【NENEさん vs BMSG①】すれ違い続ける双方の主張とフラットに向き合ったら、1つの共通点を見出した。
2025年6月20日、業界に衝撃が走る。
NENEさんが「OWARI」にて、ちゃんみなさんとSKY-HIさんを名指しで痛烈に批判したのだ。
ラッパー同士によるSNS上での応酬や、楽曲の一部で他者を揶揄するようなフレーズは、HIPHOPシーンにおいては日常的に見られる光景である。
しかし「OWARI」は、ミュージックビデオ付きで、かつ楽曲全体を通して一貫して批判のスタンスを貫いており、NENEさんの本気度が如実に表れている。その挑発的な内容は、リリース直後からヘッズの間で大きな話題となった。
以降、SKY-HIさんとNENEさんの間で楽曲の応戦が繰り広げられ、さらには第三陣営として歌代ニーナさんが参戦する事態へと発展した。開戦から約一か月たった現在(執筆日7/16)でも事態は混乱を極めている。
筆者は、BEEF以前よりNENEさん・SKY-HIさん・ちゃんみなさんの楽曲をプレイリストに入れていた。したがってどちらか一方に肩入れするのではなく、両者の言い分やスタンスを理解しながら、一連の応酬を文化的な視点から楽しんでいる。
しかし、一般的には双方のファンベースが交わることは多くない。とりわけBMSGサイドのリスナーにとっては、今回のようなBEEFという文化自体を初めて知ったという人も多く、ネット上の論争においては、論点そのものがかみ合っていない場面が目立つ。
その結果、感情論に終始した投稿が多くのインプレッションを獲得する構図となっており、真摯にアーティスト・カルチャーに向き合っている人々の中には、やりきれない思いを抱いている者も少なくないのではないだろうか。
アーティスト間のリリース合戦が一段落した今こそ、冷静に論点を整理し、今後に向けて双方の音楽をどのように楽しんでいくか考えていきたい。
論点① パクリ問題
まずは、「パクリ問題」について整理したい。
これは、今回のBEEFにおいて最初に大きな注目を集めた論点である。
NENEさんは、楽曲「OWARI」において、以下のように批判している。
I’m on your mood board bxxxx.
(略)
パクリパクリどいつもパクリ
(略)
電話しろよちゃんみな
リリース当初は、どの点が「パクリ」とされているのかについて明確な情報がなく、ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っていた。
しかし後に、NENEさん本人がラジオ番組(※)にて、BMSG所属のHANAさんがリリースした「Burning Flower」(2025年6月9日リリース)が、自身のEP『激アツ』(2024年8月21日リリース)の模倣ではないかと指摘した。
なお、「HANA」はちゃんみなさんがプロデュースを手がけており、この指摘はちゃんみなさん・SKY-HIさんを含むBMSG陣営全体に向けられた批判とも受け取られている。
※ラジオ:INSIDE OUT #689 ゲスト : NENE
対してSKY-HIさんは、2025/06/25にアンサー曲「0623FreeStyle」を公開したが、NENEさんの指摘に対して具体的な反論は避け、以下のようにあしらっている。
とばっちりとばっちり
あっちーあっちーあっちーばっちーな
すると、すかさずNENEさんも2025/06/29に「HAJIMARI」を公開し、反論に打って出た。SKY-HIさんが、会社BMSGの成功や影響力を強調するポジショントークに終始したことに対し、NENEさんは以下のように応じ、論点を「パクリ問題」へと引き戻した。
何人のクリエイターがお前らに横取りされた
アイデアとリファレンス
あの子もあの子も泣き寝入り
沢山の被害者 あるな?心当たり
(略)
何にも答えてないじゃん的外れのアンサー
やっぱお前じゃないわー笑
(略)
曲作りが今も私の安定剤
これに出会えたことが何よりも救いで
だからうちらから奪うことは許さない
ここでひと段落したかに見えたものの、さらに第三者が参戦することとなった。登場したのは、歌代ニーナさんである。
彼女は、NENEさんが「OWARI」において使用した “Mood Board” というフレーズが、自身の楽曲の盗用であると主張したのだ。
ねぇねぇ、コソ泥猫?
