5.友達は彼方【MONSTERは山に登らない】5/13
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妻と結婚をして子どもを授かると、次第にぶっころと遊んでばかりもいられなくなってきた。
ある日、私たちは久しぶりに会って一緒にバーでウイスキーを飲んでいると、ぶっころは自衛隊時代に付き合っていた彼女と別れてしまったと教えてくれた。
背がでかくて綺麗な人だった。
流石、ぶっころの彼女さんともあれば、普通の人って感じではなくて、私はお似合いの二人だなって思った。
まだ20代独身の頃、二人が一緒に暮らしていたアパートにお邪魔した事がある。
私たちは3人で、少しお茶とかを飲んで、お菓子を食べて、おしゃべりした。
するとぶっころは、
『泊まっていけよ。』
と言った。
嫌だよ。
『このベッド使えよ。』
君たちが愛し合ったベッドで寝れる訳ねぇだろ何言ってんだコイツは。
『私たちは気にしませんから。』
お前は何でそっち側なんだよ断れ。
お前らが気にしなくても俺が気にするんだよ何なんだコイツら。
彼女さんは、
『日和さんのこと、よく聞いてます。
いつも仲良さそうですよね。』
と言ってくれた。
気分を良くした私だったが、ベッドで寝るのは断固拒否して、毛布を一枚もらって床で寝た。
その後、ぶっころは寝袋を買った。
私の分だった。
俺はお前らとシェアハウスをするつもりはねーよ。
そんな彼女さんと別れたと言うのだから、私は驚いた。
ぶっころは言った。
『俺が警察学校に通ってる間、多分、他の男が出来たんだろ。』
私はブチキレた。
でも、ぶっころはあくまでも静かなトーンで、
『俺が悪かったんだよ。』
と言った。
いつぞやの言葉を思いだす。
【それはお前が悪い。】
それでも私は言った。
「お前はナルコレプシーで自衛隊を続けられなくなったんだろ。
だから彼女さんと一度離れてでも、警察学校に通ったんだ。
何でそれを待てなかったんだ。
俺はそれが許せねぇ。」
するとぶっころは、
『ありがとう』
と言った。
スマンって言え。
試しに私は、ぶっころを登山に誘ってみた。
ぶっころは言った。
『山は訓練みたいなもんだからなぁ…。』
何でだよ。
俺と山登れ。
ぶっころは時々、繊細さを垣間見せたけど、滅多に弱みを見せなかった。
俺なんていつも弱み垂れ流しなのに、フェアじゃないって思った。
ホントはお前だって弱いくせに。
やがて私は、育児に追われる日々が始まった。
でもぶっころは、相変わらず暇だったようで、
『釣りに行こう』
とか、
『温泉に行こう』
と誘ってくれた。
そのたびに私は、
『すまん。』
と謝った。
まるで、立場が逆転してしまったような寂しさを抱いた。
家庭を持ち、安定した生活を得ていく私。
婚約者を失って、寂しく暮らしているぶっころ。
なんだかぶっころが、以前よりも少し不自由に見えた。
私は成長していく娘に夢中になった。
こんな俺に娘が出来た。
こんな俺が家庭を持った。
左手の薬指で輝くプラチナが、私の人生の全てになっていった。
ぶっころと遊ぶ回数は、年に4〜5回くらいにまで減った。
以前は40〜50回くらいは遊んでたので、これでもかなり少ないと感じた。
私は家庭の愚痴や、子の愛しさを語った。
ぶっころは言った。
『その話は、俺にはわかんねぇよ。』
39歳の初夏。
妻と子が出て行ってから、1ヶ月と少しの時が流れていた。
不思議なもので、あんなに寂しい毎日だったはずなのに、外が暖かくなるに連れて、私は少しずつこの生活に慣れ始めていた。
その頃のぶっころは、ボートでヒラメを釣る事に熱中している様子で、時々、釣れた魚の写真をLINEで送ってきた。
私はとても釣りにいく様な気分でもなかったけれど、
「おお、すごいな!」
という、当たり障りのない返事をして、はぐらかしていた。
私は一人である事を良しとして、残雪期の登山に勤しんでいた。
子どもが産まれてから、遠ざかっていた山。
美しい景色と、圧倒的な自由。
心地よい疲労感に、冷たい山の風が心地よかった。
自然は私に何も遠慮しない。
私は、ただ山頂に向かって進むだけ。
心が晴れやかになっていく事を感じた。
こんな気分は、いつぶりだろうか。
ちょうどそんな山行中に、LINEが来た。
ぶっころだった。
その数日後、私はまた久しぶりに、ぶっころと会った。
『おっすー。』
いつもと変わらない第一声。
ぶっころは二人乗りボートのレンタル手続きをしている。
勝手の分からない私は、生簀に泳がされているアジやイワシ、カサゴなんかを見て、
(かわいいなー。)
などと考えてた。
これから君たちをエサにしてあげるからね。
私は二人乗りボートに乗った事がなくて、二人で漕いでいると同じ場所をグルグル回ってしまう。
近くを通りがかった漁師さんに、
『そこのブイにボート固定してもいいよ!』
と言われた。
操船技術を見限られた瞬間である。
そのうちぶっころが、
『漕ぐのやめてみ。』
というのでやめてみた。
船は進んだ。
俺が足手まといかよ。
私たちは、ヒラメを釣った。
その日、私はぶっころの暮らすアパートに行った。
アパートの入り口にはブリが一本まるごと入りそうなクソデカクーラーボックスが置いてあった。
このクーラーボックスに収まる量の魚を釣ったら、ボートは転覆すると思う。
そう思ったけど、口に出さずにぶっころの家に入った。
そして私は、今の自分の状況を、ぶっころに少しずつ伝えた。
ぶっころは、特別な事は何も言わなかった。
『それは本当に…ドンマイだな。』
語彙力ゼロかよ。
海に落としてきたんか?
私たちは、それから特に何も言わなかった。
ただ、ぶっころは私を気遣ってくれた。
美味しいお店で飯を奢ってくれた。
私がまだ行った事がない釣り場を教えてくれた。
そして、おすすめの温泉を紹介してくれた。
帰り際に、ぶっころが言う。
『近いうちに、また遊ぼうぜ。』
そして私は言った。
「サンキュー、ありがとう。
なんかけっこう、元気出た気がするよ。」
ぶっころは、
『いいから寝とけ。』
って言った。
それから、私たちの人生最後の夏休みが始まったんだ。
6/13へ続く
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