ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第8回:Akeidah(アケイダー)の作法と祭壇北側の24リング、スロープへ至る全貌(4章1節〜3節)
*本稿では、エルサレム第2神殿における日毎の焼き尽くす献げ物(tamid:タミッド)を扱うシリーズ8回目である。
創世記22章のイサクの奉献に遡る「Akeidah(アケイダー)」の緊縛法、祭壇北側に据えられた24個のリング、shechitah(屠殺)と各部位を祭壇に運ぶまでの手順を、口伝律法ミシュナ「Tamid」4章を参照しつつ網羅。これらはshechitahと運搬の単なる役割分担表ではなく、神の臨在に向かう「美と秩序」の物理的実装である。
日毎の焼き尽くす献げ物を献げる次第のミシュナ1句1節を、伝統的な解釈に基づき徹底的に可視化する。
前回の振り返り
前回はミシュナ「Tamid」篇3章6節から9節に基づき、エルサレム神殿における聖所の開門儀式と、金の祭壇およびmenorah(メノラー:燭台)の清掃手順について扱った。
要点は以下の通りである。
【1】聖所奉仕のための道具と「2本の鍵」(3章6節)
金の祭壇とmenorahを清掃する役割の祭司は、4つの道具(金製の籠「teni(テニ)」、金製の壺「kuz(クズ)」、2本の鍵)を持って聖所へ向かう。
①籠(teni)
金の祭壇(香壇)の灰を収めるための金製の籠。
②壺(kuz)
menorahの芯の燃え殻や古い油を収める金製の水差し。
③2本の鍵
聖所の扉を開ける為のもの。1本は扉の向こう側に腕を深く(脇の下まで)突っ込んで開ける特殊な構造で、もう1本は手前を解錠するためのものであった。
【2】聖所の開門とエゼキエル書の預言(3章7節)
聖所の正面の大きな扉を開ける際、祭司はまず北側にある小さな通路から中に入る。
①「開かずの南門」
正面扉の南側にある小さな通路は、エゼキエル書44章2節に基づき、「神が通られた場所」として、決して開けてはならないとされていた。
②祭儀開始の合図
祭司が内側から正面の大門を解錠する際のボルトの音が、tamid(日毎の献げ物)の祭儀開始を告げる号砲となった。この門が開くまでは、いけにえを屠ることは許されなかった。
【3】金の祭壇とmenorahの清掃手順(3章9節)
①金の祭壇
祭司は金製の籠(teni)を祭壇の前に置き、たまった香の燃え残りを丁寧にすくい入れる。清掃を終えると、籠をその場に残したまま一旦退出する。
②menorah
menorahは高さが約1.5〜1.6メートルあったため、祭司は専用の3段の石段に立って奉仕を行った。
7つのランプのうち、基本的には5つのランプを清掃し、残りの2つ(中央とその東側)は火を絶やさないよう調整した。
特に中央のランプは「西側の灯火」と呼ばれ、他のランプと同じ油量でも翌日まで燃え続けるという伝承があり、神の臨在の証として特別視されていた。
【4】 2回目のくじ引きで決められる役割分担のリスト
①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。
②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて。
③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。
④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。
⑤〜⑩羊の部位の運搬:6人。スロープへ部位を運ぶ。
⑪穀物の献げ物 (minchah):1人。スロープに運ぶ。
⑫大祭司のパン (chavitin):1人。スロープに運ぶ。
⑬ぶどう酒 (nesech):1人。スロープに運ぶ。
これらの内容について不安を感じる方は、以下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第6回:小羊の部屋(Lishkat HaTela’im:リシュカット・ハテライーム)と8つの石柱――(3章2節~5節)
https://note.com/mishnah/n/n308388c896a9
今回はその続きである。「Tamid(タミッド)」4章1節から引用する。
