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会計が読めない社長は、いつかドツボにハマる——丸投げしていい仕事と、してはいけない仕事

「会計は、苦手で。税理士さんに、全部お任せしてます」。

経営者から、よく聞く言葉だ。悪気はない。むしろ、「餅は餅屋」と、賢い判断のつもりでいる。でも——私は、この一言が、いつか会社を傾ける入口になる、と思っている。

今日は、少し厳しい話をする。社長が会計を「丸投げ」すると、なぜドツボにハマるのか。 そして、全部を自分でやる必要はない中で、社長だけは、何を握っておくべきなのか。 その線引きの話だ。

税理士は「作る」プロ。社長は「使って判断する」人

まず、大事な前提を、はっきりさせたい。税理士は、悪者ではない。むしろ、なくてはならない専門家だ。

ただ、役割が違う。税理士は、決算書を"作る"プロだ。正確に、法律に沿って、数字をまとめてくれる。これは、高度な専門技術で、任せるべき仕事だ。

でも——その決算書を"使って、経営判断する"のは、誰か。社長だ。 ここを、税理士は代わってくれない。「この借入は、返済で資金が尽きますよ」「そのプロジェクトは、間接費の按分で判断を誤ってますよ」「今期の赤字は、中身が健全だから、銀行にこう説明しなさい」——こういう"判断"は、経営の領域であって、税理士の仕事の外だ。

つまり、決算書を作るのは税理士でいい。でも、その数字を読んで、舵を切るのは、社長にしかできない。 そこを丸投げすると、誰も舵を握っていない船になる。

丸投げすると、何が起きるか

会計を読めない社長が、実際にハマる落とし穴を、並べてみる。どれも、この研究所で、一つずつ書いてきたものだ。

元本返済を、見落とす。 元本の返済は、損益計算書(PL)に出てこない。だから、PLだけ見て「黒字だ」と安心していると、元本返済で現金が消え、口座が枯れる。黒字倒産の入口だ。

見かけの赤字で、優秀な事業を切る。 減価償却や、按分した本社費で、帳簿上だけ赤字に見えるプロジェクトを、「赤字だ」と切ってしまう。でも、それらは切っても消えない費用(埋没費用)で、切ればかえって損をする。

「節税」で、自滅する。 借入があるのに、「税金がもったいない」と利益を圧縮する。でも、元本は税引後の利益から返すのだから、利益を消せば、返済原資も消える。小さな節税で、大きな資金繰り破綻を招く。

削る場所を、間違える。 苦しくなったとき、売上に紐づいた現場の費用から削ってしまう。すると売上も一緒に減り、「削る→売上減→また赤字→また削る」のジリ貧ループに入る。

銀行に、説明できない。 健全な赤字(減価償却による赤字など)でも、その中身を会計の言葉で説明できないと、銀行に不安を与え、貸し剥がされかねない。逆に説明できれば、赤字でも信用される。

——これらは、すべて「数字の読み方」を知っていれば、避けられた。でも、丸投げしていると、気づいたときには、もう手遅れになっている。

とはいえ、全部を自分でやる必要はない

ここで、誤解してほしくないことがある。「じゃあ、社長も簿記を覚えて、自分で記帳しろ」——そういう話では、まったくない。

日々の仕訳や、細かい記帳、税務申告。こういう"作る"作業は、税理士や経理に、任せていい。むしろ、任せるべきだ。社長が、領収書の入力に時間を使うのは、もったいない。

握るべきは、「読み方」の勘どころだけだ。細かい計算はできなくていい。でも、決算書を見たときに、「この会社は、いま、どういう状態か」を、大づかみに読めること。それだけで、経営の景色が、まるで変わる。

