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「国連とゲーム」の意外な話 遊びが世界を救う

【連載】アジアコンテンツがすごい 第3回

ルーディムス 株式会社
代表 佐藤 翔

ゲーム・アニメ・マンガといったコンテンツの海外進出のお手伝いを専門に行う、ルーディムスの佐藤です。今回は「国連とゲーム」のお話。国連の各機関や国際機関がゲームの活用に取り組んでいます。

ゲームは日本や米国、中国のような大国だけではなく、グローバルサウスと呼ばれる新興国でも多くのユーザーが遊ぶようになりました。皆さんも東南アジアや南アジア、中央アジアの国々で、スマートフォンでゲームを遊ぶ人々を見かけたことがあると思います。
 
若年層の雇用、高度技術人材の育成、ゲームの社会問題への活用などの観点から、ゲームやeスポーツに関してさまざまな産業政策を行う国が広がっています。
 
日本でも2022年に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン」においてコンテンツ産業が基幹産業として取り上げられる中、コンテンツ産業の輸出の最も大きな部分を担うゲーム産業への支援が、経済産業省や文化庁などによって行われるようになってきました。
 
また、中国や韓国はもとより、東南アジアではマレーシアやインドネシア、フィリピンのような国々が、さらに南アジアではインドがゲーム産業振興に取り組みます。
 
このようにゲーム産業・市場が拡大し、各国政府が動き出す中で、国連の各機関や国際機関が次々にゲームの発信力や効用に目を向け始めています。
 
国連系の機関であれば国連開発計画(UNDP)国連教育科学文化機関(UNESCO)。さらに国際機関としては、世界銀行国際貿易センター国際赤十字・赤新月運動など、ゲームを使った社会問題の解決の取り組みや研修ゲームの導入を行う国連系機関はますます増えてきています。
 
今回は、主に人道支援などを担う機関として、世界食糧計画(WFP)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国際連合児童基金(UNICEF)の3つの組織における、ゲームを用いた活動について紹介したいと思います。

架空世界で食糧援助
ゲームの先陣WFP

国連機関で最も早く、ゲームを活用した取り組みを始めたのが世界食糧機関のWFPです。
 
世界各国で緊急食糧援助に携わるWFPは、食料援助の取り組みを多くの人々に疑似体験してもらうため「Food Force」というゲームを2005年にリリースしました。
 
食糧投下などの援助活動をいくつかのステージに分かれて体験するゲームで、日本語版は大手ゲームメーカーのコナミが公開しています。その後、09年には続編「Food Force 2」が発表されました。さらに最近では、架空世界で食糧援助を体験する新作「Sharmila」もリリースしています。
 
架空世界が舞台というのは一見変わっていますが、実際の国の名前を出すと国同士の認識の食い違いが批判を招く恐れもあるため、実社会の問題を解決するゲームにおいてはしばしば見られるアプローチとなっています。
 
WFPが関与するもう一つのゲームが「Free Rice」。食糧問題に関するクイズに答えていく簡単なゲームですが、正解すると特定の財団からWFPに食糧援助のための寄付が行われる、という仕組みになっているのです。

架空の世界で食糧援助を行うゲーム「Sharmila」(WFP資料より)

難民と住民がeスポーツ
注目高まるUNHCR

最近、ゲーム関連の活動で注目されるのが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)です。
 
今年7月「京都シリアスゲームサミット」を実施しました(IGDA日本 SIG Growthなど主催)。ゲームを通じた社会問題の解決やヘルスケア、研修などの取り組みに関するイベントで、私はゲーム産業の国際組織IGDAの日本支部のSIG-Growthの正世話人として、京都の立命館大学と協力して開催しました。
 
その際、UNHCRのゲーム担当者であるPetar Dimitrov(ペタル・ディミトロフ)さんに登壇いただきました。
 
ペタルさんによると、難民はインターネットへのアクセス率が一般人口の約半分ですが、難民キャンプでネットにアクセスできるコンピューターセンターでは、ソーシャルメディアやストリーミングと並んで、ゲームの人気が高いとのことでした。
 
UNHCRは昨年、北マケドニアの難民キャンプでウクライナ難民と現地住民のためのeスポーツイベントを実施したそうです。
 
一般に、難民の子供と現地住民とは日常的に交流する接点がとても限られるのですが、ゲームを介せば一緒に遊ぶことができます。北マケドニアのイベントでは、難民の子供、現地住民の双方からポジティブなフィードバックを得ており、アジアを含む世界各国でゲームに関する活動をさらに広げていくとのことです。

