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そのプロジェクト、本当に赤字ですか——「按分」が、優秀な事業を殺すとき

会社が苦しくなると、どこかで、こんな会話が始まる。

「このプロジェクト、赤字だ。人を減らすか、外注を切るか、どっちかだな」。

損益の表を見れば、たしかに赤字になっている。だから、切る。減らす。——でも、ちょっと待ってほしい。その赤字は、本当に、そのプロジェクトのものだろうか。 今日は、多くの会社が、優秀な事業を、自分の手で殺してしまう——その「按分」という落とし穴の話をする。

ネットで「管理会計」を調べると、罠にはまる

プロジェクトごとの採算を見よう、と思って、「管理会計」を調べると、たいていこう書いてある。「会社全体でかかる費用(本社家賃、管理部門の給料、利息など)を、各プロジェクトに、売上比などで割り振りましょう」。これを、按分(配賦)という。

これ自体は、間違いではない。会社全体のコストを、漏れなく各事業に割り当てて、全体像を把握する——財務的には、正しい作業だ。

でも——この"全部を按分した数字"を見て、プロジェクトを切るかどうかを判断すると、大きく間違える。 ネットの記事は、たいてい「按分のやり方」までしか教えてくれない。「その数字を、どういう場面で使っていいのか」を、教えてくれない。そこに、罠がある。

本当の管理会計は、「タイミング」で姿を変える

管理会計のいちばん大事なことは、実はこうだ。「何のために数字を見るのか」によって、含めるべき費用が、変わる。

  • 会社全体を、俯瞰したいとき(平常時)。→ 按分して、全部の費用を乗せて見る。「このプロジェクトは、本社コストまで背負って、最終的に会社に貢献できているか」を長い目で見るのに、役立つ。この使い方は、正しい。

  • プロジェクトを、続けるか・切るか判断したいとき(緊急時)。→ 按分を、外す。間接費(家賃・管理部門・利息)は、そのプロジェクトを切っても、消えないからだ。

ここが肝心だ。同じプロジェクトの数字が、"何を知りたいか"で、姿を変える。「按分は常に正しい」でもなく、「按分は常に間違い」でもない。平常時はよくて、緊急時は絶対にダメ。 苦しいときほど、按分された赤字に、判断を殺されてはいけない。

なぜ、緊急時に按分してはいけないのか。以前、減価償却の話で書いた「埋没費用」と、まったく同じ構造だからだ。切っても消えない費用を、判断に混ぜてはいけない。プロジェクトを切って消えるのは、そのプロジェクトの直接費だけ。家賃も、本社の人件費も、利息も、残る。それを残ったプロジェクトが、より重く背負うだけだ。

判断は、「貢献利益」で行う

では、切るか・続けるかは、何で判断するのか。**貢献利益(と、貢献利益率)**だ。

 貢献利益 = 売上 − そのプロジェクトの直接費

間接費を引く"前"の、この数字を見る。これが「そのプロジェクトが、会社全体に、いくら貢献しているか」だ。目安としては、貢献利益率(貢献利益 ÷ 売上)が、20%出ていれば優秀。10%でも、十分にやっていける。 この率を見て、「伸ばすのか、率を改善するのか、それでもダメなら切るのか」を判断する。

ここで、ひとつ注意がある。利益率と、利益額は、別の問題だ。たとえば、広告費をかければ、売上が伸びて、利益"額"は増えるかもしれない。でも、広告費という直接費が増えるぶん、利益"率"は下がる。しかも、広告の効果は、長い目で見ないと分からない。だから、「率で見るか、額で見るか」「短期で見るか、長期で見るか」——ここは、経営者がいちばん悩む、腕の見せどころになる。数字は、一つの物差しだけでは、語れない。