伝統の緊縛法「Akeidah(アケイダー)」と偶像崇拝の峻別
彼らは小羊を縛らない。むしろAkeidahの方法で縛る 。部位を運ぶ役割を得た祭司はそれを運ぶ。このようにして小羊は屠られる。頭は南側に向き、顔は西に向いている。屠る者は小羊の東側に立ち、その顔は西に向けている。
まず日毎の焼き尽くす献げ物となる小羊の縛り方について述べている。それは「Akeidahの方法」とされている。
これは創世記22章のイサクの奉献における縛り方について言っている。
この時、アブラハムがした縛り方は手足を1組ずつ縛るという方法であった。
ここでは小羊を屠る(shechitah:シェヒター)するにあたって、祭司は前足2本、後ろ足2本をそれぞれ縛らない。もしくは4本一緒に縛らない。
右前足と右後ろ足を結び、左前足と左後ろ足を結ぶ。
「前足2本、後ろ足2本をそれぞれ縛る方法。または4本一緒に縛る方法」は偶像崇拝者の方法とされる。
聖所(西)への志向:神の臨在と屠殺の向き
「このようにして小羊は屠られる。頭は南側に向き、顔は西に向いている」とは、小羊の頭を祭壇がある南に向け、顔を聖所(至聖所)がある西に向けることを指す。
これは神の臨在に向かって献げ物をすることを意味する。
shechitah(屠る)者は東側に立ち、同じく西(聖所)を向いて作業をする。
次である。同じく「Tamid」4章1節から。
祭壇北側の24リング:朝と午後の定位置
朝のtamidは祭壇の北西の所で屠られる。2番目のリングである。午後のtamidは祭壇の北東の所で屠られる。2番目のリングである。屠る者が屠り、血を受ける者が受ける。
焼き尽くす献げ物は祭壇の北側で屠ることは既に述べた。ここではより具体的に北側のどこでshechitahするのかを言っている。次の写真を見て欲しい。

見にくいと思うが、祭壇の北側には4列で各6つ、合計24個のリングが床に据え付けられている。
図の赤いリングで朝の小羊をshechitahし、青いリングで午後の小羊をshechitahする。これはその時間による太陽の位置を考慮しているらしいが、ここでは立ち入らない。
「屠る者が屠り、血を受ける者が受ける」とは、shechitahする者と、血を受ける者が別の祭司であることを意味する。次である。
祭壇を浄める「血の注ぎ」と地下水路への動線
彼は祭壇の北東の所に来て、血を東と北にかける。彼は祭壇の南西の所に来て、血を西と南にかける。祭司は残った血を祭壇の南の基に流す。
血を受けた祭司は祭壇に血を振りかけるが、ここではその振りかけ方について指示している。
簡単に言うと、祭壇の2箇所(北東の箇所、次に南西の箇所)に立って、祭壇の角に向かって血を振りかける。するとぞれぞれ2つの側面にかかることになるというものである。
残った血については、「祭壇の基に流す」とある。これも写真を見て欲しい。

地面から1つ段が上がっている。この段が「祭壇の基」と翻訳されている。これはヘブライ語では「yesod(イエソド)」と呼ばれる。
ご覧の通り、その端に2つの穴が開いている。yesodに流された血は、この穴を通り、地下の水路を流れてケドロンの谷にまで至る。
この辺りの事情については、以前の記事で詳細に解説している。知識に不安な方はそちらを参照して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第5回:ユダヤ教神殿奉仕の核心――「血の注ぎ」と「祭壇の構造」に見る聖別された物理的動線(3章1節)
https://note.com/mishnah/n/ncf95b5faef4d
続く「Tamid」4章2節~3節の途中までは、shechitahの仕方について述べている。解剖学的なものでもあるので、ここでは扱わないことにする。
その後には分割された部位を運ぶ次第が記述されている。
献げ物の尊厳:1〜6番目の祭司による部位運搬の作法
最初の者(1番目の祭司)は、頭と(右の)後ろ脚を運ぶ。頭は右手に、その鼻先を自分の腕に沿わせ、角は自分の指の間に挟む。切り口は(上を向け、そこに)脂肪を被せている。右の後ろ脚は左手に持ち、その皮はを外側に向ける。2番目の者は、2本の前脚を運ぶ。右の前脚は右手に、左の前脚は左手に持ち、その皮を外側に向ける。3番目の者は、尾と(左の)後ろ脚を運ぶ。尾は右手に持ち、尾は自分の指の間から垂れ下がるようにする。肺の突起物と腎臓がそれに付いている。(左の)後ろ脚は左手で持ち、その皮を外側に向ける。4番目の者は胸と首である。胸は右手、首は左手で、首の肋骨が指の間にある。
