ゲーテ『ファウスト』あらすじと読むコツについて~私も何度も苦戦した名作が一気に面白くなった瞬間
ドイツ文学の傑作『ファウスト』あらすじと感想~ゲーテの代表作の面白さを味わうために必要なものとは

今回ご紹介するのはゲーテにより発表された『ファウスト』第一部、第二部です。
私が読んだのは新潮社版、高橋義孝訳、平成26年71刷版『ファウスト』です。
早速この作品のあらすじを見ていきましょう。
世界の根源を究めようとする超人的欲求をいだいて、ファウストは町へ出る。理想と現実との乖離に悩む彼の前に、悪魔メフィストーフェレスが出現、この世で面白い目をみせるかわりに、死んだら魂を貰いたい、と申出る。強い意志と努力を信じる彼は契約を結び、若返りの秘薬を飲まされて、少女グレートヒェンに恋をするが一前後六十年の歳月をかけて完成された大作の第一部。(第一部)
追求の精神の権化ファウストは、行為の人として、〝大きな世界〟での遍歴に入る。享楽と頽廃の宮廷から冥府に下った彼は美の象徴へレネーを得るが、美はたちまち消滅してしまう。種々の体験を経た後、ついに彼は、たゆまぬ努力と熱意によって、人間の真の生き方への解答を見いだし、メフィストーフェレスの手をのがれて、天上高く昇る。文豪ゲーテが、その思想を傾けつくした大作の完結編。(第二部)

ゲーテの『ファウスト』といえば言わずと知れた世界文学の傑作です。
ですが、実際にこれを読んだ人となるとかなり少ないのではないかと思います。この現象は『ドン・キホーテ』や『レ・ミゼラブル』などの名作と似ているのではないかと思います。
有名ではあるがあまり読まれない『ファウスト』。
そしてこの作品が厄介なのは、とにかく理解するのが難しいという点です。いざ読んでみればすらすら読めてしまう『ドン・キホーテ』とは全く違った雰囲気があるのです。
物語のあらすじとしてはシンプルです。あらゆる学問を究めたファウスト博士を悪魔メフィストーフェレスが誘惑し、それに抗えるか否かという筋書きです。
ただ、ここからが問題で、ファウストが何を求め、メフィストーフェレスが何をして誘惑したいのかがなかなかわかりにくいのです。
かく言う私も『ファウスト』には何度も苦しめられました。
始めてこの作品を読んだのは大学生の時です。その時は読んだはいいもののさっぱりわからず、ただ読み切っただけという状態でした。そこから大学院生時代にリベンジするも、その時も何が面白いのかさっぱりわからずじまいでした。
そして2020年、ツルゲーネフの『ファウスト』を読んだ流れでゲーテに再チャレンジしたところ、この時はようやく何が書かれているのか、その内容や物語の大まかな流れが把握できるようになったのを感じることができました。しかしやはり「面白い!」という気持ちまでは湧いてこなかったというのが正直なところでした。世界文学を学んで色々な知識を得てからのリベンジでしたので「今度こそは」と期待していたのですがそれでも手が届かない作品だったのです。
ですが、さらに時が経ち、小栗浩著『人間ゲーテ』を読んだことで『ファウスト』を全く違った目線で見ることができました。
そしてエッカーマンの『ゲーテとの対話』の中にもゲーテ自身が『ファウスト』への解説をしているところがいくつもあり、これも非常に助かりました。ゲーテが何を意図して『ファウスト』を書いたのか、そして読者に何を感じてほしいかを著者本人から聞けるのは大きな助けになりました。そのひとつを紹介します。
ゲーテはH氏に、ドイツ文学ではどんなものを読んだか、とたずねた。「『エグモント』を読みました」とH氏はこたえた、「この本は、ひじょうに面白かったので、三回もくり返し読んだほどです。また『トルクヴァート・タッソー』も、たいへん楽しく読みました。今、私は『ファウスト』を読んでおりますが、これはすこし難しいと思います。」ゲーテは、この最後の言葉をきいて笑った。「もちろん」と彼はいった、「私なら、『ファウスト』はまだあなたにおすすめしませんよ。あれはとんでもない代物で、あらゆる日常の感覚を超越しています。けれども、私にたずねないで自分から読みはじめたのですから、ひとつどこまで読みとおせるか、やってごらんなさい。ファウストは、じつに珍しい個性の持主だから、その内面の状態を追感できる人は、ほんの僅かしかいません。メフィストーフェレスの性格にしても、皮肉のせいで、それに偉大な世界観察の生きた結果でもあるために、やはりなかなかの難物です。しかし、まあ、どのような光があなたの心にひらめくか、よく見つめることですね。
