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ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第7回:聖所開門の号砲とmenorah(メノラー)の「西側の灯火」(3章6節〜9節)

*本稿では、エルサレム第二神殿における朝の毎日の奉仕(tamid:タミッド)の核心部、聖所内の金の祭壇とmenorah(メノラー:燭台)の清掃と開門の儀式を詳説する。

 「脇の下まで腕を突っ込む」難解な施錠構造、エゼキエル書の預言に基づく禁じられた門、そして神の臨在の証左とされるmenorahの「消えない火」まで網羅。

 現場感覚を欠いた聖書解説を排し、一次資料と伝統的註釈に基づき2,000年前の「律法の現場」を物理的・法的に復元する。


前回のおさらい:2回目のくじ引きと奉仕の準備


 前回は夜明けの目視確認、火の部屋(Beit HaMoked:ベイト・ハモケド)の中の構造、屠殺前の給水、shechitahの具体的な方法や手順について扱った。以下、これらの内容について要点を振り返る。

【1】夜明けの厳格な目視確認(3章2節)

 祭儀は日の出前に開始してはならないため、監督官は夜明けを厳密に確認させた。

 過去に月明かりを夜明けと誤認して、いけにえを無効にしてしまった教訓から、単に空が明るいだけでなく、エルサレム南方の「ヘブロンまで」光が届いているかを厳しく問うこととされた。

【2】小羊の連れ出しと点検(3章3節〜4節)

 夜明けが確認されると、「火の部屋(Beit HaMoked:ベイト・ハモケド)」の角にある「小羊の部屋(Lishkat HaTela’im:リシュカット・ハテライーム)」から、いけにえの子羊を連れ出す。

①配置

 ミシュナの本文では小羊の部屋は「北西」と位置付けられているが、実際には南西の角に位置していたと考えられている。

②祭器具

 その日の奉仕に使用する93の金銀の祭器具が運び出された。

③動物への配慮

 「生き物を苦しめてはならない」という教えに基づき、屠殺前に小羊に金のカップで水を飲ませる。

④再点検

 前日に検査済みであっても、その場でたいまつの明かりを使い、傷がないか最終確認を行う。

【3】屠殺場の物理構造(3章5節)

 小羊は祭壇の北側に引かれ、専用の設備で屠られる。

①8つの石柱

 柱の突端には鉄のフックが備えられており、小羊を吊るして皮を剥ぐために使用された。フックは高さが3段階あり、小羊の大きさ等に合わせて調整可能であった。

②大理石のテーブル

 柱の間には、肉を切り分けたり内臓を洗浄したりするためのテーブルが置かれていた。

 大理石は熱を持ちにくく肉の鮮度を保ち、血が染み込みにくいため清潔さを維持するのに理想的な素材であった。

【4】2回目のくじ引きで決める役割分担

 2回目のくじ引きで決まったのは、以下13人の奉仕であった。

①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。

②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて。

③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。

④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。

⑤〜⑩羊の部位の運搬:6人。スロープへ部位を運ぶ。

⑪穀物の献げ物 (minchah):1人。スロープに運ぶ。

⑫大祭司のパン (chavitin):1人。スロープに運ぶ。

⑬ぶどう酒 (nesech):1人。祭壇の隅の受け口にぶどう酒を入れる。

 これらの内容について不安を感じる方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第6回:小羊の部屋(Lishkat HaTela’im:リシュカット・ハテライーム)と8つの石柱――(3章2節~5節)

https://note.com/mishnah/n/n99ac93ed29dd

 今回は下の内容を中心に扱う。

③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。

④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。

聖所の清掃と四つの金製器具:籠(teni)と壺(kuz)


 「Tamid(タミッド)」3章6節から引用する。

 金の祭壇とmenorahの灰を綺麗にする役割を得た者は、進み出る。4つの祭器具が彼らの手の中にある。籠 、壺 、2本の鍵。籠はタルカヴに似ており、金製である。2.5カヴの容量である。壺は大きな水差しに似ている。壺も金製である。2本の鍵について、1本は脇の下まで突っ込む、もう1本は素早く解錠する。

(Tamid 3:6)

 この箇所は聖所の中の金の祭壇とmenorah(メノラー)と呼ばれる燭台を綺麗にする奉仕である。まずは写真を見て欲しい。

金の祭壇


menorah

 金の祭壇については、朝と夕、2回この上で香を焚くものである。menorahは一晩中燃えている。

 上記の

③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。

④menorah(メノラー)の清掃:1人。聖所の中。

 の祭司たちは聖所に向かうことになる。「4つの祭器具が彼らの手の中にある。籠 、壺 、2本の鍵」と書いてある。これについては、下のようにまとめられる。

  1. 籠(teni)
     金の祭壇(香壇)の灰を収めるためのもの。「2.5カヴの容量である」とあるが、これは約5リットルとされている。

  2. 壺(kuz)
     menorah(燭台)の芯の燃え殻や古い油を収める水差し状の器。

  3. 2本の鍵
     聖所の扉を開けるための鍵。

物理的解読:二本の鍵と「脇の下」の解錠動作


 籠(teni)も壺(kuz)も、どちらも金製とされている。2本の鍵については、本文で込み入った記述がされている。「2本の鍵について、1本は脇の下まで突っ込む、もう1本は素早く解錠する」とある。

 前者が難解であるが、これは扉のこちら側から開けることの出来ない鍵について言っている。体を曲げ、向こう側まで腕を脇の下まで突っ込み、それでやっと開けられる構造であったらしい。

