【第9回】「共につくる」前に知っておきたい──タイとの共同開発・ライセンスで押さえるべき知財契約の要点
はじめに──技術もブランドも、いまは“共有”される時代
タイに進出した日本企業や、現地スタートアップと連携するプロジェクトが増える中で、避けて通れないのが「知財の扱い」です。
特許を共同出願したり、技術を提供したり、ブランドをライセンスしたり──。そのたびに必ず出てくるのが知財契約の壁です。
特に、以下のような声を多く聞きます:
「共同開発で成果物の権利が曖昧になっている」
「ライセンス条件が口約束で始まってしまった」
「特許出願する予定だったのに、先に出願されてしまった」
今回の記事では、日タイの知財連携が増える今こそ、契約で押さえておくべき実務のポイントを整理します。
こうした動きを、これまでの連載でも詳しく取り上げてきました。
もしまだご覧になっていない方は、あわせてご一読いただくと理解が一層深まります。
📚 過去の記事はこちら
- [第1回:タイの知財は今こうなっている!法改正と国際基準への適合とは]
- [第2回:タイの知財はここまで来ている!AIとデジタルが変える知財実務の最前線]
- [第3回:「それ、ホンモノ?」模倣品の進化が止まらない。企業が今とるべき知財対応とは?]
- [第4回:変化するだけじゃダメ。タイ知財の進化に企業が「対応」するための3つのポイント]
- [第5回:タイの模倣品対策はここまで来た!現場で進む取り締まり強化と企業の実践対応とは?]
- [第6回:タイでスタートアップが急成長中!知財が鍵を握る「Thailand 4.0」時代の戦略とは?]
- [第7回:タイが目指す「ASEAN知財ハブ」の座──国際連携と標準化で加速する知財戦略とは?]
- [第8回:知財が融資を引き寄せる!?タイで進むIPファイナンスの現在地と、日本企業が学ぶべきこと]
✅ この記事でわかること
タイにおける知財契約の法的背景と基本構造
共同開発契約で注意すべき条項とは?
商標・特許ライセンス契約の交渉と記載例
実務上ありがちなトラブルと対処法
📚 目次
タイにおける知財契約の基本的な考え方
共同開発契約(Joint R&D Agreement)の3つの要点
技術ライセンス契約で明記すべき7つの条項
商標・ブランドライセンスにおけるタイ特有の注意点
契約トラブル事例とその回避策
まとめ:契約こそ“共創のインフラ”である
1. タイにおける知財契約の基本的な考え方
タイでは知財契約に関して、**民商法典+知的財産関連法(特許法、商標法など)**の2つの枠組みで構成されています。
タイにも職務発明に関する規定はあるが、日本とは仕組みが大きく異なる
契約自由の原則が強く、契約条項の文言が優先されやすい
口頭合意も一定の法的効果を持つ可能性あり(ただし証拠化が困難)
つまり、「契約書の書きぶり」が非常に重要であり、抜けや曖昧さがそのままリスクになると理解することが第一歩です。
2. 共同開発契約(Joint R&D Agreement)の3つの要点
✅ 要点①:成果物の帰属(誰が持つか)
単独帰属 or 共同帰属を明確に
特許出願する場合は、出願義務や分担、譲渡の有無を明記
✅ 要点②:秘密保持と使用制限
開示情報の範囲・期間・用途を具体的に記載
研究段階ではなく成果物レベルでの秘密範囲を設計する
✅ 要点③:第三者への提供・ライセンスの制限
再ライセンス・サブライセンスの可否
他国出願時の手続き責任者・費用分担を明示
3. 技術ライセンス契約で明記すべき7つの条項

4. 商標・ブランドライセンスにおけるタイ特有の注意点
タイでは、ライセンス登録をしなければ対抗力が弱まる(未登録ライセンスは第三者に対抗できない)
タイ語表記のバリエーションも含めて包括的にカバーする表現が重要
ブランド管理体制(品質管理や販促の承認権限)を明記しないとブランド毀損の恐れ
5. 契約トラブル事例とその回避策
❌ 事例:技術移転した後に、現地企業が「自社開発」として特許出願してしまった
原因:契約に「帰属」や「出願義務」が明記されていなかった
対応策:成果物の定義と帰属条件を契約書で網羅すること
❌ 事例:商標ライセンス未登録のまま現地代理店に使用させた結果、代理店が先に登録
原因:登録手続きの責任主体が不明瞭
対応策:ライセンス登録を早期に行い、契約で代理店の登録禁止を明記
6. まとめ:契約こそ“共創のインフラ”である
技術とブランドを共有する時代に、契約は“最後の守り”であり“最初の土台”でもある。
日タイの協業やスタートアップ連携が活発化する中で、知財の帰属・使用・拡張についての合意ができていないと、どんな関係も脆くなってしまいます。
契約は信頼を文書化し、成長の可能性を守るインフラです。
共創の相手と長く付き合うために、最初の一歩を丁寧に──それが、知財戦略の本質かもしれません。
▶ 次回予告
第10回は、タイ現地法人で知財を“仕組み化”する方法──IPガバナンスの実践ノウハウについて解説します。
プロフィール
神戸市生まれ。国立大学大学院工学研究科修了後、化粧品メーカーに就職。製剤開発者として、キャリアをスタート。多くの特許を発明者として出願し、知財の世界に興味を持ち弁理士資格を取得。5年間のアメリカでのビジネス経験を活かし、現在は、ブランドマネージャー、子会社取締役、弁理士事務所(個人事業主)として、技術とビジネスを融合して、売れる商品づくりの挑戦中。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「急変するタイの知的財産戦略」シリーズは、これからもタイの現状を、できるだけわかりやすく発信していきたいと思っています。
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