見出し画像

日本最南端から、日常へ。


石垣島滞在最終日 ― 南の余韻を胸に


石垣島滞在の最終日。
昨日までの鮮やかな晴天から一転、空は重たく曇り、予報は雨。マエサトビーチを歩くと、湿り気を帯びた風が頬をなで、海の色もどこか落ち着いた青へと変わっていた。陽射しにきらめいていた水面は静まり、波音だけが淡々と続いている。南国の朝は、晴れていなくてもやわらかい。

宿泊していた ANAインターコンチネンタル石垣リゾート のチェックアウトをステータスを使い延長した。部屋から見える海辺の景色を眺めながら、できるだけ長く島の空気を味わう。バルコニーから見る海、潮の匂い、遠くで揺れるヤシの葉。旅の終わりは、いつも少しだけ名残惜しい。

やがてレンタカーを空港近くの営業所へ返却し、送迎車で空港へ向かう。数日間ともに島を巡った車ともここで別れだ。


■ 手狭な玄関口と、消えた滑走路


到着したのは 南ぬ島石垣空港。
2013年に開港したこの空港は滑走路2,000mを備え、ボーイング787クラスの中型機も発着できる。設備は近代的だが、ターミナルは現在の旅客数に対してやや手狭に感じる。

設計時の需要予測は、旧石垣空港時代の実績を基準にしていたとされる。しかし観光客は年々増加し、連休最終日ともなれば出発ロビーの椅子はほぼ埋まり、保安検査場には長い列ができる。天井は高いが、空間には余裕がない。南の離島空港というより、地方都市のターミナルのような混雑ぶりだ。

ふと、かつての旧石垣空港に思いを馳せる。
市街地に隣接し、滑走路はわずか1,500m。東側は海、西側は住宅地。着陸機は街の上を低空でかすめるように進入し、エンジン音が日常のすぐそばを通り抜けていった。航空ファンには忘れ難い風景だったが、騒音や安全面の制約は避けられず、拡張も困難だった。

現在、その跡地には市役所や病院が建ち、滑走路の痕跡はほとんど残らない。だが、地図を見ればかつての直線を読み取ることができる。島の中心にあった空港は、時代の流れとともに白保の海沿いへ移り、より大きな機材と観光客を受け入れる場所へと姿を変えた。

その新空港も、いまや手狭に感じるほどの賑わいを見せているのだから、島の勢いは想像以上だ。


■ 出発前の小さな儀式


搭乗手続きの前に、1階フードコートで八重山そばを注文する。旅の締めくくりのような一杯だ。丸みのある麺に、豚骨と鰹のだしが重なった澄んだスープ。派手さはないが、静かに沁みる味である。

この島には「日本最南端」という肩書きを持つ場所がいくつもある。市街地の CoCo壱番屋 石垣島店、そして空港内の スターバックス 南ぬ島石垣空港店。日常のチェーン店であっても、ここでは特別な意味を帯びる。

連休最終日とあって東京行きの利用者は多い。石垣―羽田線には787や767といった中型機が投入されることが多く、ほぼ満席になる便も珍しくない。出発ロビーは人であふれ、立ったまま搭乗開始を待つ人の姿も目立つ。

保安エリア内も決して広くはなく、ラウンジは設けられていない。検査を早めに済ませて中に入ると、時間の経過とともに椅子は埋まり、通路に立つ人が増えていった。やはり空港は、いまの旅客数に対して少し小さい。


■ NH92便、雲の上へ


本日搭乗するのは ANA NH92便。
石垣15:50発、羽田18:20着。機材はボーイング787。搭乗口には長い列ができている。ふと横を見ると、ステータス保持者のレーンにも思いのほか人が並んでいる。修行や維持のために飛ぶ人が多い路線なのだろう。もちろん、自分もその一人なのだが。

ボーディングブリッジを渡り機内へ入ると、ほのかな冷房の匂いと、整然と並ぶシートが迎えてくれる。今回の席は普通席最前列。隣は空席という幸運に恵まれた。

プッシュバックが始まり、ゆっくりと誘導路を進む。窓の外には小雨が落ち始めていた。滑走路へ向けて加速し、エンジン音が一段と高まる。地面が遠ざかる瞬間、島の輪郭が灰色の雲の下に広がる。

やがて機体は厚い雲を抜け、視界が一気に開ける。上空は静かな光に包まれ、雲海がどこまでも続いている。キャビンでは飲み物のサービスが始まり、穏やかな時間が流れる。エンジンの低い振動が一定のリズムを刻み、旅は移動というより“漂う”感覚に近い。

空の上で日没を迎える。翼の先が橙色に染まり、雲の縁が黄金色に輝く。島の海とは違う、もうひとつの青と赤がそこにあった。


■ 羽田経由、そして北へ


羽田到着後、次の便まで約1時間。
第2ターミナルの ANA SUITE LOUNGE 羽田空港第2ターミナル に立ち寄り、17時から提供されるカレーをいただく。短い滞在だが、移動の合間の安らぎだ。

地方へ戻るには、福岡や大阪を経由するより羽田乗り継ぎのほうが便利だ。遠回りでも、接続の確実さがある。

最後の区間はプレミアムクラス。機内食は持ち帰りにしてもらい、コーヒーだけを頼む。夜の空を進む機内は落ち着いた照明に包まれ、乗客も静かだ。高度を下げ始めると、外の闇の中に街の灯りが浮かび上がる。

到着後、ボーディングブリッジを抜けた瞬間、冷気が身体を包んだ。外気温は一桁。雪が降ってもおかしくない温度だ。

数時間前まで南の海辺を歩いていたのに。
旧空港の短い滑走路と、新空港の広い空。そしていま、北の夜気。

島の記憶を胸に、旅は静かに幕を閉じる。




いいなと思ったら応援しよう!