ポテチが白黒になった日。35年化学の現場にいる自分が、3ヶ月前にこの未来を予言できた理由
■ 導入:
お茶の間に降りてきた「終わりの始まり」
2026年5月18日の朝、テレビを見ていて強い危機感、そして「ついにここまで来たか」という奇妙な確信を抱いた人も少なくないのではないだろうか。
主婦層や一般層が広く視聴するニュースバラエティ『羽鳥慎一モーニングショー』。その番組内で、倒産情報のスペシャリストである帝国データバンク藤井氏をスタジオに迎え、今日本を襲っている「物価高倒産・ナフサ不足」の生々しい実態が特集された。
「カルビーのポテトチップスが、パッケージのインク不足で白黒になる」
「カゴメのケチャップが、白インクの削減でトマトのイラストを消す」
これまで経済の裏側や、特定の産業界だけで囁かれていた歪みが、いよいよ一般社会の「日常の食卓」を脅かすレベルまで表出してきている。一見、エコやデザインの流行に見えるかもしれないが、これは戦後最大のサプライチェーン崩壊がもたらした、残酷な経済危機のサインだ。
実は、自分は以前のnoteで、これと全く同じサプライチェーンの崩壊とインフレの末路について、数ヶ月前から何度も警鐘を鳴らし続けていた。
テレビが、ようやく自分たちの予測に追いついてきたのだ。
1. 5月18日夜、専門家が提示した「答え合わせ」
自分が予測を的中させたからといって、悦に浸るつもりは毛頭ない。なぜなら、なぜあの時点でこの未来が見えていたのか、そのロジックを共有し、これからの生存戦略を皆さんと一緒に考えることこそが、このnoteの目的だからだ。
5月18日の夜、番組は『日経ニュースNEXT』へと引き継がれ、石油化学コンサルタントの柳本浩希氏が「ナフサショックの実像」を解説した。その放送を見た瞬間、自分が3月から一貫して訴えてきたマクロの歪みと現場の悲鳴が、すべて一本の線で繋がった。
自分がこれまで提示してきた「現場の予測」が、いかに専門家のデータによって裏付けられたのか。その「答え合わせ」を、35年化学の現場を歩んできた自分の目から解説したい。
2. 「原料はあるのに製品がない」――政府の数字の嘘を暴く
政府や官房長官は「原油は年を越えて継続供給できる見込み。必要量は確保した」と発表している。5月に入り、高市総理は「流通の目詰まりが生じている」と一転して認めたものの、政府のマクロな発表(ポリエチレン等の在庫は1.8カ月分ある)と、現場(調剤薬局の容器が1〜2週間で底を突く)の決定的な断絶はなぜ起きるのか。
柳本氏が提示したナフサクラッカーの得率データが、そのカラクリを完璧に証明してくれた。
ナフサを高温・高圧で分解した際、得られる成分の比率は以下の通りだ。
* エチレン:約30%(プラスチック原料・主産物)
* プロピレン:18%(プラスチック原料・主産物)
* C4留分(ブタジエンなど):10%(副産物)
* ベンゼン・トルエン・キシレンなど:42%(副産物)
政府が「在庫はある」と強弁する根拠は、全体の約5割を占めるプラスチックの主原料(エチレン・プロピレン)という塊の数字を見ているからだ。
しかし、実際にポテチやケチャップのパッケージ、調剤薬局の容器を作るために必要な「印刷インクの溶剤や樹脂、成形用の副資材」は、C4留分や芳香族といった「副産物(トルエン・キシレンなど)」のラインからしか作られない。
ここに石油化学特有の強烈なジレンマがある。インク(副産物)が足りないからといってクラッカーを動かせば、今度は主産物が大量に余ってしまう。現在アジア市場は中国の大量増設のせいでエチレン市況が最悪であり、余剰分を赤字で海外へ流すわけにはいかない川上メーカーは、増産というカードを絶対に切れない。
「原料(主産物)はある。しかし、それを製品化するためのインク(副産物)が決定的に足りない」。これが、大本営発表と現場の悲鳴の間に横たわる、不都合な真実の正体だ。
自分はこの「法的な穴」と「マクロデータの嘘」について、すでに3月と5月頭の時点で以下の通り詳細に告発している。
3. 「出し渋り」と「駆け込み」の心理戦が起こすドミノ
自分が4月27日のnoteで指摘した「中間業者の防衛的な目詰まり(蛇蛇口の締め付け)」という見立てについても、完璧な裏付けがなされた。
柳本氏の解説によると、現在サプライチェーンの網の中で、凄まじい「心理的な目詰まり」が起きているという。
中東危機の先行きが見えない中、川上が「供給不安」を伝える ➡ 原料不足を恐れた川中(中間業者)が自己防衛のために生産を落とす(出し渋り) ➡ 6月からの本格値上げを前に、川下(末端)が「今が一番安い」とパニックになり必要以上のオーダーを投げる(駆け込み・買い占め)。
上流には備蓄プールがあるにもかかわらず、不安心理のドミノによって、水が途中で完全に堰き止められているのだ。結果として価格は紛争前の2倍弱に暴騰。コストを転嫁できない中小企業は、物資が物理的に手に入らないまま息の根を止められる。
4月までの法的倒産件数が過去10年で最多ペースを記録しているという現実は、この「時間差倒産」の波がすでに防波堤を越えたことを物語っている。まさに、自分が4月後半に以下の記事でレポートした現場の悲鳴そのものである。
「ホルムズ海峡の封鎖が解除されれば元に戻る」という楽観論も、数字の前には無力だ。湾岸の製油所自体が物理的ダメージを受けている今、紛争が終結しても高止まりは最低3ヶ月は続く。さらに国内のナフサクラッカーは、人口減少を見据えて2030年に向けて削減・廃棄の計画が進んでいる。日本の石油化学産業は、構造的な「終わりの始まり」を迎えているのだ。
自分が3月から一貫して訴えてきた「20日の空白」とサプライチェーンの断絶は、もうお茶の間のテレビが無視できないレベルまで日常を侵食し始めた。
ここから先は、35年のキャリアを持つ調達・購買のプロの視点から、「この地獄の中で、会社と心中せずに個人としてどう生き残るか」の具体的な3つの防衛策を提言する。
お茶の間のニュースを見て「大変だな」と他人事で終わらせてはならない。私たちが住む家、食べるもの、働くインフラの足元は、今この瞬間もナフサ一枚、インク一本の不足で崩壊の危機に瀕しているのだから。
綺麗事は抜きだ。組織の崩壊を前提とした、個人の生存戦略(リジリアンス)をここに開示する。
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