 「もう1本は素早く解錠する」とあるのは、こちら側についている鍵を開けるという意味である。次の節に進む。

エゼキエル書の預言と「開かずの南門」

 彼は北側の小さな通路に来る。大きな扉には2つの小さな通路がある。ひとつは北側であり、ひとつは南側である。南側の方に関しては、人はそこから入ることは出来ない。その理由はエゼキエルが説明している。「この門は閉じられたままにしておく。開いてはならない。だれもここを通ってはならない。イスラエルの神、主がここから入られたからである。それゆえ、閉じられたままにしておく。」(エゼ44:2)

(Tamid 3:7)

 この箇所を理解する為に、まずは下の写真を見て欲しい。

小さな扉

 外の祭壇から階段を上り、神殿の中に入る入口の所であるが、祭司たちが朝来た時、この正面の扉は勿論施錠されている。

 そこでその脇の小さい扉から入るのだが、黄色いしるしで囲った方の扉は開けてはならない。なぜならエゼキエル書44章2節で「開いてはならない」と命令されているのは、この扉であるからである。

 その理由はエゼキエル書のその箇所に書かれている。つまり「イスラエルの神、主がここから入られたからである。それゆえ、閉じられたままにしておく」。

 神が通った場所を、人が気安く出入りしていいものではない。

 そこで、北側の赤く囲った方の小さな扉を解錠することになる。そこから祭司は中に入り、聖所の中に入って内側から正面の扉を解錠する。その事が続きの箇所で示されている。

聖所開門:祭儀の開始を告げるボルトの音

 彼は鍵を持ち、小さな通路を開けて、小部屋に入る。小部屋から聖所に入り、大きな門まで来る。大きな門まで来たら、ボルトとロックを外し、それを開く。

(Tamid 3:7)

 この後には次のように書かれている。

いけにえを屠る者は、大きな門が開くまで屠らない。

(Tamid 3:7)

 この門の開く音が、tamidの祭儀の開始を告げるのである。

 次の8節は奉仕の音がどれくらい遠くの場所まで聞こえたかという内容なので、ここでは扱わない。9節に進む。

金の祭壇(香壇)の清掃手順

 金の祭壇を綺麗にする祭司は、入っていき、籠を自分の前に置く。灰をすくって籠の中に入れる。最後に残った灰を掃いて中に入れ、籠を置いて外に出る。

(Tamid 3:9)

 この箇所は金の祭壇を綺麗にする奉仕の手順を表している。次のようになる。

①金製の籠(teni)を祭壇の前に置く。

②祭壇にたまった香の燃え残り(灰)をすくって、teniの中に入れる。

③細かく散らばった灰を丁寧に掃き集めてteniの中に入れ、籠をそこに残したまま退出する。

 次はmenorah(燭台)の方である。

menorah(七枝の燭台)の灯火と「三段の石」

 menorahの灰を綺麗にする祭司は神殿に入り、もしその時に東側の2つのランプが燃えているなら、残りの火皿の灰を片付け、2つのランプはそのままにしておく。もしこの2つが消えているならその灰を片付け、まだ燃えている所から火を取って灯す。それから残りの火皿の灰を綺麗にする。Menorahの前には3段の石があり、祭司はそれに立ってランプを調整する。それから壺を2段目に置いて出る。

(ibid.)

 この箇所は難解であり、解説もやや一定しない感じがする。簡単に説明する。

 上に貼付した写真の通り、menorahには7つの燭台が付いている。文字通りに言うと、その内の東側(至聖所とは反対側)の2つが消えているなら、点火しなくてはならない。

 しかしこの「東側の2つ」は中央のランプと、その東側の隣というのが事実らしい。図の2つになる。

2つのランプ

 従って、この箇所は「もしその時に中央のランプと、その隣の1つのランプが燃えているなら、残りの5つの火皿の灰を片付け、2つのランプはそのままにしておく」という事になる。

 この5つのランプは燃えているかもしれないし、消えているかもしれない。しかし消えているなら勿論、燃えている場合は消して灯芯と油を新しいものにする。

 特別扱いの2つの内、中央の灯火は「西側の灯火」と呼ばれる。

神学的考察:西側の灯火(消えない火)と主の臨在


 この灯火は、夕方に他のランプと同じ量の油を入れるにもかかわらず、翌朝になっても、さらには次の日の夕方になっても燃え続けていたという伝承(奇跡)がある。この「消えない火」こそが、イスラエルのうちに神の臨在が留まっている証拠とされ、特別扱いの理由にもなっている。

 しかしこの問題にはこれ以上深入りしない。

 もしそれらも含め、全て消えてしまったなら、外の祭壇から火を取ってきて灯すことになる。

 menorahの火を絶やさないことについては、トーラ(モーセ五書)で次のように書かれている。

 2イスラエルの人々に命じて、オリーブを砕いて取った純粋の油をともし火に用いるために持って来させ、常夜灯にともさせ、 3臨在の幕屋にある掟の箱を隔てる垂れ幕の手前に備え付けさせなさい。アロンは主の御前に、夕暮れから朝まで絶やすことなく火をともしておく。これは代々にわたってあなたたちの守るべき不変の定めである。 4アロンは主の御前に絶やすことなく火をともすために、純金の燭台の上にともし火皿を備え付ける。

(レビ24:2~4)

 本文の算用数字は節番号である。

 「Tamid」3章9節に戻る。

 「menorahの前には3段の石があり、祭司はそれに立ってランプを調整する。それから壺を2段目に置いて出る」とある。menorahはタルムードによると1.5~1.6メートル程度の高さがあったらしく、そのままでは奉仕が出来ない。

 そこで専用の石造りの階段が置かれていたというものである。奉仕する祭司はmenorahの古い芯や油の残りを壺(kuz)の中に入れる。それを「2段目に置いて出る」ことになる。

結びに:日本語圏における聖書学の再構築に向けて


 今回で「Tamid」3章は終わりである。今回の説明は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究

https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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