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初音ミク見せびらかす アフリカ沸かせるアジアのマンガ

【連載】アジアコンテンツがすごい 第6回

ルーディムス 株式会社
COO 古里 卓巳

アフリカ、と聞くと何を思い浮かべますか。ライオンやゾウなどの野生動物、独特な民族衣装や風習、身体能力の高いスポーツ選手などを想像するかもしれません。実は、遠く離れたこの大陸にも、日本をはじめとするアジアのコンテンツが進出しています。現地で状況を探ってきました。今回は入門編として、南アフリカ共和国のお話を紹介します。

ヨハネスブルク市内のモール(筆者提供)

日本からおよそ1万4000キロ、飛行機を乗り継ぐこと20時間あまりのアフリカ大陸南部に、南アフリカの経済都市であるヨハネスブルクがあります(首都ではありません)。
 
アジアによく行く人なら、都市の至る所に大規模なショッピングモールがそびえる光景を想像できると思います。ヨハネスブルクも同じです。規模や価格帯など、さまざまなモールが立ち並んでいます。

来客でにぎわうモール(筆者提供)

私は仕事上(個人的興味も)、そこで営業するテナントや商品を見て回るのが大好きなのですが、アジアのコンテンツを探すなら向かうべきは書店です。市内に店舗をいくつか持っているExclusive BooksEstoril Booksというお店には、しっかりとしたマンガコーナーがあり、ひと棚を丸々使って大量のマンガが陳列されていました。
 
海外では特に根強い人気を誇る『ドラゴンボール』『進撃の巨人』をはじめ『ブルーロック』『SPY × FAMILY』『鋼の錬金術師』など、日本でもおなじみの人気タイトルがそろいます。また、韓国のウェブトゥーン『俺だけレベルアップな件』なども置いてあります。
 
ただ、どれも高い!
1冊当たり450ランド(約4200円)ほどと、子供が手に入れるのは容易ではありません。
 
なお、書店が入るようなショッピングモールは主に中所得者以上向けで、低所得者の居住地区のモールではあまり見かけません。それらは、テナントの半分以上が服や靴の店で占められているのも面白い特徴です。

モール内の書店(筆者提供)
日本のマンガ『SPY × FAMILY』(筆者提供)
韓国のウェブトゥーン発の作品『俺だけレベルアップな件』(筆者提供)

車体に初音ミク
「痛車」見せびらかす

次はイベントのご紹介をしたいと思います。意外に思われるかもしれませんが、アフリカの新興国であってもゲームやアニメのイベントは定期的に開催されています。

現地のゲームイベント(筆者提供)

その中の一つ「Really Awesome Gaming Expo(rAge)」では、日本のコンテンツを数多く見つけることができました。
 
2002年ごろから開催しているゲームを中心としたイベントですが、イラストレーターがマンガキャラクターの自作ファンアートを販売していたり(間違いなく許可はとってない)、地元のアニメ・ゲームショップがポップアップストアを出していたり(レアな香港版『スーパーマリオブラザーズ』のゲームソフトを売っている)、「このキャラクター彫りまっせ」という看板を掲げたタトゥー屋などが見られます。
 
また、日本の痛車文化(いたしゃ。アニメやゲームの絵柄をデザインした車)をそのまま持ち込み「初音ミク」仕様の車を展示する猛者(もさ)もいました。
 
これが、東南アジアや欧州でのコンテンツ系のイベント会場になると、独特のおにぎりやラーメンを提供する屋台が会場に出回るのですが、まだ南アフリカはそこには至っていないようで、ビールやソフトドリンクを提供するスタンドが散見されるのみでした。

初音ミクの痛車(筆者提供)
自作のファンアートを販売(筆者提供)

アジアの食文化
即席めんも有望

コンテンツの話題からは少し外れますが、サブサハラ(サハラ砂漠以南の地域)では、インドネシアの即席めんメーカーであるインドフードCBPスクセス・マクムールの「インドミー」が勢力を拡大。街中にインドミースタンドができるほどで、ナイジェリアなどでは国民食と言ってもよいほど広く流通しています。
 
圧倒的な人気を誇るのはチキン味!
 
