カウンセリングは「本人が必要と感じた時」に始まる──強制は逆効果
こんなこと、ありませんか
「学校で問題行動を起こしている。
家でも荒れている。
このままでは将来が心配だ。
『カウンセリングを受けさせたほうがいい』と先生に言われた。
ネットでカウンセラーを探して、予約を取った。
当日、本人を連れていこうとしたら――
『なんで僕がカウンセリング行かなきゃいけないの?』
『困ってないし』
『行きたくない』
無理矢理連れて行った。
カウンセラーの前で、ふてくされて口もきかない。
30分、ずっと黙って終わった。
帰り道、本人は怒っている。
『二度と行かない』『ばかみたい』
え、これ、どうしたらいいの?
お金も時間も使ったのに……」
これは、子どもにカウンセリングを受けさせたい保護者が、よく経験するもどかしさです。
そして、私の答えは、
「カウンセリングは、『本人が話したい』と思えなければ始まりません。それは『魔法のように治してくれるもの』ではなく、『本人と心理士の協働作業』なんです。本人の意欲なしには、何も始まらない」
そして、こう続けます。
「でも、本人が『助けてほしい』と思える日まで、家族と医療ができることがあります。それを一緒に考えましょう」
今日は、カウンセリングを受けるタイミングと、本人主体の支援についてお話しします。
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※本記事は児童精神科医の臨床経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の症例について断定するものではありません。お子さんの診断・治療・支援については、必ずかかりつけ医・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター等の専門職にご相談ください。
この記事の内容は、執筆者である児童精神科医が日々の診察で実際に保護者・本人に伝えている内容を、個人情報を完全に取り除いた上で再構成したものです。
1. カウンセリングは「本人主体」が大原則
「本人の意欲」が、すべての出発点
カウンセリングが効くのは、
本人が「変わりたい」「相談したい」「自分のことを話したい」と思っているとき
だけです。
これは、薬とは違います。
薬は、本人が嫌々飲んでも、ある程度効果が出ます。
でも、カウンセリングは、本人が心を開かないと、何も起こらない。
本人が話したくない
本人が困ってないと思っている
本人が「親に押し付けられた」と感じている
この状態でカウンセリングに連れて行っても、お金と時間を使うだけで、本人は何も得られません。
それどころか、「カウンセリング=嫌な場所」として記憶され、将来本当に必要になったときに利用しづらくなります。
「魔法のように解決」しない
家族の中には、こんな期待を持つ方がいます。
「カウンセラーに任せれば、子どもの問題行動が消える」
「専門家なんだから、何か魔法のように解決してくれる」
「子どもの気持ちを引き出して、家族関係を直してくれる」
正直に申し上げます。
カウンセリングは、魔法ではありません。
カウンセラーは、「本人が自分で気づく」のを助ける伴走者です。
本人が自分で気づき、自分で変わろうとしない限り、何も起こらない。
これを最初に理解してから、カウンセリングを使ってほしい。
「症状が重くなってから」ではなく「気になった時」に使う
逆に、本人が「相談したい」と思っているなら、症状が軽くてもカウンセリングは使えます。
学校で少し気がかりなことがある
友達関係で不安がある
自分のことを整理したい
親に言えない悩みがある
こうした段階で、心理士という「家族以外の信頼できる大人」と話せる経験を持つことは、子どもにとって大きな財産です。
「症状が出てからの治療」ではなく、「予防的な相談」として、カウンセリングを使う発想を持っていただけるといいと思います。
2. 「本人が必要と感じる」までの過ごし方
「困っていない」段階での介入は、限界がある
「うちの子、明らかに問題があるのに、本人は『困ってない』って言うんです」
――こういう相談、よくあります。
私の答えは、
「本人が『困ってない』と思っているうちは、外からの介入は限界があります。家族や周囲が『困ってる』と思っていても、本人の自覚がないと、カウンセリングも薬もうまく機能しません」
