10.友達は彼方【ポテトチップスは二人前】10/13
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朝、私はいつも通りに起きて、まずは朝ごはんを食べた。
そのあと、髪をセットして、髭を剃る。
そして仕事に向かった。
午前中は、レストランの仕事だった。
私は何回もバックヤードに引っ込んで、LINEや、着信がないかの確認をした。
しかしそれも無駄に終わり、集中出来ないまま、午前の仕事を終えた。
そして、午後になる。
私は一人で、カトラリーボックスを組んでいた。
スプーンやフォークをトーションで拭き上げながら、作業台の上にiPhoneの画面を見えるように置いて、黙々と作業を行なった。
そして、午後の2時頃だろうか。
バイブレーションが鳴るのとほぼ同時に、iPhoneの画面が光った。
知らない番号だ。
アイツか?
アイツであってくれ。
私は仕事を中断して、電話に出た。
「もしもし。」
『もしもし。
〇〇のお友達ですか。』
男の声だった。
〇〇って言った。
ぶっころの本名だ。
「ええ、そうですけども。
どなたですか?」
すると、電話をかけてきた男は、
『〇〇の父ですけれども。』
何で父親?
「ええ、それでどうしましたか?」
私は、かなり失礼な感じで返事をした。
『〇〇ですね、先日、亡くなったんですよ。』
「は?」
『〇〇ですけども、亡くなったんです。』
何で2回も言うの?
多分私が、
『は?』
って言ったからだろうけど。
そのあと、私は沈黙してた。
言いたい事や聞きたい事は色々あったが、不思議と冷静に、
(まずは相手の出方をうかがってやる。)
などと、謎に不遜な考えをして、相手の言葉を待った。
父親は、次のような事を教えてくれた。
2週間前に、アパートの自室で倒れていた事。
仕事に来ない事に不信を抱いた職場の同僚が、彼のアパートを訪ねた事。
そこで、息を引き取っている彼を見つけた事。
死因が心不全である事。
もう葬式が終わって、火葬も終わって、骨になっている事。
遺骨が、実家にある事。
もう、全部処理が終わっているという事。
私の電話に連絡をしてこれたのは、どうやら昨日、ポストに投函したメモを見ての事だったらしい。
私は、勤めて冷静に、淡々と言った。
「分かりました。
なら、せめて線香の一本でも上げさせて頂きたいので、そちらにお邪魔させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
彼の父は、了承した。
そして、
『今まで〇〇と仲良く過ごして下さって、ありがとうございました。』
と言った。
私はiPhoneを叩きつけて、その音で父親の鼓膜をブチ抜いてやろうかと思ったが、そんな事はせず、
『いえ、そんな事いったらこちらこそ…』
という所まで喋って、言葉に詰まった。
ちょっとやり取りをした後は、また仕事が終わった頃に連絡すると告げて、電話を切った。
そのあと、私は仕事をしながら、父親の言葉を何度もなぞった。
【今まで〇〇と仲良く過ごして下さって、ありがとうございます。】
貴様にそんな礼を言われる筋合いなどない。
あいつの死んだ日付は、一緒にボードゲームのコマに色塗りをした日から、4日後の事だった。
私が妻と一緒に、かんずり、味噌、醤油を探してた日。
私は、腹の底に、泥のようなものが溜まっていくかのような気持ち悪さを覚えた。
そして、その後の仕事の事を、あんまり覚えてない。
仕事が終わった私は、そのまま帰りにコンビニに行って、なんかアイツが好きそうな缶ビールと、乾物と、ポテチを選んで、二人分買った。
そして自宅に帰って、風呂にも入らず、いつもは使ってない2階に上がっていった。
そこにキャンプ用のテーブルを置いて、折り畳みイスを二つ並べて、ちょっと古い方に座った。
まず、共通の友達みんなにLINEで報告した。
時々電話がかかってきたけど、かけてこない奴もいて、
(こいつはその程度なんだ。)
などと思った。
そのあと、私は一人で酒盛りを始めた。
缶ビールを二つ並べて、一つ開封する。
一つは私の分。
そしてもう一つは隣に置いた。
私は色々と喚いたり、そこに居もしない相手に向かって色々な怒りをぶつけながら、一人で缶ビールを全部飲んで、フロンティアもちょっと飲んで、お菓子を食べた。
二人分あって、食べきれなかったので、ポテチは余ってしまった。
次の日の朝、また、その椅子に腰掛けて、残ってたポテチを食べた。
昨日は喚き散らして泣いたけど、今日は静かに泣く事にした。
でも、最初のうちは静かに泣いているんだけど、だんだんまた喚き散らすようになっていった。
それから先の何日間かを、私はあんまり覚えてない。
何日かは、普通に仕事をしたと思う。
たまに有給を使って休んだり、出社してみたけど早退した日もあったと思う。
何にも考えられなかったのかもしれないし、思い出したくないだけなのかもしれないけど、何日かが経った。
その曖昧な期間の、どこかは分からないが、フグタ君と一緒に線香をあげにいく約束をし、ぶっころの父にアポを取った。
ぶっころーす、って自転車で走り去ってたアイツが、一番最初に死んでしまうなんてな。
私はフグタ君と待ち合わせた。
久しぶりの再会だった。
多分、もう5年以上会ってなかったと思う。
フグタ君はスバルのカッコいいSUVに乗ってたので、
「おおー!すげえじゃん!」
ってどうでも良い事を喋った。
後部座席には、チャイルドシートが乗せられていた。
お前が親になるなんてな。
俺もか。
そのあと、フグタ君の車の助手席に乗って、
(ぶっころにも嫁さんがいたら、助かったのかな。)
などと考えた。
そして、
(何で俺と遊んでる時に倒れなかったんだよ、俺がいたらすぐに119番したんだ。)
と思った。
何で倒れたんだろう?
私はナルコレプシーとか、睡眠薬の事とか、ぶっころの最近の仕事の話を思い出した。
自殺だったのかな、なんて事も考えた。
だけどあいつ、ディアナチュラのマルチビタミン飲んでた。
そんなの何の根拠にもならないけど、どちらにせよ、ぶっころがそんな事するとは思えなかった。
そんな飲みもん増やす暇があるなら酒を減らせ。
フグタ君とは久しぶりに会ったので、色々喋った。
フグタ君もまた、心不全という死因を聞いて自殺を連想したようだった。
私は、そんな事するとは思えないと考えながらも、その可能性も100パーセント否定する事は出来なかったから、
「わかんねぇ。
でも、遺書とかはなかったんだって。」
みたいな返事をした。
死んだ事に、多分間違いはないんだと思う。
そして、私もそのつもりでいた。
なのに、何だかずっとよく分かんなかったんだ
助手席に座りながら、私はぶっころにLINEした。
既読は付かなかったし、その前に送ったLINEにも既読はついてなかった。
私はスマホを置いて、窓の外を眺めた。
フグタ君が言う。
『ぶっころの実家どこか知ってる?』
お前は今までどこに向かって車を走らせてたんだ?
「…ナビに住所入れるから、住所入力する画面を出してよ。」
私は、ナビに住所を入力した。
続けてフグタ君が言う。
『途中でお供物買ってもいい?』
先に買っておけよ。
フグタ君があんまりとぼけてるから、そのあとは少し気が楽だった。
一人だったら、キツかったろうな。
私は内心、フグタ君に感謝した。
私たちはぶっころの事を喋りあいながら、実家へ向かった。
11/13へ続く
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