他のフレーバーはないかと色違いの袋を見ても「チキン味(辛口)」「チキン味(ライム風味)」ばかりで、ナイジェリア人のチキン至上主義を目の当たりにすることができます。
 
一方、南アフリカではスイス・ネスレ社の「マギー」や米系「ケロッグ・インスタントヌードルズ」などが幅を利かせており、ビーフやホット&スパイシー、チーズなどのフレーバーのものがスーパーで山積みされているという状況で、アジアの即席めん文化の展開にはまだ少し時間がかかりそうな印象がありました。
 
ただ、日本アニメや韓国ドラマを観た若者を中心とする消費者が興味を抱くようになるのも確実です。今後はコンテンツを通じたアジア食文化の展開がより重要になっていくと私は感じます。5年、10年後には南アフリカでもみんながカップ麺を食べているという光景が広がっているかもしれません。

「マギー」ブランドの即席めん(筆者提供)

「ハリウッドより感情移入」
人種差別を感じさせない

よく考えてみると、日本からの移民はほとんどおらず、在留邦人も1000人ほどと数が少ない南アフリカの社会において、アニメ、マンガ、ゲームといった日本文化が受け入れられているのは驚くべきことです。
 
アジア系の民族で最も多いのはタミル人やグジャラート人などのインド系。ダーバンを中心に約130万人といわれます。日本でもヒットした、印ボリウッド映画『RRR』などは現地でも公開され、インド系住民を中心に多くの人が劇場に足を運んだようです。
 
英語が通じること、インドにはない多様な景観があることなどから、ボリウッドムービーのロケ地として南アフリカがよく選ばれ、とても強い結びつきがあります。
 
また、インド系住民と同じく、19世紀のゴールドラッシュ時代に広州や福建などからやってきた中国人の子孫は、およそ30~40万人いるとされています。ヨハネスブルク東部の地区シリルディーンに大規模なチャイナタウンを形成している他、市内のあちこちに中国系のショッピングモールを確認することができます。
 
日本は、そのような「移民アドバンテージ」がほぼ存在しないにもかかわらず、2024年にはアニメ映画のワールドツアーの一環として『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』が32館で上映、約5万3000米ドルの売り上げを記録。現地の配給会社がスタジオジブリの特集上映を組むなど、日本コンテンツの存在感は着実に高まりつつあります。
 
もちろん、先に述べたマンガの高額化の傾向に加え、人口のおよそ9割を占めるアフリカ系住民の多くが低所得者層に属しており、日本コンテンツに触れる機会が相対的に限られているといった課題も多くあります。

アパルトヘイト(白人による黒人の人種隔離政策)が撤廃されて既に久しいですが、書店やイベントに見られる客層は白人やインド系とおぼしき人が多く、いわゆる黒人は2~3割という状況でした。
 
しかしながら、私が直接話を聞くことができた黒人のファンの中には、アニメやマンガにおける文化・人種のフラットさをとても好意的にとらえ、ハリウッド映画やアメコミよりもキャラクターに容易に感情移入することができる、と語ってくださった方もいらっしゃいました。
 
日本コンテンツのイベントの増加や劇場公開の拡大、若年層を中心とした関心の高まりなどを見ていると、可能性は確実に広がっていると感じます。
 
アフリカは遠い存在と思われがちですが、既にファンの芽は各地で育ち始めているのです。今後、配信やSNS、さらには食文化やライフスタイルとの結びつきを通じてどのように変化していくか。南アフリカは、日本をはじめとするアジアコンテンツの今後を考える上で非常に興味深い市場の一つと言えるでしょう。

日本やアジアのコンテンツは歓迎されている(筆者提供)

古里 卓巳(ふるさと・たくみ)
ルーディムス 株式会社 COO

主にアニメ・マンガ分野のリサーチやコンサルティングに従事。コンテンツ市場、産業について欧米や新興国の動向を調査している。国内外における飲みニュケーション力は業界一と自負。

ルーディムス 株式会社
公式サイト https://www.ludimus.co.jp/
X     https://x.com/ludimusinc


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