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「毎月50万返済」に、50万の利益では足りない——借入を、何で判断するか

会社を経営していると、お金を借りる場面が来る。そして、借りたあとに、静かに苦しくなる会社と、平然と返していく会社に、はっきり分かれる。

その差は、才能でも運でもない。**「借入を、何の数字で判断するか」**を知っているかどうか、それだけだ。今日は、多くの社長がどんぶり勘定でつまずく、この一点を、順を追って解いていく。特に、ワンマン経営者ほど、これは効く。速く決められる人ほど、借入だけは、慎重に測ってほしい。

まず、借りると「財布の紐」が緩む

お金を借りると、銀行口座の残高が、ドンと増える。ここに、最初の落とし穴がある。

残高が増えると、人は無意識に、それを"自分のお金"だと感じてしまう。気が大きくなって、要らない設備を買ったり、経費が緩んだりする。でも、借りたお金は、口座に入った瞬間も、期限付きで預かっている、他人のお金だ。返す日が、必ず来る。

だから、残高の膨らみに、判断を預けてはいけない。見るべきは、残高という"点"ではなく、「毎月、ちゃんと利益が残っているか」という、PL(損益計算書)の流れだ。残高の膨らみは錯覚。PLの利益が、実力だ。

落とし穴①——元本の返済は、PLに出てこない

ここからが、本題だ。多くの社長が見落とす、決定的な事実がある。

毎月の返済は、「元本」と「利息」に分かれる。このうち——

利息は、経費になる。 だからPLに「支払利息」として出てくる。 元本は、経費にならない。 だからPLには、どこにも出てこない。

なぜ、元本は経費じゃないのか。借りたお金を返しているだけで、"費用"ではないからだ(借りたときも、売上ではなかったのと同じ)。でも——お金は、実際に、毎月出ていく。

ここに、恐ろしいズレが生まれる。PL上は黒字なのに、元本返済で現金が消えて、口座が枯れていく。 たとえば、月の利益が30万円出ている(PLは黒字)。でも、元本返済が毎月40万円ある。すると、毎月10万円ずつ、現金が減っていく。PLを見て「黒字だ、順調だ」と思っているのに、口座は静かに干上がる。これが、「黒字倒産」と呼ばれるものの、正体の一つだ。

落とし穴②——元本は「税引後の利益」から返す

もう一段、深い話をする。ここが、いちばん大事だ。

元本は経費にならない。ということは、元本は**「税金を払った後に残った利益」から**返すことになる。この意味を、具体的な数字で見てみよう。

毎月50万円の返済があるとする。内訳は、利息1万円、元本49万円。

「じゃあ、月に50万円の利益があればいい」——そう思いがちだ。でも、違う。利息1万円は経費で引けるが、元本49万円は、税引後の利益から出す。仮に法人税等をざっくり20%とすると、税引後に49万円を残すには、税引前で:

 49万円 ÷ (1 − 0.2) = 約61万円

の利益が要る。利息1万円と合わせれば、毎月およそ62万円の営業利益がないと、返済で現金が減っていく。「50万返済だから50万の利益」では、12万円、足りないのだ。

年間で見ると、もっとはっきりする。仮に月50万円(年600万円)の利益を出したとする。利息(年12万円)を引いた588万円が課税対象。税20%で約118万円が税金。手元に残るのは約470万円。でも、返す元本は、年間で49万円×12=588万円470万円しか残らないのに、588万円返す。毎年118万円、現金が足りなくなる

返済額より、多く稼がないと、返済しきれない。 税金がある限り、これは避けられない構造だ。

スケールが大きいほど、この差は爆発する

月50万円の返済で、差が年12万円。これくらいなら、まだいい。でも、借入が大きくなると、この差は、桁が変わる。

仮に5億円を借りて、年5000万円ずつ元本を返すとする。この5000万円を税引後で残すには、税引前で:

 5000万円 ÷ (1 − 0.2) = 6250万円

つまり、元本を返すためだけに、税金分1250万円を上乗せして稼がないといけない。実効税率をもっと厳しく見れば、上乗せは2000万〜3000万円にもなる。借入が大きい会社ほど、この"見えない重り"が、億単位でのしかかる。

だから、いちばん危ないのは「節税信仰」

ここまで来ると、ある恐ろしい矛盾が見えてくる。

多くの社長は、「利益が出ると税金を取られる、もったいない」と考える。決算前に経費を使いまくって、利益を圧縮する。「うちは利益率を低く抑えてます、節税です」と、得意げに言う。

でも——借入がある会社が、これをやると、自分の首を絞める。

元本を返す原資は、"税引後の利益"だった。利益を無理に圧縮すれば、税金は減る(節税成功、と本人は思う)。でも、税引後に残る利益も、一緒に減る。その減った利益から、経費にならない元本を返さないといけない。つまり——節税で利益を消した瞬間、返済原資が、消える。

税金を惜しんで数百万円浮かせたつもりが、数千万円の元本返済で、現金が回らなくなる。小さな節税を取りに行って、資金繰り破綻という、大きな死を招く。

だから、こう覚えておきたい。無借金なら、節税もいい。 利益を使い切っても、返すものがないから、困らない。でも、借入があるなら、話は逆。利益を、しっかり残す体制にしないといけない。 借金があるほど、利益を残すことが、生死を分ける。

