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恐竜はなぜ二足歩行になったか?│恐竜も最初は脇役だった?栄枯盛衰の生物進化史

はじめに:実は激レアな二足歩行

「恐竜」といえばどんな姿を思い浮かべるでしょうか?
ティラノサウルス、アロサウルス、イグアノドン、パラサウロロフス⋯
これらのような二本の後ろ足で大地を歩く恐竜がまず頭に思い浮かぶ方も多いのではないのでしょうか?

二足歩行の恐竜の例(アロサウルスの骨格標本)

しかしよく考えてみると不思議な話です。
現代の陸上脊椎動物で、主な移動手段として常時二足歩行を行うのは、人間と飛べない鳥(鳥類は恐竜の直系の子孫なので当然といえば当然)ぐらいで、ごく少数派です。

過去から現在まで、ほぼ全ての陸上脊椎動物は四足歩行です。四本の足を使う方が、安定性にも運動性能にも優れた「万能型」の基本設計であるため、多くの動物が採用してきた結果と言えるでしょう。
そんな中でも、恐竜はなぜか「二足歩行という異端の型」に進化を遂げ繁栄しました。

「四足歩行の恐竜もいるじゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、実は四足歩行の恐竜たちも、もともとは二足歩行から進化したものです。
人間が四足歩行の祖先から二足歩行に進化したのとは対照的に、恐竜はその系統の始まりから既に二足歩行だったのです。

恐竜がいた中生代は、二足歩行を基本とする生物が地球を闊歩した極めて異例な時代だったと言えます。
恐竜が二足歩行に至った理由や、台頭の理由について考えてみましょう。



第1章:三畳紀の主役「偽鰐類」

恐竜の生息していた時代は「中生代」と呼ばれ、三畳紀・ジュラ紀・白亜紀の3つに分けられることはよく知られていると思います。
よく、「中生代=恐竜の時代」と言われます。必ずしも間違いではありませんが、詳しく見ると実態は少し違ってきます。

実は中生代の最初の三畳紀(約2億5,200万〜2億年前)では、恐竜はまだ地上の主役といえる地位にありませんでした。恐竜が主役の「真の恐竜時代」と言えるのは、その後のジュラ紀以降になります。

では三畳紀の主役は誰だったのでしょうか?
それは「偽鰐類(ぎがくるい)」というグループです。
その名の通り現代のワニに近縁でありながら、直立した四肢と大型化を特徴とし、当時の陸上環境に適応した最強生物でした。
偽鰐類の代表例としては、

  • スミロスクス:体長7~10mと推定される大型捕食性偽鰐類。

スミロスクス(Smilosuchus)
  • ポストスクス:体長4~5m。強靭な顎と脚を持つ頂点捕食者。二足歩行を行った可能性も指摘されている。

ポストスクス(Postosuchus)
  • デスマトスクス:体長4.5m。派手な装甲が特徴。植物食。

デスマトスクス(Desmatosuchus)

などが挙げられます。
このように偽鰐類は、肉食・植物食の両方で、体の大きさや分布において他を圧倒しており、当時の世界の「主役」と言える存在でした。


一方、当時の恐竜は多くが二足歩行で俊敏な小型のタイプが主流でした。
三畳紀の代表的な恐竜の例としては、

  • エオラプトル:体長1.2m、肉食または雑食性。

エオラプトル(Eoraptor)
  • コエロフィシス:体長2.5〜3m、肉食性。ジュラ紀初期まで存続。

コエロフィシス(Coelophysis)
  • レソトサウルス:体長1m、植物食性、鳥盤類の初期型。(装盾類に近いとされる)

レソトサウルス(Lesothosaurus)

などが挙げられます。

偽鰐類には体格的に遥かに劣ることは一目瞭然でしょう。
中にはプラテオサウルス(体長7~10m、植物食性)やヘレラサウルス(体長3~4m、肉食性)のように大型化した恐竜や、系統の分化も進んでいたようですが、種類も分布などの地球全体の生態系における存在感という点では偽鰐類が圧倒的で、恐竜はまだ脇役的な地位に留まっていたと考えられます。


第2章:二足歩行は「くねらせないため」だった?

