「経理が見つからない」なら、探すのをやめてみる
事務代行サービスへの依頼が、前年比5倍──。株式会社ミツモアが人手不足の深刻な7業界の中小企業を対象に分析したデータが、ある変化を映し出しています。「人を採れないなら、業務の方を外に出す」。そんな発想の転換が、いま中小企業の間で急速に広がっているのです。
「経理を採用したいが、応募がない」「やっと採れたのに半年で辞められた」という声を本当によく耳にします。でも、そもそも「経理担当者を採用すること」だけが正解なのでしょうか。今日はこの問いについて、データをもとに考えてみたいと思います。
経理担当者が抱える「属人化」という構造問題
株式会社ミロク情報サービスのシンクタンク「MJS税経システム研究所」が、企業の経理担当者362名を対象に行った「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」があります。この調査で明らかになったのは、経理という仕事が抱える構造的な課題です。【経理担当者の働き方に関する調査結果】
・経理担当者の50.0%が「業務の属人化」を最大の悩みと回答
・「業務の煩雑さ」43.1%、「業務量の多さ」32.0%が続く
・スキルアップの費用を「自己負担」と答えた人が37.0%で最多
(出典:ミロク情報サービス「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」)
つまり、経理業務は「その人にしかできない仕事」になりやすい上に、会社がスキルアップの機会を十分に提供できていない。結果として、担当者個人に負荷が集中し、辞められたら業務が止まるというリスクを常に抱えることになります。
さらに、属人化の背景として「人手不足や採用の問題」「ルール整備の問題」「担当者の力量の問題」の3つが指摘されています。つまり、「人を増やせない」→「1人に任せきりになる」→「属人化が進む」→「その人が辞めると崩壊する」という悪循環が、多くの中小企業で静かに進行しているのです。
ここで考えてみてほしいのですが、皆さんの会社では、「経理のAさんが休んだら月次が回らない」という状態になっていませんか? もしそうなら、それは「Aさんの問題」ではなく、「業務設計の問題」です。
事務代行が前年比5倍──「採れない」を「任せる」に変える中小企業たち
冒頭で紹介したミツモアのデータをもう少し詳しく見てみます。
【中小企業のBPOサービス依頼の伸び率】
・BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング=業務プロセスの外部委託)サービス全体:前年比約1.5倍
・事務代行:前年比約5倍(516%)
・コールセンター:前年比約3倍
・経理代行:前年比約2.3倍
・医療・福祉業界の事務代行:前年比約10倍(933%)
(出典:株式会社ミツモア プレスリリース 2024年12月)
特に注目すべきは、外注したい業務のトップ3が「給与計算」「経理記帳」「勤怠管理」であるという点です。これらはまさに、属人化しやすく、かつ定型的な繰り返し業務です。
なぜこれほど急激に伸びているのか。背景にあるのは、単純に「人が採れないから」だけではありません。コロナ禍で実施されたゼロゼロ融資の返済が本格化し、中小企業は採用や人件費に充てられる予算自体が縮小しています。「フルタイムの正社員を1人雇う年間コスト」と「月額数万円の経理代行」を天秤にかけたとき、合理的に後者を選ぶ企業が増えているのです。
具体的なコストの差を見てみましょう。正社員を1人雇えば、給与・社会保険料・通勤費・備品費・教育費などを含めて年間400〜500万円程度のコストがかかります。一方、経理代行サービスは月額3〜10万円程度から利用でき、年間にしても36〜120万円程度。しかも外注であれば退職リスクがなく、繁忙期だけスポットで利用することも可能です。「人を雇う」以外の選択肢が、これほどコスト面で有利であることは意外と知られていません。
外注を成功させるために必要な「業務の切り出し」
ただし、「じゃあ明日から経理を外注しよう」と言って、すぐにうまくいくわけではありません。外注で失敗する企業には共通点があります。それは、「何を任せるか」を整理しないまま丸投げしてしまうことです。
外注を成功させるために最低限必要なステップは、以下の3つだと私は考えています。
・ステップ1:業務の棚卸し──今、誰が何の作業をしているかを一覧にする
・ステップ2:切り出し判断──「社内に残すべき業務」と「外に出せる業務」を仕分ける
・ステップ3:引き継ぎ設計──外注先がスムーズに動けるよう、手順書やルールを整備する
この「ステップ1」が、実はいちばん難しいのです。属人化している業務は、担当者本人すら「自分が何をやっているか」を言語化できていないことが多い。だからこそ、「業務の見える化」から始める必要があります。
たとえば、「月末の経理業務」を棚卸しすると、請求書発行、入金確認、仕訳入力、経費精算、振込処理……と、ひとつの業務の中に複数の作業が含まれています。このうち、請求書発行や仕訳入力は比較的パターンが決まっており外注しやすい。一方で、資金繰りの判断や取引先との条件交渉は経営者が関与すべき業務です。この「分解」と「仕分け」をやらないまま外注に出すと、「思っていたのと違う」という不満につながります。
よくある誤解として、「うちは小さい会社だから外注するほどの量がない」という声もあります。しかし実態は逆で、小さい会社ほど1人の担当者が経理・総務・人事を兼務しており、その人が抜けたときのダメージが大きい。だからこそ、「量が少ないうちに整理して外注する」方が、リスクヘッジとしては合理的なのです。
「経理が見つからない」「事務を任せられる人がいない」──そう感じたとき、多くの経営者はまず求人を出そうとします。でも、本当に必要なのは「人を探すこと」ではなく、「業務を整理すること」かもしれません。
業務を棚卸しして、外に出せるものを切り出す。それだけで、採用に頼らなくても会社は回るようになります。年度が変わるこのタイミングは、バックオフィス業務を見直す絶好の機会です。「うちにはまだ早い」と思っている方こそ、一度、自社の業務を書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
合同会社ShakeHands
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