Sidestory⑯-1:本編七章Act.4後【構造の断罪・開幕】彩賀亮哉×西谷武久。決戦開始。学園小説relationship
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【構造の断罪・開幕】
彩賀亮哉×西谷武久。決戦開始。
始業式の翌週明けの昼近く。保健室の窓からは、散り終えた桜の名残を透かして淡い新緑の光が事務的に差し込んでいた。三日間の検査入院を終えて、退院した亮哉はそのまま学校の保健室へと向かった。

退院後、保健室へと向かう
彩賀亮哉。
「突然倒れて、大変だったわね。彩賀君。あなたの病気の事は知っていたけど、自覚症状が出るほどでは無かったから……検査結果はこちらに来ると思うから、それまでお大事に」
養護教諭に簡単な報告と指導を受けた亮哉は、保健室を後にした。午後の授業開始には少し早い時間だったので亮哉は教室ではなく図書館の方へ足を向けた。図書館前の渡り廊下まで進んだ時、亮哉の視界に文科系クラブハウス方面から西谷と綾香が談笑しながら向かってくる姿が入ってきた。

歩いてくる水瀬綾香と西谷武久。
入院中、亮哉は西谷から綾香が稔之が出場する予定のバスケ部のインターハイ予選決勝の写真撮影に取り組む事を聞いていた。今まで彼女は風景写真の撮影経験しかなかった為、試合日のある来月下旬までに何とか撮影のポイントを教え込むという事だった。
(……2か月足らずで、超高校生級である関谷の動きを撮れる技術まで到達するのは大変だろう……)綾香への想いとは別に、亮哉は冷静に状況を分析した。亮哉の目線に気づいた二人が心配そうに歩み寄ってきた。
「彩賀、もう調子は大丈夫かい?」声を掛ける西谷に続いて綾香も「彩賀君、あまり無理しないで……」伏し目がちに気遣う。
「二人共、もう大丈夫だ。余り気にしないでくれ。俺は元々……それよりも今は撮影の事に集中した方が」亮哉は安堵させる為、もう一つは時間がない現実として応えた。
「勿論、それまでには何とか撮れる様に猛練習するよ!」亮哉を安心させる様に、綾香は両手の拳を握って自分の胸の前に掲げた。笑顔はいつもの元気さを取り戻していた。
「それは、良かった……」と亮哉がふと視線を二人の肩越しへとずらした。その瞬間、肺の奥から鈍い衝撃が響いた。
視線その先である、図書館南側の二階。昼光を背に、事務局長が窓辺に立ち、こちらを怨念の篭った眼で凝視していたのである。
逆光で顔は闇に沈み、丸眼鏡だけが鈍く光る。腕を組んだまま、微動だにせず──まるで地獄の底から這いあがってきた情念が、人の形を借りているようだった。
(……あれは事務局長……一体……?)亮哉も一瞬睨み返したが、今は二人に気が付かれないよう、視線を受け流すことにした。
「俺は図書館で調べたいことがあるんで。武ちゃん、また後で。水瀬さんも頑張ってな」事務局長の視線から目を逸らし、いつもの不遜な笑顔に戻ると亮哉は図書館へと入った。
「ありがとう……彩賀君。あ!次は生物だった。もう移動しなくちゃ!西谷君、また放課後!」綾香も腕時計を見ると慌てて自分の教室へと駆けていった。
「……彩賀……?」一人残された西谷は亮哉の素っ気ない態度に微かな違和感を感じたが、体育館の方から稔之の視線を視界の端に感じ取ったため、そのまま一人で教室へと歩き去った。
次の日の放課後。いつも通りクラブハウス棟へと向かう西谷を顧問の但野が呼び止めた。
「西谷君。事務局長がこの間、提出した今年度前期の予算資料の件で直接確認したい事があるとの事なんだ」
振り返った西谷は但野の話に不思議そうに首を傾げた。「……そうなんですか?資料はいつも通りのはずなんですけどね」