では、恐竜の祖先はなぜ二足歩行をするようになったのでしょうか?
その進化の過程は謎に包まれていますが、「エネルギー効率」「呼吸の限界」がその理由との一端として有力視されています。

現代のトカゲなどのように、爬虫類は基本的に四肢を対角に動かしつつ、胴体を左右にくねらせながら匍匐(ほふく)により移動します。
二足歩行をする直前の恐竜の祖先は、足が体の真下に向かって生える直立歩行化の過渡期にありましたが、まだトカゲのような「くねり歩行」の傾向は残っていたと考えられます。

一般的な爬虫類の匍匐動作のイメージ

しかし、この移動形態には大きな欠点があります。
一つはエネルギー効率の問題で、本来は前方向への推進にフルに充てたいエネルギーが、推進には直接寄与しない胴体をくねらせる横方向の動きでも消費されてしまうことです。
もう一つは呼吸の問題で、爬虫類は胸郭(肋骨のある胴体部分)を使って肺を拡張・収縮させる構造のため、移動時に胴体をくねらせると、呼吸がしづらくなるのです。(爬虫類には、我々哺乳類のような横隔膜はありません。)
つまり早く走ろうとすればするほど、エネルギー効率が悪くなり、呼吸もしづらくなるというジレンマがありました。

そこで、恐竜の祖先はこう考えたかもしれません。

「四つん這いで走るとなんか胴体がクネクネして疲れるし息が苦しい。いっそのこと後ろ足だけで走ったろ!」

後ろ足だけで走ることができれば、胴体の屈曲が抑えられ、エネルギーの無駄が少なくかつ安定して呼吸を行うことができます。


現代でも、エリマキトカゲが驚いて逃げるときなどに後ろ足だけで立ち上がって走ることが知られています。

また、過去には恐竜そっくりな二足歩行の爬虫類、言わば恐竜もどきが様々な系統から出現しています。
以下はその恐竜もどきの代表例です。

  • ラゴスクス/マラスクス:恐竜様類、中期三畳紀(約2億3,500万年前)、体長40cm、細長い脚、軽量の体、短い腕を持ち、明らかに二足歩行。恐竜ではないが恐竜の祖先に近い存在。

ラゴスクス(Lagosuchus)/マラスクス(Marasuchus)
マラスクスはラゴスクスと同一の可能性が指定されていることから併記
  • エッフィギア:偽鰐類、後期三畳紀(約2億年前)、体長2~3m、植物食性でくちばしを持ち、頭部の形状も含めてオルニトミムス(ダチョウ恐竜)にそっくり。実際、最初は恐竜と誤認されたほど。

エッフィギア(Effigia)
  • シレサウルス:非恐竜型鳥頸恐類、後期三畳紀(約2億3,000万年前)体長4.3m、四足歩行〜二足歩行の中間的な姿勢と考えられる。植物食または雑食性で、嘴状の口先を持っていた可能性も。

シレサウルス(Silesaurus)

これは当時の環境に適応した結果と考えられ、二足歩行化は爬虫類という設計枠の中での「裏技」的な最適解だったのかもしれません。

また、恐竜は腰から真っ直ぐ下に脚を伸ばし、より効率的に体重を支えられる「直立二足歩行」も獲得し、運動能力は飛躍的に向上。素早く逃げたり、獲物を追ったり、長距離を移動する能力を獲得していました。

とはいえ、この段階ではすばしっこさで勝負する生態系の隙間の住人でしかなく、偽鰐類に対して正面から対抗できる存在ではありませんでした。


第3章:僥倖…! 三畳紀の大量絶滅

そんな時、恐竜にとって千載一遇のチャンスが訪れました。
約2億年前の三畳紀末に、地球史上ビッグ5の一つに数えられる大量絶滅が起こり、その結果なんと偽鰐類の多くが絶滅、生態系の頂点がにごっそりいなくなるという事態に。