ここは『ファウスト』の難しさがどこにあるのかについて話された箇所ですが、他にも『ファウスト』に対する言及がいくつも出てきますので『ゲーテとの対話』は必読だと思います。どこに着目して『ファウスト』を読めばよいのかがかなりすっきりします。
そしてこれら参考書を読んで感じたのは、「ただ『ファウスト』のみを読んだだけではその面白さはなかなかわからない」ということでした。
やはり当時の社会情勢や時代背景、思想、文学、芸術の流れを知っておかないと十分に楽しむことができないのです。
これまでメインブログではニーチェを学んだ流れで、ショーペンハウアー、ホフマン、カント、ヘーゲルなどドイツの哲学者、文学者についての本を紹介してきました。
それらの本には当時のヨーロッパやドイツの時代背景が詳細に描かれていました。
それらを学んでから上に紹介したゲーテの参考書を読み、いよいよ『ファウスト』に取り掛かってみると、前に読んだ時とはがらっと変わった世界が私の前に現れました。
自分でも驚いたのですが、『ファウスト』が面白いのです。読んでいてわくわくしてくるのです。これには本当に驚きました。そして何より、ものすごく嬉しかったのです。10年越しでようやく『ファウスト』を「面白い!」と思うようになれた。これはそれこそ小躍りしたくなるほどの喜びでした。
この記事では具体的に何を知ればファウストが面白くなるかは長くなってしまいますのでご紹介できませんが、エッカーマンの『ゲーテとの対話』、小栗浩著『人間ゲーテ』を読むこと。これに尽きます。私の口から短い要約的な解説を聴くよりも、こうした本からじっくりその解説を味わった方が確実に有益です。
『ファウスト』はたしかに難しい。ですがそれはただ難解だからというより、「いかにして読むべきか」、そして「この作品が書かれた背景」が現代を生きる私たちにはわかりにくいということなのです。ですのでこれさえわかってしまえばものすごく楽しむことができます。
よくよく考えてみれば『ファウスト』が発表されたことで当時の人はそれこそこの作品に夢中になったわけです。それは当時の人が今より圧倒的に頭が良かったというより、その時代の人々の心に響く内容がこの作品に込められていたということなのです。(もちろん、文学としての完成度、その芸術的崇高さも世界最高峰なのも間違いありませんが)
これまで、『ファウスト』は私の中で苦手作品の筆頭にある存在でした。
しかし今となっては私の大好きな作品のひとつになりました。この本を「面白い!」と感じられた瞬間の喜びは生涯忘れないと思います。それほど嬉しかったのです。
何遍立ち向かってもわからなかったものがわかるようになる。面白いと思えるようになる。
この快感は読書の最高の喜びのひとつだと思います。
今回の記事では『ファウスト』の具体的な内容や解説はお話ししませんでしたが、私がこの作品の面白さに気づいたきっかけや喜びをお話しさせて頂きました。ぜひ、解説書を読み、そこから『ファウスト』に立ち向かって行ってください。丸腰では太刀打ちできない存在ですが、背景がわかればぐっと身近な存在になります。そしてこの作品が与えてくれる読書の喜びやパワーをぜひ感じて頂ければなと思います。
それほど主人公のファウストの存在は力強く、英雄的な存在です。そして彼を誘惑する悪魔メフィストーテレスの魅力も素晴らしいです。
本当はそうした魅力をひとつひとつ紹介した方がよかったのかもしれませんが今回はここまでにしておきます(笑)
