“速くなったのに楽にならない”──AI効率化の本当の課題
AIを入れたら、仕事が楽になる。そう考えて生成AI(文章や資料などを自動でつくり出すAI)を導入した会社は、この1〜2年でぐっと増えました。
ところが、株式会社ニットが2026年3月に行った調査(全国のビジネスパーソン600人)を見ると、ちょっと意外な数字が出てきます。AIを導入して「残業が減った」と答えた人は26.0%。だいたい4人に1人なんですよね。そして「むしろ残業が増えた」という人が13.0%もいました。
速くなったはずなのに、楽になっていない。今日はこの「ねじれ」の正体を、一緒に考えてみたいと思います。
なぜ「速くなったのに楽にならない」のか
同じニット社の調査で、残業が増えた理由の1位は「AIの出力を業務で使える水準まで整える工程が必要になった」で66.7%。2位は「AIの出力が正しいかを確認する工程が新たに発生した」で41.7%でした。
これは、なかなか示唆に富んだ結果だと思っています。
AIは、文章や資料の「下書き」を、ものすごい速さで出してくれます。実際、AIのアウトプット(出力された結果)に何かしらの手直しをしている人は90.6%。ほぼ全員なんですよね。
つまり、こういうことだと思うんです。AIは「作業」を速くしてくれる。でもその代わりに、「整える」「確かめる」という新しい作業を生み出している。元の作業が10分から3分になっても、確認に5分かかれば、合わせて8分。たしかに速いけれど、「楽になった」という体感には、なかなかつながらないわけです。
しかも、AIが出した文章や数字を「そのまま使えるか」というと、そうではありません。残業が増えた理由の3位には「これまで人に任せていた業務を、自分でやるようになった」というものまで入っていました(27.8%)。AIがあることで、かえって仕事を抱え込んでしまう。そんな逆転まで起きているんですよね。
別の調査も見てみます。AI開発のコーレ株式会社が2026年1月に管理職1,008人へ行った調査では、生成AIを導入した目的の1位は「業務の時間短縮・効率化」で66.2%。ほとんどの会社が「速くしたい」と思って入れています。
ところが同じ調査で「活用が定着しない理由」を聞くと、「具体的な活用アイデアが出ない」が26.0%で上位に入っていました。
「速くしたい」で入れたのに、「何に使えばいいか分からない」で止まる。導入の入口と出口が、噛み合っていないんですよね。
効率化のゴールは「速くすること」ではない
ここで一度、立ち止まって考えてみたいことがあります。
そもそも私たちは、なぜ仕事を速くしたいのでしょうか。
速くすること自体が目的、ではないはずなんです。速くして「空いた時間」で、もっと大事な何かをやりたい。だから効率化したい。本当のゴールは、そっち側にあるはずなんですよね。
ところが現実には、空いた時間の「行き先」を決めないまま、効率化だけを進めてしまう。すると、浮いたはずの時間は、いつのまにか別の作業で埋まっていきます。これが「速くなったのに楽にならない」の、もうひとつの正体だと思っています。
なので私は、効率化を3つの順番で考えることをおすすめしています。
【効率化を「楽になる」につなげる3ステップ】
ステップ1:自分の仕事を、一度すべて紙に書き出す。「お客さまとの出会いからお金をいただくまで」に、どんな作業があるかを並べる
ステップ2:その中で「これはAIや外注(社外への業務委託)に出せる」作業に印をつけ、浮きそうな時間をざっくり見積もる
ステップ3:浮いた時間で「何をするか」を、先に1行だけ決めておく
大事なのは、ステップ3を「先に」決めることなんですよね。
では、その時間を何に使うのか。ヒントは、同じニット社の調査の中にあります。AIと比べた「人間ならではの良さ」を、91.3%の人が実感していて、その中身は「関係者との調整やコミュニケーション」「相談しながら進められること」「曖昧な指示にも柔軟に対応できること」でした。
お客さまとじっくり話す。現場に足を運ぶ。次の一手をじっくり考える。AIには代わりがきかない、こういう仕事に時間を振り直す。そこまで設計して、はじめて効率化は「楽になる」に変わるんだと思います。
私自身が、つまずいたところ
実はこれ、私自身がつまずいたところでもあります。
私はいま、ShakeHandsという会社を一人でやっています。商談も、資料づくりも、経理も、ぜんぶ自分です。だからこそ、作業を速くするツールやテンプレート(ひな形)は、片っぱしから試してきました。
でも、あるとき気づいたんです。作業はたしかに速くなっているのに、忙しさが全然減っていない。空いた時間に、また別の作業を詰め込んでいたんですよね。「時間を浮かせること」そのものが、いつのまにか目的になっていました。
そこからは、考え方を変えました。1日のなかで「ここはお客さまと向き合う時間」「ここは考える時間」と、先に枠を決めてしまう。その枠を守るために効率化する、という順番に変えたんです。
たとえば、午前中の2時間は「商談と、その準備だけ」と決める。資料づくりや事務作業は、その枠の外に追い出す。すると、効率化で浮いた時間が、ちゃんとお客さまのほうへ向かうようになりました。
不思議なもので、同じ作業量でも「楽になった」と感じられるようになったんです。
忙しさというのは、仕事の「量」だけで決まるものではないのかもしれません。浮いた時間の使い道が設計されていない。その「設計のなさ」こそが、しんどさの正体だったりするんですよね。
これは会社の規模に関係なく、一人の会社でも、社員のいる会社でも、同じだと思っています。
まとめ
AIも、業務の外注も、便利なツールも、どれも「作業を速くする」力は本物です。でも、それだけでは「楽になる」までは届かないことがあります。
速くしたその先で、浮いた時間をどこへ向けるのか。お客さまとの対話なのか、現場なのか、それとも考える時間なのか。
新しいツールを契約する前に、ぜひ一度だけ、紙に書いてみてください。「これで浮いた時間で、私は何をするのか」。
その1行があるかないかで、効率化の景色は、ずいぶん変わってくると思っています。
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