『三宅香帆のオールナイトニッポン0(ZERO)』―― 秋元康 坂道、48の歌詞の世界
ゴールデンウイークの最中に放送された『三宅香帆のオールナイトニッポン0(ZERO)』。
番組内では、彼女が愛する「秋元康関連グループ(48、坂道)」の歌詞について熱く語っていた。
よなよな秋元康の「歌詞かるた」を作り、楽しんでいるようだ。
さすがは文芸評論家。熱量も高貴。
さすがに「歌詞かるた」を作ったことはないが、自分も坂道グループのファンであり、秋元康の歌詞を愛するひとり。
そんな自分の視点を踏まえ、番組内で話していた楽曲と個人的に「今、推したい楽曲」ついて、簡単ではあるが、まとめていきたい。
番組を聴いていた方、ファンの方には楽曲の振り返りを。
どちらでもない方には、「こんな曲があるんだな~」と思って頂けたら幸いです。
*メンバーについては一部愛称で記載します。
*公式よりMVが出ているもののみ、YouTubeのリンクを貼っています。
櫻坂46『五月雨よ』
先日「副キャプテン」に就任した山﨑天の初センター楽曲(シングル表題曲に限定した場合)。
櫻坂改名後、初のピアノとストリングスが印象的な楽曲で、とめどなく相手を好きになる気持ちを「五月雨(式)」に例えている。
梅雨でも台風でもなく、まさにこの時期(5月)の雨。
湿度もそこまで高くない爽やかさ。恋の始まりに重なる。
今このドアを開けるのか 諦めるのか
意気地なしの自分に問いかけてみる
想いを伝えるかどうかを悩むのではなく、好きな気持ちを認めるかどうかの葛藤。
小雨になった
止むかな
五月雨式に
好きになってく
雨よ 止むな
大サビ前で「小雨になった、止むかな」と歌っていたが、最終的に「雨よ止むな」で終わる。
この決意に、どこか背中を押されるような一曲。
全編フィルムで撮影されたMVも美しい。
AKB48『君はメロディー』
AKBの10周年記念シングルとしてOGメンバー(前田敦子、大島優子、篠田麻里子、板野友美)が参加。
センターは現在「LE SSERAFIM」として活動中の宮脇咲良。
この年の紅白では「夢の紅白選抜」企画で1位になった山本彩センターで披露。
大サビは「さや姉」のソロで披露され、これがまた良かった。
◇
ふと口ずさんだ「あの頃の2人の好きな曲」をきっかけに当時が蘇る…といった内容。
君はメロディー メロディー
懐かしいハーモニー ハーモニー
好きだよと言えず抑えていた胸の痛み
言えずにいた思いだからこそ、引きずるわけでもなく、忘れていたのだろう。
「君」は、あっちゃんを始めとするOGメンバーであり、あの頃のAKBとも受け取れる。
僕のメロディー メロディー
サビだけを覚えてる
若さは切なく
輝いた日々が
蘇るよ
「サビだけを覚えている」という、記憶の距離感が絶妙で、湿っぽくならない。
未練でも美化でもなく「そんなこともあったな」という感覚。
AKBの全盛期はあらゆる環境で曲(メロディー)が流れており、ファンでない方でも「サビだけを覚えてる」人は多いのではないか。
この曲はAKBとその時代に青春を過ごした人たちそのもの。
秋元康のメタ的な「あて書き」が遺憾なく発揮された名曲。
AKB48『快速と動体視力』
小嶋陽菜がセンターを務めた『ハート・エレキ』に収録されたアンダーガールズの楽曲。
*アンダーガールズ…選抜メンバーに入らなかったメンバーで構成される。
センターは当時若手だった加藤玲奈とSKEの須田亜香里という異色の組み合わせ。
これまでのアンダーとは違い、若手のみならず、経験豊富なメンバー(梅田彩佳、北原里英、倉持明日香など)が参加しているのも特徴。
◇
快速電車から見かけた通過駅のホームにいる「君」への片想いを歌った楽曲。
走る電車から
ずっと見ているよ
髪型を
変えたんだね
と言ってしまえばそれまでだが、あくまでもプラトニックな自分だけの片想い。
怖い、ストーカー
「公共交通機関で見かけた「君」への片想いソング」は他にも、
「7時12分の初恋」「ウインブルドンへ連れて行って」「重力シンパシー」とタイトルから癖が強いが、いずれも名曲。
片想いをこれだけの表現でアプローチできるのが秋元康。さすが。
◇
快速は止まらない
ときめきはクレッシェンド
加速する想いを「快速電車」とかけるのが凄い。