🔍 深掘りメモ:プロジェクトは「投資」として、回収で見る

もう一歩、経営者らしい見方をしよう。プロジェクトを、"投資"として捉える。「いくら投じて、何年で回収するか」だ。 たとえば、あるソフトウェアに、初期投資1000万円。5年で回収したいなら、年200万円を生めばいい。月の運営費が100万円、月の利益が20万円(年240万円)だとすると——1000万円 ÷ 240万円 ≒ 約4.2年で回収。5年以内に収まる。利益率2割弱で、これは十分に「アリ」な投資だ。 しかも、ここに、今日までの話が効いてくる。その初期投資1000万円は、減価償却として、5年かけて費用計上される(年200万円)。つまり、PL上の「年240万円の利益」は、すでに減価償却を引いた後の数字だ。実際に手元に残る現金は、利益240万円 + 減価償却200万円 = 年440万円。キャッシュで見れば、1000万円 ÷ 440万円 ≒ 約2.3年で回収できている。 だから、「PL上の利益が、もっと低くても」、投資としては十分に回っていることがある。プロジェクトの生き死には、見かけの損益ではなく、"投資をキャッシュで回収できているか"で見る。ここまで見られると、按分された赤字に、簡単には騙されなくなる。

矢印を、逆に向ける——「本社費で赤字」なら、本社を疑え

そして、この記事で、いちばん言いたいことを言う。

あるプロジェクトが、貢献利益率20%で、ちゃんと稼いでいる。なのに、本社費(家賃・管理部門・役員報酬・利息)を按分したら、赤字になった。——このとき、多くの会社は、こう考える。「このプロジェクトは、本社費を賄えていない。だから、ダメだ。切ろう」。

でも、矢印は、逆かもしれない。

現場は、20%という、立派な貢献利益率を出している。それを食い潰して赤字にしたのは、現場が判断していない費用——管理部門の人数も、本社の家賃も、借入をするかどうかも、役員の報酬も、士業への報酬も、現場は決めていない。だとしたら、問われるべきは、現場ではなく、その間接費を作った本社(経営陣)のコスト構造ではないか。

たとえば、月商が5000万円ほどの会社で、本社の家賃(社宅などを含む)が、月に200万円を超えていたとする。売上の数%が、家賃だ。それは、現場が決めた費用だろうか。それとも、経営側が決めた費用だろうか。現場のプロジェクトを"赤字"に見せていたものの正体が、実は経営側のコストだった——そういうことは、珍しくない。

「按分したら赤字」を、現場のせいにするのは、簡単だ。でも、率が出ているのに赤字なら、まず疑うべきは、本社の身の丈だ。以前、社員の話で「社員が動かないのは、仕組みを作らなかった経営側の設計ミス」と書いた。これは、その会計版だ。赤字の責任を、安易に現場に回す前に、経営者は、自分のコスト構造を、鏡で見なければいけない。

まとめ:今日持ち帰る3つ

  1. 按分した数字で、プロジェクトを切ってはいけない。 管理会計は「何のために見るか」で、含める費用が変わる。俯瞰は按分あり、判断は按分なし。切っても消えない間接費(埋没費用)を、判断に混ぜない。

  2. 判断は、貢献利益(直接費のみ)で。 貢献利益率20%で優秀、10%でOK。さらに、プロジェクトを"投資"として、キャッシュでの回収年数で見ると、見かけの赤字に騙されにくい。

  3. 率が出ているのに、按分で赤字なら——疑うのは、現場ではなく、本社のコスト構造。 赤字の正体が、経営側の身の丈のことは、珍しくない。

按分は、道具だ。全体を俯瞰するには役立つが、事業の生き死にを判断する場面で持ち出すと、優秀な事業を、自分の手で殺しかねない。数字を、"何のために見るのか"。それを間違えないことが、会社を、長く続けさせる。

そのプロジェクトは、本当に赤字ですか。切る前に、もう一度、直接費だけで、見てみてください。決めるのは、あなただ。

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この記事は一般的な考え方の解説であり、個別の会計・経営の助言を目的とするものではありません。具体的な判断は、必ず顧問税理士など専門家にご相談ください。

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