11.友達は彼方【ぶっころ大好き選手権】11/13
※連載作品です 前話はこちら
第一話はこちら
私たちがぶっころの実家に行くと、父親と母親が出迎えてくれた。
実家の敷地には家が二軒あり、新しい方と、古い方があった。
新しい方の家には過去にお邪魔した事があったけど、古い家の方には入った事がなかった。
フグタ君は、
『あれっ!?家新しくなってる!』
と驚いてた。
お前知らなかったのかよ。
ぶっころとフグタ君は中学から交友があった事は知っていたが、その頃には古い方の家しかなかったらしい。
俺が知らない過去のぶっころを知ってるコイツを見て、私はこんな時にも関わらず、
(俺の方がぶっころを知ってるんだぞ)
などという、謎の対抗意識が芽生えてきた。
古い方の家に上がると、奥の座敷に案内された。
そこには、祭壇があった。
そして祭壇には、ぶっころの遺影があった。
警察官の服を着た、ビシッと決まったカッコいいぶっころが写ってた。
私は声には出さず、
(マジかよぉ…。)
などと思った。
この後に及んで、なんか心のどこかで実感が持てずにいたのだが、この時になって、胸の奥からじわじわと確信めいたものが這い上がってきたのだ。
まず父親が、祭壇に手を合わせた。
「〇〇。今日は、お友達が二人来てくれたよ。」
そう言って、何かの念仏のようなものを唱えた。
次は私たちの番だったが、私とフグタ君は顔を見合わせた。
どっちが先か、という顔だった。
私は、付き合いが長いフグタ君を尊重した体だったが、内心では、
(俺の方がぶっころを知ってるんだから、まあここは譲ってやるか。)
などと、謎に上から目線で譲ってやった。
そして、私の番が来た。
ずっと気が済むまでここに座っていたいって思ったけれど、そういう訳にはいかない。
私は手を合わせたが、短い時間で胸の中で唱える言葉も湧いてこなくて、目を開けた。
改めて、警察官の制服を纏った、ぶっころの写真を見た。
そして、気付いた。
こんなに長く一緒にいたのに、ぶっころの警察官の姿、俺は一回も見た事がなかった。
少しして、私は座布団から降りた。
『お供え物をあげてもいいですか?』
フグタ君が言った。
ナイス!
俺もいつ言おうか迷ってたんだ。
私はここに来る前、何か酒を一本持って行こうと思って、用意してた。
一度は、フロンティアにしようかと思ったけど。
私が持ってきたのは、ワイルドターキー8年と、ウィルキンソンのジンジャーエール。
あと、かんずりと、味噌と、醤油だった。
何だこれ。
かなり意味が分からない組み合わせだったが、ぶっころの父も母も、特に気にした様子はなかった。
後で説明しよう。
私たちがそれぞれお供え物をあげ終わると、ぶっころの父親は、
『あちらで、少し話しませんか?』
と言った。
え、もうここを離れるの!?
お別れおしまいなの!?
私は焦ったけど、
『もうちょっとだけ見てていいですか?』
とフグタ君が言った。
フグタ君と一緒に来てマジで良かった。
私も一緒に、ぶっころ君の祭壇を眺めた。
いつかのように、私はぶっころの、綺麗な方の実家にお邪魔した。
あの頃の私は、田舎の肉じゃがみたいな男だったけれど、今の私はポトフくらいにはなってるつもりだったので、あの時ほどの緊張はなかった。
家の中は、記憶にある風景とあまり変わったような気はしなかった。
今でも2階に、100万回生きたねこの絵本はあるのかな?
ぶっころは、いつもいつも新しい事ばっかりやってた。
あの絵本が好きだったのだろうか。
私はソファに促され、座った。
あの時と同じソファだ。
そして隣にフグタ君が座った。
前はそこに、ぶっころがいた。
父親は、
『何か飲みませんか?』
と言った。
『日和さんは、お酒とか飲まれるんですよね。』
そう言ってきたが、ここで酒をご馳走になるのはちょっと違う気がしたので、
「いえ、あちらに戻ったら、車の運転がありますので。」
と断った。
あの時にご馳走になったウイスキーは、何だったのかな?
などと考えたけれど、そんな事を聞いてる場合じゃないなって思った。
『日和さんは、以前にも家にいらした事がありましたよね?』
父親がそう言う。
「ええ、あいつが向こうから帰ってくる時、すんごい荷物だったので、送ってきた事がありました。」
そう言うと、ぶっころの母親が麦茶を持ってきてくれながら、
『ああ、あの時は本当に、もう変な息子で迷惑ばっかりかけて。』
と言って、私とフグタ君の前に麦茶を置いた。
私が麦茶を飲むと、フグタ君が言った。
『あの、失礼ですが、あいつはどんな風に亡くなってたんですか?』
こいつ良く聞けたな!?
