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「このクラブハウスにいた全員が『声を持つこと』を学んだ」モーディ・マオールHC、長崎での2年間を語る(#1)

長崎ヴェルカをB1優勝に導いた、我らがモーディ・マオールヘッドコーチ。今シーズン限りで退団し、新たな挑戦としてミシガン大学(NCAA)のアシスタントコーチへ就任します。長崎を、日本を発つ前のモーディに、クラブ広報が単独インタビューを敢行。ハイインテンシティで駆け抜けた長崎での2年間を語りました。


「毎日の生活に大きな穴が空いたような感じ」

ーー今日はお時間いただきありがとうございます。まずは改めて、B1優勝おめでとうございます! 私もクラブスタッフなので「おめでとう」と言われる立場ではありますが、やはりあなたには「おめでとう」と言わせてください。

モーディ:ありがとうございます。

ーー先週、ご家族が体調を崩されていたと聞きました。残念ながら、先日のパートナーパーティとファン感謝祭には出席できませんでしたね。ご家族は大丈夫ですか?

モーディ:もう大丈夫ですよ。気にかけてくれてありがとうございます。

ーー良かったです。さて、今日は6月9日ですが、優勝を決めたチャンピオンシップファイナルのGAME 3が行われた日から、ちょうど2週間が経ちます。少し時間が経った今、どんな気持ちでしょうか?

モーディ:そうですね…… 少しばかり、空虚感(empty feeling)を覚えています。ここ数日、たくさんの別れがありました。ひとつの重要な章が終わるのだ、と感慨深い思いです。優勝という形でこの章を締め括ることができたことは、もちろん誇りに思っています。それと同時に、この場所を間もなく去ること、そして私にとって意味のある関係を築いたたくさんの人たちに「さようなら」を言うことには、少し寂しさもあります。

ーーこれまで毎日、あなたは自分自身の120%をこのチームに注ぎ込んできて、その日々が急に終わりを迎えた。

モーディ:毎日の生活に大きな穴が空いたような感じです。過去2年間は毎日、そこに目的がありました。私を導いてくれる光があり、目標があり、私が行っていた全てのことに目的があったのです。でも今、その日々が完結し、突如として「何もない」状態になりました。奇妙な感覚です。

ーー2年前にNBLニュージーランド・ブレイカーズのヘッドコーチを退団し、ここ長崎に来た時も同様の感覚でしたか?

モーディ:当時も似た感覚はありましたが、ブレイカーズを離れた時は、すでに次の仕事に取り掛かっていました。新しい章がすぐに始まっていたのです。ブレイカーズでの仕事を終えた24時間後、私はすでに長崎にいて、ここでの仕事に取り掛かり始めていました。でも今は、これからアメリカへ行くまでに少し時間があって、あまりやることがありません。それが奇妙な感じなのです。

ーーあなたは今シーズン限りで退団し、新しい挑戦として、ミシガン大学(NCAA)のアシスタントコーチに就任されました。いつ長崎を発つ予定ですか?

モーディ:今は家族のビザの手続きが終わるのを待っているところです。なので、おそらくあと数週間はかかるでしょう。

ーーそれまでは長崎に滞在されるのですか?

モーディ:そうなると思います。

ーーここであなたと一緒に仕事ができなくなるのは残念ですが、あなたのキャリアにおいては素晴らしい栄誉だと思います。なので、やはり「おめでとう」と言わせてください。

モーディ:ありがとうございます。私にとって大きな挑戦です。私にとって全く新しい、これまでと異なるバスケットボールのダイナミクスとエコシステムに出会うことになると思うので、楽しみにしています。

伊藤拓摩GMから伝えられた「耳の痛い真実」

ーーあなたの新しい挑戦についての話は、また後ほど聞かせていただくとして、まずは長崎での2年間について振り返っていただきたく思います。漠然とした質問になりますが、長崎で過ごしたこの2年間はあなたにとって、どのような時間でしたか?