快速電車での通学するとなると、どこか郊外を走る私鉄を思わされ、そんな情景が浮かぶのも良い。
大人数のアイドルグループの中で「推し」を見つけた感覚ともシンクロする。
気付いたら目で追ってしまい、輝いているのだ。
どんどんと
よくなるのは
関係じゃなくて
動体視力
関係は進展することなく、よくなるのは動体視力だけ。
アイドルとファンの関係も同じ。
ステージ上にいる「推し」を見つける動体視力も、気づいた時には強化されている。
欅坂46『青空が違う』
欅坂46の2nd single『世界には愛しかない』収録曲。
当時のお姉さんメンバー(志田愛佳、菅井友香、守屋茜、渡辺梨加、渡邉理佐)によるユニット「青空のMARRY」の楽曲。
この曲が好評を博したこともあり、後にも同ユニットの楽曲が制作された。
デビュー曲『サイレントマジョリティー』のMVが渋谷の工事現場で撮影され、『渋谷川』『渋谷からPARCOが消えた日』といった楽曲があるなど、都会(渋谷)的なイメージが強い欅坂。
初めて来た都会は人と人を
洗濯機のようにかき混ぜている
テレビで観てたあの華やかさは
秩序のないエゴに見える
この曲は打って変わり、初めて都会に出てきた彼女目線。
風邪を引いた遠距離恋愛中の彼氏にサプライズで会いに行く「来ちゃった…!」的な楽曲である。
爽やかなサウンド、振付、歌詞からも、都会的なイメージとは正反対。
表題曲のセンターを務めていた平手はグループ最年少。
この曲の歌唱は対照的にお姉さんメンバーであり、「欅坂のB-SIDE」的な立ち位置とも取れる。
写真で見たアパートのドアが開き
風邪で辛そうなあなたが見たら
全体的に映像が思い浮かぶ歌詞だが、ここでの「アパート」がどんな建物かは聴き手に委ねられている。
当時20代前半だった自分は「遠距離恋愛…憧れる…!」と自分の暮らす線路近くのアパートを想像していた。
ファンはそれぞれ「自分が暮らす住宅」をイメージしたのだろう。
都会と地方(地元)を「青空が違う」と表現する。
「青空」とは彼女と彼が見ている実際の景色であり、環境であり、夢。
青空 少し見えた
青空 どこか違う
少し見えた「青空」が、「どこか違う」で曲は閉じる。
この二人はどうなるのか?そんな想像力も掻き立てられる一曲。
乃木坂46『ありがちな恋愛』
4thアルバム『今が思い出になるまで』のリードトラック。
センターは齋藤飛鳥、白石麻衣の二人。
個人的にも、あえて順位をつけるならば「乃木坂で1番好き」といっても過言ではないほど、お気に入りの楽曲。
◇
番組内では「倦怠期」の曲とも紹介されていたが、卒業していくメンバーを思う現役生にも姿を重ねてしまう。
少々、跳躍しすぎだろうか。
当時はまだまだ1期生が多く在籍していたが、エース・西野七瀬が卒業し、初代キャプテン・桜井玲香も卒業を控えていた。
4期生も加入し、グループは変革のタイミングだった。
ありがちな
恋愛のその結末はどれも同じで
そう知らぬ間に二人 別の道を行く
愛よりも大切な夢を見つけたのなら
現実はいつだって退屈なものだ
グループからの卒業を「ありがち」と評してしまうのは、ドライすぎるかもしれないが、その日はいつか訪れる。
多くの恋愛(特に10代、学生)に別れがやってくるのも「ありがち」な現実だ。
同じ方向に並んだ団地の窓にいくつ
しあわせが存在するか教えて
風に揺れている洗濯物の色味で
どんな家族なのかわかる気がしてしまうよ
「同じ方向に並んだ団地の窓」というのも、どこか乃木坂自身であり、卒業生たちのようにも感じてしまう。
その一方で、いわゆる「普通(ありがち)」の人生を送るであろう僕たちにも重なる。
乃木坂とリスナー。
それぞれの視点で違った受け止め方ができるのが奥深い。
君はどうなんだろう?
望み通りか?(今は)
手に入れた夢の暮らしは
しあわせか?
卒業したメンバー、あの頃の友人、職場の同期。
みんな元気でやっているだろうか?
どんな別れも「ありがち」なのだ。
AKB48『11月のアンクレット』
渡辺麻友の卒業シングル。
まゆゆらしく、エレガントなアイドルソングに仕上がっている。
これがまた名曲。
番組内でも選曲していたようだが、話し過ぎたせいか流れなかった。
◇
左を立てて薬指をわざと見せたのは
新しい彼氏ができたってこと
言いたかったのか?