私は驚いたけれど、本当は私も聞きたかった事だった。
ご両親の心情を慮って、私が半ば諦めようと思ってた質問を、フグタ君はストレートに聞いたのだ。
そのおかげで、新たな情報を得られた。
死因が心不全である事に変わりはなかったけど、場所がはっきりした。
いつも使ってたハンモックとテーブルの間に、挟まるようにして横になっていたそうだ。
そして、テーブルの上にスマホが置いてあったらしい。
それが、私たちが知る事が出来た、最後の情報だった。
父親の話は続いた。
ぶっころのスマートフォンはパスワードが分からず、それまでに何をして過ごしたのかも、親しい友人は誰なのかも何も分からなくて、やむを得ずに家族葬にしたそうだ。
私は、最初に父親の電話を受けた時、iPhoneを叩きつけて鼓膜をブチ抜いてやろうと考えた事を、申し訳なく思った。
俺は何を考えてるんだ?
自分が一番辛いとでも?
父親はあの時、どんな気持ちで私に電話をしたのか?
あまり何も喋らずにいる母親は、何を思ってるのか?
私は、どんどん自分の存在が、小さく思えてきた。
ぶっころにとって、俺って何だったんだろう。
「最後にアイツと会ったのって、いつだったんですか?」
父親は答える。
『2年くらい前に、釣れた魚を持ってきて食べさせてくれた事があったきりで、そのあと連絡も取ってなかったんですよ。』
なんて事だ。
あいつめ。
もっと家に帰れよ。
親と絶縁してる俺が言えた事でもないけどよ。
「私、今年の夏に、彼と沢山遊んでたんです。
写真あると思います、見てもらえませんか?」
私がそう言うと、後ろで静かに立ってた母親が前に出てきて、私のiPhoneを覗き込んできた。
「これかな?あれ?もっと前かな?」
私が思った以上に、ぶっころの写真はなかった。
そのかわりに目に飛び込んでくるのは、会社の人と登山に行った写真や、バーベキューの写真。
それでも、5〜6枚の画像や動画が見つかった。
釣った魚を持ち上げてるアイツ。
ボードを漕いでるアイツ。
そして、わざわざ家から持ってきたハンモックを、私の庭に設置して、ユラユラ揺れてる動画。
『動いてる…』
母親がそう言った。
私はこの夏、どれだけぶっころに助けられたのかを思い出した。
ぶっころがどんなに面白いやつだったか。
どんなにいい奴だったか。
どんな悩みを抱えていたのか。
どんな事に笑う奴なのか。
必死に思い出して、両親に伝えた。
ディアナチュラ飲んでる事も教えた。
「だから、私にとって、かけがえの…」
その辺まで口にしようとして、涙が溢れそうになったから、私は天井を見上げた。
それと入れ替わるように、隣で話を聞いていたフグタ君が喋りだした。
『僕が最後にあいつに会ったのは5年くらい前で。
僕の結婚式に出席してもらったんです。
その時、友人代表の挨拶もしてもらいました。』
『それから、ずっと家族とか子どもの事で忙しくって、全然会えてなくって。』
『今回、日和君から連絡を受けて、この事を知ったんです。』
『もっと遊んどけば良かった。』
フグタ君の顔をみた。
目は真っ赤で、涙を溜めていた。
ぶっころの父が言う。
『フグタ君は、中学校からのお友達でしたよね。』
するとフグタ君は、
『ええ、中学校の時と、あと高校を卒業してから、仙台で学校が近かったんで、そこで4年くらい一緒に遊んでました。』
そうだ。
俺だけじゃない。
みんなに歴史があるんだ。
みんながぶっころを思ってて、みんなここにいるんだ。
などと考えていると、フグタ君はこっちを見て、
『悪いな日和!
お前の知らないアイツの事、俺が知っててさ!』
と笑った。
私は慌てて、
「いや、人との関わりは人それぞれだから。」
って言った。
対抗意識を燃やしていた私だったが、どうやらコイツも同じらしかった。
(俺だってぶっころを知ってるんだぞ。)
そう言いたいんだろう。
その気持ちが分かりすぎた。
続けて、フグタ君が言う。
『アイツ、あの頃はタロットカードで占いとかやってたんですよ。』
初耳だった。
ぶっころ、バイク乗り回す前はそんな事してたのか。
すると母親も少し笑って、
『そんな事もありましたねぇ、あの子、いろんな事やってたんでしょう?』
そして私が言う。
「あいつらしいよ、あいつさ、毎年、何かしら新しい事を始めないと気が済まない男だったんで。」
すると、父親と母親が笑って、
『良くご存知で!』
と言った。
フグタ君は、
『えっ、そうなんだ。』
と言ってた。
ふん、一本取ってやったぜ。
だんだん、お互いに喋る事もなくなった頃に、私たちはお暇する事にした。
『今日は、〇〇君に合わせてくれてありがとうございます。』
とフグタ君。
私も慌てて、
「ありがとうございます。」
と続けた。
靴を履いて、玄関を出ようとした時。
母親が、両膝をついて、両手を床に置いて、
『ずっと息子が、寂しい思いで亡くなっていったんじゃないかと、心配でたまりませんでした。
今日は来て下さって、本当にありがとうございます。
心が少し救われました。』
震える声で、頭を両手の所まで下げて、そう言った。
私は母親に向かって、礼をした。
ホテルマン仕込みの美しい礼であったと思いたい。
フグタ君にいい所ばっかり取られてて悔しかったんだ。
俺が一番、ぶっころの事を思ってるんだ。
ずっとそう思ってたけど、多分、それは違うって思った。
12/13へ続く
まとめはこちら
