安全書類24種類に埋もれる現場──“アナログ1位”の抜け方
はじめに:効率化が遅れている1位は、まさかの“施工管理”
先日、ある調査を読んでいて、思わず「やっぱりそこか」と声が出ました。野原グループのBuildApp総合研究所が、全国の建設産業従事者1,257人に「アナログ業務が多くて効率化が遅れているプロセスはどこか」と聞いたところ、堂々の1位は『施工管理』で33.3%。しかもこの数字、2023年からの2年間で10.2ポイントも“上がって”いるんです(出典:野原グループ「建設DXの現状調査」2025年4月公表)。
ドローンやBIM(建物の3次元データを使った設計・施工の手法)が話題になり、現場のデジタル化は進んだと言われます。それでも、施工管理まわりだけは、むしろアナログのまま取り残されている。私はこの「取り残されている正体」の一つが、書類だと思っているんですよね。
安全書類は“20種類以上”──一度作って終わり、ではない
建設の現場には、「安全書類(グリーンファイル)」と呼ばれる一群の書類があります。聞き慣れない方のために説明すると、現場で働く人の安全と、誰がどの工事を請け負っているかを管理するための書類のことです。全国建設業協会の「全建統一様式」が標準フォーマットとして広く使われていて、その種類は20以上にのぼります。なかでも施工体制台帳は、建設業法第24条の8で作成が義務づけられた書類です(出典:国土交通省「施工体制台帳、施工体系図等」)。
やっかいなのは、これらが「一度作って終わり」ではないことです。協力会社が変われば作り直し、現場が変われば作り直し、作業員や保険、資格の情報が更新されれば、また直す。一つひとつは難しくなくても、現場ごと・会社ごとに掛け算で増えていきます。
中身を少しだけ具体的に挙げると、施工体制台帳や再下請負通知書、作業員名簿、持込機械の届け、各種の資格や保険の確認書類……といった「人・資格・保険」の情報のかたまりです。だから人が一人入れ替わるだけで、関連する複数の書類を直さなければなりません。しかも、この更新の段取りが特定の事務員さんや監督の頭の中にしかない、という会社は本当に多いんですよね。その人が一週間休んだら、現場が止まりかねない。これはもう、立派な経営リスクです。
現場監督が、図面や段取りや職人さんとのやり取りではなく、この書類の束に時間を吸われている。施工管理がアナログ1位という数字の裏には、こういう日常が透けて見えるんです。読者のみなさんの会社では、いかがでしょうか。
“着手64.2%・効果実感31%”の落とし穴は「順番」にある
同じ調査には、もう一つ考えさせられる数字が並んでいます。
・デジタル化に着手している人は64.2%
・でも「効果を実感できている」のは31%
・「省力化のために活用できているデジタルツールはない」が29.8%
・「デジタル化に対応できないと将来仕事が減るのでは」と不安な人は61.8%
(出典:いずれも野原グループ「建設DXの現状調査」2025年4月)
着手は6割を超えているのに、効果を実感できているのは3割。つまり「道具は入れたのに、楽になっていない」会社がかなりある、ということです。私はここに、順番の問題があると思っています。書類のムダを抱えたままシステムだけを入れても、ムダがそのままデジタルに置き換わるだけ。まずやるべきは、道具選びの前の『業務の書き出し』なんですよね。
業務の書き出しといっても、難しいことではありません。一枚の紙に、こう書き出すだけです。
・どの書類を(種類)
・誰が、月に何時間かけて作っているか
・現場ごとに作り直すものか、一度作れば使い回せるものか
書き出してみると、抱えている書類仕事の正体が見えてきます。そのうえで、3つに仕分けます。①自社の人間にしか作れないもの、②形が決まっていて外注やAIに出せるもの、③そもそも重複していて要らないもの。この仕分けが、外注の準備にも、道具選びの軸にもなります。いきなり高機能なソフトを比べるより、よほど効きます。
ちなみに安全書類の多くは、全建統一様式という決まった型があり、国土交通省も施工体制台帳などをエクセルの様式で公開しています。つまり、もともと②の「形が決まっていて外に出しやすい」性質を強く持った書類なんです。だからこそ、自社の現場監督が一から手書きで抱え込む必要は、本当はそれほど多くない。まず「誰が・何の書類に・月何時間」を数字にして、外に出せるものから手放していく。その順番を踏むだけで、現場監督の机の上は確実に軽くなります。
ある“名刺”の話──道具は、目的から定義し直せる
先日、デザイン歴15年以上という個人事業主の方とお会いしました。その方がいま力を入れているのが、新規開拓のための「営業名刺」。普通の名刺と何が違うのか聞いてみたら、こう返ってきました。
「名刺の目的は二つに分けられるんです。①覚えてもらうこと ②次の約束につなげること。だから連絡先をただ並べるんじゃなくて、次に会う動線まで設計する」。
私はこれを聞いて、はっとしました。名刺という、誰もが「そういうもの」と思って疑わない道具を、目的からきちんと定義し直している。やっていることはシンプルなのに、出てくる成果物がまるで違うわけです。
書類も、まったく同じだと思うんです。安全書類の目的は、突き詰めれば「現場の安全」と「法令を守ること」。であれば、特定のベテランしか作れない状態ではなく、誰が作っても同じ水準で出せる形に整えることが、本来のゴールのはずです。「いつもこうしているから」で手を動かし続けるのと、「この書類は何のためにあるのか」から組み直すのとでは、行き着く先がまるで違います。目的が定まれば、標準化できる。標準化できれば、外注やAIに乗せられる。順番は、いつもここからなんですよね。
まとめ:道具より先に、一番面倒な書類を机に出す
人手が足りない、現場が回らない。その解決を、いきなり「採用」や「システム導入」に求める前に、一度立ち止まって聞いてみてください。「うちの現場監督は、月に何時間、書類に使っているだろう?」。その答えがすぐに出ない会社ほど、じつは伸びしろは書類の側に眠っています。
道具より先に、業務の書き出しから。まずは一番面倒だと感じている書類を、ひとつ机の上に出してみるところから始めてみませんか。そこが、現場監督を現場に戻す第一歩になるはずです。
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