パクりネタでパクりディスはだめよ
(略)
ねぇ、あんたの前で2回も歌った曲
半年前にすでにMVまで撮った曲
ねぇ、あんたのパシリがメイクとして潜入
なお、この件についてNENEさんは明確なアンサーを出していないが、ラジオにて、自分が他人の楽曲を盗用することはあり得ない、と主張している。
論点② 音楽業界のHIPHOPへの向き合い方
誰かが言わなきゃなって思ってた
汚ねぇ音楽業界 shut the fxxx up
あのアワードにも疑問ばっか
I’m a pop でも部門はHIPHOP?
(略)
お前らはラップを使ってるだけでアワードやチャートをHIPHOP部門にするのはなんでなの?一位がとりやすいからなの?
続いての論点は、音楽業界のHIPHOPへの向き合い方である。NENEさんはラジオにて、商業的にやることそのものをDisるつもりはないが、BEEF以前からリスペクトを向けられていないと感じていたことを明かしている。
DJ YANATAKEさんも、ジャンル分けが商売上必要であることを認めつつも、ジャンルごとのチャート上位にヘッズが聞かない音楽が並ぶことへの違和感を打ち明けていた。今回でのMUSIC AWARD JAPAN においても、DJ YANATAKEさんと渡辺志保さんは審査員としてオファーを受けていたが、ノミネート作品に違和感をもち辞退したことを打ち明けている。
※参考
HIPHOP/RAP ジャンルのチャートTOP10のうち半数は、HANAさん・ちゃんみなさんの楽曲がランクインしている。

論点③ 音楽に対するファンの態度
NENEのラップは悪くなかったけど論破型思考のあんたらはどう?
人の土俵で相撲とる阿呆を一網打尽
韻踏じゃないけど
えー?なんで?
えー?なんで?
お前らの曲って全然ファンに響いてないじゃん
届いてないじゃん?
流石社長これがビジネスですか?
(略)
笑えないお前らのファンの民度
数と知名度で聞いてるらしいよ
熱い割にはクソ低い感度
(略)
リスナーにはもっと入り込んで聞いて欲しいこの音楽
オリジナリティを持って芸術を作り出すエネルギーとパワー
最後に問われるのは、音楽に対する私たちリスナーの姿勢である。今回のBEEFにおいては、双方のアーティストは単に相手を攻撃するだけではなく、楽曲の中でリスナーに対する語りかけている点が特徴的だ。
SKY-HIさんは、SNS上で他者の矛盾点を指摘して論破することに、一体どれほどの意味があるのか、と問いかけている。一方、NENEさんは、商業的な成功や数字だけで音楽を語るべきではなく、その背後にあるメッセージにこそ耳を傾けてほしいと主張している。
それぞれの論点に向き合ってみる
①パクリ問題
パクリ問題について、当事者同士がともに納得のいく見解に至ることは、現実的には極めて難しいと思う。
なぜなら、たとえ作品のコンセプトやフレーズの一部が類似していたとしても、それが意図的な模倣ではないことを証明するのは、いわゆる“悪魔の証明”にほかならないからである。したがって、第三者が判断するのは困難だ。
②アワードやチャートの在り方
次に、アワードやチャートの在り方について考察したい。
私は、アワードにおいてはジャンル別の賞を廃止するべきではないかと考えている。
確かに、両者のファンベースの価値観が大きく異なるのであれば、それぞれを別ジャンルとして語るべきではないか、というNENEさんサイドの主張はもっともだ。
一方で、ジャンル分けの方法に対して、誰もが納得できる明確な答えが存在しないというのも、また一つの事実である。HIPHOPの定義は、聴き手それぞれが通ってきたコンテンツや価値観によってとらえられているため、一般的・普遍的な解は存在しない。
※参考
HIPHOP翻訳家のShotGunDaddyさんも、HIPHOPの定義は誰しも常に変わり続けるので、他人に押し付けるものではないと主張している。
