正論で殴るな、でも殴れ――「3つのイチ」の先にある、関わり方の設計論
はじめに──「正しさ」の次に来る問い
前回の記事では、新規事業が“正しく”失敗する構造として、「3つのイチ」と地獄行きスパイラルについて書きました。
1人で頑張る
1つに賭ける
1次情報を取りに行かない
これらはすべて、「閉じた状態」を生み出す構造でした。
そして、その対処として
仲間とやる
複数の仮説を持つ
一次情報に触れる
という「前提の反転」が必要であることもお伝えしました。
では、その「開かれた状態」を実現するために、もう一つ重要な問いが浮かび上がります。
人は、どう関わればいいのか?
今回は、新規事業に関わるメンバーや支援者としての「関わり方」を考えてみたいと思います。
■なぜ議論はすれ違うのか
新規事業の現場では、こんな対立がよく起きます。
「ちゃんと意見をぶつけるべきだ」
「いや、正論で殴るのは最悪だ」
どちらも正しいように見える。
しかし、この議論はほとんど噛み合いません。
なぜなら、
前提が抜け落ちているからです。
■問題は「何を言うか」ではなく「いつ言うか」
この対立は、
厳しさか優しさか
正論か共感か
の問題ではありません。
本質はシンプルです。
どの状態の人に対して、それをやっているのか
■フェーズではなく、「ソースの状態」を見る
ここでいうフェーズとは、
ステージゲート
投資ラウンド
プロセスの進行段階
ではありません。
重要なのは、
主たる推進者(ソース)が、いまどんな状態にあるか
です。
ここでいうソースとは、役割としてのリーダーではなく、
そのプロジェクトの「意思の中核」を担っている人のことです。
同じ人でも、同じプロジェクトでも、
その状態は常に揺れ動いています。
■ソースは「揺らぎ」と「固定」の間にいる
ソースの状態は、大きく2つに分かれます。
① 揺らいでいる状態
自信が持てない
方向が定まらない
他者の評価に引きずられる
この状態で正論をぶつけると、
ソースは折れるか、他人の答えで動き始める。
一方で、ほんの少しでも前向きに受け止めてもらえたり、
誰かをつないでもらえたりするだけで、
前に進む原動力になることがあります。
これは、私自身も何度も救われてきた経験です。
② 固まりすぎている状態
自信がある
一つに賭けている
他の可能性を見ていない
この状態で優しさだけを与えると、
ソースはそのまま暴走する。
初期アイデアの段階での過信が危険なのはもちろんですが、
ある程度検証が進んだ後でも、フォーカスしすぎることで可能性を狭めてしまうことは少なくありません。
だからこそ、
「その確信は本当に正しいのか?」
と問われることが、思考を開き、新たな機会を取り込むきっかけになるのです。
■関わり方は「逆張り」で設計する
だからこそ、関わり方はこうなります。
揺らいでいるとき → 支える(徹底支援)
固まりすぎているとき → 揺らす(異物投入)
重要なのは、
状態に対して、あえて逆の力をかけること
です。
揺らぎに耐えつつも、どこかで一時的な「杭(固定)」を打つ。
このバランスこそが、関わり方の設計論の核心です。
■正論は「正しさ」ではなく「刺激」である
正論そのものが悪いわけではありません。
正論とは、
使いどころを間違えると毒になる“刺激”
合えば進化を促す
外せば破壊する
だからこそ、「何を言うか」以上に「いつ言うか」が問われるのです。
■「不公平に見える関わり方」が、最も誠実である
この使い分けは、外から見ると不公平に見えます。
あの人には優しい
この人には厳しい
しかし実際には、
状態に対して最適化しているだけ
です。
全員に同じ処方箋を出す医者が名医ではないように、
関わり方を変えることは、不公平ではなく個別最適という誠実さです。
■ソース自身の「舵取り」がすべてを変える
ここまで、周囲の関わり方について述べてきました。
しかし、もう一つ重要な視点があります。
ソース自身も、この状態をマネジメントする必要がある
ベテランが無意識にやっていること
経験豊富な事業開発担当者には、共通した特徴があります。
それは、
揺らいでいるときは、自分を固めにいく
固まりすぎたときは、自ら揺らぎにいく
という動きを、自然に行っていることです。
セルフマネジメントの原則
これを一言で表すと、こうなります。
揺らいでいるなら、固めにいけ。
固まってきたなら、揺らぎにいけ。
◆揺らいでいるとき
小さく決める
行動量を増やす
自分の言葉で語る
→ 軸を取り戻す
◆固まりすぎているとき
意図的に異論を取り入れる
反証を探す
仮説を疑う
→ 思考を揺らす
ここで重要になるのが、前回触れたDIY(でろ・いけ・やれ)です。
揺らいでいるとき:動くことで一次情報を得て、軸を固める
固まりすぎているとき:外に出ることで異物に触れ、仮説を揺らす
DIYは単なる行動指針ではなく、
自分の状態を調整するためのスイッチ
でもあるのです。
■三位一体開発における「関係性の設計」
この視点は、「三位一体開発」ともつながります。
事業(仮説)
人材(ソース)
組織(関係性)
これらは切り離せません。
新規事業とは、
この3つを同時に育てる営み
です。
関わり方とは、単なるコミュニケーションではなく、
関係性そのものを設計する行為なのです。
おわりに──「開く」ためのもう一つの条件
前回の記事では、新規事業に必要なのは
「閉じないこと=開くこと」だと書きました。
そして今回、その“開き方”の一つが見えてきました。
それは、
関わり方を固定せず、状態に応じて変化させること
新規事業において重要なのは、
一貫した態度ではありません。
適応できる関係性です。
正しさは、時に人を閉じさせる。
しかし、適切な関わり方は、人を開く。
その違いを生むのは、
ほんの少しの「見立て」と「使い分け」なのかもしれません。
あなたが今、向き合っている相手(あるいは自分自身)は、
いま「揺らぎ」の中にいますか?
それとも「固定」の中にいますか?
最後までお読み頂きありがとうございました☆
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