ウクライナ難民と北マケドニア住民が交流する、eスポーツイベント(UNHCR資料より)

ペタルさんによれば、今後はさらに難民キャンプでゲーム開発講座を行う計画もあるとのことでした。
 
難民キャンプでは食糧や電気、通信環境といったインフラを整えるのはもちろん第一に重要なことですが、難民は政治的な事情から何十年も同じ所に住まねばならない場合があります。そのため職探しをすることが必要ですが、実はITアウトソーシングのような仕事が難民にとって重要な職業選択肢の一つとなっています。
 
ちなみに、パレスチナではイスラエルとの戦争が始まるまでITアウトソーシングが重要な外貨獲得産業の一つでした。私の知り合いも、パレスチナでゲーム開発の外注を手掛けていました。
 
IT業務に必要なプログラミングなどのデジタルスキルを身に付けるのは容易ではありませんが、ゲーム作りを入り口にすれば、より多くの若者がスキルを身に付けられます。
 
過去には、シリア難民が内戦中のシリアを脱出した時の体験を基に作った「Path Out」というゲームがメディアなどで取り上げられ、話題になったことがありました。また豪州において、ウーメラ移住受付処理センターに収容されたイラン人が脱出を図る「ESCAPE FROM WOOMERA」というゲームの開発プロジェクトも反響を呼びました。
 
ゲームは、多くの人にさまざまな体験をしてもらうのに相性の良いメディアであり、ゲーム業界の視点でも可能性の大きい取り組みではないかと考えています。

10代女性のキャリアや学び
UNICEFがゲームで支援

このように、国連のさまざまな機関がゲームを利用した取り組みを進める中で、ゲーム業界の側からも国連にアプローチする例が出てきています。
 
昨年、各国・各地域ゲーム業界団体の連合組織としてGlobal Video Game Coalition(GVGC)という組織が設立されました。米国のESAや、欧州のGames Europeの2団体が共同議長となっている他、韓国や豪州の業界団体も参加する顔ぶれとなっています。
 
この組織は、ビデオゲームと健康に関する問題について、世界のビデオゲーム業界の声を代弁することを目的としています。なお、日本のゲーム業界団体は現状、不参加です。
 
GVGCは最初の取り組みとして2024年、国連児童基金(UNICEF)と協力して「Game Changers Coalition」というプログラムを発表しました。
 
新興経済国における10代の女性が、ビデオゲームやテクノロジーなどの分野でキャリアを積むことを支援するもので、新興国の学校のSTEAM教育(科学、テクノロジー、エンジニアリング、アート、数学の頭文字を取ったもの)を拡充する内容となっています。
 
アジアでは、カンボジア、インド、カザフスタンといった国々で支援が既に行われているそうです。
 
欧州の業界団体Games Europeのサイモン・リトル氏は「ビデオゲームをプレーする女子は、STEAM科目を学ぶ可能性が3倍高いことが分かっている」と述べており、ゲーム業界にポジティブなイメージを与えるために、この活動を行っているようです。

UNICEFが協力する「Game Changers Coalition」(UNICEF資料より)

社会問題への活用
アジアやアフリカで有効

世界のゲームユーザー人口は30億人を超えていると言われ、さらに増加しています。こうした中、発展途上国に住む若者や厳しい環境に置かれた人々へのエンパワーメントのため、ゲームが使われるようになってきていると認識しています。
 
アジアはアフリカと並んで若者の数が多く、ゲームを遊ぶ人や市場規模も大きい事から、ゲームを使った社会問題の解決の取り組みが有効な地域のように思われます。
 
アジア諸国には、上に挙げた国際機関のリージョナルオフィスやナショナルオフィスが存在する他、ASEANやSAARC(南アジア地域協力連合)のような地域国家連合、アジア開発銀行のような地域機関が存在します。
 
こうした地域機関、国際機関のアジア支局においても、ゲーム開発やeスポーツを通じた社会問題解決の取り組みがますます広がっていく事が期待されます。


佐藤 翔(さとう・しょう)
ルーディムス 株式会社 代表 ファウンダー・CEO
世界110カ国以上のゲーム業界関係者とコネクションを持ち、特に新興国のゲーム市場・産業の調査に強みを持つ。日本初のゲームインキュベーターである「indie Game incubator(iGi)」の事務局長でもあり、経済産業省の主催する「創風」にアドバイザーとして関与。2024年には国際ゲーム開発者協会(IGDA)の議長に就任。世界6大陸20カ国以上で講演実績あり。

ルーディムス 株式会社
公式サイト https://www.ludimus.co.jp/
X     https://x.com/ludimusinc


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