」ではない、より広範な「健全なポップカルチャー受容」への対応であることがわかる。

 * 2022年:The 1975、King Gnu、MAN WITH A MISSION、The Offspringといったロックバンドの熱演が復活を告げる一方で、Megan Thee Stallion、ONE OK ROCK、そしてヘッドライナーのPost Maloneという流れでジャンルミックスが加速。TOMORROW X TOGETHER、CLらK-POP勢やBE:FIRST、羊文学といった国内アーティストも存在感を放ち、既に多様な音楽性を包括する方向へ舵を切っていた。

サマソニ2022

 * 2023年:BLURやFALL OUT BOYといった洋楽ロックのベテランに加え、YOASOBI、BE:FIRST、NewJeans、ENHYPEN、TREASUREといったJ-POPやK-POPのトップランナーが主要アクトに。Kendrick Lamar、Liam Gallagherが共存するラインナップは、まさに「サマソニの真骨頂たるクロスオーバー」を具現化した。

サマソニ2023

 * 2024年:MANESKIN、BRING ME THE HORIZONといったロックバンドがヘッドライナーを務める一方で、GLAY、星野源、NCT DREAM、IVE、JO1、INI、ATEEZ、BABYMONSTER、BOYNEXTDOOR、ZEROBASEONEといったJ-POP/K-POPのアイドル、ボーイズ/ガールズグループが多数ラインナップに名を連ねる。アイドルファンがフェス市場の重要な牽引役となっている現状が最も強く表れた年と言える。

   Christina Aguileraのような世界的ポップスター、Lil YachtyやMajor Lazerといったヒップホップ/EDM勢も加わり、まさにジャンルレス、国籍レス、世代レスのラインナップが完成している。

サマソニ2024

サマソニが「洋楽ROCKまみれ時代」から脱却し、「その時代のポップカルチャー需要を広く取り込む」ことで生き残りを図っているのは明白だ。
現在のポップカルチャーシーンを見てもSleep TokenやGhostがビルボードで1位になる2025年の状況が示すように、これは決してメタラーが増えたわけではなく、「メタルサウンドやロックサウンドがポップミュージックとして受容されている時代」になってきているのである。実際メタルサウンドやロックサウンドは特定のジャンルに固執せず多様な層を取り込みつつある。
このような昨今のポップカルチャーシーンと同じようにサマソニは、特定のジャンルに固執せず、このトレンドに乗り、多様な層を取り込むビジネス戦略の結果として、K-POPやJ-POPアイドルを積極的にブッキングしているのだ。その一方で、K-POPや日本のアイドルを頑なに呼ばないフジロックのようなフェスとの対比は、各フェスが独自のアイデンティティとビジネスモデルを模索している現状を示している。


🔍第4章:ファン層による「購買行動の目的」の決定的な違い

「なぜメタルファンとロックファンはここまで金払いに渋るのか」という問いは、ファンダム文化、世代、価値観、消費行動すべてが絡む非常に深い問題だ。

アイドルファン:

彼らのライブ参加は「推しへの貢献」「一体感の共有」「推しの夢の実現(例:SixTONESのZOZOマリンでのパフォーマンス)」といった、感情的・共感的な目的が直接的な購買行動に結びつく。彼らにとってチケット購入は「応援行動そのもの」であり、情報伝達もコミュニティ内で瞬時に拡散され、集団行動としての結束が購買を加速させる。「今、この瞬間しか見られない」「売り切れたら二度と手に入らない」という限定性への意識が非常に高く、それが購入を後押しする。

ロック/メタルファン:

彼らのライブ参加は「音楽体験」「パフォーマンスの鑑賞」「バンドへのリスペクト」が主な目的。ラインナップが全て揃い、自分の好みに合致するかどうかをじっくり吟味する。「行きたい気持ち」よりも「本当に満足できるか」という理性的な判断が優先されやすいのだ。LOUD PARK 2023の体験でも、CARCASSとPANTERAにしか興味がなく、知らないバンドのライブは観ないという行動を取る方や、OUTRAGEのMCに不満を感じて飲食ブースに向かうといった行動は、彼らの「音楽そのものへの満足度」を最優先する姿勢を示している。「また来るだろう」「どうせ全公演ソールドアウトにはならないだろう」といった経験則からくる「安心感」や、「並ばない・地蔵にならない」といった“現場の振る舞い”が優先され、行動が慎重になることも購買を遅らせる要因となる。

