9.友達は彼方【ハゲとオッサンは主人公】9/13
※連載作品です 前話はこちら
第一話はこちら
9月は半ばを過ぎてもなかなか暑くて、ぶっころと私は、エアコンのかかった部屋にいた。
その日のぶっころは、相変わらずちょっと変で、まぁいつも変だったんだけど、それでもちょっと変だった。
あんまり釣りに行く気分になれなかったらしくて、私たちはせっかく集合したのに、行き場所を失ってた。
最近の辛そうにしてるぶっころを見てたので、私は、
「無理になんかしなくても、家でダラっとしようぜ。」
と言った。
ぶっころの家は海が近くて、私は、
「散歩しようぜ。」
と誘った。
大きな港内には、波が入ってこない。
アジなのかイワシなのか、何狙いなのかは分からないけど、地元の釣り人がポツリポツリと点在してた。
「良い所だな。」
『だろぉ?』
私たちは、海を見て歩いた。
帰りにドラッグストアに寄り道して、紅茶とコーヒー、そして、お菓子を買って、ぶっころの家に戻った。
私たちは家に引きこもって、カードゲームやボードゲームで遊んだ。
ゲームに飽きると、彼の持っていた塗料を借りて、ゲームに使うコマに塗装をして過ごした。
ぶっころはプラモやミニチュアのフィギュアも好きだった。
多分1回の人生で、世界を遊び尽くすつもりなんだと思う。
「どうよ、このオッサン感。」
私は、自分が塗ったコマをぶっころに見せた。
主人公でもなく、カッコいいライバルとかでもなく、いかにも脇役のザコみたいなキャラに仕立ててた。
一方のぶっころは、
『俺は、これだ。』
ハゲだった。
頭に白と黄色の塗料が塗られてて、お坊さんが後光をさしてるようなキャラクターだった。
「ハゲかよ!!」
私がツッコミをすると、ぶっころは実に愉快そうに笑って、
「お前もオッサンじゃねぇか!!」
と言った。
でも時間が足りなくて、最後まで塗る事はできなかった。
「次来た時にまたやるから、取っといて。」
『おっす。分かった。』
早く自分が作ったコマで、ゲームの続きやりたいな。
なお、彼の名誉の為に言っておくが、ぶっころ本人はハゲではない。
「もうちょっとしたら妻の実家に行くんだけど、帰りのお土産何がいい?」
『じゃあ、なんか特産品買ってきて。』
「特産品?」
『ああ、醤油とか、香辛料とか調味料みてーな奴』
何だそりゃ。
『しょっつるとかさ。』
それ秋田のだろ。
実家関係ないわ。
「わかったよ。」
なんかしょっつる的なポジションの醤油を探そう。
しょっつる的なポジションって何だ?
私が実家までの切符を買いに行くって言うと、ぶっころは車を出してくれた。
みどりの窓口から戻ると、
『ほいよ。』
ドトールのコーヒーだ。
何て気の利く男だろう。
「おお、ありがとう!」
俺みたいな男が結婚できて、何でコイツが独身なんだ。
妻の愚痴とか子どもの可愛さとか語り合いたいのに。
「じゃあありがとな、また遊ぼーぜ。
あとで連絡するよ。」
『おっすおっす。ありがとう。』
私は、妻の実家に出発した。
妻と一緒に、実家近くにあるスーパーに行った。
「ねぇ、なんかいい調味料ないかな?」
私は、妻に尋ねた。
『調味料?』
「うん、なんか特産品?みたいなやつ。
ぶっころにお土産買って行こうと思って。」
妻はちょっと怪訝な顔をして、
『箱菓子とかにしたら?』
という。
「あいつ美味しいもん沢山知ってるから、そういうのはいい。
しょっつる的なやつとかないの?」
『しょっつるって秋田でしょ?』
「それは分かってるの!
しょっつる的な別のやつ!」
『意味わかんない、私あっちの野菜見てくるから。』
私は妻のおすすめを聞きながら、かんずりとか、味噌とか、醤油を買った。
何だこれ。
この味噌とかんずりで、ぶっころと鍋を作って酒を飲もう。
そして、その年の11月に、妻と子ども達が帰ってくる事が決まった。
妻は、楽しそうにお土産を選ぶ私の顔を見て、笑ってくれた。
季節は、もう秋を迎えていたんだ。
10月になると、あるニュースが飛び込んできた。
いつも視聴しているYouTubeチャンネルで、ニッカの新作ウイスキー、フロンティアが発売された、という大ニュースだった。
私は速やかに身支度を整え、近所の酒屋に車を走らせた。
フロンティアは棚に並んでいて、私はすぐにレジに向かった。
お土産が増えた。
私は、意気揚々と自宅に帰り、LINEをした。
【フロンティア入手したわ!】
ただ、不思議な事に、一日待っても、二日待っても、一週間待っても、返事は返って来なかった。
連絡が来ない間、私はそれなりに彼を探した。
まず、フグタ君に連絡をした。
私以外で知ってる可能性があるとするなら、フグタ君だった。
というか、他にアテがなかった。
けれど、フグタ君にも連絡は来ていないようだった。
次に私は、彼のアパートを訪ねた。
彼のアパートはいつも通りだった。
玄関先には、ブリが一本まるごと入りそうなクソデカクーラーボックスがいつもみたいに置いてあった。
その上に、メンマのビンが置いてあって、タバコの吸い殻がぎっしり詰まってる。
いつ捨てるんだろう、爆発するぞ?
インターホンを押しても出てこないので、同じ場所にあったアメスピを勝手に一本もらって、メンマの瓶が爆発するまでのカウントダウンを早めてやろうと思った。
ただ、そんな事をしてても埒があかない事は明白だったので、メンマの瓶にタバコを押し込んで、彼の職場に行ってみた。
彼は空港内に併設されている派出所に勤務している事を知っていたので、その空港に行ってみた。
ところが、いざ空港に入ってみると、急に臆病風に吹かれた。
いたらどうしよう?
という謎の不安だった。
もしいたら、私が避けられてる事になる。
それに、わざわざ職場の派出所にまで友人が尋ねてきたとあれば、周りの人から何やら言われたりして気まずい事になるのでは、みたいな事も思った。
最近の彼の話を聞くに、どうも職場の人とは上手く行ってなさそうな感じだったので、結局私は、彼の手がかりを得る事なく、空港を出た。
その帰り、もう一回、彼のアパートに行ってみた。
けれど、状況は特に何も変わっていない。
メンマの瓶を見た。
増えてない。
仕方がないので、アメスピをもう一本吸った。
おまわりさん。
ここに不審者がいますよ。
そして、車の中にあったチラシに、私の名前と電話番号、その他に、
【スマホ壊れたんか?とりあえず連絡くれー。】
という手紙を書いて、私は家に帰った。
明日も仕事だったので、いつまでも彼を探している訳にもいかなかったのだ。
もやもやした気持ちで、私は思った。
あいつ、海にスマホ落としたんじゃね?
俺の電話番号なんて、いちいち覚えてないだろうし。
まさか、釣り中に海に落ちたりしてないだろうな?
あんな誰も傷つけないモンスターに、そんな事ある訳ねぇか。
警察官だし、何か一般人に言えないような、機密度の高い仕事でもしてんのかな。
私はそんな事を考えながら、そのうち眠った。
10/13に続く
まとめはこちら
