Sidestory⑯-2:【構造の断罪・対峙】彩賀亮哉×西谷武久、本丸突入。学園小説relationship
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【構造の断罪・対峙】
彩賀亮哉×西谷武久、本丸突入。
正面玄関に入り、広く無機質なエントランスホールを真っすぐに進み、亮哉と西谷はエレベータへとそのまま乗り込んだ。そして、理事長達の居る4階のボタンを押す。
エレベーターが上昇を開始した瞬間、二人は通常なら感じない浮遊感を覚えた。しかし二人は沈黙したまま、上階へと切り替わっていく階数表示をただ見つめ続けた。
4階に到着して扉が開くと、何度見ても学校施設とは思えない宿泊施設のような内装のエレベーターホールが広がった。最新の学校設備が整う1〜3階のフロアから切り離されたその豪奢な空間には、人の気配が一切なく、ただ不気味なほどの静寂が二人を迎えた。西谷は向かって左側――フロアの東側の手前にある校内設備撮影の打合せで使う応接室の扉を見た。扉の明かり窓は暗く、照明は点いていなかった。
「武ちゃん。あっちだ。奥の理事長室の扉が開いている」亮哉のよく通る声が、普段よりも低い声で西谷の耳に響いた。

指差す彩賀亮哉。
更にフロアの奥を見た西谷の目に、存在を誇示するかのように少し開いた理事長室の扉が入り、灯りが廊下へと漏れていた。緊張を露わにした二人は、理事長室の扉の前に立つと一瞬、顔を見合わせて頷いた。そして向き直り、西谷は扉をノックした。

顔を見合わせて頷く
西谷武久と彩賀亮哉。
「どうぞ」聞き覚えのある声での返答を聞くと、西谷は重厚な扉を開けて中に入り、亮哉も続いた。
中に入ると、漆黒のウォールナットの机の座席に座り、手を前に組み、いつもの品の良い温厚な笑みを湛える理事長の姿が飛び込んできた。
理事長の右隣りには無機質にこちらを見ている事務局長が立っていたが、西谷は理事長の通常と変わらぬ態度に一瞬、安堵した。理事長の机の前に立った時、亮哉の方は事務局長と対面する様な位置で西谷の右横に立った。西谷は亮哉の方を見ていなかったが、いつもの冷静さ以上に冷ややかな亮哉の気配を感じ取っていた。
「彩賀君、この度は大変だったね。もう体調の方は問題ないかね?」理事長は穏やかな口調で西谷ではなく、まず亮哉の方に声を掛けた。
白髪を整えた紳士然とした――年の頃は七十前後位の理事長は、品の良い微笑を崩さずに二人を迎えた。
「ご心配をおかけいたしました。おかげさまで体調は完全に復調しております。学業にも一切支障はありません。お気遣いいただき、誠にありがとうございます。」
口調は丁寧だが、どこか冷淡な亮哉の返答が部屋に響いた。一瞬、部屋の中に沈黙が下りた。
「…この部屋では通信機器の利用は禁止となっている。あのトレイに置くように」それまで理事長の横で沈黙を保っていた事務局長が、入口の脇の棚の上に置いてあったトレイを機械的に指差した。再度、亮哉と西谷の表情に緊張が走ったが、二人は素直に指示されたトレイへとiPhoneを置いた。
「…では、本題に入ろうか」亮哉と西谷が再び、理事長の方へと向き直った瞬間、温厚な笑みを崩さぬまま、理事長は切り出した。