恐竜は空白となった生態系のニッチに一気に進出。その結果、ジュラ紀に爆発的に多様化・大型し、以降「真の恐竜の時代」が幕を開けたのです。


この主役交代劇には、既に恐竜の優れた体の仕組みが完成していたという「必然性」と、ちょっとした条件の違いで別系統の生物が主役になっていたかもしれないという「偶然性」の両方が絡んでいると考えられています。

もし偽鰐類が三畳紀の絶滅を乗り越えていたなら、直立四足歩行の巨大なワニっぽい生物が支配する世界になっていたかもしれません。

偽鰐類が絶滅したとしても、もし何か条件が一つ違えば、先ほど紹介したような恐竜もどき(ラゴスクスやエッフィギア、シレサウルスなど)、あるいは獣弓類(哺乳類の祖先筋)などの他の系統の生物が恐竜の代わりに地球の支配者になっていたかもしれません。

恐竜という二足歩行を基本とする異端の生物が台頭できたのは、様々な要因が重なった、ある意味奇跡の産物だったのかもしれません。
素晴らしい生物を生み出してくれた奇跡に感謝です。


第4章:そして伝説へ──因果は巡る

その後、恐竜は1億年以上にわたり地球の支配者として君臨することとなりました。
中には竜脚類や装盾類、角竜類など、再び四足歩行に戻ったものもいますが、彼らの体の構造には二足歩行時代の名残が随所に残されています。
(これも面白いので別の機会に紹介したいと思います。)

しかし、栄華を誇った恐竜たちも、白亜紀末(約6600万年前)の隕石衝突によって、現代の鳥類の系統を除く全てが絶滅し、中生代は終わりを迎えました。
そして大量絶滅を生き残ったそれまで脇役だった哺乳類が次の時代(新生代)の主役へと躍り出ました。
かつて大量絶滅によって成り上がった恐竜が、大量絶滅によって退場、主役を交代させられたという皮肉な結末です。
悲しくも思えますが、それが生命の誕生以来繰り返されてきた進化の歴史なのです。


現代は哺乳類が全盛の時代ですが、遠い未来には「主役交代」が起き、今は目立たない脇役生物が覇権を握っているかもしれません。その脇役は来たるべきチャンスに備え、今も人知れずどこかで牙を研いでいることでしょう。
哺乳類の派生バージョンか、爬虫類はたまた両生類が返り咲くのか、それとも脊椎動物以外の生物か?
現在や過去の生物進化の例をもとに、色々と想像してみるのも面白いかもしれません。

💡未来の生物に思いを馳せたいならこの2冊。私のバイブル的存在です。


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他にも進化や恐竜について以下のような記事を書いています。是非御覧ください。

・恐竜の手足の進化に関する続編です。

・ティラノやカルノタウルスの小さな手についての考察です。


■使用画像クレジット一覧
・記事見出し画像:
AIによる生成画像

・アロサウルスの骨格標本:
Allosaurus SDNHM (1).jpg by Creoqueteamo, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0
[オリジナル画像] Allosaurus SDNHM.jpg by Sheep81, Wikimedia Commons, Public domain

・スミロスクスの復元図:
Smilosuchus-reconstructions-Jeff-Martz-600-px-tiny-Oct-2014-Tetrapod-Zoology.jpg by Dr. Jeff Martz/NPS, Wikimedia Commons, Public domain

・ポストスクスの復元図:
Postosuchus BW.jpg by ©N.Tamura, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

・デスマトスクスの復元図:
Desmatosuchus spurensis.jpg by Petrified Forest, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0

・エオラプトルの復元図:
Eoraptor NT small.jpg by ©N.Tamura, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

・コエロフィシスの復元図:
Coelophysis size.jpg by Petrified Forest, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0

・レソトサウルスの復元図:
Lesothosaurus NT.jpg by ©N.Tamura, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

・マラスクス(ラゴスクス)の復元図:
Marasuchus NT small.jpg by ©N.Tamura, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

・エッフィギアの復元図:
Effigia BW.jpg by ©N.Tamura, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

・シレサウルスの復元図:
Silesaurus1.jpg by Dmitry Bogdanov, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

・匍匐動作のアニメーション:
Walk cycle of a tetrapod.gif, svg by Sceptic view - gif extracted by MaxxL, Wikimedia Commons, Public domain

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