久々に元カノに呼び出されたと思ったら…。
男子側は未練がある模様。復縁も期待してたのでは。
思い出はいつか
どこかで片付けるつもり
いつかは片付けるけど、いまは片付けられない。
未練を残す男子であり、残されたメンバーであり、ファンの気持ちである。
そのパートをまゆゆがソロで歌うのが憎い。
アンクレット
アンクレット
左の足首に
リグレット
正直なところ「アンクレット」に馴染みがないが(この曲以外で知らない)、足首に着けるアクセサリーのこと。
左足のアンクレットは、パートナーや結婚相手はいることを意味するらしい。不勉強であった。
一歩踏み出せない男子の足を引っ張るものであり、リグレットにかかる。なんて美しい着地よ。
ここまで、番組内で話題にあがった楽曲を取り上げたが、個人的に今、推したい2曲をピックアップしたい。
もう少しお付き合い頂けると有難い。
◇
日向坂46『恋は逃げ足が早い』
9th single『One choice』のカップリング曲。
センターは表題曲と同じ丹生明里が務める。
このところ聴き返しており、個人的な再評価が高まっていたところ。
◇
バイト先で好きになった相手に想いを告げようと思っていたのに、知らぬ間に相手がバイトを辞めていた…という曲。
市営プールでバイトをしてた
気づいた時の陽灼けみたい
少しずつ 君のことを好きになったけれど
「夏」という言葉を使わずに、「夏(君を好きでいた期間)」の情景を浮かばせる。
「市営プールでバイト」となると、夏休みに短期バイトをしている高校生か。
ひと夏の限りがある時間は、彼女たちがアイドルでいる期間(夏)とも言えるだろう。
「気づいた時の陽灼け」は、過ぎゆく時間であり、それを可視化したもの。日焼けには、痛み始めてから気づいたのだろうか。
知らぬ間に好きになっていた感情の動きとも重なる。
その時間の流れと胸を焦がす想いが、「日焼け」ではなく「陽灼け」なのだ。秋元康、恐るべし。
いつかタイミングを見て 君に告白しようって…
考えているうちに いつの間にかバイト辞めてた
恋愛は「タイミング」とよく言ったものだが、見計らっている間に逃してしまうこともある。
それは現実世界での恋愛のみならず、グループを応援するファンとも重なる。
「推しは推せる時に推せ」とも言うが、いつかライブに行きたいと思っていたら、卒業してしまった…なんてことを経験した人も少なくないのではないだろうか。
現に2023年発売のこの曲の歌唱メンバーで、現在在籍しているのは6名のみ。
2期生の小坂菜緒と金村美玖。3期生の4名は全員在籍しているが、山口陽世は今夏、グループからの卒業が発表されている。
改めて振り返ってみると、この3年でのメンバーの変遷に驚きを隠せない。
それでも、これが現実なのだ。
◇
恋愛も、アイドルも、相手は自分ではないのだから、自分の感情とは関係なしに動く。
自分の「いつか」ではタイミングが合わない。
タイミングを逃した自分を受け止め、今、踏み出す勇気をくれる。
長濱ねる(欅坂46)『100年待てば』
長濱ねるのソロ曲。
個人的に欅坂の推しでもある。
三宅もこちらの動画で『100年待てば』に少し触れており、選曲した。
欅坂の表題曲とは全く違うアイドルポップス。
てち(平手友梨奈)が欅坂のパブリックイメージを担う「圧倒的なカリスマ」であったとしたら、ねるは知性を兼ね揃えた王道アイドル。
街を走る路面電車が
ゆっくりと止まる音が好き
急いだってしょうがないよって
脱力したその感じ
地元・長崎の路面電車の風景や、おっとりしながらも、どこか達観したような、ねるの姿が思い浮かぶ。
100年待てば
いいことあるかもね
上手くいくかな
「100年なんか待てない…!」とせっかちな自分は言いたくなるが、そう急いだって仕方がない。
視野が狭くなった時こそ、一歩引いてみると見え方が変わる。
冷静に取り組んだ方が、結果として近道のこともあるだろう。
視点を切り替え、焦らず、比べずに取り組もうと思わせてくれる1曲。
◇
偶然ではあるが、前述の「恋は逃げ足が早い」とセットで聴くと、興味深いものがある。
「タイミングを逃さぬように」という教えと、「仮に逃しても、100年という俯瞰で見ればそれも人生の一部」という救い。
この一見して矛盾する二つの視点が共存していることこそ、秋元康の歌詞が持つ哲学だと感じる。
見方が変われば意味も変わる。
走る日もあれば、休む日もある。
正解はひとつではない。
そんな哲学に改めて気づかされた。
ここまでお付き合い下さりありがとうございます。
最終的に結構な熱量になってしまいましたが、そうさせるのも秋元康の歌詞の魅力だと思います。
これらの楽曲はほんの一部にすぎません。
また機会があれば、取り上げたいと思うので、引き続きよろしくお願いします。