不思議そうに首を傾げる
西谷武久。
「うん。西谷君の資料はいつも緻密かつ的確だし、僕も安心して任せられるレベルなんだけど……。僕も同席を願い出たんだけど、その日は新入生のオリエンテーション合宿の日なんだよ」但野は微かに困惑の表情を浮かべた。
「……と、いうことは休日に呼び出しを受けるという事なんですね」心当たりがまるでないという感じで西谷は首を傾げたままの恰好で応えた。
「別の日ではと僕も提案したのだけど、事務局長が出張前に急ぎで確認したいとの事なんで。……西谷君、忙しいのにいつも頼り切りで申し訳ない」但野は言いながら西谷に頭を下げた。
「……いえ、但野先生、多分すぐ終わることでしょう。気になさらずに」西谷はいつもの落ち着いた口調に戻り、申し出を受ける事とした。
更に二日後の早朝。まだ生徒の姿もまばらな時間帯。いつも通り早めに登校する亮哉は保健室の前を通り過ぎようとした時、養護教諭に呼び止められた。
「彩賀君。検査結果が出たみたい。理事長先生宛に来たそうよ。今の所、普通にしていれば問題ないとの事だけど……学内で急に倒れたことだから、これからの学校生活の事で直接、相談したい事があるとの事よ」養護教諭は亮哉に不安を感じさせない配慮からかいつも通りの口調だったが、声を潜める様に用件を伝えた。
「そうですか……日時はいつでしょうか?」亮哉は動揺する様子でもなく、いつも通りの表情で聞き返した。
「理事長先生、ここの所、忙しいみたいで……次の日曜日に直接理事長室に来てほしいと伝達があったわ」そう言うと養護教諭はiPadを取り出しグループウェアでスケジュールを確認した。
「あら…?この日は新入生のオリエンテーション合宿だから…体育会系クラブもほぼ休みみたいね。学内にほとんど人が居ないから、いつもの下駄箱じゃなくて正面玄関を開けておくように守衛さんに伝えておくわ」画面を指でなぞりながら、養護教諭は玄関から直接理事長室に向かうよう指示を行った。
日曜日。西谷は校門の前に立つと、一瞬空を見上げた。四月中旬の新緑の季節に似つかわしくない、鈍い灰色の雲天が立華大学付属高校の校舎に重く覆いかぶさっていた。
目の前にそびえたつ校舎は人の気配を微塵とも感じなかった。そのせいか、いつも通る風景なのに異様な静けさを肌で感じた。
門を潜ろうと足を踏み入れた瞬間、いつものよく耳に通る亮哉の驚きの声が西谷の背後からかかった。

突然、彩賀亮哉の声がかかり
思わず振り返る西谷武久。
「……武ちゃん?何故、此処にいるんだ?」振り返った西谷は、目を見開いて自分を見つめる亮哉と目があった。亮哉も今、校門の前に着いたところの様だった。

見つけて驚く彩賀亮哉。
西谷は予想外の亮哉の出現に一瞬言葉を失ったが、すぐに平静さを取り戻して応えた。
「……部の予算折衝の資料をどうしても事務局長さんが直接確認したいって……」事務局長の名を出した途端、亮哉の顔色が変わったのを西谷は見逃さなかった。が、あえてそこには触れずに「彩賀こそ、どうして此処に?」疑問をぶつけた。
「俺は理事長に呼ばれてきたんだが……」言いながら、亮哉の脳裏に先日の異様な形相で自分達を睨みつける事務局長の姿が蘇った。同時に事務局長が理事長の秘書を兼任しているという話も亮哉は思い出した。亮哉の顔から驚きの表情が消えていき、徐々に不敵な笑みへと変わっていった。
「……だが、呼び出されたのは俺じゃなくて『俺達』の様だな」亮哉は西谷から視線を外し、理事長達が待ち受ける校舎──正面玄関へと顔を向けた。
「……彩賀……」亮哉に続いて、西谷も正面玄関入口へと顔を向けた。やはり事務局長が自分に確認したい事は予算資料の事などではなかった。
西谷はここ数か月間にあった出来事を頭の中で反芻した。校内設備撮影の時に偶然写りこんだ位置の不自然な壁に打ちこまれたアンカー。数々の状況から構造強度が確保出来ていない可能性のアンカーフレーム。……そして自ら確認した市場価格の倍以上もする体育館に取り付けられる予定のあまりにも豪華なカーテンウォール。
(……今日、僕達が追いかけていた真実がこの扉の向こうで解明されるんだ……)
西谷は気持ちを落ち着かせる様に静かに大きく息を吸った。
二人は正面玄関に向かって歩き出した。心の中に広がる不安を──これから知らされるであろう事実を受け止める決意へと変換するように地面を踏みしめながら。
正面玄関の近くまで歩き進んだ瞬間、二人の姿が写りこんだガラスの自動扉が無機質な音を立ててゆっくりと両脇へと開いていった。
その光景はまるで未知の世界である深い闇へと誘う、そして二人を審判する裁きの場への案内の様にも感じた。それでも亮哉と西谷は臆する様子も見せず校舎の中へと入っていくのだった。

の元へと向かう彩賀亮哉と西谷武久。
Sidestory⑯-1 終わり
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