これは、この研究所で書いてきた「利益を残す」という話の、いちばん切実な理由だ。国と社長が「利益を残す」で同じ方向を向くのも、ダムに水を貯めるのも、突き詰めれば、この一点につながっている。

では、何を見て、借入を判断するか

残高でもなく、PLの利益だけでもない。借入を判断するには、次の3つを見る。

ひとつ、返済予定表(償還表)。借りたときに銀行がくれる、完済までの一覧表だ。「毎月、元本いくら・利息いくら・残高いくら」が、全部書いてある。借りる"前"に、これで総返済額(利息込みでいくら払うのか)を頭に入れる。

ふたつ、資金繰り表。PLが"利益"の流れなら、こちらは"現金"の流れ。月初残高+入金−(経費+元本+利息)=月末残高、を並べるだけでいい。PLに出ない元本返済も、ここには現れる。「利益は出てるのに、なぜ現金が減るのか」の答えが、ここで見える。

みっつ、債務償還年数。プロが返済能力を測る、いちばん本質的な指標だ。計算式はこうだ。

 債務償還年数 = 借入金 ÷ (税引後利益 + 減価償却費)

「いまの稼ぐ力で、借金を返しきるのに何年かかるか」を表す。目安は、7年以内なら健全、10年で上限、10年を超えると危険とされる。分母の「税引後利益+減価償却費」——ここに、今日話した全部が詰まっている。元本は税引後から返すこと、そして、減価償却費は経費だが現金は出ないので、返済に回せること。

🔍 深掘りメモ:「月商の何倍まで」の、本当の意味

借入の目安として、よく「月商の3〜4倍まで健全、6倍で危険」と言われる(借入金月商倍率)。手軽で分かりやすい。でも、この指標には弱点がある。月商はPLの概念、借入はBSの概念で、そもそも土俵が違う。同じ月商でも、利益率が10倍違えば、返済能力はまるで別なのに、月商倍率はそこを無視してしまう。 だから、月商倍率は「入口の簡易チェック」と割り切り、本当の判断は、上の債務償還年数(=返済原資で見る)で行うのが正しい。利益を残さない会社は、この分母が小さくなって、償還年数が伸び、同じ月商でも「危険」と判定される。「利益を残せ」が、ここでも効いてくる。

ケースで考える——年商14億、利益7000万、借入8億

具体例で、この物差しを使ってみよう(数字は、考え方を示すための仮のもの)。

ある会社が、年商14億円、利益7000万円で、8億円を借りた。これは、返せる限界だろうか。

まず、月商倍率。月商は約1.17億円。8億 ÷ 1.17億 ≈ 6.8倍。目安の「6倍で危険」を超えている。この指標だけ見ると、「限界」に見える。

でも、債務償還年数で見ると、景色が変わる。鍵は、減価償却がいくらあるかだ。

もし、この8億円のうち5億円が、ソフトウェア(無形固定資産で、償却の対象)への投資だったとする。仮に5年償却なら、年間1億円の減価償却費。すると返済原資は、税引後利益(7000万の約8割=5600万)+償却1億=約1.56億円。8億 ÷ 1.56億 ≈ 約5年。これは「7年以内=健全」の範囲に入る。

つまり、同じ8億でも、"何に使い、どれだけ償却があるか"で、危険にも健全にも見える。減価償却の少ないサービス業なら限界だが、償却の大きい設備型なら、意外と回る。

ただし——ソフトウェアには、別の注意がある。そのソフトが、本当に売上を生んでいるかだ。BSには「5億円の資産」と乗っていても、実際に稼いでいなければ、償却(費用)だけが進んで、返済原資(利益)は細っていく。しかも、ソフトは担保にならず、いざというとき換金できない。BSに乗った5億円が、本物か——ここは、決算書シリーズでいつも言っている「器の中身を見よ」と、同じ話だ。数字が健全に見えても、資産の"中身"が空なら、話は変わる。

まとめ:今日持ち帰る3つ

  1. 元本返済は、PLに出てこない。しかも"税引後利益"から返す。 だから「50万返済=50万の利益」では足りない。税金の分だけ、多く稼がないといけない。

  2. 借入があるなら、利益を残す体制に。節税で利益を圧縮すると、返済原資が消える。 無借金なら節税もいいが、借金があるほど、利益を残すことが生死を分ける。

  3. 判断は、残高でも月商倍率でもなく「債務償還年数」で。 借入 ÷(税引後利益+減価償却)。7年以内なら健全、10年超は危険。そして、その裏でBSの資産の"中身"が本物かも、必ず見る。

止まって、数字で測ってほしい。決めるのは、あなただ。


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この記事は一般的な考え方の解説であり、個別の財務・税務の助言を目的とするものではありません。税率・目安の数値は一般的なもので、業種・規模により異なります。具体的な借入・返済の判断は、必ず顧問税理士など専門家にご相談ください。

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