『ファウスト』を楽しむためのおすすめ解説書
1 小栗浩『人間ゲーテ』

「人間ゲーテ」を描きだすこの解説書は非常に興味深いものとなっています。
そしてまたありがたいのが読みやすく、わかりやすいという点。
ゲーテというと「難しい」イメージがありますがこの本は時代背景やゲーテの生涯を中心に、入門者でも理解できるように書かれています。
やはり当時の時代背景がわからないとその人物がなぜすごいのかということはわかりにくいです。
逆に言えばそこをしっかり押さえればその人物の魅力も浮き上がってくることになります。
ゲーテはなぜ世界史上最高峰の人物として称えられているのか。また、彼の代表作『ファウスト』がどれだけすごいものなのかということがこの本を読むことで見えてきます。
そして「序」でも語られているように「人間ゲーテ」の人となりが見えてくることでゲーテへの親近感が湧いてきます。ゲーテに対する好意が生まれてきます。こういう気持ちがあるからこそその人の作品を読みたい、もっと楽しみたいという気持ちも生まれてきます。この本を読むとゲーテ作品を読みたくなりうずうずしてきます。それほどこの本はゲーテの魅力を絶妙に伝えてくれます。
実は私はこれまでゲーテが苦手でした。かつて何度も何度も『ファウスト』を読んだのですがどうしてもその面白さがわからなかったのです。
しかし、この本を読んだことでそんな『ファウスト』に対する見方も変わり、実際にこの後読んでみると、なんと!「面白い!」と感じることができるようになったのです!これは本当に嬉しかったです。
ゲーテ参考書として非常におすすめな1冊です。私はこの本にとても助けられました。ぜひおすすめしたいです。
2 エッカーマン『ゲーテとの対話』

この本の著者エッカーマンは1823年にゲーテと出会い、彼の秘書を務めた人物です。その頃のゲーテはすでに73歳。晩年の時代でした。エッカーマンはその後ゲーテが亡くなる1832年までずっと師であるゲーテに付き従い、彼との対話を記録し続けていたのでありました。その記録をまとめたものがこの『ゲーテとの対話』になります。
この作品は世界中の作家、哲学者に大きな影響を与えました。ニーチェはその筆頭としてよく挙げられますが、日本でも水木しげるがこの作品をこよなく愛していたことが知られています。水木しげるは戦地にまでこの本を持っていき、大切にしていたそうです。
私が『ゲーテとの対話』を読んでまず驚いたのは、まったく古さや難しさを感じないという点でした。師匠であるゲーテと率直に話し合っている様子がすっと浮かんできます。ものすごく読みやすいです。ゲーテの人となりが自然と見えてくるようでした。当時すでに名声の絶頂にあった偉大なるゲーテの素の声を聴くことができます。エッカーマンは稀代の聞き上手だなと読んでいてつくづく感じました。師匠と弟子の信頼関係が感じられてとても心地よく読むことができます。
また、この本では『ファウスト』についてのゲーテ自身の解説や見解も聞くことができます。私は『ファウスト』の難しさにこれまでかなり苦戦していたのですが、『対話』を読んだことでその面白さを感じることができるようになりました。これは私の中で非常に大きな発見でした。
もし『対話』を読んでいなかったらその面白さを感じることができずじまいだったかもしれません。それほど有益な言葉をこの本から聞くことができます。
この本は間違いなく名著です。ゲーテ作品を読みたいと思った方にはぜひ、彼の作品を読む前にこの『対話』を読んで頂きたいです。ゲーテの人となりが生き生きと描かれています。
私はこの作品のおかげで『ファウスト』を楽しめるようになり、ゲーテを好きになることができました。この作品はゲーテを読む人にとって必読書だと思います。
3 星野慎一『ゲーテ 人と思想67』

清水書院の「人と思想」シリーズは優れた入門書が出ており、以前当ブログでも尾﨑和郎著『ゾラ 人と思想73』を紹介しました。
このシリーズのありがたいところは何と言っても入門書としてわかりやすく作家の生涯や作品を解説してくれる点です。