結局のところ、各楽曲のジャンルをどう定義するかについては、その作品を生み出したアーティスト自身の主張に倣うほかないのではないかと思う。
この時、アワードがジャンルごとの賞を設ければ、誰が受賞しても不満の声があふれることになるのではないだろうか。
そもそもHIPHOPは単なる音楽ジャンルではなく、カルチャー、すなわち人の精神や生き様に深く結びついた表現である。画一的な基準で「賞」を設けること自体がナンセンスであるようにも感じられる。
もっとも、ジャンル名を「HIPHOP」ではなく「ラップミュージック」といった表現に改めることで、誤解や不満を一定程度減らすことはできるかもしれない。
一方、チャートに関しては、さほど深刻な問題ではないのでこのままでよいと考えている。なぜなら、ちゃんみなさんやHANAさんのファンベースと、他のHIPHOPアーティストのファンベースがほとんど重なっていないという前提に立てば、チャート上の順位は、そもそも比較としての機能を果たしていないからだ。
また、近年では『ラップスタア誕生』や『POP YOURS』、『THE HOPE』などを通じて、若手HIPHOPアーティストが注目を集める機会が着実に増加している。チャートの外側でもHIPHOPが確かな存在感を築きつつある現状を踏まえれば、チャートという枠組みによって誰かの才能が不当に搾取されているとは言い難いように思われる。
③音楽に対するファンの態度
リスナーがどのようなスタンスで音楽と向き合うかは、消費者の自由である。二郎ラーメンをどのように食べようと問題ないのと同じだ。
ただし、その一方で、店側や周囲の消費者がそれを見てどう感じるかもまた、自由である。人の箸の使い方に違和感を覚えたり、クチャクチャと音を立てて食べる人に不快感を抱いた経験がある人は少なくないのではないか。
その点、今回のBEEFでは違和感のある書き込みが散見された。「HANAの方が再生回数を稼いでいるのだから、ちゃんみなの勝ちだ!NENEは嫉妬だ!売名だ!」という意見は、少し短絡的すぎるのではないだろうか。
確かに、商業的に成功したいと思っているアーティストは少なくないだろう。しかし、真剣に音楽に向き合っていなくても、インフルエンサーが曲を出せば再生数を稼げてしまうのも一つの事実である。そういう音楽は有名人だから聞かれているのであり、魂が伝わって誰かの人生が救われるような、音楽本来の価値が評価されているわけではない。
従って、ちゃんみなさんやHANAさんが音楽として素晴らしいのは、彼女たちがコンプレックスに苦しむ現代の女性を救っているからではないだろうか?
商業的な成功は、別軸として語られるべきではないかと思う。
いずれにしても、私たちファン側の態度・発信も問われているという自覚は必要だ。Noteを書く身として、強く肝に銘じる良い機会としたい。
たった一つの共通点
双方が激しく相手を攻撃し、熾烈な応酬が繰り広げられている今回のBEEF。
しかし、丁寧に両者の主張を追っていくと、ある一点において意見が一致していることに気づかされる。
それは、「若き才能が不当に摘まれてはならない」という主張である。
居場所のない才能 皆でこっちに来いよ 当たるスポットライト
ポッと出のやつじゃなくもっとスポット当たるべきラッパーがいる
突然、好きなアーティストがディスられたことに驚き、戸惑いを覚えたBMSGのファンも少なくないだろう。逆に、長年カルチャーを愛するヘッズの中には、HIPHOPが軽視されたように感じた人もいるに違いない。
しかし、スタンスや価値観こそ異なれど、両者ともに音楽業界の未来を見据え、真剣に戦っていることに変わりはない。私たちに音楽という形でエンターテインメントを届け、考えるきっかけを与えてくれた。だからこそ、私はこのBEEFの渦中にいるすべてのアーティストに対して、心からのリスペクトを送りたい。
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