モーディ:そうですね…… 「充実(Fulfilling)」でしょうか。この2年間を表現するために使う言葉として、おそらくこの言葉が適切だと思います。そして、充実感を得るためには常に、困難を乗り越えることが必要です。自分自身の「ベストバージョン」を、ここにいる仲間と共に追求し続けたこと。選手やスタッフ、オーナーシップ、経営陣、このチームに関わる全員と共に。それは充実感を伴う追求であり、毎日の中に目的がありました。コーチとして、これ以上のことは望めません。

ーー退団を伝えるリリースに記載されていた、あなたのコメントを読みました。その中であなたは、拓摩さん(伊藤拓摩社長兼GM)に対してこんな言葉を述べていました。

Takuma-san - For being a truth teller, even when the truth wasn't easy to hear
拓摩さん、耳の痛い真実であっても、常に率直に伝えてくれてありがとう。

ーー拓摩さんから伝えられた「耳の痛い真実」について、何か具体例を思いつきますか?

モーディ:もちろんです。まず始めに、拓摩さんは素晴らしい視点を持っている人物です。彼はクラブの社長でありGMですが、それ以前にコーチであり、今でもコーチとして物事を考えることができます。そして彼は、人間に対する素晴らしい直感も持っています。彼はこれまでの人生経験から、日本の文化や日本のバスケットボール文化、この空間で外国人であることの意味についても鋭い視点を持っています。私がここに来た初日から、いや、私たちがここで一緒に仕事を始めるよりも前から、私たちは「日本でどのようにコーチングするか」「日本人の選手にどうアプローチするか」「日本でどのように組織をマネジメントするか」といったテーマで会話をしていました。

私が学んだのは、日本文化において日本人は時に「自分が考えていることを言わないことを選ぶ」ということです。自分が感じていることを公には言わない。特に、それがネガティブに受け取られる可能性がある場合は、そのような会話を避けようとするでしょう。でも、拓摩さんは決してそうではありませんでした。出会った初日から彼はオープンで正直で、お互いが何か違う意見を持っていることに気付いた時は、いつでもそれを私にシェアしてくれました。

モーディ:例えば、私は相当なハードワーカーであり、私たちが日々の仕事をどう進めるべきかについて高い基準を持っていますし、選手たちにも高い基準を要求します。チームスタッフに対しても同様です。コーチングスタッフ、パフォーマンスチーム、メディカルチーム、オペレーションズチーム…… 分野は関係ありません。「仕事はこのように遂行されるべきだ」という私なりの考え方があるのです。しかし、就任1年目の2024-25シーズン、そうした私の考え方は、この組織に大きなショックを与えました。私の要求水準は多くの人々のキャパシティを超えており、彼ら彼女らを疲弊させてしまったのです。

1年目のシーズンが終わった後、私は拓摩さんと正直な話し合いをしました。そこで拓摩さんは、私のやり方が持続可能なものではないと考えていることを私に伝えました。私たちの働き方、私たちがオフィスで費やす時間、私がスタッフに対して要求する仕事の質量…… それは多くの人にとって長く続けられるものではない、と拓摩さんも感じたのです。彼は、私が他の誰よりも自分自身に対して高い基準を課していることを理解してくれていました。でも同時に、他の人々がそれに合わせるのは困難でした。私たちは仕事の進め方を変えなければならない、と拓摩さんは考えていて、それを私に明言してくれました。

ーー昨年11月にあなたをインタビューした際も、オフシーズン中にクラブハウスの働き方を見直した話をされていましたね。

モーディ:より良い方法を見つけるため、私たちはオープンな話し合いをしました。どうすれば組織の人々のために、より良いワークライフバランスを作れるか。そして、どうすれば仕事の基準を下げることなくそれを実行できるか。議論の結果として、私は自分やスタッフの日々のスケジュールの運用方法に大きな変更を加えました。そして経営陣も、スタッフを大幅に増やすことで私をサポートしてくれました。私たちは1年目から充実したコーチングスタッフを抱えていましたが、2年目は新たなビデオコーディネーターとしてカズ(金城知紗ビデオコーディネーター)が加わり、そしてポーリー(ポール・ヘナレアソシエイトヘッドコーチ)という経験豊富なコーチも加わりました。パフォーマンスチーム、メディカルチームも人員を強化しました。

