"人が足りない"の答えは、3つある
帝国データバンクが2026年3月に発表した「企業の経営課題に関するアンケート」によると、経営課題の第1位は「人材強化(採用・定着・育成)」で、実に90.2%の企業が選択しています(有効回答5,241件、2026年1月20日〜2月6日調査)。
中小企業に限っても94.0%。つまり、10社中9社以上が「人が足りない」「人を育てられない」と感じている。この数字だけ見ると、とにかく「採用」に走りたくなります。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてほしいんです。「人材が足りない」という課題に対して、「採用」だけが唯一の解決策なのでしょうか?
「採用」だけでは、なぜ解決しないのか
同じ調査で、経営課題に取り組む上での最大の障壁も「人材・ノウハウ不足」でした。つまり、こういう状態です。
・課題:人材が足りない
・障壁:人材が足りないから、課題に取り組めない
「課題も人材、障壁も人材」。これは完全なダブルバインド(二重拘束)です。
この構造に気づかないまま「とにかく人を採ろう」とすると、次のような悪循環にはまります。
・求人を出しても応募が来ない(中小企業の求人倍率は大企業の数倍)
・なんとか採用しても、教える余裕がなく早期離職
・採用コスト(求人広告費・面接工数・教育期間)が積み上がる
・その間も既存社員は疲弊し、さらに離職リスクが高まる
私は、この悪循環を断ち切るためには「人を増やす」以外の選択肢を持つことが不可欠だと考えています。
「3つの選択肢」──採用の前にできること
「人が足りない」に対して、私が提案したいのは次の3つの打ち手です。
選択肢1:業務を整理して「やらなくていい仕事」を減らす
宮崎県のある行政書士事務所(従業員3名)では、データ管理のクラウド化と給与計算システムの導入によって、作業時間を30%短縮しました(出典:宮城労働局「生産性向上の好事例」)。
3人の事務所で30%の時間が浮くということは、実質的に「0.9人分」の労働力を生み出したのと同じです。年間の営業日を250日、1日8時間とすると、年間600時間。これだけの時間があれば、新しい仕事に取り組む余裕が生まれます。
多くの中小企業では、「今ある業務が本当に全部必要なのか?」を棚卸しする機会がありません。でも実は、業務を1つずつ洗い出して整理するだけで、驚くほど「なくても困らない作業」が見つかるものです。
選択肢2:専門業務を「外注」に切り出す
京都の綿善旅館(創業187年の老舗)では、慢性的な人手不足で売上が最盛期の50%にまで落ち込んでいました。そこで専門家の助けを借りて業務を分析し、タブレットやSNSを使った情報共有を導入。さらに、従業員のスキルを棚卸しして「1人3役」で相互支援できる体制を構築しました(出典:NTT東日本「生産性向上の成功事例」)。
この事例のポイントは「人を増やした」のではなく、「仕事の回し方を変えた」ことです。
経理、総務、給与計算といったバックオフィス業務は、専門の外部パートナーに委託するという選択肢もあります。「経理プラス」の調査によると、経理担当者の49.5%が紙書類の処理だけで月10時間以上を費やしているというデータがあります。この時間を外注で浮かせれば、経営者や社員がコア業務(営業・企画・顧客対応)に集中できるようになります。
選択肢3:AI(人工知能)やデジタルツールで自動化する
「AIなんて大企業の話でしょ?」と思われるかもしれません。でも、たとえばクラウド会計ソフトで経費精算を自動化するだけでも、ある企業では月20時間かかっていた作業が1時間に短縮された事例があります(出典:バーチャル経理アシスタント「業務効率化事例」)。
AI-OCR(AIを使って紙の書類を自動でデータ化する技術)を使えば、手入力していた請求書や領収書の処理時間を大幅に減らせます。ChatGPTのようなAIチャットツールは、メール文面の作成や議事録の要約など、地味だけど時間のかかる作業を手助けしてくれます。
大切なのは、「全部をAIに置き換える」ことではなく、「手作業で時間がかかっている部分をピンポイントで楽にする」という考え方です。
「人を増やす」の前に「仕事を減らす」
皆さんの会社では、こんなことが起きていませんか?
・毎月同じフォーマットに同じ数字を手入力している
・「あの人しかわからない」業務がいくつもある
・経営者自身が経理や総務の作業に何時間も取られている
帝国データバンクの調査で「人材強化」が9割を超えた事実は重いものです。でも、「人材強化」の本当の意味は、「人を増やすこと」だけではないと私は考えています。
今いる人の力を最大限に活かすこと。そのために、仕事そのものを見直すこと。これもまた、立派な「人材強化」です。
まとめ──「採れない」を嘆く前に、できることがある
「人が足りない」に対する答えは、1つではありません。
・業務を整理して、そもそもの仕事量を減らす
・専門業務を外注に切り出して、社内の負担を下げる
・AIやデジタルツールで、手作業の時間を短縮する
この3つを組み合わせるだけでも、「もう1人分」「もう2人分」の時間を生み出すことは十分に可能です。
新年度が始まり、「今年こそ採用を」と考えている経営者の方も多いと思います。その気持ちはとてもよくわかります。でも、採用と並行して「仕事の整理」から始めてみてはいかがでしょうか。案外、「人が足りない」の正体は「仕事が多すぎる」だったということも、少なくないのです。
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