「しんどさ」は心の叫び──薬で土台を整えてから心理支援につなぐ段階的アプローチ
こんなこと、ありませんか
「子どもが『しんどい、しんどい』と言うようになった。
最初は『気のせい』『甘え』だと思っていた。
でも、毎日のように『生きてるのがしんどい』『学校行きたくない』と泣く。
食欲もない。眠れない。すぐイライラする。
ネットで調べると『カウンセリングがいい』と書いてある。
児童精神科を受診した。
医師は『まず薬を試してみましょう』と言った。
『え、子どもに薬?』
『カウンセリングじゃないんですか?』
『薬でごまかすのは嫌なんですけど』
戸惑いながら、薬を始めた。
2週間後、確かに少し落ち着いた。
でも、根本的に何が変わったわけじゃない。
『これ、薬だけで治るんでしょうか?』」
これは、心が疲れ切った子のご家族が、よく感じる戸惑いです。
そして、私の答えは、
「薬は『治す』ためのものじゃありません。『心が休める土台を作る』ためのものです。
そして、土台ができてから、心理療法・カウンセリングで『根っこ』にアプローチします。
順番が大事なんです」
今日は、薬と心理療法をどう組み合わせるか、その順番についてお話しします。
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※本記事は児童精神科医の臨床経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の症例について断定するものではありません。お子さんの診断・治療・支援については、必ずかかりつけ医・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター等の専門職にご相談ください。
この記事の内容は、執筆者である児童精神科医が日々の診察で実際に保護者・本人に伝えている内容を、個人情報を完全に取り除いた上で再構成したものです。
1. 「しんどさ」をどう受け止めるか
「しんどい」は、わがままではない
子どもが「しんどい」と訴えるとき、家族は迷います。
これは本当のしんどさ?
それともわがまま?
どこまで真に受けるべき?
私は、診察室でこう伝えています。
「お子さんの『しんどい』は、心の叫びです。わがままで言える子もいますが、繰り返し訴えるしんどさは、本物の心の限界のサインです」
特に、感情の言語化が苦手な子(ASD系、繊細な子)は、自分の状態を細かく説明できません。
「ちょっとイライラしてる」「不安が強い」「人に会いたくない」――こういう内面を、すべて「しんどい」という一語にまとめて表現する。
それを「具体的に言いなさい」と詰めても、本人は答えられません。
「しんどい」=本人の心の限界サインとして受け止めるのが、出発点です。
心の限界の見分け方
「これは治療が必要なしんどさかも」という目安:
食欲がない、または異常に増える
眠れない、または眠りすぎる
朝起きられない
学校に行けない、または行ってもぐったり
涙が止まらない
「死にたい」「消えたい」という発言
自傷行為(腕を傷つける、髪の毛を抜くなど)
急に成績が下がる
友達との交流がなくなる
大好きなことに興味を失う
これらが2週間以上続いているなら、医療相談のタイミングです。
2. 「薬」と「心理療法」のそれぞれの役割
薬は「土台」を作る
薬の役割は、心が壊れないための土台を作ること。
不安が強すぎて、何もできない → 不安を下げる
眠れなくて疲労困憊 → 眠れる体にする
抑うつで動けない → 動けるレベルまで持ち上げる
強迫症状で生活が回らない → 症状を減らす
「薬で症状をゼロにする」のが目的ではありません。
「症状を、心理療法を受けられるレベルまで下げる」のが目的です。
心理療法は「根っこ」にアプローチする
心理療法・カウンセリングの役割は、症状の根っこにアプローチすること。
なぜ不安が強くなったのか
どんな対人関係の癖があるのか
どんな考え方の偏りがあるのか
どんな経験が今のしんどさに繋がっているのか
これらは、薬では変わりません。
言葉で、関係性の中で、ゆっくり整えていく作業です。
両方が必要なことが多い
薬だけ → 症状は和らぐが、根っこは変わらない
心理療法だけ → 効果が出るまで本人が耐えられない
両方の組み合わせ → 一番安定して回復に向かう
軽症なら心理療法だけで十分なこともあります。
中等症以上は、薬で土台を作ってから心理療法――これが標準的な流れです。
「順番が大事」と頭で分かっても、わが子の場合はいつ薬を始め、いつカウンセリングに進めばいいのか――その判断は家族だけでは難しいものです。次の章では、私が診察室で保護者と一緒に「順番」を組み立てるときに伝えていることを、お話しします。
出典・参考情報
こどもの心の診療ネットワーク事業(厚生労働省/中央拠点:国立成育医療研究センター)(https://kokoro.ncchd.go.jp/)
日本不安症学会/日本神経精神薬理学会 診療ガイドライン(社交不安症・パニック症・強迫症)(https://jpsad.jp/manual.html)
3. 診察室で私がしていること
ここまで読んで、「『しんどい』が本物の心の限界サインで、薬と心理療法の役割が違うというのは分かった。でも、わが子の場合、いま薬から始めるべきなのか、それともカウンセリングからなのか――家族としてどう判断したらいいんだろう」と感じた方も多いのではないでしょうか。
「薬を使うことに抵抗がある」「カウンセリングを始めるベストなタイミングが分からない」「本人がもう疲れすぎて、心理療法すら受けられそうにない」「漢方薬で様子を見るという選択肢はあるのか」――しんどさを抱えた子の前で、保護者は治療の入口で迷います。
私は診察室で、心がしんどい子の保護者と、最初に「順番」を合意することから始めます。
「薬の最終目標は、薬を卒業すること」と最初に共有しておくこと、カウンセリングを始めるタイミングを症状の波と相談しながら見極めること、心の余力ゼロのときは薬よりも「休養」を最優先にすること、まず漢方薬から試す選択肢を提示すること、そして「薬で眠れるようになっただけ」では足りないこと――薬と心理士、両方を「育てていく」発想で、保護者と一緒に治療を組み立てています。
ご家族で「うちの子の治療をどう組み立てようか」と話すとき、カウンセラーや先生に「治療の方針」を共有するときの「下敷き」として読んでもらえたらと思います。
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