つまり、それは経営陣からの確かなコミットメントを伴うものでした。人を増やすには当然、高額な費用がかかります。それでも人員を増やしてもらったことによって、私たちは仕事の進め方を見直すことができました。一人ひとりにかかる負荷を下げながらもなお、私たちが満たすべき仕事の基準を満たすことを可能にしてくれました。

それは拓摩さんにとって、簡単な話し合いではなかったと思います。でも、私たちの関係性と彼の人間性によって、私たちはその話し合いを持つことができました。そして、ただ話し合うだけでなく、そこから「非常に生産的な解決策(very productive solutions)」を導き出すことができました。

誰もが「自分の意見を声に出す責任」を持っている

ーー拓摩さんとの話し合いに限らず、チーム内でのオープンで正直なコミュニケーションは、あなたのコーチングにおいて重要なテーマの一つだったと思います。就任1年目のシーズン、チームが経験した最大の進歩は「質問をするのが上手になったこと」だとも話していましたね。

モーディ:チームが学んだのは、質問することだけではありません。このクラブハウスにいた全員が「声を持つこと(To have a voice)」を学んだと思います。チームは私のものではなく、「私たち」のものです。もちろん、ヘッドコーチである私が決定を下す場面は多く、最終的に私が決断を下した時は、全員がその決定に従い一つになって行動する必要があります。しかし、そのプロセスにおいては全員が、私たちが行うあらゆることについて声を上げる機会を持っています。機会だけでなく、自分の意見を声に出す責任も持っています。

モーディ:もし、あなたが何かに対して反対意見を持っていた場合、あなたが声を上げることはさらに重要です。もし違うアイデアがあるなら、もっと上手くやれると思うなら、別の視点を持っているなら、声を上げる責任があります。それは新たな価値を付加するものであり、価値を損なうものではありません。価値を損なうことがあるとしたら、それは「自分の意見が受け入れられなかったという事実を受け入れられない」場合だけです。それが誰の声であろうと、その声に耳を傾けるのは私の責任です。そしてその意見や視点を、誰が言ったかや発言の理由とは関係なく、純粋にメリット・デメリットに基づいて判断し、チームとして前進するための最善の方法を見つけるのです。シーズン中、こうしたプロセスがどんどん頻繁に起こるようになりました。チームスタッフの間でも、選手の間でも多く起こりました。それは私たちが物事を進めるプロセスにおいて、非常に重要だったと思います。

ーー誰もが声を上げる機会と責任を持っている、その一方で、立場の弱い人など一部の人々は声を上げにくいと感じているのが、多くの組織や社会における現実だと思います。たとえばプロバスケットボールチームなら、プレータイムの長い選手の方が発言しやすいとか、あるいは選手はコーチに対して本音を言いにくい、みたいな場面もあるかと。

モーディ:これには文化的な側面もあると思います。日本人、あるいはコーチに対して選手たちは、より物静かで「フォロワー」になりやすい傾向があります。最初の頃は確かに、いくつかの声が他の声をかき消していたと思います。私たちが真のチームになるためには、全員の声を等しく評価すること、そして全員が声を上げる責任があると感じることが必要でした。

ーー馬場雄大選手は、チャンピオンシップファイナル初戦前日の記者会見で、今シーズンの「ターニングポイント」として4月に遠征先の北海道で行ったチームミーティングを挙げていました。そのミーティングでは選手とコーチ陣が円になり、皆でチームに対して思っていることを正直に言い合って、それによってチームが良い方向に進んだと。

モーディ:あの北海道でのミーティングは、私たちがお互いオープンにコミュニケーションを取ることを目指した、その結晶とも言える場面でした。

ーー北海道でのミーティングについて、馬場選手を含む複数の選手から話を聞きましたが、皆が「良い時間だった」と口を揃えていました。あの日、あのタイミングでなぜそのような場を設けたのか、あなたの言葉で説明していただけますか?

モーディ:もちろんです。そのためには、シーズン開幕からあのミーティングに至るまでに、私たちがチームとして経験したことを説明する必要があります。

#2につづく)