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キリストの墓と大石神ピラミッド——ロマンと運用の綱引き・新郷村【日本での記憶#07|青森編-01】


木造の建物「R454 道の駅しんごう 地場産品直売センター」の外観。前に自販機が並び、道路に面している。
R454(国道454号) 道の駅しんごう

無表情な山中を抜けた。
ようやくR454、道の駅に出会った。

十和田湖の「観光の風景」を抜けて、新郷村へ向かっていた。
新郷村に行くには峠を越えなければならない。
両脇は森で、空は少なめ。カーブが続き、道路が奥へ吸い込まれる。
山道を上って、また下って、また上る。
景色がどうこう以前に、体が「移動」に支配されていた。運転していると、やけに時間が長く感じる。

ふと冷静な自分が顔を出す。
何のためにこんな山道を上り下りしているのだろうか。

目的は一応ある。
ピラミッドと、キリストの墓。
一言でロマンだ。けれど、実際の自分はネタ半分、ロマン半分。そこまで熱心でもない。
だから余計に、この「山を越えてまで行く」という動作が可笑しくなる。

「間木ノ平の“薫りたつ”牛乳」と書かれた瓶のアップ。テーブル上に置かれている。
間木ノ平の「薫りたつ」牛乳
体が先に戻る

山を抜けたところで、道の駅の看板が出る。
「道の駅しんごう」で、牛乳を一本買って飲む。うまい。山道でバグりかけた感覚が、牛乳で一回リセットされる。
人間に戻った気がした。
売店があり、地面がちゃんと平らで、生活の匂いもした。
ロマンを追いかけていたはずなのに、すっかり現実に着地していた。

森の入口に赤い鳥居が立ち、横に「大石神ピラミッド」の説明板がある。奥へ小道が続く。
大石神ピラミッド(入口)
鳥居と説明板

まず向かったのが「大石神ピラミッド」だった。
入口に立った瞬間、思う。——鳥居がある。見た目は確実にピラミッドじゃない。
ロマンの先がこれか、と少し笑いそうになる。

ところが横の説明板を読むと、言葉だけで急に世界が始まる。
冒頭には「日本最古のピラミッド」。
内容は独自の歴史観と成り立ちで、ロマン一杯。なのに書きぶりは真顔だ。

「新郷村観光MAP」「大石神ピラミッド探検ルート」と書かれた案内看板。ルート図と「現在地」表示がある。
大石神ピラミッド探検ルート
観光MAP

一方で、扱いは観光の現実路線だ。
案内があって、矢印があって、迷う余地がない。
ロマン(言葉)と、現実(運用)が同じ場所に並んでいる。
どっちなんだ、と私が揺れ始める。

とりあえず揺れたまま、森に入る。

苔むした大きな岩と、前に立つ「太陽石」の白い札。周囲は木々と土の道。
太陽石
反射した太陽を礼拝したと言われる石
苔の付いた岩が重なって見える石のアップ。岩肌に段差のような面がある。
積んだのか、そう見えるだけか

ピラミッドかどうかは別として、ちょっとしたロマンはある。
苔の乗った石が、別の石に「どん」と乗っている。削った跡みたいに見える面もある。自然の偶然でも、人為でも説明できそうで、どっちの筋書きでも話が成立する。だから余計に、想像だけが手触りを持って膨らむ。「昔ここに人がいて、積んだのかもしれない」。

私は案内に従い、石のまわりをぐるりと一周した。歩く順番まで決まっている。その「決まり方」が、今度は現実側の運用圧として残る。

歩きながら思う。
石の角度を変えるたび、確信が増えるわけでも、否定が決定打になるわけでもない。どっちにも倒れないまま、ずっと宙ぶらりんだ。
信じてないけど、信じている――この中間が、ここでは普通に成立していた。

森の中の小道脇に「クマに注意」「ハチに注意」の看板が並んで立っている。
クマとハチ
ロマンは野生に弱い

……と思ったところで、看板が出る。
「クマに注意」「ハチに注意」。

ロマンに浸るより、クマが怖くなる。
私は、そうそうと引き上げた。現実が勝つ。しかも勝ち方が潔い。
ピラミッドのロマンは、野生動物にいとも簡単に崩れた。

木々の中、白い柵で囲まれた小さな塚に木製の十字架が2本立っている。
十来塚(とらいづか)
白い柵と二つの十字架

次に向かったのが「キリストの墓」だ。
小高い丘の上に白い柵が続き、木の十字架が二つ立っている。看板には「十来塚(とらいづか)」とある。イエス・キリストの墓だ。
見た瞬間に思う。
信じるか信じないかの前に、ここはもう「場所」として成立してしまっている。
形があるだけで強い。理屈より先に、ロマンが立ち上がる。

「キリストの墓」と大きく書かれた説明板のアップ。下部に「新郷村」の表記。
キリストの墓(説明板)
「Christ’s Grave」と英語の説明文、日本語の説明文が並ぶ案内板。
ロマンあふれる説明板