彩賀亮哉と西谷武久。
「現在、我が校の体育館の外壁を一部、カーテンウォールに変更する工事を行っているのは知っているね?」
(…やはり、その件での呼び出しだったんだ…)西谷は理事長へ視線を向けたまま、小さく頷いた。西谷の頷きを目線で確認した理事長は言葉を続けた。
「先日、一期工事の施工業者が技術提案を申し出てきた…君たちの知り合いだという建設会社の社長を伴ってな」ここまで話すと、理事長は初めて亮哉の方を横目で見た。
「……」亮哉は理事長を見据えて黙ったままであった。
「技術提案の内容は…これから着工予定のカーテンウォールの下地であるアンカーフレームの強度が不足している可能性があり、補強を行って強度を確保するというものだった」理事長の声がいつもより僅かに低くなった。
「恐れながら申し上げます。万が一にでも下地の強度不足という不備の可能性が浮上したのであれば、技術者として構造の安全を確保するための提案を行うのは、むしろ当然の義務ではないでしょうか?」返答に詰まる西谷に代わって亮哉が返答を引き取った。冷淡な口調に加えて、亮哉の視線に鋭利な光が宿った。
「君のいう事は全くもって正論だ……だが、問題はそこではない」理事長は改めて亮哉の方へと姿勢を向けた。口元は笑みを湛えているが、視線からいつもの温厚さは消えていた。
「下地の構造体の耐力が不足している……その事を何故、君たちが知っているか、だ」理事長は徐々に語気を強めながら、疑問を二人にぶつけた。
「……最初は、僕達が校内設備を撮影していた時に、たまたま体育館の壁アンカーが写りこんでいて……打ち込まれた位置が……」西谷は周囲の状況が徐々に異様な雰囲気に変化していくのを全身で感じ取りながら説明を行ったが、場の雰囲気に呑まれていつもの温厚な声が小さく震えていた。
「西谷君、いつもの君らしくない、もっと落ち着いて話しなさい」今度は西谷の方に顔を向けた理事長は、柔らかい視線に戻しながら西谷を促した。
「……はい。でも写真だけではよく分からないので、図書館で図面を見て確認したんです……そうしたらコンクリートの伝票が資料から出てきて、明らかに強度が……」空調が効いているはずなのに、西谷は既に全身から汗が噴き出ていた。いつも落ち着いている西谷からすれば相当珍しい事であった。
「なるほど……状況は理解したよ。でも学校の建物の強度の心配など、生徒がすることではないのだよ。それは私達の仕事だ」理事長は西谷に諭すような笑顔を向けながら告げた。
「……ええ、確かに僕の出る幕ではないと思います……なので知り合いの建設社長さんに……申し訳ありませんでした」西谷は最後まで話すことが出来ず、深々と頭を理事長に向かってさげた。

西谷武久。
「武ちゃん。謝ることではない。信頼ある身近な大人に相談するのは普通の事だと思うが?」頭を下げたままの西谷を諫める様に、亮哉は告げた。しかしその声色にはいつもにはない棘があった。
「……西谷君。顔を上げなさい。君が学外にむやみに情報を流すような人間ではない事は私も理解している」流石に気の毒に思ったのか、理事長は慰める様に西谷の顔を見た。
顔を上げた西谷は理事長と目が合った。その時、今までの緊張はこの場の雰囲気に圧倒されていたからだけではなく、西谷自身が発見した最大の違和感が原因であることに気づいた。西谷の直感が一瞬言うのを躊躇う。しかし、この一点こそが構造ではなく最大の論点ではないかと西谷は察知していた。
「もうすぐ開始予定のカーテンウォールの値段、相場より高くないですか?僕、メーカーのホームページで価格を確認したんです」先程までと違い、西谷は頬を紅潮させながらもいつも通りの落ち着いた声で、今まで心の中に淀んでいた疑問を吐き出した。
「!!」突如、理事長と事務局長の表情が打って変わって蒼白となった。相反して二人の異変を横から眺めていた亮哉は不敵な笑みを浮かべた。

顔色を失う理事長と事務局長を見て
不敵な笑みを浮かべる彩賀亮哉。
「どうしてそれを……」初耳だったのか、理事長は狼狽の色を隠さず西谷に聞いた。
「……校内設備撮影の打合せで偶然、事務局長さんから値段を聞いたんです。それで後から気になってホームページで調べたら……」西谷は一瞬だけ顔を下に向けたがすぐに思い直して理事長の方を見た。言葉を失う理事長の横で、面白くなさそうに口元を微かに歪める事務局長の顔が視界の端に見えた。
「西谷君……君は……」何かを言いかけようとする理事長より先に、西谷は続けた。
「……いつも予算折衝の時に、要望書の値段は適正かどうか確認する様に指導受けているから、つい……」西谷は刺さる視線に耐えられなくなったのか、足元に顔を向けた。
「……それは……その通りなんだが……」言葉に詰まる理事長の科白を亮哉の鋭い声が切り裂いた。
「施設整備補助金が狙いか?……とんでもないことを思いつくものだな!」亮哉の言葉に理事長は目を瞑り、片手で額を押さえた。
Sidestory⑯-2終わり
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