【小説】小指の神様-⑤Distance b/w little finger and Kami-sama
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それから週間ごとに会うのが習慣になった私たちは、少しずつ距離を縮めていった。
中指を繋いで、指を交差して、手を絡め合う、そんな風にゆっくりと。
駆は、私のペースに合わせて根気よくラリーを続けた。五セットマッチの試合なら、俺はすでに二セットは取ってる、いずれ粘り勝つのだから慌てる必要はないという自信を思って。
私はその傲慢さに惹かれた。正しいかどうかはさておき、すこぶる分かりやすい強さだから。
出会った頃は真っ直ぐに立っていた太陽も、今はもう暑さを忘れ、薄の上空で傾いている。空気にも翳りが見え始めた。
そして知ろうとしなくとも、私たちは知っていた。互いに求めあっていることを。
今日も午後から会う予定があって、何を着ようかとクローゼットを開けた瞬間、着信音がする。
母からだ。仕方なく手を止めリビングに向かい、テレビを付けて電話を取った。
莉子、お母さんだけど
今、大丈夫よね
その声を、日比谷公園のガーデンフェスタを報じるリポーターの音声に切り替え、画面に映る秋の花々を愛でる。噴水の近くでは、鳩が群れていた。
鼓翼を目にして、渡り鳥のことを考える。何万キロという距離を、鳥たちはときに眠りながら飛ぶ。
私の上司たちもFクラスのフルフラット・ベッドに横たわってすやすやと飛行していた。
そして車のCMに移ると、オフロード車に乗って全速力で走る会計士の姿が見える。
中空に、赤い風船をぽつんと浮かばせて「シュールな光景よねぇ」と小指が言う。
つい、忍び笑いを溢すと「莉子、ちゃんと聞いてるの?!」と突っ込み「あんたはいつも茫として、本当にどうしようもないわね」と母は言って続けた。
そろそろ
梢さんのことも
切りを付けないと
親族の生死が不明になって七年が経つと、失踪宣告の申し立てができる。認定されると死亡が確定し、相続が開始する。
― 今年で、ちょうど七年
認められたら、全て一人っ子の母のものになる。あの人のことだから何もかも —屋敷も、着物も、懐かしい気配も— 売り払ってしまうだろう。
そう思ったら急に、梢さんの庭に茂る苔の匂いが鼻孔を抜けた。心臓が縮む音がする。
震え出した私に代わって神様が「これから会社の人と約束がある」と母を閉じようとしても「相手は誰なの?男の人?」って抉じ開けようとするから「上司よ、仕事みたいなもの。遅れちゃう」と逸らかして携帯を置く。
それからテレビを切って数分間、止まらない震えに、私は無音で耐えていた。
待ちくたびれた小指がとパチンと指を鳴らす。我に返り焦って着替えようとしたとき、神様が閑やかに言った。
間に合うから
大丈夫
ワンピースにしなよ
小指が顔を顰める。
それはちょっと
狙いすぎじゃない?
結局、ややラフなROPÉの白いプルオーバーと深緑のロングスカートを選んだ。
その選択に、神様も小指も満更でもない顔で納得して、私はほっと胸を撫で下ろす。
彼らの関係は相反的だった。小指は、勝手に住み着いた神様が煩わしく、神様も、自分のような大物が小物の中にいることが不満だった。
それでも共存するために二人は長い年月をかけ、一方が話すときは他方が黙り、意見が異なるときは私に委ねることで均衡を保っている。
いつも
仲が悪いわけじゃないし
神様がそう呟くと小指も頷き、突然デュオでSkeeter Davisの『The End of the World』を歌い始めた、世界が終わるような失恋の曲。
美しい旋律だけど、落ち込んでいるとき、ましてやデートに行く前に口遊むような歌詞じゃない。
三人分の溜息を付いてから、傘と鞄を手に、私は少し駆け足で家を出た。