社長が「読める」べき、4つの数字

具体的に、これだけは握っておきたい、という4つを挙げる。難しい簿記の知識は要らない。それぞれ、"何を教えてくれる数字か"が分かれば、十分だ。

① PL(損益計算書) ——「儲かっているか」を教えてくれる。ただし、利益と現金は別物。PLが黒字でも、現金がないことはある。

② BS(貸借対照表) ——「体力があるか」を教えてくれる。会社にどれだけの資産と借金があり、自己資本(体力)がどれだけあるか。器の中身が、本物か。

③ キャッシュフロー(お金の流れ) ——「現金が回っているか」を教えてくれる。PLに出ない元本返済も、ここには現れる。黒字倒産を防ぐ、最後の砦。

④ 減価償却 ——「現金が出ない費用」の正体。これが分かると、赤字の"中身"を見分けられ、返済原資も計算できるようになる。

この4つの"読み方"を握れば、さっき挙げた落とし穴は、ほとんど避けられる。逆に言えば、この4つを人任せにしている限り、経営の舵は、自分の手にない。

🔍 深掘りメモ:会計は、経営の「共通言語」である

なぜ、社長が会計を読めると強いのか。それは、会計が、経営の「共通言語」だからだ。 銀行と話すときも、投資家と話すときも、幹部と事業の是非を議論するときも——共通の土台になるのは、数字だ。会計を読めない社長は、その議論の場で、通訳(税理士)がいないと、何も言えない。読める社長は、自分の言葉で、会社の状態を語れる。「この赤字は、減価償却によるもので、キャッシュフローはプラス、返済原資は確保できています」——こう言える社長と、「いやぁ、今期は赤字で…」としか言えない社長。銀行が、どちらを信用するかは、明らかだ。 そして、税理士を「敵」にしてはいけない。むしろ、いい税理士は、最強の相棒になる。ただし、それは、社長自身が数字を"読める"うえで、対等に議論できるときの話だ。丸投げの相手ではなく、共に会社を良くする相棒として、税理士と向き合う。そのためにも、社長は、会計の「読み方」を、握っておく。

いい税理士と、どう付き合うか——「なぜ?」を、投げ続ける

では、その相棒である税理士と、どう付き合えばいいのか。答えは、シンプルだ。「なぜ?」を、投げ続けること。

いい税理士とは、社長の「なぜ、こうなるんですか?」という問いに、明確に答えてくれる人だ。そして、いい社長とは、答えを丸ごと預けてしまう人ではなく、素直に「なぜ?」と問い続ける人だ。たとえ、答えをある程度分かっていても、あえて「何も分からない一人の人間」として、問う。その姿勢が、いい相棒関係を作る。

ここで、よく知られた例え話を、一つ。

漢の劉邦は、自分が特別に有能な人間ではない、と分かっていた。だから、蕭何や張良、韓信といった有能な部下を信じ、彼らの話を、よく聞いた。一方、項羽は、自分の武の強さを過信して、たった一人の名参謀の助言すら、聞かなかった。天下を取ったのは——"素直に人を頼れた"劉邦のほうだった、という話がある。

ただ、ここで勘違いしてはいけない。「有能だから、人を頼らなくていい」わけでは、ない。たとえば曹操は、自らも図抜けて有能だったが、それでも有能な参謀を集め、その声に耳を傾けた。つまり、「人を頼れるか」は、「自分ができるか」とは、別の力なのだ。

できる社長ほど、項羽になる誘惑がある。「経営は分かっている」「会計くらい、任せておけばいい」と、専門家の声を、素直に聞けなくなる。でも——有能でも、いや、有能だからこそ、"なぜ?"と、素直に問える人でありたい。会計を握るというのは、一人で抱え込むことではない。読める力を持ったうえで、相棒に、いい問いを投げられるようになる、ということだ。

まとめ:今日持ち帰る3つ

  1. 税理士は決算書を"作る"プロ、社長はそれを"使って判断する"人。 判断まで丸投げすると、誰も舵を握らない船になる。

  2. でも、全部を自分でやる必要はない。 細かい記帳は任せていい。握るべきは「読み方」の勘どころだけ。

  3. 社長が読めるべきは4つ——PL・BS・キャッシュフロー・減価償却。 これで、元本の見落とし・見かけの赤字・節税での自滅・削る場所の間違い・銀行への説明不足を、避けられる。

会計は、社長を縛るものではない。むしろ、社長を、自由にする。数字が読めれば、怯えずに借りられ、迷わず投資でき、堂々と銀行と話せる。丸投げの不安から、抜け出せる。

難しい簿記を、覚えなくていい。まず、決算書を"読む"ところから。会社を長く続けたいなら、そこは、人任せにしないでほしい。決めるのは——そして、読むのは、あなただ。

▼この続きは、各テーマで(マガジン「会社を、長く続ける。」)

この記事は一般的な考え方の解説であり、個別の会計・税務の助言を目的とするものではありません。具体的な判断は、必ず顧問税理士など専門家にご相談ください。

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