説明は、かなりロマン寄りだ。
「ゴルゴダの丘で磔刑(たっけい)になったキリストが、実は密かに日本に渡っていた」――そういう話らしい。
始まりは、日本書記や古事記より以前に書かれた歴史書とも称される「竹内古文書」の内容からだという。

真偽の議論を始めると、頭は冷静になる。
でもこの場所に立つと、その冷静さだけでは終わらない。現地の空気と説明板がセットになると、話が「ただのネタ」の棚からずれてくる。

もしこれが、雑誌か本の中だけの話だったら、私はたぶん笑って終わっていたと思う。
でもここでは、揺れながらも、ちゃんと読んでしまう。

地面の黒い石碑プレート。中央に別素材の長方形プレート、右側に “Ambassador Eli Cohen” などの刻字。
駐日イスラエル大使と刻まれた石碑

しかも、さらにロマンを押し上げるものが置いてあった。
駐日イスラエル大使の名(肩書き)が刻まれた石碑だ。
これで真実が確定するわけじゃない。けれど空気が一段変わる。外側の肩書きが混ざった瞬間、話が「証拠っぽい現実」の顔をしてくる。
私はそれに弱い。ロマンが、勝手に上がる。

「キリストの里公園 案内図」看板。墓や伝承館、駐車場の配置図
キリストの里公園 案内図

一方で、足元には別の現実もある。
駐車場があり、導線があり、案内図がある。村が真顔で運用している。
この「運営の現実」はロマンの後押しというより、私には「町おこしの匂い」を感じる。同じ「現実」でも、手触りが違う。
外から来た肩書きはロマンを強めるのに、村の真顔の運用は、どうしても現実へ引き戻してくる。ここで自分のバイアスが出る。

現実には、ロマンを強める現実と、ロマンを現実に戻す現実がある。
その綱引きが、この場所には並んで置いてある。

ガラス板に黄金比の図と数式。「the holy golden proportion」の文字
黄金比(the holy golden proportion)
金属製の小さなピラミッド型モニュメント。網状の面と内部の展示物
金属の小さなピラミッド
神秘を形にした装置

敷地内には、伝承館のほかモニュメントもある。
黄金比やピラミッドは、それ自体が「神秘の記号」みたいなものだ。

ロマンの道具であり、町おこしの道具でもある。どっちか片方に決めきれないグレーが、「物」として存在しているのが面白い。
「信じるか信じないか」でも切れない。
「神秘か運営か」でも切れない。
切れないまま、ちゃんと置かれて、ちゃんと回っている。

森に囲まれた建物の正面。階段の先に入口があり、屋根の上に十字架が立っている。
キリストの里 伝承館

帰り道に思う。
最初の疑問、私は何をしに、山を越えたんだろう。なんだったんだ?

目的は単純だった。ピラミッドと、キリストの墓。
ネタ半分、ロマン半分。そういう軽さで山を上り下りしていた。

はた目から見れば、たぶんネタに見える。
雑誌の文字だけなら、「面白いね」で終わる話だと思う。
でも現地に立つと、話の中心がずれる。

道路脇に「キリストの里公園 / Christ of the village park」と書かれた縦長の看板が立ち、周囲は木々と生垣に囲まれている。
キリストの里公園(看板)

説明板の言葉に乗りそうになり、外から来た肩書きに一瞬引っ張られる。
でも導線と運用の真顔が、すぐ現実へ戻してくる。
その揺れが続く。しかも、揺れたまま歩けてしまう。

たぶん、私が山を越えた理由は、後からこういう形になる。
答えを手に入れたわけじゃない。
ただ、よくわからない話が、場と看板と肩書きと運用に支えられて、一瞬だけ「現実っぽい顔」をしてしまう瞬間を、頭じゃなく身体で見てしまった。
だから私は、机の上だけで片づけずに、外へ出て、触れてしまう。

真偽は決めなくていい。
でも、そこで揺れた自分だけはネタじゃない。現実だ。

信仰でも結論でもないのに、何かが残った。それが何かは言えない。
ただ、「わからない」まま残る――それだけは確かだ。


*これは2020年の記録です。


追記|

|この文章について|

この記事は、真偽を決める話ではありません。
説明板の言葉と外から来た肩書きにロマンが引っ張られ、導線と運用の真顔で現実へ戻される――その揺れを、現地の手触りとして記録したものです。
そして厄介なのは、ロマンと現実(運用)の両方の顔を持つ「物」まで、ちゃんと置いてあること。
机の上だと、たぶん「面白いね」で終わる。でも、実際に現地に行ってしまうと終わらない。空気が先に成立して、身体がついていく。
最後に「クマ注意」「ハチ注意」で運用とは別の現実に叩き戻されるところまで含めて、私には「ネタに見える話」では終わらなかった。――その“終わらなさ”も、現実だった。


参考資料:
ウィキペディア/TripAdvisor ほか。



日本での記憶

#08|仏ヶ浦・下北半島の奇岩群——説明が効かなくなる瞬間|青森編-02【進む→】
#06|青ヶ島・二重カルデラ——観光の景色と、島で暮らす手触り|東京編-02【戻る→】
#00|目次:北海道編/秋田編/鹿児島編/富山編/東京編/青森編

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