「映画やフェスの成否が初週/初動で決まるというビジネス構造が浸透していない」

「映画やフェスの成否が初週/初動で決まるというビジネス構造が浸透していない」という指摘は、ロック/メタルファン層の購買行動を分析する上で極めて重要だ。彼らはそのメカニズムを理解していないか、理解しても行動しないため、熱量を持っていながら「貢献しないファン」となってしまう。これは、若年層のアイドルファンが「買う=推しを守る」という思想で瞬時に行動するのとは対照的だ。LOUD PARK 2023で「GOLDチケットをケチらず買っておけばよかった」と後悔しつつも、実際に当日まで買わないという行動は、まさにこの「買い渋り」の典型と言えるだろう。


💡第5章:フェス文化の「更新」と「観客の選択」

「自分の中のサマソニやフェスのあり方を変える必要があるのかなとも思う。少し音楽的視野をそっちに向けるべきか?」という問いかけは、非常に興味深い。これは、「感覚と知性は両立できる。特定のインフルエンサー経由でしか音楽に触れない態度を乗り越え、欧米日韓以外も含む多様な音楽文化への視野を持つべき」という考えと強く呼応する部分がある。

サマソニの変化は、従来の「洋楽ロックフェス」という枠を超え、より多様な音楽文化が交差する場となっているとも言える。SixTONESやSnow Manのようなアイドルが新たな客層を呼び込み、これまでフェスに縁がなかった人々が音楽に触れる機会を提供している側面も確かに存在する。LOUD PARK 2023の会場で、小さな女の子がお母さんと共にメタルコアの音楽に合わせて踊る姿が「ダイバーシティ」を感じさせたという観察も、フェスの新しい楽しみ方を示唆している。

もちろん、「自分の生理としての『好き/嫌い』は最優先されるべき感覚」であるため、現在のサマソニが好みと合わないと感じることは自然だ。LOUD PARK 2023のレポートでSTRATOVARIUSを「メタルに求めているもの」と評しつつ「俺は違う」と答えた方がいたように、ファンの嗜好は多様だ。しかし、もし興味があれば、これまで聴いてこなかったジャンルのアーティストに触れてみることで、新たな発見があるかもしれない。フェスの本質は「さまざまな音楽が楽しめること」という視点で見れば、現在のサマソニは、その本質をより追求しているとも言えるのだ。

“フェス”の定義が、ただの音楽イベントからファンが世界をつくる場へ変化している中、それを「終わった」と嘆くか、「別の美学」として捉え直すかは、リスナー次第だ。フェスの未来は、「好きか嫌いか」の二元論を越えたところにあるのかもしれない。LOUD PARKを「迷う楽しみ」のために2日間、3ステージ以上でやってほしいという願望は理解できるが、「現在の日本におけるメタル人気の低調ぶりを考えると、無いものねだりをするよりも1日だけでも実施されたことを感謝する、というのが正解なのでしょうね」という諦念もまた、現実を捉えている。

✅まとめ:変わるフェス、変わらないままでいる観客たち

LOUD PARKが売れ残るのも、サマソニのプラチナチケットやSnow Man出演日のバンコクサマソニVIPチケットが即完売するのも、今の音楽市場における「健全なポップカルチャー受容」と、それを支える多様なファン層の購買行動の「正しい結果」であると結論づける。

事実サマソニは2022年、2023年、2024年と3年連続で全券種ソールドアウトしている。また、SixTONESが出演するサマソニ2025、そしてSnow Manが出演するサマソニバンコク2025については、特定の券種(プラチナチケット、VIPチケット)が完売しているものの、一般チケットはまだ残っている。これは、特定のアーティストへの熱狂的な需要が、高価格帯のチケットから先に売れるという現代の現象を明確に示している。

サマソニ2025幕張会場にSixTONESが発表された途端にプラチナチケットがソールドアウト
Snow Manがサマソニバンコクに発表された途端にSnow Manが出演する日のVIPチケットがソールドアウト

しかし、それが全てのリスナーにとって心地よいかどうかは、個々人の問題だ。ただ、熱量を持っていながら「貢献しないファン」は、残念ながらフェス文化を支える側には立てない。LOUD PARKが2017年で一度終了した事実や、LOUD PARK 2023で感じた「ノスタルジックな感情」の薄れ、そしてかつてのサマソニへの郷愁は、変化を拒む気持ちの表れでもあるのだろう。

「自分はもうこのフェスの客じゃない」と思った瞬間から、音楽体験のアップデートは止まる。この地殻変動の中、我々はどう向き合い、自らの音楽的視野を広げていくべきか、改めて問いかけたい。



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