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ミャンマー軍を怒らせた 民主派支援ゲームとは【新連載:アジアコンテンツがすごい】

ルーディムス 株式会社
代表 佐藤 翔

ルーディムス株式会社は、ゲーム・アニメ・マンガといったコンテンツの海外進出のお手伝いが専門のコンサルティング会社です。得意としているのは、東南アジアやインド、中東、中南米、アフリカといった新興国。現地のコンテンツ市場や産業がどのように発展・成長しているかを、表も裏の部分も含めて日本企業に伝えてきました。
連載では小社のゲーム担当の私と、アニメ・マンガ担当の古里卓巳の2名が案内人となり「アジアのコンテンツ産業の今」を皆さまにお伝えします。

最近アジアへ行くと、さまざまな場面でスマートフォンのゲームを遊ぶ人を見かけます。街中には中国や日本のアニメやゲームのポスターが張られ、ショッピングモールでeスポーツやコスプレのイベントを見かけることも増えてきました。その一方、現地のニュースではeスポーツや現地産のゲームやアニメなどもよく話題に上がるようになってきています。
 
コンテンツやメディアに直接関わっている人々にとどまらず、政治家や宗教家、財閥、さらには軍人、あるいは反体制派の人々のようなアジア各国の政治や経済に関わる人々が、ゲームやアニメについて言及し、利用することさえもあります。
 
社会貢献の目的でコンテンツが活用されることもあれば、犯罪や戦争に利用される事例も出てきています。今、アジアのコンテンツ産業に何が起きているのでしょうか?

敵はミャンマー軍
武装組織が主人公

2021年の軍事クーデター発生以来、ミャンマーは国軍司令官を議長とする国家統治評議会(SAC)が統治する軍事政権となっています。
 
クーデター後は全国で民主化を求める抗議デモが頻発しましたが、軍は実弾使用や逮捕といった強硬手段で押さえ込みました。民主派勢力は国民統一政府という組織を作り、軍事政権と対立しています。
 
この状況下で、ミャンマー民主派勢力を支援するために開発されたゲームがあります。
 
1人のゲームクリエイターが中心となり「GZ Entertainment」という組織を作って開発した、そのゲームの名は「War of Heroes - The PDF Game」
 
PDFは「People's Defence Force」の意。ミャンマー民主派勢力が参加する武装組織、国民防衛隊のことです。つまり、民主派勢力そのものが主人公になっているゲームというわけです。ゲームでは、プレイヤーは国民防衛隊の一員となり、さまざまなミッションを通じてミャンマー軍と戦います。

ミャンマーで開発された「War of Heroes - The PDF Game」(スクリーンショット筆者撮影)

特徴的なのは、このゲームで広告を見ると、プレイヤーはゲーム内のアイテムを入手することができるとともに、ゲーム開発者が得るその広告収益を民主派に提供できる仕組みとなっていることです。
 
Google Playでは50万以上のダウンロード数となっており、新興国発で大きな予算の付いていないモバイルゲームとしては、かなりの人数によってプレーされている事がうかがえます。
 
このゲームの存在は、ミャンマーの軍事政権にとっては非常に厄介なものだったようです。
 
ミャンマー軍政府は22年、スマホに当ゲームをインストールしている者に罰金を課し、広告を出す業者への処罰も命じています。実際、このゲームをプレーした人が逮捕される恐れもあるようです。
 
私もこのゲームの開発者をインタビューしましたが、ミャンマー軍に捕捉されないよう匿名性の高いオンラインのコミュニケーションツールを使ってやり取りしました。

ゲーム内で勧誘
アジア闇バイト

ミャンマーといえば、日本のメディアでも話題になったのが国際的な特殊詐欺事件です。日本で闇バイトの募集に応じて、ミャンマーの国際詐欺拠点に行き、特殊詐欺に加担している日本人が多数存在するというニュースが報じられました。
 
強制的に連れて来られた人もいれば、金もうけに来た人もいるようです。こうした中、闇バイト募集のための主要なツールとして、オンラインゲームが使われるようになってきている事が判明しています。
 
警察庁によると、23年にオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた17歳以下の子どもは89人。主な作品は下記です。
 
「荒野行動」(中国、NetEase)37人
「第五人格」(中国、NetEase)13人
「フォートナイト」(米国、Epic Games)13人

 
これらのゲームは若者に人気があり、協力プレーができることが特徴です。
 
例えば「荒野行動」は、SNSのX上で「#荒野行動してる人と繋がりたい」というハッシュタグで一緒にプレーする相手を探す人が日本でも見られます。これらのオンラインゲームでプレーを通じて親しくなり、闇バイトの参加を持ちかけるという手口が既に一般的になっているのです。

もちろん、オンラインゲーム運営会社も不正利用のアカウントを停止するなど対策は行っているようです。しかし、大型のモバイルゲームで全てのユーザーを運営側が監視することは不可能で、こうした事件が後を絶ちません。
 
不特定の他人と協力するタイプのオンラインゲームを犯罪のリクルーティングに使うやり口は、20年前後からロシアやメキシコの犯罪組織が利用していることが各国政府のレポートなどで確認できます。こうした事例が、日本を含むアジアにも広がっているのです。

『荒野行動』などのオンラインゲームでは、スマホやPCで他者と手軽に協力プレーを楽しめる(NNA撮影)

ゲームの存在感
社会に影響力も

ありとあらゆる人々によって遊ばれるようになった結果、ゲームは単なる一つの経済的商品を超えて政治・社会にまで影響を与える存在となりました。
 
政府、軍、反体制派、あるいは犯罪組織といった、さまざまな意図を持つ人々にゲームが利用されるケースも増えています。社会的影響力を持つことを狙って作ったゲームが広がることもあれば、そうしたことを全く意識していなかったゲームが使われるケースも多く存在します。こうした事例はゲームの拡大とともに確実に広がっていくと予想されます。
 
ゲームが子供のためだけの物、という時代はとうの昔に終わりました。
皆さんがゲームが好きであるか否か、遊んでいるかいないかを問わず、ゲームという作品、ゲームという事象に向き合い、これをどのように利用し、付き合っていくかを考えなければならない時代になったのです。


佐藤 翔(さとう・しょう)
ルーディムス 株式会社 代表 ファウンダー・CEO
世界110カ国以上のゲーム業界関係者とコネクションを持ち、特に新興国のゲーム市場・産業の調査に強みを持つ。日本初のゲームインキュベーターである「indie Game incubator(iGi)」の事務局長でもあり、経済産業省の主催する「創風」にアドバイザーとして関与。2024年には国際ゲーム開発者協会(IGDA)の議長に就任。世界6大陸20カ国以上で講演実績あり。

ルーディムス 株式会社
公式サイト https://www.ludimus.co.jp/
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