そして新書サイズのコンパクトな分量でぎゅぎゅっと要点がまとめられていますので気軽に手に取れるのも嬉しいです。
今回紹介しているゲーテはそれこそ詳しく書こうとすればいくらでも書けてしまう波乱万丈の人生です。だからこそ上の伝記はとてつもない分量になっています。それを新書サイズでぎゅっとまとめているのはものすごいことだと思います。
また本書『ゲーテ 人と思想67』の後半では「日本におけるゲーテ」というテーマが取り上げられます。ゲーテが日本においてどのように受容されたのかという流れや、東京のゲーテ記念館についての記述はとても興味深かったです。いつか東京ゲーテ記念館に行ってみたいなという気持ちが湧いてきました。
ゲーテはあまりに巨大なスケールを持つ人間です。彼の作品、特に『ファウスト』はそれ単独で読むと非常に難解な作品です。ですが彼の生涯や思想を知ってから読むとその味わいが一気に増す不思議な作品です。
上でも述べましたが私も『ファウスト』に何度も挫折した人間です。ですが様々な参考書のおかげで今はその『ファウスト』が大好きになっています。
ですのでゲーテ作品を読む際にはこうした入門書や参考書を読むことを強くおすすめします。
4A・ビルショフスキ『ゲーテ その生涯と作品』

この本は文字通りスケールが違います・・・!
まずこのサイズ感!文庫本と比べたら一目瞭然です!
そしてこの分厚さ!なんと、圧巻の1200ページ超えです!「辞書か!」というほど重いです。鈍器本と言われる部類ですね。
ですがこの本は見た目だけにあらず。その内容も驚くほど濃厚です。この伝記はものすごいです。私はこの本に度肝を抜かれっぱなしでした。これほどの本はそうそう出会えるものではありません。
この伝記ではゲーテの少年時代から晩年までのあまりにスケールの大きい生涯を知ることができます。
そして著者の語り口が絶妙で、ものすごくドラマチックな小説を読んでいるかのような気分になります。いや、もはや並の小説をはるかに超えるレベルの面白さと言ってもいいでしょう。著者の溢れるゲーテ愛がこの伝記を単なる事実の羅列ではなく、生き生きとしたゲーテ像を可能にしています。
この本を読んで驚くのはやはりゲーテの巨人ぶりです。ゲーテは子供の頃から並の人間ではありませんでした。学生時代のエピソードも読んでいて驚くものばかりです。スケールの違う天才というのはこういう人間のことを言うのかととにかく圧倒されます。
そしてゲーテと言えば有名な『イタリア旅行』のくだりです。
彼にとってこの旅がいかに大きなものであったかをこの伝記ではドラマチックに見ていくことができます。とにかく面白い!
また、この伝記は彼の作品の解説も詳しくなされるのも嬉しいところです。その作品がどのような背景で書かれたのか、何を意図して書かれたのか、そしてそれはどのように世の中に受け入れられていったのかということも知ることができます。
この本はとにかく圧倒的でした。読むのにものすごく時間がかかりはしたものの、満足感は半端ないです。
こんな盛りだくさんな本はなかなかありません。
これを読めば確実にゲーテを好きになり、その影響を受けることになります。日々生活しててもゲーテ的な思考がふと頭をよぎるようになってしまいます。私は特に影響されやすい人間なのでこの症状はかなり長く続きそうです。
ただ、問題なのはこの本が絶版で入手が困難になってしまっている点です。私が購入した時は中古でまだ買うことができたのですが今はそれも難しくなっているようです。見つけたら即購入なレベルな貴重な本です。公共図書館や大学図書館には所蔵されている場所も多いと思いますのでそれらを利用するのもひとつかもしれません。
ぜひおすすめしたい名著です。
以上、「ゲーテ『ファウスト』あらすじと感想~ゲーテの代表作の面白さを味わうために必要なものとは」でした。
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