なぜ新規事業は“正しく”失敗するのか――3つの「イチ」と、地獄行きスパイラルの正体
はじめに──なぜ、うまくやっているのに失敗するのか
新規事業は難しい。
そう言われて久しいですが、現場にいると、少し違和感があります。
正しく考え、正しく決め、正しく進めたはずなのに、なぜか失敗する——新規事業には、そんな逆説がある。
私はこれまで、初期アイデアの壁打ちから事業開発中の伴走支援まで、社内外で多様な業種・業界の新規事業に関わってきました。
その中で、ある事実に何度も出会います。
フェーズや業界が違っても、「苦境に陥るプロジェクト」には、驚くほど共通点がある。
しかもそれは、多くの場合、
「既存事業では正しい」とされている仕事の進め方であり、本人も周囲もそれを“正しい”と信じて、きちんと実行している。
それでも、だからこそ、抜け出せない。
つまり、
正しいはずのやり方が、新規事業においては“大間違い”になっている。
その共通構造こそが、新規事業を確実に失敗させる「3つのイチ」です。
新規事業を失敗させる、3つの「イチ」
多くの組織で、当たり前のように起きていることがあります。
1人で頑張る(仲間がいない)
1つのアイデアに賭ける
1次情報を取りに行かない
どれも「あるある」です。
そして厄介なのは、これらが怠慢ではなく、
むしろ“ちゃんとやろうとした結果”として生まれている点です。
3つの「イチ」は、すべて“閉じている”
この3つは別々の問題に見えて、同じ構造を持っています。
1人で頑張る → 人に対して閉じている
1つに賭ける → 可能性に対して閉じている
1次情報を取らない → 現実に対して閉じている
つまり、新規事業の失敗とは
「閉じた状態を維持すること」
だと言えます。
本来、新規事業とは
人に開かれ(共創)
可能性に開かれ(探索)
現実に開かれる(一次情報)
という“開放系の営み”のはずです。
それが組織に入ると、なぜか逆方向へと収束してしまう。
なぜ組織は「イチ」に収束してしまうのか
理由はシンプルです。
既存事業で「正しい」とされている前提が、そのまま持ち込まれているからです。
① 効率化は「1人1テーマ」を生む
仕事は分業され、「一人前の仕事を1人に割り当てる」ことが合理とされる。
その結果、新規事業も自然と「1人でやるもの」になる。
しかし、たとえばプログラミングの世界では「ツーマンセル」のように、二人一組の方が品質も効率も高まるケースが知られています。
特に初期段階において、役割の固定化はむしろ致命傷になり得るのです。
② 決断主義は「1つに絞る」を正義にする
「仕事とは決断である」という価値観のもとでは、
複数の選択肢を持ち続けることは“優柔不断”に見える。
だから、まだ分からない段階でも「1つに決める」ことが求められる。
しかし実際には、
表に出さないとしても複数の仮説を持ち続けることが、生存確率を大きく高める。
それは同時に、後述する「地獄行きスパイラル」の抑止にもなるのです。
③ 統計信仰は「1次情報」を遠ざける
多くの人は、生の声よりも整えられたデータを信じる。
しかし、新規事業の種は統計の中にはありません。
むしろ、誰かの違和感や独り言の中にある。
たった一人でいい。想定顧客に近い人に話を聞く。
そのズレや発見は、エクセルの中ではなく、現実の中にしか存在しないのです。
「逆をやる」と、うまくいきはじめる
ここまでを反転させると、こうなります。
1人で頑張る → チームで揺らぐ
1つに賭ける → 複数を同時に育てる
1次情報を取らない → 生の声に触れる
これは手法ではなく、
前提の反転です。
ただし厄介なのは、この「イチに収束するやり方」が“正しさ”として身体化されていること。
だからこそ、意図的な逆張りが必要になります。
「正しさ」が生む、地獄行きスパイラル
この構造の中で、典型的に起きるのが次の流れです。
わからないのに決断する。
決断すると予算がつく。
予算がつくと、使い切る義務が生まれる。
すると、仮説検証ではなく「遂行」が目的になる。
サンクコストが積み上がり、
ピボットも撤退もできなくなる。
気づけば、
探索が、引き返せない実行計画に変わっている。
これは、
「意思決定の速さ」が「予算の足枷」を生み、
「サンクコスト」が「撤退の自由」を奪う、
一度回り始めると止まらない構造の罠です。
一方で、仮説を複線化していれば、
投資も分散され、ピボットや再設計の余地が残ります。
新規事業とは「決めすぎない力」である
ここで、新規事業の本質を捉え直す必要があります。
多くの組織はこれを
「正しく決断する仕事」
だと考えています。
しかし実際には、
「まだ分からない状態を扱い続ける仕事」です。
分からないから、複数持つ
分からないから、人とやる
分からないから、現場に行く
つまり必要なのは、
決める力ではなく、「決めすぎない力」であり、
「それでも前に進む力」なのです。
実装の鍵は、「DIY」と「ネガティヴ・ケイパビリティ」
ではどうすれば、この逆の動きを実装できるのか。
その鍵が、この2つです。
■DIY──でろ、いけ、やれ
DIYとは「Do It Yourself」であると同時に、
でろ・いけ・やれ
という行動原則でもあります。
ルーティーンの外に出る
現場に行く
見聞きしたことを形にする
その結果、
予算がつく前に試す
承認を待たずに触る
考える前につくる
という行動が生まれる。
DIYは、「決断の重さ」を軽くする装置です。
※DIYについてはこちらもご参照ください
■ネガティヴ・ケイパビリティ──分からなさに耐える
ネガティヴ・ケイパビリティとは、
すぐに答えを出さず、曖昧さや矛盾を抱えたまま進む力です。
すぐに意味づけしない
一つに固定しない
矛盾を抱えたまま進む
これは、「1つに絞る圧力」に対抗する力であり、
不確実性の中で致命傷を避ける“生きるすべ”でもあります。
※ネガティブ・ケイパビリティについてはこちらもご参照ください
仲間とは、「違うまま一緒にいられる人」
この2つが揃うと、仲間の意味も変わります。
仲間とは、
同じ意見の人でも、同じ結論の人でもない。
違うまま、一緒にいられる人です。
ここで重要になるのが、「三位一体開発」という考え方です。
事業(仮説)
人材(不確実性に耐える力)
組織(揺らぎを許容する場)
これらを同時に育てる。
新規事業だけでは動機やスキルが足りず、
人材開発だけでは実践がなく、
組織開発だけでは方向性が定まらない。
三位一体で取り組むことで、初めて相互に補完し合い、シナジーが生まれます。
志は「関係性」と「越境」から生まれる
新規事業において重要なのが「志」です。
しかし、志は一人では生まれません。
関係性の中で立ち現れ、
越境の中で磨かれていくものです。
だからこそ、DIYが重要になる。
ルーティーンの中では現状維持が続く。
越境することで、志に「磨き」がかかる。
そして志とは、
解決策への執着ではなく、
問題が解消された未来へのコミットです。
早すぎる決断は、この志が育つ時間と機会を奪ってしまいます。
おわりに──開かれたまま、進める
新規事業の失敗は、能力不足ではありません。
多くの場合、それは
「早すぎる正しさ」
によって起きています。
だから必要なのは、
特別なスキルではなく、
開かれたまま進めるための構造と態度です。
真のオープンイノベーションがあるとするならば、まさにこの様なマインドセットや組織慣行からの「オープン化」だと言えるでしょう。
その第一歩は、
「自分はいま、どんな構造の中にいるのか」
と問い直すことかもしれません。
最後までお読み頂きありがとうございました☆
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