6.友達は彼方【手漕ぎボートは進み始める】6/13
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6月になる頃には、私たちのボートはかなりスムーズに進むようになっていき、ぶっころはデカいタラを釣ったりしてた。
近くで釣りをしてたおっちゃんにタラを見せると、爆笑してた。
『珍しいねー!!』
そうだよね。
みんなヒラメ釣りに来てるもん。
釣りを終えて岸に戻り、私はヒラメを自分のクーラーボックスにしまう。
するとぶっころは、
『俺もそんくらいの丁度いいサイズのクーラーボックス欲しいな。』
と言った。
今更か?
ぶっころの持ってきたやつは、ブリが一本丸ごと入りそうなクソデカクーラーボックスだった。
「順番おかしいだろ。」
と言うと、
ぶっころは、
『でっけぇのが釣れるかもしれないだろ。
大は小を兼ねるって言うだろ。』
って口答えする。
「過ぎたるは及ばざるが如しって言うんだよ。」
ぶっころが笑った。
よし、一本取ってやったぞ。
ぶっころはタラを、ブリが一本まるごと入りそうなクソデカクーラーボックスに入れた。
比率がおかしい。
私は、
「あれ?お前が釣ったのってアジだっけ?」
って言った。
ぶっころはまた笑った。
よっしゃ、これで二本目だぜ。
私はぶっころに、
「今度はさ、山とかのぼってみない?」
と誘ってみた。
ぶっころは、
『山はなぁ…。』
と渋ってる。
なんで来ねぇんだよぶっとばすぞ。
無理だ。
コイツ熊より強いかもしれねぇ。
カウンターアソールト買おうかな。
私は自宅に帰り、一人で魚を捌く。
妻にヒラメの刺身を食わせてやりたいな。
長女には蒸しあんかけを作ってあげよう。
次女は…まだ食えないな、離乳食が始まったらペーストにしてあげよう。
そんな事を考えるようになった。
その頃には、私もそれなりに回復して、仕事に復職する事ができた。
すると、会社の若いスタッフ達が、私を遊びに誘ってくれた。
『日和さんって普段は何してる人なんですか?』
『日和さんって謎の人ですよね。』
『一緒に登山行きましょう。』
私は基本的にあんまり喋らないし、教え方がキツいので、この人たちは私を怖がってたと思うんだけど。
『〇〇さんが、日和さんは面白い人だって言ってましたよ。』
なんで?
なんか私が休んでいる間に私の好感度が社内で自動的に上がっていたらしい。
みんな私が長期のお休みをしてたから、きっと心配してくれてたんだろうな。
親族でさえ私たちの幸せを壊そうとしたというのに、彼らは私の事、フラットに見てくれたんだ。
ぶっころともう一度交友を取り戻す合間、徐々に、会社のスタッフのみんなとの交流も深まっていった。
私は少しずつ、胸のモヤモヤが薄れていく事を感じてた。
夏も深まるころ、私は長女の七五三のために、新幹線に乗って、妻の実家へと向かった。
早く家族に会いたい。
早く娘に会いたい。
私は流行る気持ちを抑えきれず、しかし新幹線は一定の速度で駅に向かった。
駅に迎えに来てくれたのは、妻の父親だった。
「ご無沙汰してます。」
『どうも、遠方からお疲れ様でした。
どうぞ乗って下さい。』
私は助手席で、何を話せば良いのか分からずに、カーオーディオのニュースを何も考えずに見ていた。
すると、妻の父が口を開く。
『娘から色々と聞いておりましたけども、この度は、本当に大変でしたね。』
そう言ってきた。
私は、申し訳ない思いでいっぱいで、
「本当に、申し訳ないです。
自分の弱さに負けて、妻や子どもを守りきれなくて、こんなご厄介を、ご迷惑をかけてしまって、ありがとうございました。」
言葉がメチャクチャだった。
父親は、
『いえ、私はおかげさまで、孫も会えて、娘が帰ってきて、こんなに良い時間を、神様、ご先祖様が与えてくれたんだと思ってます。
日和さんも自分のね、親御さんと、断腸の思いで私の娘と、そして孫たちを必死に思って、今こんな事なっているんだとね、私はそう思いますので。
どうか、何も気にせず、自分の家だと思って、のびのびと過ごしていって下さい。』
私は、恥ずかしくて、申し訳なくて、あまりの情けさに、
「…ありがとうございます…」
と小さく言って、その後は黙ってた。
お父さんはずっと、何やら政治やニュースの話をしていたけど、あんまり耳に入って来なかった。
そして私は、何かと思えば、
俺には、なんでこんな血が流れているのだろう?
