ルーツ旅【京都・山城地域⑨】破壊と絶望から始まった、わが家の物語
お墓参りをすませたあと車に乗り、下り坂に差し掛ったところで、おじが言いました。
「もうすぐ、本家があった場所に出る。Bが行方不明になったあと、家は売りに出されたから、今はだれか別の人が住んでいるんじゃないかな」
角を曲がるとすぐ、大きな一戸建てが目に入りました。車を停める場所がないので、スピードを落とし、窓から眺めます。広い庭には、まだ新しい車や、住人の生活を感じさせるものが置いてありました。
「昔はもっと大きな家で、お手伝いさんもたくさんいて、それはにぎやかだったんだけどね」と、おじが懐かしそうにつぶやきます。
私も、母が子供のころの話をしたときの様子を思い出しました。
家には、味噌や醤油の大きな樽がいくつもあって、いい匂いがしたんだよ。大きな樽の中に猫が落ちて、大変な騒ぎになってね……。
当時の写真があれば、見てみたいな。
▼私が坂の上で目撃したものは
家の前を通り過ぎて、平地に降りたとき、私はもうこれで、この町でやるべきことは全部やったような気がしました。
母が生まれた場所を訪ね、先祖代々のお墓参りをし、祖父に孫の顔を見せることができたのだから、もう十分でしょう。
私は満ち足りた気分で、後部座席から窓の外を眺めました。
その時です。
ガタン。
突然、大きく車が揺れました。

車は再び、坂を上り始めました。かなりの傾斜で、足元も悪く、ガタガタと大きく車が揺れます。
おじは前を向いたまま、声を張り上げました。
「最後に、珍しい場所へ連れて行ってあげる。たぶん、まだ行ったことがないんじゃないかな」
な、なに?
どこに連れて行かれるのか、見当もつきません。
私がドキドキしていると、坂を上りきったところでおじは車をとめ、外に出るように促しました。
ドアを開けると、目の前は、一面の草原でした。

何もない。
なんでこんなところに??
私が戸惑っていると、後ろからおじの声がしました。
「ここは、N助さんが建てた神殿のあとだよ」
神殿……?
私はてっきり、曽祖父の神殿はA教の本部がある場所に建てられて、ほかの神殿と一緒に破壊されたとばかり思っていました。まさか、Q町にあったなんて。
私が目を見開いていると、おじは、そばにある大きな石を手で示しました。
「あの事件のとき、神殿は官憲に破壊されて、石碑は割られてしまった。さっき、部屋に石碑の写真があったでしょ。これがその残骸だよ」

これが、あの石碑……?
よくみると、大きな石の塊から、板状の石が数十センチ突き出しています。力任せに割られた石碑は、数個の石の塊となって、草むらの中に放置されているようでした。
今から80年以上前、A教に対する政府の弾圧はQ町にまで及び、曽祖父が建てた神殿と石碑を破壊し尽くした。
その事実に、私は大きな衝撃を受けていました。
何もない草原の向こうに、ススキの群生と低い山並みが見えます。
80年ほど前、ここには立派な神殿が建ち、たくさんの信者が教義を勉強しようと集まっていたのです。曽祖父は、支部長の肩書の名刺を作り、これからここを拠点に布教活動をしようと希望に燃えていました。
今では想像もつきませんが、当時、カリスマ的なA教の指導者は、世間に熱狂的に迎えられていたのです。
ここは、曽祖父の夢の跡。
そう思うと、私は胸がいっぱいになり、しばらくその場から動くことができませんでした。
▼希望に満ちた神殿
後日、おじから、神殿ができた日の写真を見せてもらいました。

ついさっき、あの石碑の写真を見ていると、「昭和十年八月十日」と彫られていることに気づきました。第二次A教事件が起きたのは、昭和10年12月8日です。
神殿が出来てから、まだ4か月もたたないうちに、曽祖父は建てたばかりの神殿を取り壊されてしまったのか。
さぞ無念だったでしょう……。
この事件をきっかけに、曽祖父は心を閉ざし、祖母は村に居づらくなり、夫を追って満州へ渡ることになりました。そして帰国後、すっかり人の変わった祖母は、私の両親を結婚させることにしたのです。
もし、この事件がなければ、私の両親が結婚することはなかった。
そう考えると、この何もない場所は、うちの家族がはじまった場所でもあるといえるでしょう。
こうして、ルーツ探しをするうちに、私は、うちの家族の原点ともいえる場所を見つけました。
その後、私は隠されていた両親の秘密を知ることになり、はじめてすべてを因果関係で結ぶことができ、自分の納得できる物語をみつけることができたのです。
それはいずれ書くとして、この後は私の奈良の実家を訪ねることになります。
>>>前回の話はこちら(⑧)
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