本人が自分の困難に気づくには、
ある程度の年齢(中学生・高校生以降が多い)
自分の行動の結果を経験する
周囲との比較で「あれ?」と気づく
信頼できる第三者からの言葉
体調や心の不調が現れる
これらのいずれかのタイミングで、本人が初めて「自分にも問題があるかも」と気づく。
そこから、カウンセリングが意味を持ち始めます。
「気づきを待つ」あいだに、家族ができること
本人が自分の問題に気づくまで、家族が完全に何もできないかというと、そうではありません。
ルールを淡々と守らせる:
家族としての一貫したルール
約束事は守る
ダメなことはダメと言う
選択肢を提示しておく:
「もし話したくなったら、こういう場所があるよ」
「親じゃ話しにくいことは、こういう人に話せるよ」
「いつでも、行きたくなったら言って」
主治医とのつながりを保つ:
親だけが定期的に主治医に相談
本人が来たくなったときに、すぐに対応できる体制を保つ
家族関係を壊さない:
関係性が断絶していると、本人が困った時に頼れない
「あなたを心配している」「あなたの味方」のメッセージを送り続ける
これらは、本人が「助けてほしい」と思える日のための、布石です。
「子どもが助けを求める日」のサイン
ある日、子どもが、
ふと「最近、つらいかも」と言う
「カウンセリングって、どんなとこ?」と聞いてくる
親に泣きついてくる
体の不調を訴える
学校に行きたくないと初めて言う
――こういうサインが出たとき。
これが、本人がカウンセリングに繋がるチャンスです。
このサインを見逃さず、「いま、行ってみる?」と提案する。
そして、本人が「うん」と言ったら、すぐに動く。
このタイミングが「本人主体」のカウンセリング開始のベストポイントです。
ここまでは、「本人が必要と感じる日まで、家族と医療で何ができるか」というお話でした。次の章からは、私が診察室で実際にどう伴走しているかを、もう少し具体的にお話しします。
出典・参考情報
こどもの心の診療ネットワーク事業(厚生労働省/中央拠点:国立成育医療研究センター)(https://kokoro.ncchd.go.jp/)「精神保健福祉センター」
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所(https://www.ncnp.go.jp/nimh/)
公益社団法人 日本公認心理師協会(https://www.jacpp.or.jp/)
こどもの心の診療ネットワーク事業(厚生労働省/中央拠点:国立成育医療研究センター)(https://kokoro.ncchd.go.jp/)
3. 診察室で私がしていること
ここまで読んで、「カウンセリングは本人主体じゃないと効かない、本人が『困ってない』うちは引きずっていっても無駄、というのは分かった。でも、家族としては『早く何とかしたい』。本人が必要と感じる日まで、何もせずに待っているしかないんだろうか」と感じた方も多いのではないでしょうか。
「本人を連れて行けないなら、保護者だけでも相談を続けたい」「『待つ』あいだに家族として、関係性を壊さずにできることは何か」「療育もカウンセリングと同じで、本人主体じゃないと意味がないのか」「効かないと感じているけれど、見直していいタイミングが分からない」――本人を待つ時間の中で、家族は無力感に押しつぶされそうになります。
私は診察室で、本人が受診を拒否している間、まず「本人不在」での保護者だけの相談を受け付けるようにしています。
本人の「変わりたい」気持ちが芽生えるのを焦らず待つこと、療育も「本人主体」を大事にすること、感情を表現するスキルは時間がかかるという覚悟を保護者と共有すること、そして「効かないと感じたら、見直しのサイン」として一度立ち止まること――本人が助けを求める日のために、家族関係を壊さずに、布石を打ち続ける時期の伴走の仕方を、保護者と一緒に組み立てています。
ご家族で「本人が拒否しているうちに、何ができるか」と話すとき、カウンセラーや先生に「待つあいだの方針」を共有するときの「下敷き」として読んでもらえたらと思います。
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