インドの子供に大ウケ 完全新作『おぼっちゃまくん』
ルーディムス 株式会社
COO 古里 卓巳
ゲームやアニメ、マンガといったコンテンツの調査・コンサルティングを行う、ルーディムスの古里と申します。われわれは世界中のあらゆる場所で日本のコンテンツがどのように受け入れられているかを調査し、私は主にアニメ・マンガを担当しております。今回はインドで大人気となった日本の少年ギャグマンガのお話です。
記事を読んでおられる皆さまが私と同世代の40代中盤なら、小学生向けのコミック誌『コロコロコミック』で連載し、アニメ化もしたマンガ『おぼっちゃまくん』をご記憶の方も多いかもしれません。
「ともだちんこ」
「いいなけつ」
「ぜっこうもん」
といったインパクトのあるギャグで知られます。
さすがに、この年齢になると使うことはありませんが「おはヨーグルト」「そんなバナナ」などは、ふとした瞬間にオヤジギャグとして出そうになるのを必死に止めている今日この頃です。
ところで、そんな私のような「おぼっちゃまくん世代」の中年が、ひょっとすると20~30年後のインドに大量発生するかもしれないことは皆さまご存じでしょうか。
実は今、インドのアニメ市場で『おぼっちゃまくん』がウケているのです。
コロナ禍で放映
人気に火が付く
登録者数642万人。ソニーピクチャーズ・インドがキッズ向けに展開する「Sony YAY!」のユ-チューブチャンネルのバナーには、現地でもおなじみの『NARUTO』やインド国産の人気シリーズ『ハニーバニー・カ・ジョルマール(Honey Bunny Ka Jholmaal)』とともに『おぼっちゃまくん』の姿を確認することができます。

(NNA撮影)
実は、インドにおける『おぼっちゃまくん』の放映は十数年前から既に始まっており、2014年ごろには有料チャンネル上で放映されていたことが確認できますが、ここ数年でその人気が特に高まってきているのです。
そのきっかけとなったのは、2020年前後のコロナ禍でした。Sony YAY!ではコロナ禍によって地元のアニメ作品の生産ラインが止まってしまい、その穴を埋める作品として購入されたのが『おぼっちゃまくん』だったというわけです。
シーズン1が放映されると瞬く間に人気作となり、何と今年インドで新作が放映されることになりました。
新作放映の話を知った時、最初に思ったのは「だ、大丈夫なの?」ということでした。
厳しい表現規制
新ギャグでしのぐ
インド市場における映像作品は、情報放送省の管轄によるThe Central Board of Film Certification (CBFC)のレーティング(視聴可能な年齢制限の設定)を受けねばなりません。
日本に比べて性表現に対する規制が厳しく、同作の数々の下半身ギャグがお上のお墨付きを得られるとは思えなかったのです。事実、インドでは08年に『クレヨンしんちゃん』が表現上の問題で放送を制限されるという事態が起こっています。
実際に放映された『おぼっちゃまくん』のエピソードを見てみると、果たせるかな「ともだちんこ」のシーンが削除されていたり、お尻を丸出しにする「いいなけつ」のシーンでは主人公の茶魔がパンツをはいていたりと、いろいろな改変がなされていました。
登場人物のうち貧乏なキャラクターという設定で、体の前半分だけ服を着て、後ろ半分は裸である「びんぼっちゃま」に至っては、下半身にぼかしが入っており、むしろ卑猥(ひわい)な感じになっていたのは皮肉というか何というか。
原作者の小林よしのり氏は、新シリーズの制作に当たり「ともだちんこ」に代わる「フレンドリッチ」というフレーズを新たに生み出して、インドの現地化(ローカライズ)に対応していくようです。

この新シリーズへの期待は高く、SNS上では「インド向けで、インドで制作するなんてすごい」「自殺を考えていたけれど『おぼっちゃまくん』がリリースされるのを思い出してとどまった」という声も見られます。
『おぼっちゃまくん』を歓迎するSNSの声(リンク)
<Reddit> https://www.reddit.com/r/animeindian/comments/1fpb942/yoshinori_kobayashis_obocchamakun_manga_gets_new/
<X> https://x.com/YippyYascal/status/1939423155329622424
<フェイスブック> https://fb.watch/BciJ49Qo9j/
<インスタグラム> https://www.instagram.com/p/DAco04Asmn4/?hl=en
国産、米系が先行
現地化にハードル
さて、インドへのローカライズと一言で言っても容易ではありません。
何せ人口は14億人超え、言語は120以上ある上、州ごとに法制が違うことを考えると、その手間は膨大なものになります。
また、東南アジアなどと比較すると日本アニメの力が弱く、エンターテインメント市場では国産コンテンツや米国系のマーベル、DCなどのコンテンツが幅を利かせており、参入障壁が高いという問題もあります。
それでもなお、アニメ会社がインドに注目するのは、それが市場として大きな成長の可能性があるからに他なりません。
ソニー系のアニメ配信会社のクランチロール(Crunchyroll)は24年、インド南部のハイデラバード市に新たなオフィスを開設しました。同社のラウル・プリニ(Rahul Purini)CEOは、インド市場を米国・日本に次ぐ大きな市場と考えている、と経済紙のインタビューに語っています(彼自身もインド系です)。
Sony YAY!の責任者アンベシュ・ティワリ(Ambesh Tiwari)氏も「過去4年間でアニメの消費は大幅に拡大しており、特にライセンス・マーチャンダイジング事業が成長している」と、述べています。
近年では、ハイデラバードやチェンナイ、ムンバイといった学生が多い都市でアニメイベントが開催されるなど、ファンコミュニティーも広がりを見せつつあります。
インドでも「アニメは子供が見るもの」という意識が、少しずつ変わってきているのです。

「人が多い国」から
「アニメ大国」へ
アニメを産業として育てていこうという動きも出ています。
24年には情報産業省が「Creative in India contest」というクリエイティブコンテストを主催。音楽や映画などと並んで、アニメーションが対象カテゴリーに加えられています。
コンテストで勝ち残ると、配信におけるIP(知的財産)管理のサポートの他、フランスや日本のアニメイベントへの派遣などの特典を得ることができます。今回は32のカテゴリーに、およそ10万件の応募があったようです。
同年からは他にも、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭と連携したイベント「AniMela Festival」がスタート。インド国内外のクリエイター、学生、専門家など約3500人が参加しました。
このようにインドにおけるアニメを巡る状況は、ここ数年で大きな変化を遂げていると言えるでしょう。
「何となく人が多いイメージのある国」から「近い将来、巨大なアニメ市場・産業を抱えるであろう国」へ。
『おぼっちゃまくん』の新作は、この変化の一つの象徴と言えるのかもしれません。

古里 卓巳(ふるさと・たくみ)
ルーディムス 株式会社 COO
主にアニメ・マンガ分野のリサーチやコンサルティングに従事。コンテンツ市場、産業について欧米や新興国の動向を調査している。国内外における飲みニュケーション力は業界一と自負。
ルーディムス 株式会社
公式サイト https://www.ludimus.co.jp/
X https://x.com/ludimusinc
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