小羊の部位を運ぶのは6人であるが、まず最初の4人について解説する。
① 1番目の祭司:頭と右の後ろ脚
運び方は本文の通りであるが、頭は右手に、その鼻先を自分の腕に沿わせて持つ。また指の間で角を挟む。
これは頭をしっかりと抱える感じになる。
shechitahした際の切り口は上に向けられ、そこに脂肪を被せる。こうすることで、傷口が見えなくなり、神への献げ物としての美しさが保たれる。
「右の後ろ脚は左手に持ち、その皮を外側に向ける」とは、皮を外側に向けることで、こちらも美観に配慮している。
② 2番目の祭司:2本の前脚
「右の前脚は右手に、左の前脚は左手に持ち、その皮を外側に向ける」とある。本文の通りである。
③ 3番目の祭司:尾と(左の)後ろ脚
尾は右手に持つ。尾は指の間から垂れ下がるようにする。
④ 4番目の祭司:胸と首
胸は右手、首は左手で持つ。首は長いので、しっかり保持する為に、指の間にその肋骨を挟む。
次である。
5番目の者は2つの脇腹である。右のものは右手、左のものは左手であり、その皮を外側に向ける。6番目の者はスプーンの上に置かれた内蔵であり、足が内蔵の上に置かれている。
これも上と同様にまとめる。
⑤ 5番目の祭司:2つの脇腹
右手で右の脇腹、左手で左の脇腹を持つ。
⑥ 6番目の祭司:内臓と足
この足は上記の祭司が運んでいた部位とは異なる。これまでの祭司が運んでいたのは、肉がしっかりついた前脚(肩)や後ろ脚(腿)の部分(主要な肉の部位)である。
6番目の祭司が運ぶのは、蹄を含む足先になり、4本である。
運び方としては、内臓は手で直接持つのではなく、祭器具(スプーン状の盆)に載せる。内臓の上に足を置く。
ここまで1~6番目の祭司を見てきたが、6人の祭司が1頭の小羊の各部位を担当し、頭から足先まで整然と、かつ美しく保ちながら祭壇のスロープへと運び上げることになる。
それぞれの祭司に共通するのは、解体された肉の切り口や内側がそのまま露出するのを避けており、脂肪で覆ったり皮を外側にしたりすることで、小羊への敬意と、神殿祭儀としての格式を守っていることである。
この後は7~9番目の祭司たちである。
7〜9番目の祭司による運搬の作法
7番目の者は小麦粉である。8番目の者はchavitin、9番目はぶどう酒である。
まとめると以下の通りになる。
⑦ 7番目の祭司:穀物の献げ物
これは以前に解説した通り、
穀物の献げ物 = 小麦粉 + 油
である。知識に不安のある方は、上記にリンクを貼付した第5回目の記事で確認して欲しい。
⑧ 8番目の者祭司:chavitin
chavitinはレビ6章12~16節に基づく、献げ物としてのパンであり、次の機会に献げられるものである。
大祭司は毎日朝と午後に1回ずつ。
それ以外の祭司は任職の時に1回。
通常chavitinというと、大祭司のものを指す。ここでも同じである。
日毎の焼き尽くす献げ物の各部をスロープに運ぶ時、chavitinも運ばれる。
chavitinについて知識を不安に感じる方は、下の記事から確認出来る。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第2回:聖所を貫く静寂と、祭壇の灰(1章2~4節)
https://note.com/mishnah/n/n1ecd260fa987
⑨ 9番目の祭司:ぶどう酒
これは祭壇上に据えられた流し口に注ぐものである。

赤く囲った所に2つの流し口が並んでいるのが分かるだろう。その内、聖所側(角に近い方)にぶどう酒を流すことになる。
ここでは9番目の祭司は、他の祭司と同じようにスロープに運ぶところまで担当する。
以上で祭壇のスロープに運ぶ奉仕について説明した。これは2回目のくじ引きで決めた役割についての解説を終えたことになる。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究
https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
