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工事ごとの利益、見えてますか──“どんぶり原価”が会社の体力を削る

先日、中小企業庁が出した調査を読んでいて、思わず手が止まりました。自社の「採算」――つまり「どの仕事で、いくら儲かっているか」を見える化(数字で把握すること)できている中小企業は、約半数にとどまる、というのです(中小企業庁・KPMGコンサルティング「令和6年度 中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する調査事業」2025年3月)。

「取り組んでいる」49.4%に対して、「取り組んでいない」24.0%、「分からない」26.6%。合わせて約5割が、自社の利益の中身を正確につかめていない計算になります。しかもこの調査、回答した企業のいちばん多い業種が、なんと建設業(27.2%)。建設業の現場のリアルが、色濃く出た数字なんですよね。

「うちは長年やってるから、だいたい頭に入っているよ」――そう思う社長さんも多いと思います。でも“だいたい”と“数字”は、似て非なるものなんですよね。利益の薄い商売ほど、その差がじわじわ効いてきます。

「終わってみないと分からない」という危うさ

建設業は、もともと利益が薄い業種です。中小企業実態基本調査によれば、建設業の工事原価率は平均76.1%。つまり、工事代金100のうち76は原価(材料・外注・人件費など)で消え、手元に残る粗利(売上から原価を引いた利益)は、ざっと4分の1。この薄い利益を、「工事が終わってから」「会社全体のどんぶり勘定で」眺めている会社が、本当に多いんです。

ひとつ、簡単な計算をしてみます。売上1,000万円の工事で、粗利率が25%なら、手元に残るのは250万円。ここで見積もりが甘く、原価が5%膨らんだとします。原価750万円が787万円に。すると粗利は250万円から213万円へ、一割以上が吹き飛ぶ。原価率が高い建設業では、たった5%のズレが、利益を大きく削るんです。だからこそ、終わってからではなく、進行中に数字を見ておきたい。

見積もりが少し甘かった。途中で資材が値上がりした。手戻りが出て、職人さんの人工(にんく)が膨らんだ。――そういう「赤字工事」が、終わるまで誰にも気づかれない。気づいたときには、別の黒字工事の利益で穴埋めして、トータルでなんとかトントン。これが「どんぶり原価」の正体です。

やっかいなのは、薄利な業種ほど、この一件の取りこぼしが効いてくること。粗利が4分の1しかないなら、一つの赤字工事を埋めるのに、黒字工事が三つも四つも要ります。気づくのが遅れるほど、会社の体力は静かに削られていく。出血しているのに、痛みを感じにくいんですよね。

建設業でこれが起きやすいのには、理由があります。現場が同時にいくつも動く。協力会社や一人親方ごとに支払いがバラバラ。請求書はいまだに紙やエクセルの手打ち。――数字が一カ所に集まらない構造そのものが、「終わるまで分からない」をつくっているんです。

見える化している会社は、何が違うのか

同じ調査には、ヒントになる実例が並んでいました。特別なことはしていません。

・ある運送・工事会社(M社)は、すべての工事に番号を振り、原材料費や人件費を毎日エクセルで集計。工事は他の事業より期間が長いぶん、採算が悪化しそうな現場を早めに見つけて手を打てるようにしている。

・ある土木・建築会社(A社)は、5名程度の小さなチームごとに利益を毎月集計する仕組みを導入。結果として一人ひとりの負荷が減り、残業も減少。価格交渉の材料にもなった。

ポイントは、いきなり完璧を目指さないこと。同じ調査では、採算の見える化は段階を踏んで進むと整理されていました。まずは試算表で会社全体の損益を見る。次に、材料費や外注費といった「工事ごとに紐づけやすい費用」から数え始める。慣れてきたら、自社の人件費なども乗せていく。最初の一歩は、ひとつの工事の材料費と外注費を書き出すだけ。それで十分なんです。

派手なシステムを入れた話ではありません。やっているのは、「工事に番号をつけて」「かかったお金を書き出して」「毎日・毎月、数える」。たったそれだけなんですよね。

そして、数字は正直です。同じ調査では、採算を見える化している企業ほど、今期・来期の黒字見込みが高いという傾向が出ています(取引先が法人の企業で、黒字見込み59.7%に対し、赤字に傾く企業は46.1%)。見えている会社ほど、早く手を打てている。当たり前のようで、なかなかできていないことです。あなたの会社では、直近の一件、いくら残ったか即答できますか。

まず「工事台帳」を一枚、書き出してみる

「うちもシステムを入れないと」と身構える必要はありません。調査でも、採算の見える化が進まない理由の上位は「効果が分からない」(37.3%)、「費用がかかる」(31.9%)、「方法が分からない」(29.8%)。多くの会社が、いきなり道具から入ろうとして、入り口で止まっているんです。

順番が逆なんですよね。先にやるのは道具選びではなく、「業務の書き出し」。具体的には、一つの工事を、こんなふうに分解して一枚に並べてみる。

・材料費(誰に、いくら払ったか)
・外注費・人工(協力会社・職人さんごと)
・自社の人件費(その現場に、何人が何日入ったか)
・売上(請求額)

この一枚があるだけで、「この現場、思ったより薄かったな」が、終わってからではなく、進行中に見えてきます。エクセル一枚でいい。立派な仕組みより、「工事ごとに数える」という習慣のほうが、ずっと効きます。

もう一つ。この一枚は「値上げ」の武器にもなります。価格交渉でいちばん強いのは、気合でも長年の付き合いでもなく、「この工事は、ここまで原価が上がっている」という自社の数字です。実際、採算を見える化した会社の多くが、それを価格交渉の材料に使っていました。どんぶりのままだと『なんとなく苦しい』としか言えない。でも数字があれば、『だからこの金額です』と言い切れるんです。

人手が足りない、値上げが通らない――建設業の悩みは尽きません。でも、その前に「どの仕事で、いくら残っているか」が見えていなければ、どこを直せばいいかも決められない。採用も値上げも、まずは自社の数字が見えてから、なんですよね。今日、直近の一件だけでも、工事台帳を一枚、書き出してみませんか。

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