今日のジャズ: 7月10日、1957年@ロサンゼルス
July 10, 1957 “Don’t Get Around Much Anymore” by Nat King Cole with Billy May’s Orchestra at Capitol Tower, Los Angeles for Capitol Record (Just one of those things)
7月6日紹介曲の「公爵」エリントンと「伯爵」ベイシーの共演に引き続いて、「王様」の登場。大手Capitol Recordによる、これまた古き良き幸の多いアメリカを彷彿させる、オーケストラを率いたナット”キング”コールのボーカル曲。ビルボードのアルバムチャートで17位まで浮上しています。
甘い歌声と滑舌の良い発音で原曲に忠実にメロディー重視という王道・優等生的なスタイルだが、自らの言葉として歌を紡ぎ、鼻に付くことが無く優雅な気分にさせてくれるところが、王様の風格を醸し出すナットの凄いところかと思います。
オーケストラのナットに寄り添う演奏も良いのですが、本曲ではスイングの根幹で左寄りから絶妙にスイングするベースに注耳したいところです。このチャーリーハリスは、コールの有名曲「アンフォアゲッタブル」や「モナリザ」の演奏者でもあり、13年間にわたってコールに連れ添った方です。曲は、「公爵」デュークエリントンの手によるもの。王様が公爵の作曲した曲を歌うという組み合わせも素敵です。
本曲はエリントンの通常の楽曲通り、ボーカル無しのインストゥルメンタル曲だったものが、メロディーが人気となったため、財政負担の大きい自身のビッグバンドを経済的に支える目的で歌詞を付けて売り出す事にエリントンが同意したそうです。
エリントンは詩が付けられた直後にボーカル付きの録音を試みたものの、その頃に普及し始めたレコードによって演奏の機会が奪われたとして米国音楽家連盟がレコード会社に対する音楽著作権料の値上げを巡って録音ストライキを1942年に開始、解決するまで何と約二年に亘り、大手レコード会社では抜け道となったボーカル以外は録音が行われなかったため、商機を逃して大きな転換点があったそうです。
このストライキを象徴するストーリーではありますが、これを受けて当時の音楽のメインストリームだったビッグバンドが第二次世界大戦もあって衰退、抜け道となったボーカルが取って代わった他、ストライキに縛られないSavoyのような中小レコード会社が取り上げたスモールコンボのジャズが普及するという音楽業界の大転換がもたらされたそうです。そして大手レコード会社は、このストライキにも関わらず成長を遂げていくことになります。
伴奏しているビリーメイオーケストラは、ボーカルと相性が良く、そのストライキの抜け道でスターダムにのしあがる追い風を受けたシナトラを始めとして、アニタオデイ、ボビーダーリン、ビングクロスビーといった一流歌手とも共演しています。その特徴は、ミュートトランペットの使用とストリングの起用だそうで、本曲にも象徴的に採用されています。

本バンドには、カナダの数多い歌姫の一人で現ジャズボーカルでは第一人者的なダイアナクラールの躍進を支えたジミーロウルズが演奏に加わっています。ロウルズは燻銀のピアノで特に歌伴奏に秀でたスタイルで、本作のナットやクラールの音楽的な指向に絶妙にフィットしています。

そして、7月6日の紹介曲同様にドラムがビッグバンドのスイングの源泉であることを示すかのようにフィーチャーされています。そのドラマーを調べてみたら何とレスターヤング「大統領」の実の弟で、ヤング家は音楽家の家系だそうです。
重ねられたレコードをモチーフとしたユニークなデザインのキャピトルレコードのあるロサンゼルスは、年中を通して乾燥していて、録音ではカラッとした空気感に概ね特徴があるように感じます。年中を通して温暖なイメージがありますが、冬の最低気温は十度前後と意外と低く、更にカラッとした空気感を纏っています。それに比して本曲は若干の夏の熱量と湿度が加わっている印象を受けます。

オーディオ的には、オーケストラとボーカルの音場のバランス感と、51秒に生々しくアクセントとして鮮明に響く鉄琴の音が、何処まで高鳴るか、がポイントになりそうです。
「公爵」と「伯爵」の共演作は、こちらからどうぞ。
ボーカルとジャズオーケストラの組み合わせが気に入った方は、こちらのマーティペイチオーケストラによるロサンゼルス録音作品もどうぞ。こちらで冬の空気感が感じられるでしょうか。
本作と同じ1957年のロサンゼルス収録作品に興味がある方は、こちらの名手トリオによるエリントンのスタンダード曲の名演奏もどうぞ。
最後に、Savoyレーベルに興味を持たれた方は、こちらの大定番演奏をどうぞ。