なんて事を考えてる。
何で素直に、ありがたい事を、ありがたいって思えないんだろう。
妻の実家に到着した。
およそ3ヶ月ぶりに見た妻は、少しやつれていた。
これまで、少しずつ成長していく娘たちの写メを送ってもらったりしてたし、時々、テレビ電話で妻と会話をしたりもした。
けど私は、まもなく3歳になる娘にばかり意識が向いており、妻の苦労に意識が及ばなかった自分に気付いて、申し訳なく思った。
「子どもたちの事、ありがとう。」
私はそう言うが、妻はバタバタした様子で、
『2歳ちゃんを迎えに行くから、ついてきて。』
と言った。
私は久々に自分の愛車のハンドルを握って、2歳の娘との再会に心を躍らせ、車を走らせた。
保育園の駐車場で待つ私。
園内に入っていく妻。
私はじっとしてられなくて、車を降りて、外にでた。
通り過ぎる他人の母親からの眼差しは、
(誰のパパなんだろう?)
という疑念のような視線を感じたけど、そんな事はどうでも良かった。
夢の中で何度も、
『パパー!』
と廊下を走って飛び込んできた娘。
ママと手を繋いで、一緒に歩いてくる。
私は、今か今かと待ち侘びて、しゃがんだ。
けど2歳ちゃんは、走ってこなかった。
私の顔を見て、
『パパ!』
と満面の笑みを浮かべて、それでもママと手を繋いで歩いてきた。
私は抱きしめて、二度とこの子を離したくないと思った。
実家に戻ると、妻の母親が0歳ちゃんをあやしていた。
ぐずってしまって泣き止ませられず、妻の帰りを待っていた様子だった。
妻の母が言う。
『0歳ちゃん泣き止まねってどうにもならないんだわ。
ちーちゃん変わって。』
妻は言う。
『えー、パパお願い。』
私なんかが泣き止ませられるものか。
ずっとほったらかして、産まれてきたこの子に向き合おうともしなかったのに。
そんな事を考えたけれど、差し出されたら、受け取るしかない。
私は、0歳ちゃんを抱っこした。
私が抱っこして、ポンポンすると、泣き止んだ。
妻の母は、
『やっぱわかるんだねぇこの子は。』
などと言いながら、台所へと向かっていった。
3泊4日ほどの滞在で、私たちは海へ行った。
隣町の大きな公園に行った。
そして、神社に行った。
2歳ちゃんは、3歳ちゃんになった。
「ママ。」
『なに?』
「俺、もう大丈夫だよ。
こんなに元気になった。
もう薬も終えてさ、仕事に復職してるんだ。
半年って言ったけど、もう大丈夫だよ。
予定を繰り上げて、もっと早く帰ってきてもいいと思う。
だからさ、また一緒に暮らそう。」
私は、胸いっぱいの気持ちで妻に言った。
『ダメだよ。』
なんで?
『パパ。
自分の顔、毎日、鏡で見てる?
なんで笑ってくれないの?
0歳ちゃん、こんなに可愛いんだよ?
2歳ちゃんも、3歳になったよ?
やっと会えたのにさ、なんでそんなに悲しそうな顔をしてるの?』
『いつも面白くて優しかったあなたは、どこに行っちゃったの?』
そう言って、妻は泣いた。
帰り道の新幹線、私は、流れていく景色をボーっと見ながら、これからの事を何回も考えた。
考えたけど、思考が回らず、途中で考えるのをやめた。
その代わりに、窓に映る自分の顔をみて、笑ってみようとした。
だけどそれもバカバカしくなって、妻の実家での出来事を思い出した。
2歳ちゃんは走って来なくなった。
0歳ちゃんは私がいなくても大きくなってた。
私は何も考えたくなくて、そのまま目を瞑ったけれど、眠れなかった。
そのうち、新幹線は駅に着くだろう。
景色が通り過ぎていく。
私がボートを漕いでいる間に、子どもたちはお姉ちゃんになっていったんだ。
7/13へ続く
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